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6-52 同窓会と『神』の邂逅


「ん?」


「お」


 レイ達がワールドクエストに挑んでいる最中、【ブラウ】の街の入り口にはリスポーンしたプレイヤー二人がバッタリと出くわしていた。


「お前も戻るのか?」


「まさか、帰るんだよ。もうあそこに用はないしね」


 トーカの問いかけにセブンは鼻で笑ってみせると、どこかつまらなさそうに肩を竦めた。


「ははっ、お前もそんな顔するんだな」


「そりゃ僕だって人間だからね、悔しいと思う時くらいあるさ。君だってそうじゃないの?」


「アタシ?まぁ悔しくないって言ったら嘘になるが……」


 先程からずっと笑顔のトーカをセブンが不審げに見れば、困ったように頭を掻きながらもにやりと笑う。


「それ以上にワクワクしてるな。お前以外にもアタシと張り合える人間が出てきたんだ、どうやって勝つかしか考えてねぇよ」


「このバーサーカーめ」


「我も同意しよう」


 尖った八重歯を見せつけるような獰猛な笑みに、セブンは呆れつつも笑みを零す。そこへ背後から第三者が同意の言葉を口にした。


「『魔王』に元『総帥』、久しいな」


「誰?」


「『堕天使』だろ?ほら、ベータ時代にいた二刀流の奴」


「あー、なんかいたような……」


 そこには全身黒のコートに身を包んだ白髪の男――ツヴァイが、体を少し仰け反り片手で顔を隠す謎のポーズをしながら立っていた。


 突如現れた明らかに不審な存在に二人はボリュームを落として内緒話をすると、セブンが代表して目的を問いかける。


「それで、なんか用?そもそもここで何をしているのさ」


「貴殿の弟に負けた」


「……弟って、ギークのことか?」


 返ってきた答えに眉を顰めたセブンだったが、隣にいたトーカは別の感情を抱いたようだった。驚いたように少し目を見開いて心当たりを口にすれば、ツヴァイは不敵な笑みを零しつつ頷く。


「あぁ、あれはまだまだ強くなるぞ」


「へぇ、それはうかうかしてらんねぇな。ちょっと本腰入れるかね」


 二人だけの中で会話が成立していることにつまらなさそうに唇を尖らせるセブン。それに気が付いたのか、ツヴァイは違う話題を切り出した。


「我はこれから全盛期の力を取り戻すために修行をする予定だ。目覚めたばかりでコイツらも飢えているからな」


「アタシもレベル上げかな。取り敢えず【WorkerS】はギークに任せて一人山にでも篭ろうかね。なぁ、セブンはどうする?」


「別に僕はあのクランに思い入れないから。そもそも今回だけ利用したらすぐ捨てるつもりだったし」


「そうじゃねぇよ。また強くなろうと思わないのか?」


「はぁ?僕が?」


 それはこれからのこと。


 久しく味わってなかった敗北を経験した二人は既に前を向いており、残されたセブンへと問いかける。


「悪いけど、努力とか一番嫌いな言葉なんだよね。全く楽しくないし、所詮ゲームなのに頑張るとか意味わかんないよ」


「でもいいのか?このままだと負けたままだぞ?」


「……まるで次やっても負けるみたいな言い草だね?」


「そりゃそうだろ、あの子はまだまだ伸び代があるしな」


「然り。さすが我が盟友と言ったところか」


 少しだけ怒気を孕んで睨み返すも、全く気にする素振りを見せないトーカとツヴァイ。その行為が無駄だと判断したセブンはやがて諦めたようにため息を零す。


「はぁ、認めるよ。レイちゃんの方が強かった。でも今回だけね」


 セブンは仕方ないといった様子で首を振りつつ、自身を打ち負かした少女を思い浮かべて称賛の言葉を口にする。だが、最後にはいつもと同じようにいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「ま、ちょっとくらい頑張ってみようかな。僕はレイちゃんの憧れみたいだし、夢見せてやるのも先輩の役目だもんね」


「ははっ、捻くれてんなぁ」


「だが、それでこそ『魔王』だ」


 そんな天邪鬼な態度にトーカとツヴァイもまた笑みを浮かべれば、三人は【ブラウ】の街から外に出ると、それぞれ別方向へと歩き出す。


 きっとその胸中に秘める思いに大差はなく、最前線に立っていた彼等もまた、道の途中であるようだった。






「……くだらない」


 ――そんな彼等の様子を遠目に見つめる人物が一人。


 ブラウの街の中心にある時計台の天辺から見下ろしていたその男は、三人のやり取りに心底気に食わないと言わんばかりに舌打ちをする。


「やぁスカル。調子はどう?」


 そこへ背後から何者かが声を掛ける。


 人を小馬鹿にするような声音に、ただでさえ不快だった男の顔がさらに歪む。


「……何のようだ、()


 男が振り替えれば、そこにはぶかぶかでよれよれのTシャツを着た女性がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて立っていた。


「そんな邪険に扱わないでよ。私達って家族みたいなものじゃん」


「俺はそんな風には思ってない」


 そんな女性が気軽に近づいてその肩に手を乗せれば、男は不快な感情を隠そうともせずに振り払う。ただそれを受けてもなお、女性の顔には笑顔が張り付けられていた。


「寂しいなぁ。それで、どうだった?嫌がらせはうまくいった?」


「……」


 女性の問いかけに、男は視線を逸らして黙り込む。だが、その姿に一層嬉しそうに顔を歪めた女性は一人でに語りだした。


「『未』の試練はその特性上、三人のプレイヤーが必要になる。一人でプレイ出来ない事もないけど、それだと味方がNPCになっちゃって、難易度が跳ね上がっちゃう。協調性のきょの字もない『魔王』ちゃんがその権利を握っちゃえばあら不思議、誰にもクリアできない――」


「黙れ」


 女性の言葉に、男は耐え切れなくなったのか一言言葉を割り込ませる。だが、それで彼女の口が噤まれることはなかった。


「いやぁ、残念だったね。もう少しで阻止できたかもしれないのに。でももう半分、この物語も終わりが近い――」


「黙れと言った筈だ」


 痺れを切らした男は振り返り、鋭い視線で睨みつける。その憎悪の籠った瞳を向けられた女性はそれを愛おしそうに受け止める。


「やっと私の目を見てくれたね?」


「お前と話すことなど何もない、失せろ」


「そんなこと言うなよ。この世界の創造主兼神様として相談に乗ってあげるって言ってるんだよ。もっと素直になったら?」


「俺は認めていない」


 これ以上話も聞きたくないとでも言うかのように男が腕を横に振りぬけば、女性の胴体がポリゴンに変わり、崩れ落ちていく。


「ありゃ?」


「神は、二人もいらない」


 そのまま女性が消えたのを確認した男もまた、ポリゴンとなって消えていく。


 超常とも思しき一瞬のやり取りを目撃できた人間(プレイヤー)は誰一人居らず、その余韻を掻き消すかのように時計の進む音が街へと響いていた。

[TOPIC]

OTHER【神】

その名を語る者は3名。それぞれ別の役割を持っている。

創造を司る神と破壊を司る神。そしてもう一人は――。

……いずれにせよ、彼等の行動がこの世界の行く末を決めることに違いはない。

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― 新着の感想 ―
[一言] やりたい事やってたら不思議と強くなっちゃってただけなので別に努力したわけじゃありません理論でいこう!
[一言] スカル、誰なんだろ
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