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7-15 強さの秘訣


「というわけで、やって参りました」


「ぎゃう」


 【リヨッカ】の街を抜け出し、生い茂る森の奥にやってきた一人と一匹は、その身を包んでいたローブと覆面を外して一息つく。


「ようやくこれ脱げるよ。解放された気分だ」


・見るからに暑苦しいもんな

・それ装備扱いなの?

・違う、アイテム扱い。見た目を変更させるだけの効果

・視界悪くなったりする?


「視界は意外と悪くないんだけどさ、しっかりと動きづらいんだよねこれ」


「ぎゃう~」


 視聴者からの疑問に答えつつ、レイは肩を回す。その隣では同じくじゃしんが体をほぐすように大きく伸びをしていた。


「じゃ、まずはこの辺りのモンスターをお試しで……お、ちょうど良いところに」


 レイは体の調子を確かめるようにストレッチを行った後、獲物を探すように周囲を見回す。


 すると木々の後ろに、黄色と黒の島縞模様が特徴的な蜂型のモンスターがこちらに背を向けた状態で飛んでいた。


・【傭兵バチ】じゃん

・きっも

・俺無理だわ……


「え?カッコよくない?」


「ぎゃう……?」


 1メートル台の巨大な蜂は昆虫特有の翅を高速ではためかせつつ、六本の手足を忙しなく動かしている。


 そんな好き嫌いの大きく分かれる見た目に、視聴者とレイの意見は大きく割れる……も、どうやらレイの方が少数派のようで、隣にいたじゃしんは『正気かコイツ……』と、愕然していた。


・レイちゃんやっぱりおかしいよ

・本当に女子?

・感性は小学生男子感あるよね


「失礼な。……まぁいいや、取り敢えずアレと遊んでくるかなっ」


 視聴者からの評価に不満の声を漏らしつつ、レイは【RAY-VEN】を構えて走り出す。


 その足音に気が付いた【傭兵バチ】が振り返った瞬間、その眉間に容赦なく弾丸を打ち込むと、彼女が一番得意な距離になるまで感覚を縮める。


「よっ!ほっと!」


・何で当たらないの?

・バケモンかよ

・本当に人間?


 もはや零距離となった一人と一匹。


 【傭兵バチ】も不意に貰った一撃から回復し、ジグザグで緩急をつけた不規則な動きで迎撃を試みるも、レイには掠りさえしない。


 お尻の部分から突き出た鋭利な針を紙一重で躱しつつ一方的に弾丸を打ち込めば、数分もしないうちに、目に見える形で【傭兵バチ】は弱っていく。


「ふっ、一丁上がり」


「ぎゃう~」


・88888

・お見事

・さすレイ


 そうして、未来が見えているかのようにすべての攻撃を読み切ったレイは、地面に堕ち、ポリゴンとなって消えてゆく【傭兵バチ】を眺めつつ【RAY-VEN】を腰に仕舞う。


 その一連の戦闘を眺めていたじゃしんと視聴者からは称賛の声が上がり、レイが気を良くしながらコメントに目を通せば、いくつか質問の声が届いていた。


・なんでそんなにうまいんですか?

・なんで近づくの?

・これステータスって信仰しか上げてないんだよね?


「そうだよ。といっても装備で整えている部分はあるけどね」


 それを見たレイは気持ちが高揚しているのか、得意げに答え始める。


「HPとか<耐久>の少なさは全部躱せば問題ないでしょ?攻撃面も、この銃って固定ダメージだから<腕力>のステータスの低さは関係ない。<知性>は魔法の威力が上がるからちょっといいなとは思うけど、現状困ることはないかな」


・はえ~

・いや、簡単にいうけどさぁ……

・人間やめてた


 さも当然と言うように述べるレイに対し、視聴者は未だ信じられないのか戸惑った声を上げる。


 ただ、まだまだ疑問の声は尽きないのか、そこからも質問コメントは流れ続ける。


・<敏捷>は?


