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8-18 太陽の騎士


「あっつ!?熱すぎるにゃ!?誰か助けてくれにゃ!?」


「ちょっ、大丈夫!?」


 何故か火だるまになったことに取り乱したニャルが、大慌てで地面を転げ回る。その迫真の様子にレイも焦り始める中、いち早く事態を察知したシフォンがスキルを発動した。


「【聖王の来光】!」


「にゃ、にゃふ……」


 空中に現れたのは、法衣を着た白髪白髭の老人。皺の深い威厳のある風貌で手を翳せば、ニャルの元へと光があたる。


 さながらスポットライトのように降り注ぐ光は、彼に纏わりつく炎を次第に弱めていき、やがて何事もなかったかのように倒れ伏すニャルの姿があった。


「良かった……ありがとうシフォン」


「いえ、これくらいは。でも……」


・なにが起きたんだ……?

・これって【じゃしん拝火】か?

・あぁ、これを覚えたのか


 ひとまず危機が去ったことにほっと一息ついたレイだったが、それ以上に脳裏がクエスチョンマークで埋まる。


 それは他の周囲にいる人も同じだったようだが、ふと流れたコメントに一つの心当たりに行き着く。


「でもいつの間に……ってあの時か」


 思い出したのは【カゲトカゲ】と戦った時の光景。意地となったじゃしんがスキルを発動した際に、確かにニャルもいたことを思い出す。


「そうか、召喚獣も対象なのか。これはやっちゃった……?」


「はぁ……はぁ……えらい目に――ってにゃに笑ってるんだにゃ?」


「ぎゃう〜?」


 迂闊な行動にこれも調べてこなかった代償かとレイが反省する中、息も絶え絶えに荒い呼吸を繰り返すニャルは、ニヤニヤと笑ってこちらを見てくるじゃしんの存在に気付く。


「今すぐその顔をやめるにゃ!そもそもお前のせいにゃんだろ!?」


「ぎゃう〜?ぎゃうぎゃうぎゃう?」


「ぐ……ッ!!!仲間の不幸を笑うにゃんて最低にゃよ!」


 『ねぇ?どんな気持ち?』とでも言いたげな小憎たらしい表情を浮かべるじゃしんに、ついに堪忍袋の緒が切れたのか目を吊り上げてじゃしんへと飛び掛かる。


「ちょっ、こんな状況でおっ始めないでよ!」


「「「GUUU――」」」


「おい、来るぞ!」


 取っ組み合いを始めた二人の仲裁にレイが視線を外した瞬間、周囲に鳴り響く低い唸り声。それとギークの怒鳴り声が聞こえれば、レイは即座に思考を切り替えて視線を移す。


「「「――GUUUAAA!!!」」」


「やるかこの……ってにゃっ!?」


「ぎゃうっ!?」


 耳を塞ぎたくなるほどの大咆哮によって、地面だけでなく周囲の空気もびりびりと振動する。


 また、それに合わせて青白い溶岩から人魂のような雫状の塊が浮き出たかと思えば、不規則な動きでレイ達に殺到、そして【聖結界】に阻まれて爆発を巻き起こす。だがその数が尋常ではなく、無数に装填される攻撃によって、遂に結界へとヒビが入った。


「お、お姉さま!耐えられません!」


「なっ!?ギーク!」


「各々で耐えろ!もう少しだ!」


 限界が近いことを悟ったのか、レイがすぐさま判断を仰げば、ギークは腰の軍刀を引き抜きながら腰を落とす。それに倣うように愛銃である【RAY-VEN】を引き抜けば、そのタイミングで【聖結界】が完全に崩壊した。


「ッ、やばいかも……!」


「大丈夫、私もいる」


「ぎゃう~!」


 迫りくる青い人魂を弾丸で相殺する中、打ち漏らしたものをウサの【しゃーくん】がフォローする。だがそれでも数が数。狙いが彼女達以外の場所までは手が回らないようで、反撃手段の持たないじゃしんが必死で周囲を逃げ回る。


