1-17 月の光に激しく昂る②
部屋の中は今までの洞窟に似合わずとても豪華なつくりになっていた。
全体的に中世を思わせる室内には、高級そうなソファに机は勿論、壁には高そうなお酒が飾ってあり、天井からはシャンデリアがぶら下げられ部屋全体を明るく照らしている。
先ほどレイに声をかけた白兎は頭にシルクハット、肩に真っ黒のコートを羽織りながら上座に座っており、またその両脇には赤兎の色違いである青兎と黄兎が護衛のように控えていた。
「まぁ嬢ちゃんもそんなとこいないでこっちに座りな」
葉巻を咥えた白兎は余裕たっぷりの声でレイのことを呼ぶ。まさしくボスといったその風貌と態度にレイは気圧され、逆らうことなくソファに腰を下ろした。
「ふぅ。まずは嬢ちゃんの名前から聞かせてもらおうか」
「……レイです」
「レイか、いい名前だ。ちなみにあっちのちっこいのは?」
「え?」
そう言われて白兎が指した方向をレイが見ると、じゃしんが赤兎とカウンターの所でお酒を飲んでいた。
「ぎゃう~」
「ソウカ、オ前モ大変ダッタンダナ」
何を言っているのかは分からないが、ちらちらと見られていることを感じたレイはどうせ碌なことじゃないと決め付け白兎の方へ向き直る。
「一応私の召喚獣ですけど馬鹿なんで無視してくれて大丈夫です」
「はっはっは!分かった、そういうことにしておこう」
豪快に笑った白兎は手に持った葉巻を押し潰すとレイの目を見てニヤリと笑う。
「じゃあ次はこっちの番だな。俺は一応ここら辺を取り締まってる『ムーンライトファミリー』の首領ラビカポネだ。こいつらは幹部の3人。おい、自己紹介しろ」
「ルーブダ」
「ロイエデス」
「……レド」
白兎――ラビカポネから順に青、黄、赤の順番で自己紹介をする。それを聞いたレイはマフィアみたいなものかと認識した。
「あ、私たくさんステップラビット倒したんですけどまずかったですか?」
「ん?それは気にしちゃいねぇよ。そんなことよりもここに何しに――いや、どうやってここに来た?」
ラビカポネはレイの質問に何でもない様子で答えている。
「あぁ、それはこのアイテムが教えてくれました」
そう言ってレイが【満月の首飾り】を見せた瞬間、空気が変わる。
レイとじゃしん以外の兎達の毛が逆立つと、ラビカポネが怒りを抑えるような声でレイに尋ねた。
「オメェ……それをどうやって手に入れたんだ?」
「それは、【ビッグフット】を倒して――」
「そっちは分かる。俺が託したモンだからな。問題はもう一つの方だ」
レドとルーブ、ロイエは戦闘態勢を既に整え、今にもレイに襲いかからんとしている。それを目で制しながらラビカポネは言葉を続けた。
「【三日月の首飾り】は俺の弟分が持っているはずだ。もう一度聞くぞ?どうやって手に入れた?」
回答を間違えればこのままラビカポネ達と戦闘となるだろう。そうなればどう考えても敗北し、クエスト失敗になることが目に見えており、その結果を想像したレイの頬に冷や汗が伝う。
どう答えようか悩み、少ない時間で思考をフル回転させたレイは意を決して口を開いた。
「――わかりません」
レイが選択した答えは誤魔化さないことだった。
「フザケルナッ!!!」
それを聞いたレドが叫びながら銃を突きつけると、ルーブ、ロイエもそれに続く。
「嘘ツキヤガッテ!兄貴ニツイテ知ッテイルコトヲ全部吐キヤガレ!」
「本当に偶然手に入れただけなんだよね。だから君たちの兄貴については知らない。ごめんね」
怒り狂うレドに対してレイはあくまでも毅然とした態度を崩さない。
「神に誓えるか?」
「はい」
ラビカポネの質問に対してもまっすぐと目を見つめながら返す。それを受け、さらに黙って見つめ返すラビカポネ。
実際には1分にも満たない時間だったが、レイにとって永遠のように感じられた。
「俺の弟分――ラビー・アッカルドはな。それはそれは気の良い奴でなぁ……」
やがてラビカポネは長い沈黙を破ると、もう一度葉巻を咥え火をつける。
「あまりにも気が合うもんだから契りを交わしたんだが、ある日突然ぱったりと消えちまって。それ以来顔すら見てねぇのさ」
その独白にレイが何かをこたえることはなかったが、流れが変わったことを確信する。
「もしかしたら何か知っているのかと思ったんだが……完全にこっちの八つ当たりだったな。おいお前ら、銃を下ろしてやれ」
「シカシ……」
「こいつは嘘つくような眼をしてねぇよ」
ラビカポネの言葉を聞いた3人は渋々と言った様子で銃を下ろす。それに対してレイは【満月の首飾り】を机の上に置くとラビカポネに差し出した。
「そういうことなら、これはお返しします」
「……いいのか?」
「はい、私が持っていても仕方ないので」
「そうか、ありがとよ。それと悪かったな」
緊迫していた空気が完全に消えてなくなったのを感じたレイはほっと一息をこぼした。
その手にはじんわりと汗がにじんでいたが、おそらくこれで完全に乗り切れたし、このイベントはクリアだろうとこぶしを握って小さくガッツポーズをする。
「そうだ、代わりにあれをやろう」
ラビカポネはそういうとロイエに声をかけ、何かを取ってこさせようとしていた。おそらくこれがワールドクエストの報酬だと考えたレイは、きっと良いモノが貰えるに違いないとそわそわし始める。
――その時だった。
[連続プレイ時間が8時間に到達いたしました。身体の影響を考え強制的にログアウトを行います]
「あっ!」
それに気付いて大声を出したところで時既に遅く、プツッという音とともに視界が真っ暗になる。
「……ぁ」
現実に戻ってきたレイは茫然としたまま声にならないかすれた音を上げると、そのまま立ち上がりふらふらとベッドの方に向かっていく。そのままベッドの上に倒れこむと思いっきり息を吸って枕に顔をうずめる。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!」
数秒後に彼女の魂の叫びが響き渡った。
[TOPIC]
WORD【強制ログアウト】
以下の条件下にて強制的に接続切断を行います。なお、切断後はその場にアバターの身が放置され、一定時間経過後にデス扱いとして最終リスポーン地点へと転移します。
①連続プレイ時間が8時間を超過した場合
②現実の肉体にて異常事態を検知した場合
――説明書より抜粋




