8-11 新パーティ結成?
怒涛の展開を経て、レイは新しい仲間とともに【アーテナー渓谷】を散策していた。
周囲にいるプレイヤーも彼女と同じように猫科の動物と思しきモンスターを連れ立っており、中々に見ることのない景色に感嘆のため息を零す。
「いやぁ圧巻だね。ここだけ見ると別ゲーみたい」
・分かる
・パルクリのVRがあったら……
・なにそれやりたい
パルクリとは『パルムクリーチャーズ』の略であり、レイが子供の頃に一大ブームとなったゲームの名である。
『手のひらサイズのクリーチャーとともに冒険する』をコンセプトに、道中でさまざまなクリーチャーと出会い、仲間にして物語を進めていく、いわゆる育成RPGと呼ばれるジャンルのゲームであった。
発売当初はキーチェーン型の電子ゲームであり、値段もそこまで高くない子供向け商品であったが、何故だかそれが子供だけでなく大きなお友達の目にも止まり、瞬く間に社会現象となった。
その影響は凄まじく、多くの会社がこぞって関連商品を作り上げる中、とあるゲームが誕生する。その名を、『GO!パルムクリーチャーズ!』。
あくまでも子供向けというスタンスは崩さないよう、極力無駄を省いたコマンド性のゲームシステムに加え、電子ゲームでは難しかった3Dのクリーチャー達、そしてアニメ化も視野に入れた魅力的なキャラクター達……などなど、ユーザー達の期待を大幅に超える一作に仕上がった。
「いいなぁ、パルクリのVR。というかVRじゃなくても良いから新作……いや、最悪リメイクでもいいから出してほしい」
・ほんとそれ
・俺はやったことないなぁ
・もうプロデューサーがやる気ないから……
当然レイもプレイ済みであり、当時はオンライン対戦でぶいぶい言わせていた。レイは当時のことを思い出して、視聴者共々感慨に耽る。
ただコメントにもある通り、このゲームを担当した総合プロデューサーが続編は出さないと明言している。ブームと言っても一過性のものであり、その声も一部のコアなユーザーのみとなってしまっているようだった。
「おっと、そんなことしている場合じゃなかった。私達も乗り遅れないようにしないと」
・なにに?
・そりゃこのビッグウェーブよ!
・良い波乗ってんねぇ!
・で、結局なにすんの?
「取り敢えずレベル上げからかな……ってあれ?ニャルは?」
叶わぬ願いを口にして少し落ち込んだテンションを振り払ったレイは過去の思い出ではなく今やらなければならないことに目を向ける。
そうして視聴者の声に答えつつ、新しく仲間になったメンバーの姿を探して――。
「ははは、困ったにゃ。これでは動けにゃいにゃ」
「ぎゃうぅ……!!!」
少し離れたところでその姿を視界におさめる。ただし、白と黒の対極の色をした二匹の猫と、その姿を見て血の涙を流すじゃしんのおまけ付きではあったが。
「……なにやってんの?」
「おやご主人、これは失敬。子猫ちゃん達が離してくれにゃくてね」
「そうじゃなくて……ってかその子達はどこから来たんだ」
「これは私達の化身」
『モテる男は辛いぜ』とでも言いたげに苦笑を浮かべるニャルに向けて、レイが顔を歪めつつも問いかければ、ウサとシフォンが近づきながら答えを述べる。
「二人の?」
「はい。白い方が私のコハク、黒い方がウサさんの化身となります」
「名前はユエにした」
二人が化身を呼ぶと、ニャルの元を離れる二匹の猫。
シフォンの元に戻ったのは白くてふわふわな毛をした上品で気品のある猫。甘え上手なのか、すぐさまシフォンの足に擦りつくと、抱き抱えられて満足げな表情を浮かべている。
一方でウサの元に向かったのはスラリとした黒猫であった。額に三日月のような模様があり、こちらはウサの肩に飛び乗りつつもクールな表情で佇んでいた。
「へぇ、いいね。どっちも可愛くて」