「ぎゃうっ」


「このポンコツっ!しっかりするにゃ!」


「ぎゃぅ……」


 途中足を縺れさせて転ぶシーンもあったが、それはニャルが助けに入り、手に持った刺突剣で切り捨てる。


 それにごにょごにょと小さな声で感謝の言葉を告げるが、残念ながらニャルには届いていないようだった。


「ねぇもうもたないよ!いつまで待てばいいのっ!?」


「イッカクが動くまでだ!そうはかからん!黙って体を動かせ!」


 終わりの見えない状況にレイが声を張れば、ギークも自身の化身を守りながら叫ぶ。それを聞いたのか、人魂を躱しながらも【深淵から覗く番犬】のHPを削り続けていたイッカクは、アポロに向けて小さく呟く。


「――よし、そろそろかな。行くよアポロ」


「ゴァ!!!」


 その声を聞いて一際大きく咆哮したアポロは、ただでさえ早い速度をさらに上げる。


 人魂を容易に置き去りにし、もはや目で追うことも不可能となったことで【深淵から覗く番犬】がグルグルと動き回る中、両腕、両脚、胴体と各部位に一撃ずつ攻撃を入れたイッカクがスキルの名を口にする。


「【快晴の光輪(ソーラーリング)】!」


「「「GRUUU!?」」」


 それと同時に、マーキングした個所に現れる光の輪。それによって行動を制限され、身動きが取れなくなった【深淵から覗く番犬】が困惑した声をあげれば、その隙にアポロが高く飛びあがり、背に乗ったイッカクが両手でランスを握りしめる。


「ハァァァァ!【晴天の霹靂】ッ!」


「「「GRU――」」」


 【ソーラーリング】よりも強く、強力な光がランスへと収束し、やがて太陽のような眩い光を纏う。離れているレイですら熱さを感じるような熱量は、真っすぐに【深淵から覗く番犬】へと叩き込まれ、断末魔を発する間もなく、冥界の番人を蒸発させた。


[条件を満たしました。化身のランクが上がりました]


「あ、あがった……」


・おぉ

・本当にあがった

・おめ〜


 表示されたウィンドウに書かれた内容に視聴者から祝福の声が届くが、圧倒的な力を目の当たりにしたレイは茫然と呟くことしかできない。


 そこへ、役目を終えたイッカクとアポロがゆっくりと高度を落としながらギークの隣へと着地する。


「どうだった?」


「問題なしだ。『きょうじん』達はどうだ?」


「あぁうん。私も上がったよ」


「大丈夫」


「ありがとうございました」


 ギークの確認の言葉に全員が頷けば、イッカクがほっとしたように朗らかに笑う。


「よかった、力になれたみたいだね」


「グルゥ……」


「うん、アポロのおかげだよ」


 甘えるように頭を擦り付けてくるアポロの頭を撫でたイッカク。事情を知らなければ微笑ましい光景に、レイは半ば放心しながらも感想を述べる。


「すごい連携だったね」


・わかる

・たしかに

・これはギークが信頼するのも頷けるわ


「一人で勝てるっていうのも本当なんだろうね……」


 その強さを目の当たりにしたことで、改めてユニークモンスターの強さというものを知ったレイは、同じ立場として自分一人だったらどうなったかを想像する。


「ぎゃうぎゃーう!」


「ふんっ!お前が鈍臭いから悪いにゃよ!」


「いや、無理だな」


 ただ聞こえてきた喧騒によって、考えるまでもなく不可能だという結論に思い至るのだった。


[TOPIC]

SKILL【聖王の来光】

神話に等しき王の威光は、癒しの力を超えて時すらも遡る。

CT:300sec

効果①:状態異常の解除

効果②:ステータス変化の解除

効果③:HP及びMPを全回復

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり老人ハンドパワーで回復か・・・
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