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1-11 闇商人リボッタの受難


 ここは【ホワイティア】の裏路地街。


 中央の喧騒から少し離れた場所にあるここは、秩序や平和など微塵も存在せず、暴力と金が蔓延る闇の世界だった。そんな人通りの少ない薄汚れた場所にぼろぼろのローブを着た男が大きなカバンを背に座り込んでいる。


「あの人であってる?……うん、うん、おっけーありがと。おーじさん!」


 そんな男に対して一人、声をかける者がいた。


 一回り大きいぶかぶかのローブを着ているせいか顔は見えないが、その声色と体格からおそらく女性だろうと男は判断する。


「あぁ?なんだ嬢ちゃん?」


「あなたがリボッタさんであってる?」


「……あぁ、俺がリボッタだが。何か用か?」


「ちょっと欲しいものがあって。おじさん持っていないかな~って」


 その言葉を聞いて男――『闇商人』リボッタはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。


(どこから噂を聞いてきたか分からないが、わざわざこんな所まで来るということは何か訳ありか何も知らない初心者のどっちかか。へへっ、カモが来たぜ……!)


 リボッタはそう考えると、目の前の少女から搾れるだけ搾り取るために商売(仕事)を開始する。


「なんだお客様か。何が欲しいんだ?」


「【時限草】なんだけど。できればあるだけ売ってほしいな~って」


「【時限草】か。それなら丁度10個あるからよ、1個当たり1000G、全部買うなら10000Gだな」


 本来の相場であれば【時限草】など200Gくらいで買えるシロモノ。だが、リボッタはここぞとばかりに価格を跳ね上げた。


「10000G!?そっか、意外と高いんだね……」


「最近は需要が上がってきているからな。手に入れるのにも結構苦労してんのよ」


 しれっと平気な顔で嘘を吐くリボッタ。


(ここで交渉さえ成立してしまえば嘘がばれたところで何の問題もない、むしろ騙される方が悪ぃんだよ)


「そっかぁ困ったなぁ……実は今手持ちはこれだけしかなくて……」


 リボッタの言葉に目の前の少女は落ち込んだ様子を見せながらポケットから何かを取り出す。その手に握られていたのは――。


「……全財産でこれだけか?」


「うん。これだけ」


 金貨たった一枚、100G。それを見た瞬間、リボッタは露骨にため息を吐く。


(んだよ、上客かと思ったらただの貧乏人じゃねぇか。何の得にもなりゃしねぇ)


 これ以上相手をするのも馬鹿馬鹿しいと判断したリボッタは、しっしっと手を振り、目の前の少女を追い返そうと邪険に扱う。


「無理に決まっているだろ。冷やかしなら帰って――」


「頼むよ。ね?おじさん?」


 ――思わず息を呑んだ。


 いつの間にか少女の右手には銀色の拳銃のようなものが握られており、今まさに自分の眉間に押し当てられていたからだ。急変した相手にリボッタの声が上擦る。


「お、お、お前何考えてやがる!?」


「ん~?あたしはただお買い物がしたいだけだけど?」


「買い物でこんなもの突き付ける奴がどこにいるっていうんだ!?」


 あまりにも至極まっとうな正論を少女にぶちまけるが彼女は答えない。ずっと目の前でニコニコ笑っているだけであり、リボッタには何を考えているのかまるで理解できなかった。


(本当になんなんだこいつ!誰かに雇われたヒットマンか何かか!?どうして俺を狙う!?)


