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7-45 聖者を継ぐ祭祀に偲ぶは③


 もごもごと動く大蛇の口に、静まり返る場。


 それどころか誰一人として動くことすらできずに固まっていたが、不意にウサが真顔で呟く。


「どんな味なんだろう」


「……そりゃ獣臭いんじゃないですか〜?熊みたいですし〜」


「……いや、意外と美味しかも。ほら、お尻周りは肉付きあるし」


「ちょっ、ちょっと!御三方そんなこと言ってる場合っスか!?」


 事態を把握できていないのか、呆然としながらも乗っかったスラミンとレイだったが、そんな現実逃避気味な三人の会話にツッコミが入る。


「はっ!?そうだった!は、早く助けないと!」


「ご、ごめんなさい!近くにいたのがじゃしん様だけで……!」


「いや、ナイス判断だと思う!ミーアは平気?」


「え、えぇ。私はなんともないわ」


 レイが我に帰ると、そこには泣きそうな声で弁明する女性の声。それを慰めるのに加え、彼女の隣に立つミーアが無事なのを確認すると、改めて大蛇を見やる。


「よし、取り敢えず爆発させてみてーー」


 とは言っても取れる手段は限られており、その中でも一番可能性のあるものを選択する。すぐさま〈アイテムポーチ〉から【時限草】を取り出して――と、そのタイミングで異変が起こった。


 ペッ!


「ぎゃうっ」


 まるで口に入れたガムを盛大に吐き捨てるように大蛇が口の中の物を放出すれば、体を唾液でベタベタにしながら地面に張り付くじゃしんの姿。


「ぎゃう……」


 身体を起こし、今の状況を確認するかのように自身の身体を見るじゃしん。そして、なんとも雑に捨てられた状況に『えっ、なんで……』と困惑しているようだった。


「じゃ、じゃしん!大丈夫!?」


「ぎゃ、ぎゃう……」


 レイが安否を訪ねれば、困惑しながらも返事をする。だが、再度大蛇の方を見やれば、『お前じゃねぇよ』とでもいうかのように、じゃしんへの興味を失っていた。


「と、取り敢えず戻ってきたら?」


「……ぎゃう」


 その呼びかけに立ち上がったじゃしんは、とぼとぼと歩きながらレイ達の元へと進む。その間にも大蛇の方を振り返ってはみたが、全く襲ってくる気配はなく、どうしてか酷く悲しい思いが胸中を渦巻いていた。


「ご、ごめんねじゃしん様」


「やっぱり美味しくなかった」


「噛みきれなかったんじゃないか?ほら、無敵みたいだし」


「獣臭いホルモンですか〜、だいぶ好きな人が限られそうですね〜」


 加えてこの反応である。歓迎どころか自分の味がどうのこうのと、なんとも不敬なことを談義している姿に、じゃしんは人知れず絶望する。


 こうなっては信じれるのはただ一人。縋る思いでそちらに視線を向ければ――。


「おかえり。よかったよ、じゃしんが無事で」


「……ぎゃう〜!」


 彼の一番の眷属は、彼の一番欲しい言葉を口にする。それに感極まったように喜びの声を上げながら飛びつけば、流れるような動作でスッと避けられた。


「ぎゃ、ぎゃう……?」


「やめて、汚いから。今は近寄らないで」


「……」


 あまりにも本気の拒絶に、じゃしんは思わず天を仰ぐ。その双眸からは儚い二筋の涙が溢れていたが、それを気にする者は誰一人としてこの場にはいなかった。


「そんなことよりも変な状態異常とかになってないよね?」


 むしろ追い打ちをかけるように顔を顰めながらそんなことを言うレイに、じゃしんはついにガッカリと膝をつく。それを無視しつつレイがステータスを確認すれば、そこに見慣れない文字列を発見した。


「なんだこのスキル……あぁ、この前レベルアップした時か……でもこれって……」


 それは【アルラクーン】を討伐していた際に上がったレベルで覚えたスキルだった。色々あったせいか頭から抜け落ちていたそれを改めて確認すれば、その効果に思わず考えに耽ってしまう。


「レイ?聞いてる?」


「へ?ごめん、なんだっけ?」


「これから。どうするの」


「実質振り出しですからね〜。正直打つ手が無さすぎます〜」


 それを引き戻すようにレイの肩をウサが叩くと、ウサミンが続いて肩を落とす。


 その諦めに似た言葉に周囲が少しだけ沈黙する中、銀のプレートメイルを装備した青年がおずおずと手を上げて問いかけた。


「あの、思ったんスけど。大蛇のお腹の中ってどうなってるんスかね?」


「いや、腹の中って。食われた時点で終わりだろ」


「そうっスよね?いやぁ、もしかしたらと思ったんっスけどねぇ」


「……いや、可能性はあるかもです~」


「ミーアを食べようとしてた。中に何かあるのかも」


「まさか、喰われないとイベントが進まないパターン?」


「えっえっ、本気っスか!?」


 その突拍子もない疑問に忍者服の青年だけが鼻で笑うも、他のメンツはなんとも真面目にそれを案として吟味する。


 まさかの展開に提案した本人がテンパる中、やがて決定事項かのようにレイが頷いて顔を上げた。


「試す価値はありそうだね」


「ですね〜。メンバーはどうしますか〜?」


「私とじゃしんに行かせてくれないかな。最悪、脱出できそうなスキルもあるし」


「ぎゃうっ!?」


 レイが宣言すれば、じゃしん以外の全員が文句はないと頷く。……いや、もう一人、それに待ったをかけた人物がいた。


「待って!私も行くわ!」


「え?でも……」


「ラフィアを助けるためならなんだってするわ!お願いっ!」


 腕を伸ばし、手のひらをぐっと握りしめたミーアが真剣な表情でレイに告げる。よく見ればその身体はわずかに震えていた。


「……オッケー、じゃあ行こう」


「! うんっ!」


 ミーアの覚悟を前に、レイは薄く笑って承諾する。


 イベントとして、彼女が必須かもしれないという打算の気持ちも確かにある。だがそれ以上に、彼女の態度を見て断るなどレイには到底できるわけもなかった。


 そうしてレイとミーア、それから首根っこを掴まれたじゃしんが大蛇の元へと歩き出す。そこへ、再び大蛇と剣を交えていたトリスが、その無防備な姿に声を荒げた。


「ん!?おい、何をしている!」


「ちょっと行ってくる!三分後に出てこなかったらもう一回真っ二つよろしく!」


「待て!説明を――」


 気軽な調子でそう告げるレイにトリスが気を取られた瞬間、解き放たれた大蛇がレイ達に牙を剥く。


 大きく上空へと体を伸ばし、天高くから迫る巨大な口を見上げながら、レイは隣で震えるミーアの手を握る。


「大丈夫、私達が何とかしてあげるから」


「ぎゃ、ぎゃう~!」


「――うん、期待してるわ!」


 ニッと笑ったレイと、顔を引き攣らせながらも何とか笑顔を作ったじゃしん。それを見たミーアは震えを止めて勝気に笑う。


 そこへ、大蛇の口が飛び込んだ。


[TOPIC]

SKILL【空間魔法『トランスポート』】

空間を制する者は戦場を制す。敵も味方も思うがまま。

消費MP:100

効果①:接触オブジェクトと非接触オブジェクトの位置を入替

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[一言] じゃしん再び約束の地(涎付き)へ!!
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