7-18 劇場、怪演
★★★お知らせ★★★
『強制じゃしん信仰プレイ』書籍第2巻が2022年3月30日発売!
書籍第2巻のここが凄い↓
・Web版では書かれなかった細かい所まで加筆!(400P越えの大ボリューム!)
・店舗限定SS多数!(詳しくは公式サイトにて!)
・那流先生による超絶美麗イラスト!
活動報告にて、カラー1P も公開中!
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『うふっ』
【怪演のアラクネー】は【タランチュラベアード】を撃破した際、超低確率で出現するユニークモンスターである。
下半身は黒をベースに黄色のマダラ模様の蜘蛛の形をしており、上半身は不気味なまでに白い肌を晒しており、腰まで届くほどの長い黒髪の隙間からは妖艶な微笑みが垣間見えた。
『うふふふっ』
不気味な笑い声をもらしながら、右手を口元に当てて笑う【怪演のアラクネー】。
知らない人間からすれば、NPCだと勘違いしてもおかしくないほどに人間味を感じるその仕草だが、あらかじめ調べた情報から決して油断できないことをレイは知っている。
『うふふふふふふっ』
先に動いたのは【怪演のアラクネー】だった。
左手をもはやガワのみとなった【タランチュラベアード】に向けて突き出し、数回指を動かしてみせると、見えない何かに操られるように【タランチュラベアード】の体は起き上がり、レイに対して突進の姿勢を取る。
「さぁ、いつでもどうぞっ!」
『うふふふふふふふふふふっ』
「―――――――――ッ!」
レイの挑発に釣られるように、一際大きく笑い声を零した【怪演のアラクネー】。それとともに【タランチュラベアード】は音無き咆哮を上げてレイへと突進する。
「ぎゃうっ!?」
「大丈夫、これくらいならっ!」
八本の太い腕で地面を揺らしながら肉薄する姿に、じゃしんは情けない悲鳴を上げながら両手で顔を覆う。
だが、それを受ける本人であるレイは想定の範囲内なのか、軽やかに横に跳んで躱してみせると、スキルを発動しつつ、すぐさま拳銃を抜く。
「【属性付与・炎】!」
・氷じゃなくて
・炎であってる
・でもそんなことしたらもっとヤバいんじゃ……
先ほどとは異なる属性宣言に、視聴者は疑問の声を上げるも、決して間違ったわけではなかった。
炎を纏った弾丸は【タランチュラベアード】を通過すると、何もない空間に細い火柱を上げて突き進む。
・お?
・倒した?
・やったか!?
「ぎゃう~!」
すると【タランチュラベアード】は、突然こと切れたかのように地面に倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。
それを見たじゃしんは恐る恐る近付きつつも、やがて反撃が来ないと悟るや否や、強気にその背中を踏みつけ始める。
「取り敢えずこれは大前提。問題はここから……」
ただ、そんな中でもレイは険しい表情を崩さない。
その視線は真っすぐと【怪演のアラクネー】に向けられており、その瞳に映った光景は――。
「――チッ」
・こっわ
・何事!?
・発狂モードか
先ほど見せた妖艶な微笑みはとうに消え失せ、【怪演のアラクネー】は眉間に皺をよせ、全ての憎悪を込めたような敵意剥き出しの視線でレイを睨んでいる。
背中からは以前も体験したことのある赤黒いオーラが噴き出ており、レイは困惑する視聴者に向けて解説を交える。
「【怪演のアラクネー】は目に見えないほど細い糸を操って攻撃、もしくは周囲にあるものを操ってくるモンスターで、遠距離攻撃はこんな感じで糸に止められるし、近づいてもどこに罠が置いてあるか分からないからリスクが高い」
鋭い視線を向ける【怪演のアラクネー】に対し、レイは一発、弾丸を打ち込む。
放たれた弾丸は真っすぐと【怪演のアラクネー】に向かっていたが、その途中で何かに止められたかのように制止すると、やがて勢いを失って地面に落ちる。
「唯一の弱点は炎で、不可視の糸を焼き切ることができる……んだけど、その結果、発狂モードに入るんだよね」
・なるほど
・そういうことか
・でもこれって勝てるの
「分かんない。でもこうしないと文字通り勝負にならないからさ。本当に厄介だよねぇ」
視聴者から浮かんだ不安の声に、レイは努めて冷静に答えてみせる。
だが、その思考の大部分は目の前のモンスターとの戦闘へと移行しており、対峙する【怪演のアラクネー】もまた、レイの事を獲物ではなく敵と認識したようだった。
『おいで』
【怪演のアラクネー】は、憤怒の表情とはちぐはぐな、穏やかな声で語り掛ける。
瞬間、訪れる静寂。だが、それはじわじわと、侵蝕するように溢れ出す。
・気持ちわるッ!?
