1-2 気付くとパニック
「あ、そっか。なんか職業も変わっていたんだっけ……」
地に落ちたテンションをなんとか拾い集め、再度ステータス画面を開く。視界の端では妙にテンションの高いじゃしんが小躍りしているのが映っていた。
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NAME レイ
MAIN 【邪教徒Lv.1】
SUB -
HP 10/10
MP 10/10
腕力 10
耐久 10
敏捷 10
知性 10
技量 10
信仰 220(110*2)
SKILL -
SP【敬虔ナル信徒】【自己犠牲】
BP 0pt
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「【邪教徒】……」
色々と気になった個所はあったレイだが、一番に目に入ったのはメイン職業についてだった。
このゲームを始めるにあたって数多くの動画や攻略サイトを確認したレイだったが、【邪教徒】なんて言う職業は見たことがない。
しかもなぜかサブ職業の欄に他職業が存在せず、これが一時的なものなのか、はたまた永続的なものなのかレイには判断がつかなかった。
「でも確か職業変更できないんだよねぇ……」
それは今後固有スキルの枠が片方潰されるという意味であり、どう考えてもプラスには働かないだろうなと確信するレイ。まぁそもそもの前提として、この状況が理解出来ていない彼女に分かることなど一つもないのだが。
「ええい、ままよ!」
覚悟を決めたレイは続いてスキルとSPを確認する。そこにはこのように記載されていた。
SP【自己犠牲】
信仰とは『尊キ者』にすべてを捧げ、失うことを厭わないその姿勢にある。
効果①:自身に発生する起動効果を召喚獣に付与
SP【敬虔ナル信徒】
彼にとって正義か悪かはどうでもいい。信じる、ただそれだけだ。
効果①:すべてのBPを<信仰>に自動割り振りする
効果②:<信仰>のステータス2倍
「は、はは……」
レイの口から乾いた笑いが漏れる。予定通りのプランは崩れ、【死霊術師】になる道は完全に途絶えたようだった。
このまま戦おうにもステータスが信仰にしか振れない以上、どうやって戦えばいいかすら分からないうえ、頼みの綱の召喚獣も戦えそうにない。彼女の頭には本格的に『詰み』という言葉が脳裏をよぎっていた。
「これからどうしよう」
一週間前の楽しみにしていた心はどこにいったのか、暗澹たる思いで落ち込むレイ。傍にいる陽気な調子のじゃしんがすごく鼻についた。
「ビジュアルはいいから、配信なら人気でそうなんだけど――あれ?」
そこまで考えたレイは何か大切なことを忘れているような感覚に陥る。
「配信……あっ、配信しっぱなしだ!」
そこでようやく一週間ぶりに配信という存在を思い出す。慌てて配信メニューを開いて――その目を疑った。
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配信タイトル:初配信(10枠目)
配信時間:54:28:22
視聴者数:11304
コメント数:20335
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「ひゅっ」
あまりの出来事に喉から空気の抜けるような音がする。あまりにも膨大な数の暴力はレイの思考をフリーズさせるには十分だった。
・わこ!
・やっと気づいたw
・レイちゃんみってる~?
・召喚獣見せて!
とんでもない速度で流れるコメント欄にレイはどうしていいか分からずあたふたとする。そのそばに寄ってきたじゃしんは、撮影用ドローンを見つけて目を輝かせた。
「ぎゃう!」
・かわいい
・かわいい
・かわいい
・レイちゃんの方がかわいいけどな!
・わかる
・わかる
撮影ドローンにじゃしんの笑顔がドアップで映り、コメント欄をさらに加速させる。何故か可愛いと言われていることにむず痒くなるレイだったが、なんとか平静を取り戻しつつあった。
「なんでこんな見てるの……?1万って……あ、これ累計なんだ。それにしてもだけど……。何もしてないのにこんなに集まるなんてみんな暇なのかな?」
・辛辣で草
・初日からずっと見てる人もいるんですよ!
・レイちゃんの配信めっちゃ面白かったから自信もって!
・はぁはぁ、もっと罵って(*´Д`)
「あ、いや、そういう意味じゃなくてっ!あ、ありがとうございます」
若干変な人が混ざっている雰囲気があったが、おおむね配信は好評だったらしい。そのことにレイはほっと胸を撫で下ろした。
「本当だ、初日から見てくれている人がいる。え~と、かにさん、ましゅまろさん、黒兎さん、雷雷さん、スラ民さんほったらかしにして申し訳ないです。――あれ、もしかしてスラ民さんって配信者の?」
・そうですよ~。なんでスライムにしなかったんですか~?
・スライム狂だ!レイちゃん逃げて!
・気にしなくていいよ!こっちも楽しかったから!
・そうそう。これで古参名乗れるってもんよ
「わ、動画見てます!スライムの件はその、すいません。えっと、他の皆さんも見てくれてありがとうございます!楽しんでもらえたならよかったです」
・かわいい
・かわいい
・かわいい
・かわいい
えへへ、と照れたように笑うレイに視聴者の心が一つになる。それからは怒涛の質問コメントの前に酷く狼狽しながらも答えていった。
しかしその勢いは止まる様子がなく、無限に続いてしまう可能性を案じてレイは慌てて遮る。
「あの!一回休憩したいので配信切ろうかと思います!また1時間後に立て直す予定なのでその時に色々話そうかと!」
・りょ!
・ほーい、また後で!
・待ってる!
震える手でレイは何とか配信を終える。じゃしんが召喚された時よりも理解困難な状況だった。
「なんかわかんないけどバズった……」
「ぎゃう?」
夢のような出来事に茫然としていると、おれのおかげやろ?と言わんばかりのどや顔でじゃしんがこちらを見つめている。
「あながち間違いじゃないかも……」
適当に吐き出した言葉から、まともに考えることが出来ていないのをレイは強く感じる。この浮ついた心を落ち着けるために、一度ログアウトしてリセットしようと思うのだった。
[TOPIC]
WORD【撮影ドローン】
配信者モードにした際に現れるピンク色の球体。その球体を通して視聴者に映像を届けることが出来る。また注視することでコメントを見ることも可能であり、これは配信者以外でも確認可能。
設定はウィンドウから『配信者設定』を開くことで可能となり、視界に移す移さないの設定もそちらで行える。




