1-12 憧れは意外と近くに
「ひぃ……!」
【じゃしん結界】を解くとリボッタは這う這うの体でその場からいなくなる。当然リボッタに周りを見る余裕はなく、持っていたカバンはそのまま地面に転がっていた。
「まさかここまでうまくいくなんてね」
・マジですごかった
・あれは怖いわ…
・迫真の演技すぎる
・え、やったことある?
「そんなに良かったかな?……ってかやったことあるってどういうこと?」
照れたように笑っていたレイだったが、とあるコメントを見つけると目を細めて怪訝な表情をする。
・あっ
・いや~汗
・これはやってしまいましたなぁ
・拷問コース入りまーす
そんなレイの様子にコメントした本人は焦るような言葉を残し、その他大勢の茶化すようなコメントが溢れ出す。このやり取りと流れがすごく配信者っぽく感じてレイは思わず笑ってしまった。
「ぎゃう!ぎゃう!」
レイが視聴者と盛り上がっていると、じゃしんが落ちていたリボッタのカバンを運んでくる。まるで『早く中身見ようぜ!』と言わんばかりに目を輝かせていた。
「ナイス。さて、何が出るかな~何が出るかな~っと」
・なんだっけその歌?
・ほらあのお昼の番組の
・何が出るかな~
・あぁサイコロ転がす奴か
コメント欄では鼻歌についての議論が繰り広げられている中、レイは構わずカバンの中からアイテムを取り出す。それを一度自分のものとして入手すると、メニューのアイテム画面から一覧として確認を始めた。
「お、【時限草】20本もあるじゃん!まったく、サバ読んじゃってさぁ」
次々と入手したアイテムを確認しながらレイは次第にほくほく顔になっていく。そして時にはアイテムの解説を視聴者に託しながら、その有用性の選別を進めていった。
「20種類以上に総数百越えか……こんなに貰っちゃうと申し訳ない気もするね」
・リボッタだから問題ない
・あいつめちゃくちゃぼってくるからな
・しかもすぐクソ強い用心棒呼ぶし
・ヘイトめっちゃたまってるからむしろGJ
「そうかなぁ……まぁお金たまったらちょっとは返しに行ってあげようかな――ん?」
そんなことを話しながら画面をスクロールしていくと、とあるアイテムの名前に目が留まった。
ITEM【三日月の首飾り】
三日月の姿をした首飾り。美しくはあるが、これ自体に特別な意味はないようだ。
効果①:なし
「ねぇ、これってさ……」
・ん?
・あ!
・え、まさか
・もしかして満月の首飾り?
レイはコメントに頷くと、アイテム欄から【三日月の首飾り】と昨日手に入れた【欠けた満月の首飾り】を取り出す。両手に持ったそれ等は明らかに大きさが等しく、欠けている部分にぴったりと嵌るだろうとレイは確信した。
「じゃあ、いくよ?」
・OK
・どうなるんだろう
・わくわく
「ぎゃう……!」
レイは一言呟くと、やかましく鳴り響く鼓動を感じながらゆっくりと2つを重ね合わせていく。同様に隣にいるじゃしんや視聴者すらも期待感に胸を膨らませて成り行きを見守っていた。
そしてその2つが完全に重なり合った時、辺りは強烈な光に包まれる。
「うわ!まぶしっ!」
「ぎゃう!?」
・!?
・!?
・!?
急に放たれた光にレイとじゃしんは思わず目を瞑る。しばらくして目を開けると、2つの首飾りは完全に重なり合って1つのアイテムとなっており、きらきらと淡い光を放っていた。
ITEM【満月の首飾り】
真の姿となった満月の姿をした首飾り。しかる時、しかる場所で秘密の入口への扉を開くだろう。
効果①:???
「【満月の首飾り】……」
・やば!!
・こんなことあるんだ
・これ歴史的瞬間じゃない?
・やっぱレイちゃん持ってるわ
「まさかこんなとこで手に入るとは……。ほんとにラッキーだね」
あまり実感がわかないレイはあははと控えめに笑いながら言葉を続ける。
「ただ、この『しかる時、しかる場所』って何なんだろう?秘密の入口ってのも分かんないし……」
・確かに
・結局謎のままってこと?