・無理無理無理無理
・ごめん、見れないわ
樹から、草から、土から。
四方八方、すべての場所から現れたのは、手のひらサイズの小さな黒い蜘蛛。
一匹一匹は大したことはないものの、その夥しい数が蠢く姿に、多くの視聴者が嫌悪感を示す中、渦中のレイは鋭い視線のまま展開を見守る。
『入って』
【怪演のアラクネー】の声と共に、子蜘蛛は我先にと【タランチュラベアード】の抜け殻へと殺到する。
時には仲間である筈の子蜘蛛すらも蹴落とし、食いちぎって命を奪う。
そんな凄まじく惨たらしい生存競争の果てに、【タランチュラベアード】の背中に開いていた切れ込みが閉まると、再び生命を宿したかのように立ち上がる。
『許さない』
「――――――――!!!」
そうして2体のモンスターは攻撃を開始する。
【タランチュラベアード】を前にし、手に糸で出来た剣を持ちながら背後に続く【怪演のアラクネー】。
「ぐっ!?これは流石にまずいって……っ!」
ここまでの動きは想定通り。だが、繰り出される連撃の勢いは動画で見たよりも随分と早く、想像以上のものだった。
決して舐めていたわけではないが、それでも何とかなると踏んでいたレイは、防戦どころか逃げ回る事すら難しい状況に焦りを募らせる。
『逃がさない』
だがそんな些末なこと、【怪演のアラクネー】には関係がない。
【タランチュラベアード】の攻撃を躱すために大きく横に跳んだレイを見るやいなや、蜘蛛の胴体を機敏に動かして急速に接近する。
そうして、一刀の間合いまで詰め寄ると、手に持った剣を掲げ――。
「【じゃしん賛歌】!」
「ぎゃう!っ? ――La~♪」
『なに?』
振り下ろす、その前にじゃしんの歌声が響き渡る。
突如動かなくなった体に困惑し、生まれた一瞬のラグ。その隙にレイは体勢を立て直すために距離を取る。
「これはまずいな、使いたくはないんだけど……」
実際、レイの中にはいくつか手があった。
最悪の場合、【神ノ憑代】を使ってしまえばここを切り抜けることはできる。だが、それでは意味がない。
何度やっても、余力を残して勝てるように。それがレイの今回の目標であり、その事だけを頭に入れて、目の前に悠然と佇む【怪演のアラクネー】と【タランチュラベアード】を見つめながら作戦を立てる。
……それが失敗だった。
「――――――――ッ!!!」
「しまっ――」
「ぎゃうっ!」
声無き咆哮と共に、背後から現れた二体目の【タランチュラベアード】。
意識外からの攻撃に反応が出来ず、レイは八本の腕で吊るされるように宙に浮かされる。
『捕まえた』
「……くっそ」
首を捻り、【タランチュラベアード】の目を見れば、そこには忙しなく蠢く子蜘蛛の姿。
恐らくすべて作戦通りなのだろう、意識からすっぽりと抜け落ちていた一連の事象にレイが悔し気に呟く中、【怪演のアラクネー】が剣を構えながらレイへと近づく。
『さようなら』
そして、ゆっくりと。
見せつけるかのように、レイの胸へと剣を突き立てると、ゆっくりと奥へと差し込んでいく。
その光景にレイは眉をしかめると同時に、意識が遠くなっていき……。
[これより1時間の間、デスペナルティを付与いたします]
「うわぁ、ここまできついのか。ちょっと想像以上だったかも」
レイは【じゃしん教】のクランハウスの一室、とあるベッドの上で目を醒ます。
その表情は悔しさがありありと浮かんでおり、視聴者からは労いの言葉がかかる。
・おつかれ
・勝ち目あるんかコレ?
・そもそも勝てないやつなんじゃ……
「いや、『聖女』達が倒しているのは見たからそれはないと思う。まぁ複数人だったけど……」
事前に調べていた情報を思い浮かべれば、『聖女』を筆頭に10人ほどのパーティで倒していた筈だった。
流石に全く同じように動くのは無理であっても、ある程度参考になるはず……そう高をくくっていたレイだったが、これは少し作戦を変える必要があると頭を捻る。
「ぎゃう!」
「じゃしんもおかえり。いやぁ、圧敗だったね」
「ぎゃう~」
そこへ慌てた様子でじゃしんが戻ってくる。
心配そうにレイの顔を見るも、意外にもけろっとしている様子にじゃしんはほっと安心してみせた。
「わかるわかる、悔しいよね。やり返したくなるよね」
「ぎゃう~……ぎゃう?」
・おっと?
・これは
・良くない流れですねぇ
だが、その溜息にも似た鳴き声を、レイは自分にとって都合のいい、別の意味として捉えたようで、まるでそれが総意であるかのように結論を述べる。
「という訳で、勝てるまでやるよ。次はじゃしんにも動いてもらうからね」
「ぎゃうっ!? ぎゃうぎゃうぎゃ――」
「じゃ、いったんログアウトしまーす」
必死の抗議の声も、残念ながら届くことはなく。
自身の眷属が眠りにつくのを黙って見ているしかない神であった。
[TOPIC]
MONSTER【怪演のアラクネー】
さぁ踊りましょう。滑稽に、無様に。私に、身を任せて?
昆虫種/獣蜘蛛系統。固有スキル【不可視の糸】
《召喚条件》
【召喚の石板】による召喚。
・【タランチュラベアードの魂】
・【タランチュラベアードの魂】
・【魔女の血】




