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7-38 決戦の夜


 神を信ずる街にも、夜の帷が落ちる。


 ただでさえ落ち着いた雰囲気のあるその街も、不気味なほどの静寂に支配され、一部を除き世界を照らすのはほんの僅かな街灯のみ。


 人も疎ら、皆活動を終え、明日に備えるーーそんな闇の中に蠢く黒い影。


 始まりはたった一人の『個』、だが一歩進むごとにポツポツと、同じ服装の人間がその背後に付き従い、その数を増やし、やがて『個』は『全』となり、そしてその統一された『全』は強大な『個』のように進軍する。


 目指す先は、神の社。ただただ一直線に、最短距離で進む。


 その姿はまるで、光に魅入られた蛾のようであったーー。


 ◇◆◇◆◇◆


「トリス様、全部隊の配置が完了いたしました」


「あぁ、ご苦労」


 【聖ラフィア大聖堂】前、その固く閉ざされた入り口の前で、まるで門番のように佇むトリスに向けて、銀色の甲冑を身に纏ったプレイヤーが声をかける。


「それにしても、ここまでする必要があるのですか?『きょうじん』にはあれだけ力の差を見せつけたんですし、もう諦めるような気も……」


「何を勘違いしている?」


 少し呆れるような軽い口調でそう宣うプレイヤーに対し、トリスは少しも眉を動かすことなく、視線だけ動かして問いかける。


「か、勘違いですか?」


「これは別に『きょうじん』だけを警戒して行っているわけではない。あくまでも、『誰も近づけさせるな』というシフォン様からの命に従っているに過ぎん」


 その威圧感に思わず怯んだプレイヤー。だがトリスは容赦なく追撃する。


「我々の矜持はなんだ」


「え?」


「『聖女』様に仕える身として、何を最優先にするかを問うている」


 淡々と詰問するような口調に、対面するプレイヤーはすっかりと萎縮してしまい、唇を震わせ、姿勢を正して答えを紡ぐ。


「は、はっ!『聖女』様の御言葉を信じ、『聖女』様に仇なす者を排除することです!」


「そうだ。つまり、シフォン様のいうことは絶対。彼女が白といえば、どれだけ黒くとも白になる……分かるな?」


「はいっ!す、すみませんでした!」


 圧を込めて放たれた一言に、自身の失言を悟ったプレイヤーは勢いよく頭を下げてその場を去っていく。


 その背中を見つめながらトリスは呆れたように小さくため息をこぼすと、刃を交えたプレイヤーたちのことを思い返す。


「これで終わるはずがない……あれは、そんな目ではなかった……」


 一番に思い出すのは、最後に見た『きょうじん』の瞳。


 己の持つ最大の力をぶつけ、圧倒的な力の差を見せつけたはずが、『まだ負けていない』と言わんばかりの獰猛さで睨みつけていた。


 しかも、彼女だけではない。スライムを操る女性を筆頭に、彼女を支持するすべての信徒達も同様の目をしていたのだ。そんな人間がたった一度の敗北で負けるなど、トリスには到底思えなかった。


「トリス様!大変です!」


「……どうした?」


 スッと目を細め警戒を強めるトリスの元に、一人のプレイヤーが慌てた様子で近づいてくる。


 2メートルを超える体躯に女性のような高い声を出す目の前のプレイヤーに、トリスは首を傾げながらもその続きを促した。


「【リョッカ】の街に奴らが!覆面軍団が集結しています!」


「やはり、か」


 その内容は彼が先刻から予期していたもの。


 トリスが振り返ればそこにはライトアップされたかのように【聖ラフィア大聖堂】が光り輝いており、決戦の舞台として人々を集めているように感じた。


「やつらの狙いはここか?」


「はいっ、今もなお数を増やしてこちらを目指しているとのこと!その先頭には『きょうじん』らしき姿!」


「分かった。散らばっている他の部隊の連中を呼べ。ここで迎え撃つ」


「はっ!」


 情報を受け取ると、トリスは端的に指示を出して下がらせる。


 加えて数歩前に出ると、目の前に広がる広場、それからその先に続く大通りをじっと睨みつけて、その時を待つ。


「来たか」


「どうも〜。この前ぶりです〜」


 そして、その時はすぐさま訪れる。


 白覆面、白マントを着たプレイヤーを先頭に、黒色の同じ服装のプレイヤーがその後ろに並ぶ。


 その数、100。


 たった一人のプレイヤーのためにこれだけの人間がずらりと並ぶ光景に、トリスは半ば感心しながらも、毅然とした態度で問いかける。


「何しにここに来た?」


「当然そちらの『聖女』様に会いに〜。コチラの大将がお世話になったみたいなので〜」


 先頭の白覆面のプレイヤーではなく、その隣にいたプレイヤーが覆面を取る。


 その顔は以前対面したスライムを操る女性。彼女は余裕げな笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。


「悪いがシフォン様は忙しい。また別日にしてくれないか」


「え~、それは困りました~。どうしても会いたかったんですがね~」


 お互い全くの本心ではない、探り合いの言葉。


 肩をすくめる者と困ったように眉を八の字にする者、ただし、その目の奥は達人のような切れ味を帯びている。


「だったらどうする?強行突破してみるか?あまりお勧めできないが」


「う〜ん。コチラとしては吝かではないんですが〜……あ!そうだ〜、いいこと思いつきました〜!」


 人数で劣っていようとも戦力は勝っており、場所的な有利も含めての強気な態度。


 それに対するスラミンはうーんと悩んだ素振りを見せた後、まるで今思いついたかのようにぽんと拳を掌に乗せる。


「我々【じゃしん教】は【清心の祈り】にクランバトルを申し込みます〜。正々堂々、勝負しましょう〜」


「……なに?」


 予想外の一言に、トリスの顔が歪む。


 それを見たスラミンはとぼけたような笑顔で、不気味に佇んでいた。

[TOPIC]

PLAYER【トリス】

身長:187cm

体重:84kg

好きなもの:聖女、騎士道、RP

聖女親衛隊隊長兼【清心の祈り】の副クランマスター。

『聖女』と呼ばれるシフォンを崇拝しており、彼女の為ならばこの身を差し出す忠義の騎士――という設定を徹底しており、あまりの作り込みによくNPCと間違えられる。

実はβ時代に初めてシフォンとパーティを組んだ人物であり、その頃(シフォンが【聖女】となる前)からRPに打ち込んでいたとの噂も。

職業は【パラディン】で、ユニークでもない至って普通なジョブではあるものの、『聖女の加護』ともいうべきバフを受けることで、単体で見ればトップクラスの性能へと変化する。

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― 新着の感想 ―
[一言] クランバトルなら聖女に邪魔されないかな?
[一言] スライムを操るしょう、じょ・・・? なぜだろう なぜか20代ぐらいの女性だと思ってました 不思議
感想一覧
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