「私もそう思います。……してお姉様。お姉様はどちらがお好みですか?」
そんな二匹の猫を見たレイが素直な感想を漏らせば、不意に二人の瞳に剣呑な空気が宿る。
「え?」
「もちろん私のコハクですよね?もふもふでふわふわの毛は早々お目にかかれませんよ?」
「分かってない。レイはカッコいい方が好き。だから気品のあるユエの方が好み」
「あら、それは聞いてみないと分からないでしょう?今は違うかもしれないじゃないですか」
「ふっ、もう少し勉強してきた方がいい」
「……じゃあ勝負しますか?」
「構わない。いつでも受けて立つ」
片方が煽り言葉を口にすれば、もう片方も負けじと言い返す。そうしてヒートアップしていく二人に目頭を押さえたレイは、呆れたように必殺の一言を呟く。
「……もしかして喧嘩してる?」
「そんなことない。ちょっとしたじゃれ合い」
「えぇそうですよ。まさか本気で言っている訳ないじゃないですかぁ」
「そう、どっちも違ってどっちもいい」
それは効果覿面だったようで、先程までいがみあっていたのが嘘のように話を合わせたウサとシフォンは互いの顔を見合って頷き合う。
その態度にもう一度嘆息したレイは半眼で二人の姿を見つめた後、視線をもう一組の犬猿の仲へと移した。
「はぁ、次喧嘩したら本当に追い出すからね。言っとくけど、じゃしんとニャルもだよ」
「ご安心を。喧嘩というものは同レベルの相手としか起こせにゃいので」
「ぎゃう~!?」
やれやれと肩をすくめて小馬鹿にするニャルに、『んだコラァ!?』と腕を捲ってその喧嘩を買おうとするじゃしん。
レイはそんな二人の様子にダメだこりゃと諦めた様子で肩を落とすと、時間の無駄だと言わんばかりに話題を変える。
「とりあえず人のいないところに向かおっか」
「了解」
「分かりました」
「えぇ、御主人っと!」
「うわっ!?」
その提案に全員が頷く中、ニャルが突然跳躍したかと思うとレイの肩に飛び乗ってくる。
「失礼、こちらの方が早いかと思いまして。迷惑ですかにゃ?」
「いやまぁ別にいいんだけど――」
「ぎゃ、ぎゃう~!」
驚きはしたものの、特に怒る理由もないレイがそのまま歩き出そうとすると、それを見たじゃしんが大慌てで飛び込んでくる。
「こら、なにをする!?」
「ぎゃう〜!」
『そこは俺の場所だ!』とでも言わんばかりに押しのけようとするじゃしんと、それに戸惑いながらも応戦するニャル。
それは二人にとって負けることのできない聖戦である。自身の立場をかけた真剣勝負であり、譲るわけにはいかない思いを秘めていたが……残念ながら場所が悪かった。
「……二人とも、一回降りて?」
「にゃ……」
「ぎゃ、ぎゃう……」
・レイちゃん……
・こーれ怒ってます
・虎の尾を踏むってこういうことなんやなぁ
ぷるぷると震えながらも笑顔でそう告げるレイに、ようやくやらかしたことを悟るニャルとじゃしん。
その後、なんとも可哀想な悲鳴がエリアに響いたらしいが、それに同情するものはいなかったという。
[TOPIC]
GAME【GO!パルムクリーチャーズ!】
十数年前に発売された育成型RPGゲーム。愛称は『パルクリ』。
社会的ブームにあやかる形で発売された本作だが、老若男女問わず、ゲームがあまり得意でない人も楽しめる作品に仕上がっており、特にキーチェーン型の電子版では成し得なかった全クリーチャーの3D化は話題を呼び、同時期に放送されたアニメのキャラ人気も相まって、パルクリ旋風をさらに加速させた。
ただ、度重なる会社の不祥事によって、制作指揮を取ったプロデューサーが独立してしまい、彼抜きで作られた続編も大コケ。ブームも過ぎ去ってしまったことで、それ以上新作が創られることはなく、思い出のゲームとして語り継がれることとなった。




