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8-16 冥界の番人


「「「GARURU……」」」


漆黒の毛並みに、三ツ首の頭。首には人の頭蓋骨を模した髑髏の首輪がついており、それぞれが鋭い牙を覗かせながら、涎を垂らしてこちらを睨みつけている。


「あれは?」


「【深淵から覗く番犬(アビスベロウ)】。固定シンボルのユニークモンスターで、【アーテナー渓谷】の隠しボスのようなものだ」


 全長5メートルはゆうに超える巨体を前に、流石のレイも警戒心を最大限に引き上げて訊ねれば、ギークも同様に鋭い目付きをして返答する。


「隠しボス?」


「あぁ、あるクエストをクリアしたらここへの通路が開かれた。お前達も滝裏を通って来ただろう?」


「あぁ、なるほど……と言うことは例の聖獣を見つけたって言うのも?」


 説明を聞いて推測を返せば、ギークは無言で頷いて返す。その時、ここまで静観していた【深淵から覗く番犬(アビスベロウ)】が動きをみせる。


「「「GARURUAA!!!」」」


「ぎゃうっ!?」


「これは……っ!?」


 それぞれの頭部から放たれた咆哮。それによって髑髏の首輪が青色の炎を灯し、それと同時グツグツと煮え滾っていた溶岩の色もおどろおどろしい青へと変貌する。


・マグマが青色に!?

・厳つすぎるだろ

・なにこれラスボスですか?


 その様相は、まさしく地獄。文字通り異色の火柱が上がり、青白い光が場を支配する。そんなこの世のものとは思えない光景に視聴者が戦慄する中、もちろんレイも同様に――。


「か、かっこいい……」


 ――そんなことはないようだった。


「あれもユニーク……いいな、じゃしんと交換してくれないかな……」


「ぎゃうっ!?」


「ふん、当然だにゃ」


 それどころか、隣に本人がいるにも関わらずトレードの要求まで呟く始末。それを聞いたじゃしんが驚きのあまり口をあんぐりと開け、ニャルが余計な一言を付け加える。


「ぎゃうっ!」


「にゃにをする!」


「さて、じゃあ行ってくるね。ギーク、手筈通りに」


「あぁ、任せた」


「うん、いってきます」


 そうして勃発した何度目かわからない闘争を横目に、イッカクがギークに声を掛けつつアポロに跨る。


 そして目配せで何かを伝え合った後、イッカクは他の面々を置いて颯爽と飛び立っていった。


「よし、じゃあ私達も――」


「待て。お前達は行かなくていい」


 その背中に続くように足を一歩前に踏み出したレイだったが、その肩を後ろから伸びてきたギークの腕が止めた。


「……なんで?見捨てるってこと?」


「安心しろ、イッカクはこの程度の相手には負けん。現に、一度ソロで倒している」


「は?それってどういう……」


 ギークの信頼しきった言葉。だがその真意がわからず、レイは怪訝そうに目を細める。


 どこか責めるような随分と圧のある視線だが、ギークは臆することなく真正面から毅然とした態度で視線を交わす。


「『きょうじん』、お前は化身のランクアップについてどれだけ知っている?」


「え?えっと、ランクを上げるには経験値じゃなくて、別の条件がある……ってやつだよね?」


「そうだ。その情報の入手先は?」


「たしか、遺跡だっけ……?」


 レイがどこまで知っているかを確かめるように質問を投げかけるギーク。途端に立場が逆転したことにレイはたじろいだ様子で口を開く。


 自信なさげにしながらもシフォンから聞いた情報を口にすれば、ギークは頷きながらも続きを話した。


「【アーテナー渓谷】にはいくつか遺跡が存在するが、そのすべてにヒントとなる言葉が書いてあるが、そのうちの一つに『深淵に巣食う悪魔を乗り越えろ』と言うものがある」


「……それがアイツってこと?」


「あぁ。それは前回で確認済みだ」


 前回というのは、一つ前の化身のことを示しているのだろう。裏の取れた信憑性の高い情報を伝えられ、それは間違いのないと理解しつつも、レイは喰ってかかってみせる。


「結局、あのケルベロスを倒さなきゃランクは上がらないってことでしょ?じゃあなおさら助けに行かなきゃ」


「わざわざリスクを負う必要はないと言ってるんだ。戦闘に参加さえすればクリア判定になるから、そこまでイッカクにやってもらう手筈になっている。むしろ、余計な真似をされて想定外の事が起きる方が困る」


「グルゥ」


 レイの言葉を聞いても、ギークが意見を変えることはない。その言いように少しだけムッとしながらも問いかけを続ける。


「作戦があるってこと?」


「そこまで大層なものではないがな。まぁ安心しろ、さっきも言った通りアイツはそこまで柔じゃない。一対一の方が真価を発揮するタイプでもあるからな」


「……でも」


「とにかく、今回はお前達が出る幕はない。それでもというのであれば、ここから出て行って、後で勝手に挑戦するといい」


 なおも食い下がろうとするレイだったが、『話は終わりだ』と言わんばかりにパシャリと言い切るギーク。


 ついてきた立場である手前、こうなってしまってはこれ以上追求することができずに押し黙る。それからしばらくじっとギークの目を見つめた後、諦めたようにため息をこぼした。


「しょうがない、ここはギークの顔を立ててあげるか……」


・そうね

・喧嘩する意味もない

・むしろ楽できるからラッキーでは?


「でも何もせずにっていうのはねぇ……」


 どうやらレイの中で引っ掛かっているのは、対価に返せるものが無いということらしい。とはいえ考えても湧いてくるものではなく、その間にも【深淵から覗く番犬(アビスベロウ)】とイッカクが戦闘を始めており、ひとまずその姿をじっと観察することに決め――。


「うるさいぽんこつ!調子に乗るにゃ!」


「ぎゃうぎゃうぎゃう!」


「……おい、先にアレをなんとかしろ」


「いや、ほんとごめん……」


 ――る前に、やらなければいけないことがあるらしい。レイは頭を抱えつつ、空気を読まずに騒いでる二人の元に行くと、容赦なくその頭に拳を振り下ろすのだった。


[TOPIC]

QUEST【現世と天冥の扉】

・【深淵から覗く番犬】の撃破。

・報酬 ワールドクエストの発生


【アーテナー渓谷】で受注することができるユニーククエスト。【ブラーク遺跡群】にある碑文を読み解き、その際に発生したクエストをクリアすることで発生する。

関連クエスト:【歴史に埋もれたメッセージ】

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イビル出してじゃしんの機嫌取りやってもらえば・・・いや逆にうるさくなるか・・・
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