・謎が解けた先に何があるか知っているか?
・謎が生まれる
「これ偶々手に入れたけど、もしかしたら何かイベントがあった可能性ないかな?」
・あー、ね
・ありうる
・じゃあ結局わかんないってこと?
「そうだね。今更どうしようもないし、そういうことになっちゃうかなぁ」
そう結論付けたレイはそのアイテムをしまおうとして――横からじゃしんにひったくられた。
「ぎゃう!」
「え?欲しいの?う~ん、まぁいいか」
【満月の首飾り】を首にかけたじゃしんはレイに見せつけるように胸を張っている。その様子を見たレイは少し呆れたが、結局じゃしんに預ける事に決めたようだった。
「こんなもんかな?じゃ、そろそろ戻ろっか」
・おけー
・りょ
・はーい
その後もアイテム確認を続け、一通り見終えたレイは裏路地に用もなくなったため、一度広間に戻ろうと歩き出し――そこで不意に呼び止められる。
「そこの君!可愛いねぇ!」
「こんなところで何してんのさ!」
「はぁ?」
・あ?
・なんだこいつら?
・イベントかなんか?
・いや、ネームがあるから多分プレイヤー
「こんなところで何してんの~?危ないから高レベルの俺らが送ってあげよーか?」
「お礼はそのあと遊んでくれるだけでいいからさ!」
ぎゃははと下品な笑い声をあげるチャラ男2人組に不快感を隠せないレイは、平坦な口調で最低限の言葉だけ返す。
「いえ、結構です」
「そんなこと言わずにさ!」
「てか何こいつ?めっちゃ弱そうなんですけど!」
「ぎゃ、ぎゃう!?」
・は!?
・おい!
・ふざけんな!
レイの言葉を聞いてもやめるどころか腕に触れてきたり、じゃしんを掴んだりとやりたい放題なチャラ男2人組にコメント欄が過熱する。いい加減やり返してやろうかとレイが思ったその時、また別の声が路地裏へと響いた。
「楽しそうだね。なにしてんの?」
その声は通路の奥、フードを被った人物から聞こえてきたようだった。声質的に女性のようではあるが、それ以上にレイにとって聞き馴染みのある声であった。
「あ?」
「誰だよ?」
チャラ男2人組は突然食って掛かってきたフードの女に対して喧嘩腰で尋ね返す。
「僕もその子に用があるんだよね~」
「俺らの方が先だったんだよ。入ってくんじゃねぇ」
「邪魔するならテメェからやっちまうぞ?」
今にも武器を抜こうと威嚇する2人組だったが、フードの女はまるで動じる様子もなく、つまらなさそうに一言吐き捨てる。
「あっそ。じゃ、死んでくれる?」
その瞬間、チャラ男2人組の首が胴体から離れる。そのまま一言も発することなくチャラ男2人組はポリゴンとなり消えていった。
・!?
・!?
・え、嘘だろ!?
・まさか!?
コメント欄には驚きの声であふれていたが、レイはこの光景に見覚えがあることに驚愕していた。
「最近あぁいう不快な輩が多くて困っちゃうよ。ねぇ?」
そう言うとフードをはずしてその素顔が露になる。それを見たレイは全てを確信し、茫然とした様子でその名を呟く。
「セブン……さん……?」
それに対してセブンは心底楽しそうに笑みを深めるのだった。
[TOPIC]
WORD【アイテムポーチ】
プレイヤーのアイテムを格納している場所。通常プレイヤーは腰についている麻袋がそれに該当するが、【商人】系統の職業の場合リュック形式のカバンになる。
その違いは持てる所持数であり、カバンの方が倍近く持ち運べる物が多い。所持数制限が来た場合は宿屋及びクランハウスのアイテムボックスに格納してカバンのスペースを空ける必要がある。
基本的にメニューのアイテム画面からアイテムを取り出すことが出来るが、ほかプレーヤーから奪う際はこのカバン(麻袋)を奪って中身を取り出すことで、所有権が放棄された扱いとなるので拾うことが可能になる。