 何か得体のしれないものを相手にしている気分になったリボッタはそれでも強気に笑みを浮かべながら言葉を吐き出す。


「へ、へへへ。こんなことしたって無駄だぜ!ここら辺はフェンガリ組ってのが仕切ってんだ!こんなとこで問題を起こせばすぐに用心棒が――ヒッ」


 リボッタの強気な言葉に、少女の顔が真顔になる。それを見てしまったリボッタは喉を締め付けられたように喋れなくなった。


「それは困るなぁ。じゃあじゃしんくん、よろしく」


「ぎゃう!」


 ただすぐに元の笑顔に戻った少女は軽快な口調でそう言うと、少女のぶかぶかのローブの中から何かが飛び出してくる。


 それは背中に悪魔のような羽が生え、その下には蛇のような尻尾を携えており、全体的に黒く藍色のような体毛に覆われた、明らかに人ならざるものであった。


 その大きな瞳は煮えたぎるマグマを連想させるほどに赤く、その鋭い爪と角は隣にいる不気味な少女と相まって狂暴そうなイメージをリボッタは抱く。


「なんだこいつ!?」


 思わず叫んでしまったリボッタだったが化け物は獰猛な笑みを向けてくるだけでリボッタ自身に何かするつもりはないようだった。代わりに呪文のようなことを呟いて両手を上に突き出すと、高らかに叫びだす。


「ぎゃう~!」


 次の瞬間、リボッタの視界が変わる。


「な、な、な!」


 そこはぴちょん、ぴちょんと水滴が垂れているような音以外は何も聞こえない、ほぼ静寂が支配している真っ暗な空間だった。


(どこだここ!?まさか【ポータルストーン】か!?いや、でもあの化け物が何かしたことには違いないハズ!)


 理解の領域を超えた展開に軽くパニックになりつつも、なんとか現状を把握しようと必死で頭を回転させるリボッタ。だが、視界が暗闇に慣れると徐々に周りの状況が見えてきてしまった。


「うぁ……」


 そこには錆び付いたアイアンメイデンや鉄でできた三角木馬、ファラリスの雄牛など多種多様の拷問器具が置いてあった。それを見てしまったリボッタは可哀想なくらい青ざめている。


「これで邪魔は入らないかな?じゃしんくん、ごくろう」


 怪物を労うように声を出した悪魔(少女)に対して、リボッタは必死の虚勢を張り付けて叫ぶ。


「お、お前ら!いったい何者なんだ!」


「何って、私は買い物の交渉がしたいだけだよ?100Gで【時限草】を10本買いたいんだ。ねぇ?」


「ぎゃ、ぎゃう」


 悪魔は飄々とそんな戯言を言い、化け物に問いかける。化け物の方はどこか嫌そうな顔をしていたが、余裕のないリボッタに気にしている余裕はなかった。


「ま、時間もたくさんあることだしさ」


「ひっ、く、来るな!」


 ゆっくりと近づいてくる悪魔から距離を取ろうと後ずさるが、腰が引けてしまっているためその願いも叶わない。


「お互いが納得するまでさ、ゆっくり話し合おうよ」


「ぁ、ぁ、ぁ」


 どうすることもできなくなったリボッタはその恐怖のあまり声にならない呻きを上げる。


「ね?リボッタさん?」


「うわぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」


 そうしてリボッタの断末魔の叫びが響き渡る。その声を聞き届けるものは誰一人いなかった。


[TOPIC]

PLAYER【リボッタ】

身長:178cm

体重:63kg

好きなもの:金、地位、名声


無精ひげの似合うやつれたおっさん。異名は『闇商人』

始めた当初は職業【商人】として『ToY』のゲームを楽しく満喫する予定だったが、ゲーム内で騙されて無一文どころか借金を背負う羽目になり、最終的には自分しか信じない嫌われ者となっていった。

その後ようやくプレイスタイルも固まり、名を馳せる存在になったものの、そのせいで悪魔に目を付けられることになってしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何しても良い。て運営も公言してるし そもそもぼったくり商売してたから他プレイヤーのヘイト買ってるから掲示板で恨み投稿しても「どんまい、ざまぁ」で終わる確率高いしなぁ じゃしんくんのスキル…
[良い点] めっちゃこのシーン動画で見たいな…w 美少女に脅迫されるとかなんてご褒美ですか()
[良い点] 頑張れおじさん所詮その銃は固定ダメージ10しか与えて来ないぞ! 気の持ち用だ!(なお) [気になる点] 行動でスキルが生えてくる設定のVRだったら 色々不名誉なのが生えてきてそう [一言]…
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