「あー、<敏捷>か。たしかにあったら良いなと思うけど、でもそれって純粋な移動速度だけだから、慣れちゃえば対処はできるんだよね」


・ふむ

・え?

・どういうこと?


「反応速度って言えばいいのかな、その場で体を動かすのは<敏捷>は関係ないんだよね。だから攻撃の来る場所さえ予測できれば、それを避けるか、最悪武器で受けちゃえばノーダメージでやり過ごせるってわけ」


 そう言って思い出すのは、かつて対峙したカイエンとトーカのこと。


 初対戦時こそ為すすべなくやられたわけだが、回数を重ねるにつれてどんどんと目が慣れてきたのか十分立ち回れるようになっていた。


 その事を思い出しつつ、レイが得意げに鼻を鳴らしていると、視聴者から弱点についての指摘が入る。


・カウンター特化だから戦えるって感じか

・逃げられたらどうすんの?

・遠距離チクチクとかきつそう


「あ、それは無理かな。銃で応戦は出来るけど、多分先にこっちにぼろが来ると思う」


 その指摘についてレイは冷静に反応してみせると、どこか第三者のように自身の弱点について分析を始めた。


「一番きついのは『躱せないくらい範囲が広い』かつ、『盾が機能しない』攻撃だね。もうどうしようもないからさ」


「……ぎゃう?」


・そんな攻撃あるの?

・あるよ、扇状に広がる範囲魔法とか

・そういうのって威力低いんだけど、関係ないのか


「そうそう。少しでも躱せる余地を残すためとか、そもそも遠距離戦をさせないために距離を縮めてるって感じかな。まぁ、単純に接近戦の方が得意って言うのもあるんだけど」


 視聴者との会話の中で、自身の戦闘スタイルを改めて言語化したレイ。


 うすぼんやりと考えていたことではあったが、改めて口に出すと意識がより明確になり、かなり有意義な時間だったなと感じていた。


 そんな満足気な表情で頷く彼女の袖を、不意に何者かが引っ張る。


「ぎゃう」


「ん?どうしたの?」


「ぎゃうぎゃう?」


 それはもちろん、じゃしんによるもの。


 どうやら先ほどのレイの発言が引っかかったらしく、いかにも『不満がありますよ』といった様子でレイを睨みつけている。……が。


「いやぁ、何言ってるか分からないなぁ」


「ぎゃうぎゃうぎゃうっ!」


・あ、これ分かっている奴だ

・盾扱いで草

・なにも間違ってないよね?


 レイは小首を傾げて顎に指を当てながら空を見る。


 どう考えても分かった上でとぼけているような態度に、じゃしんは発狂するように騒いで彼女の頭を叩き始めるも、レイは全く気にした素振りを見せることなく話題を変えた。


「さーて、準備運動はこれくらいにして、そろそろ主役を呼ぼうかなっと」


・なにそれ?

・ハチミツだぞ

・何に使うの?


「ぎゃう~!」


「ちょっ、ダメダメ。これはじゃしんにあげるやつじゃなくて、アイツ(・・・)を呼び出すためのものなんだから」


 レイが取り出したのは茶色の壺の中に並々と注がれた、金色に光るハチミツ。


 先程の怒りを忘れたのか、目の色を変えて手を伸ばすじゃしんからそれを守りつつ、レイは準備に取り掛かるのだった。


[TOPIC]

MONSTER【傭兵バチ】

幾つかの生存競争を勝ち抜いた戦士は、更なる闘争の中で進化する。

昆虫種/軍蜂系統。固有スキル【アナフィキラシー】。


≪進化経路≫

<★>新兵バチ

<★★>傭兵バチ

<★★★>軍隊バチ

<★★★★>ジェネルビー

<★★★★★>シュラディール

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― 新着の感想 ―
[一言] 黄色と黒の色・・・お尻にでかい針・・・超ネクタイ猿1&2・・・ウッ頭が
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