1-3 燃え尽き症候群⇒反転⇒決意
【レイちゃんねる】
【第2回配信】
「あー、えっと。はじめまして?」
衝撃の事実が判明したあの後、再びログインしたレイは配信のコメント欄に向かって話しかけていた。
・はじめまして~!
・ファンになりました!
・耐久配信凄かった!
・声も可愛いのか…
・ってかラインやってる?
30分ほど空けたにもかかわらず、コメントの勢いはまるで変わらない。それどころか増しているような気さえする。
「うわ、凄いいっぱい。こんなのに来るとは思ってなくて……えと、どうしよう……?」
その様子にまたもパニックになりそうなレイだったが、『とりあえず自己紹介を』というコメントを拾ったことで何とか持ち直す。
「そ、そだね。私の名前はレイ。配信は初めてです。よろしくお願いします」
・8888
・8888
・8888
・ってかラインやってる?
自己紹介を終えると大量の拍手コメントが流れ、レイは照れたようにはにかむ。そのまま怒涛の勢いで流れるコメントを追っていると、とあるコメントが目に入った。
・一週間経ってようやく自己紹介かwww
「あ、ごめんなさい。その、気づかなくて……」
ふと目に入ったそのコメントに何気なく返信したつもりだったが、視聴者はそうは受け取らなかったようで、火に油を注いだようににコメントが過熱する。
・は?何こいつ?
・おい!レイちゃん落ち込んじゃったじゃねぇか!
・万死に値する!
・ギルティ!ギルティ!ギルティ!
・すいませんそんなつもりじゃなかったんです許してください
・※このコメントは削除されました※
「ちょ、責めないであげてほしいかな!私が悪いのは確かだから!ね、みんな仲良くしよ?」
尋常じゃないコメントの荒ぶり加減に慌ててフォローを入れる。その言葉を聞いてコメントの勢いも何とか静まっていく――かと思われたが。
・天使や…
・癒される…
・浄化される…
・一生付いていきます…
「あ、あはは、ありがと……」
それ以上にレイに対するべた褒めコメントが流れてきており、普段褒められ慣れていない彼女はすごくむず痒い気分を味わう。
それと同時に連携の取れた弾幕や視聴者同士のやり取り、さっきから変なことを言っていた人がいつの間にかブロックされている……などなどの様子を、まるで配信見ているみたいだなとレイはどこか他人事のように感じていた。
「ぎゃう!」
「あ、ごめん。忘れてた」
レイが視聴者とのやり取りに集中していると『俺にも構え!』と言わんばかりにじゃしんが突撃してきたため、両手を広げて受け止める。それをきっかけにじゃしんに関する内容のコメントもちらほらと増えてきた。
・めっちゃかわいい!
・名前はじゃしんでいいの?
・ユニークモンスターなんですか?
・なんか犬みたいだな
そこからは怒涛の質問攻めだった。じゃしんについての事は勿論、レイ自身の質問も同じくらい見受けられ、そのあまりの多さに一つ一つ返答をしていくのは厳しいと悟ったレイは一度おおまかな流れを説明してしまおうと判断する。
「ま、待って!とりあえず私の現状についてちょっとお話させて!質問はそれからで!」
そう言って拙いながらもゆっくりと、これまで起きた出来事を振り返りながら話しだす。
最初は動画で憧れた死霊術師を目指していたこと。
その為の計画も十二分に考えてこのゲームに臨んだこと。
折れそうになる心を何度も繋ぎ止めながらスカルドラゴンに挑み続けたこと。
ようやく魂を手に入れた時は涙が出るくらい嬉しかったこと。
話す毎に緊張がほぐれていったのか、どんどん軽快に喋り出すレイ。最終的にはすっかりと普段通りの調子で笑えていた。
「――それで、召喚したら何故かこの子が召喚されましたとさ、めでたしめでたし。……ってのがこの一週間起きたことかな?だから何でとかどうやってとか私が聞きたいくらい。期待してた人ごめんね?」
・なるほどな~
・めでたい…のか?
・謝んなくても大丈夫よ~
・うーん、それはなんとも…
レイの思いを聞いた視聴者は何とも言えない風なコメントを残す。気軽におめでとうと言えない空気が出来上がってしまっており、それを感じ取ったレイはしまったなと後悔しつつも、コメントへの返答を続ける。
・レイちゃんはじゃしんが嫌な感じ?
「どうかな。嫌ってわけじゃないと思うだけど、正直複雑なんだよね」
「ぎゃう?」
そう言って腕の中にいるじゃしんを見る。キョトンとした顔で指を口に当てている姿はかなりあざといとは思うが、嫌いかと聞かれるとそんな感情は湧いてこない。ただ、レイの中でいまいち煮え切らない思いがあるのもまた事実だった。
「でもなぁ……モチベが下がっているのは事実なんだよね」
・え、マジか
・やめないで
・応援してる
・無理にとは言わないけど…
正直な感想を吐露したレイに励ましの言葉が投げかけられる。それを目にしたレイはすごく温かい気持ちになるとともに、少し申し訳ないと思った。
「みんな……」
・まだ始まってもないから、もったいないけどね
・少なくともここにいるみんなはレイちゃんの放送楽しみにしてると思う
・これからはもっと良くなるかもしれないしね
「あ……」
そのコメントを見てレイはハッとする。確かに、レイの中ではここまで何一つ上手くいってないが、これからもそうとは限らない。むしろ、ここまでたくさんの人が見てくれていること自体が、プラン以上の成果ではないかと、そう思い始めていた。
・まぁ最終的にはレイさんの好きにするのが一番ですよ
・セブンさんみたいに?
・いや、あれは好き勝手すぎるだろ
・辞めるなんていつでも出来るから、とりあえずやってみるでもいいのでは?
「……そっか、そうだよね。辞めるなんていつでも出来る、ゲームなんだし!」
流れるコメントを反芻するように呟く。そしてうん、と決心したかのように頷くと、晴れやかな笑顔で宣言した。
「決めた!もう少し続けてみる!だから、これからも是非お付き合いよろしくお願いします!」
・もちろん!
・やったぜ
・一生付いていくって決めてるから!
・それはキモイ
・え?今俺に付き合ってくれるって言った?
・違うぞ、俺に言ったんだぞ
再びすごい勢いで流れだすコメント欄にレイは思わず苦笑する。傍にいたじゃしんの頭を撫でると、目を細めて気持ちよさそうな顔をしていた。
[TOPIC]
WORD【コメント欄】
ピンク色の撮影ドローンを注視するとウィンドウが表示され、視聴者が発したコメントが表示される。
視聴者によって通報が可能であり、一定数集まるとコメントが出来なくなる。(ブロック機能は配信者設定の方でも設定可能)




