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7-34 つけられたモノ


 ウサに背を向けた後、コンパス片手に全力で森の中を駆け抜けたレイとじゃしんは、最短距離、最大速度で木々を抜け、やがて一軒家のある開けた場所へと辿り着く。


「あら?レイじゃない。おかえり――」


「ミーア!ラフィアさんはどこにいる!?」


「ど、どうしたのそんなに急いで?」


 満面の笑みで出迎えたミーアに対してレイが決死の形相でその肩を掴むと、少し困惑した様子で問い返す。


「ごめん、説明してる暇はないの!」


「ぎゃう!」


「えっ、えっと。多分中にいると思うのだけれど……」


「ありがと!」


 少し怯えた表情に変えながらも、家の方へと視線を向けたミーアに感謝の言葉を述べつつ、レイとじゃしんは勢いよく木製の扉を開けて中へと押し入った。


「ラフィアさん!」


「どうしたんだい、そんなに急いで?」


「言われてた奴!持ってきました!」


 一直線に進んだレイは、<アイテムポーチ>より頼まれていた【曇りなき黒眼】、【不可視の極糸】、【一角獣の直角】を取り出して、半ば押し付けるようにラフィアに渡す。


 その切羽詰まった様子にラフィアは目を丸くしながらも、受け取った三つを確認して大きく頷く。


「あぁ、確かに。ありがとうね」


「どういたしまして!それじゃ私達は戻ります!」


「ぎゃうっ!」


 クエストのクリアを確認したレイはすぐさま踵を返して外に出ようとし、隣では敬礼したじゃしんがその後を追うように動き出す。


 だが、説明もないままに忙しなく動く彼女達を不審に思ったのか、ラフィアはその肩に手を置いて問いを投げかけた。


「ちょっと待ちな。戻る?一体どこへ?」


「ウサがまだ戦ってるんです!助けにいかなきゃ!」


「戦っている……?一体どういう――」


「いいじゃない、あの変態女がいなくたって」


 レイの言葉にスッと目を細めたラフィア。ただ、いつの間にかするりと入ってきたミーアが詰まらなさそうな表情でその言葉を遮る。


「ミ、ミーア?」


「そんなことよりも、それは一体何に使うの?私もお手伝いしてあげる!」


 その話題はしたくないと言わんばかりにラフィアの手の中にある3つの素材を見て目を輝かせる。


 それを嫌ったのか、ラフィアはそのアイテム達を隠すように背後に回すと、首を振った後レイに耳打ちする。


「いや、その必要はないよ。……レイ、すまないが少し時間を稼いでもらってもいいかい?」


「えっ、それは……」


 その願いにレイは難色を示す。


 普段であれば何のためらいもなく首を縦に振っていたが、今現在も自分のために戦っている友人の元へ駆け出したい気持ちで埋まっており、可能であれば今すぐにでも飛び出したかった。


 とはいえここで離れたことで、イベントのフラグが折れる可能性も否定できない。両者を天秤にかけ、どうしようかと迷うレイが縋るようにコメント欄を見れば、想像していたよりも一色の意見だった。


・大丈夫だよきっと

・一回落ち着いた方がいい

・ウサさんなら怒らないって

・むしろこのまま進めた方が喜びそう


「みんな……」


 それは戻らずに残ることを選択する声。ウサを見捨てる……いや、むしろウサの為にもこのまま進めようという意見であり、レイはそれに背中を押されるように頷く。


「……分かった。ミーア、ちょっと来て」


「ん?まぁいいのだけれど……」


 そのままラフィアの言葉通りレイが家の外に出せば、不思議そうな顔をしながらもミーアはその後に続く。


「ねぇ、ラフィアは何してるの?」


「用事があるんだって。だから、絶対入っちゃダメだよ」


「ふーん。まぁいいわ!それよりも聞いて!ついにあの変態女に勝ったのよ!途中で追いかけるのやめて逃げてったんだから!」


 何やら煙に巻くような返答に不満げな声を漏らすミーア。ただそれ以上追及する必要はないみたいで、続いて得意げに胸を張った。


「ふふん、遂に身の程を知ったのね!所詮変態は変態、大したことないのよ!ね、レイもそう思う――」


「ぎゃうっ!」


「きゃあ!?」


 ウサのことをこれでもかと罵っていたミーアだったが、そんな彼女に向けて、じゃしんが突然飛び掛かり、その体を押し倒す。


「ちょっと、何するのよ!」


「ぎゃうぎゃうぎゃう!」


「そんな風に言うなって?意味分かんないわよ!」


・気持ちは分かる

・じゃしんやっちまえ!

・まぁ事情を知らないからしょうがないんだけどね


 まさしく怒り心頭と言った様子でぽかぽかと顔を叩くじゃしんに、頭にクエスチョンマークを浮かべつつも口を引っ張って応戦するミーア。


 当人同士は至極真面目な喧嘩ながらも、傍から見ては何とも微笑ましいものにしか感じず、レイは肩の力が抜けるのを感じながらそれを制する。


「ちょっと、やめなってば」


「ぎゃう〜!」


「叩くな!このっこのっ!」


 ただ言葉だけでは従う素振りがなかったため、レイは仕方なく間に割って入って二人を引き離す。


「はいはい、そこまでね」


「ぎゃ、ぎゃう……」


「ふぅ、ふぅ……」


 距離をとってもお互い威嚇するように歯を向いて睨み合うミーアとじゃしん。何とか場を宥めようと、レイが口を開こうとしたタイミングで、じゃしんの背中から何かが飛び出す。


「ぎゃうっ!?」


「なにこれ?」


・何だこの蝶

・あの時のアゲハじゃん

・じゃしんの羽にくっついてたのか


 それは、じゃしんが単独行動する原因ともなった紫色のアゲハ蝶だった。


 視聴者が何とも暢気なコメントを残す中、レイだけは強烈な違和感に襲われる。


「ただのオブジェクトじゃない……?」


「そうですよ」


「ッ!?」


 宙に羽ばたくアゲハ蝶を視界に収めつつその違和感を口に出した瞬間、予想外の位置から肯定の声が聞こえ、レイは勢いよく顔を向ける。


・は?

・嘘だろ……

・何でここに!?


 不規則な軌道を描いて揺れるアゲハ蝶。それが向かった先にいたのは、酷く予想外の人物。


「お久しぶりですね、『きょうじん』さん」


「『聖女』……!」


 レイが目を見開いて驚けば、満足げに妖艶に微笑む彼女。その人差し指にはまるで傅くように紫色のアゲハ蝶を止まっていた。


[TOPIC]

SKILL【幻惑の紫蝶】

ふわりふわりと羽ばたいて、ついた鱗粉を目印代わりに。

CT:500sec

効果①:協力NPCとして行動

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― 新着の感想 ―
[一言] 紫蝶の技予想 どく〇こな ねむり〇な しびれご〇 だいばくはつ(?)
[一言] >レイとじゃしんは勢いよく木製の扉を開けて泣け屁と押し入った。 泣け屁は草
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