1-1 現状把握は大事です
「ぎゃう!」
「夢じゃなかったかぁ……」
最悪の召喚劇から一晩明けた次の日、レイは再び『ToY』にログインしていた。ただ考えていたプランが水の泡となっているため、モチベーションはかなり低下していているようにもみえる。
今回ログインした理由は、もしかしたら全て夢だった可能性にかけ、一応確認しておこうと思ったからだったが……目の前にいるのは無情にもマスコットのようなモンスターだけだった。
データを削除して最初からやり直せばもう一度挑戦できないこともないのだが、正直彼女自身、あんな苦行をするのは二度とごめんである。
加えて召喚獣が出現した条件自体が不明なため、もう一回やっても同じ結果になる可能性が大いに存在し、それが分からない以上、無暗にやるのは得策ではないとも感じていた。
「とりあえず、この子の性能次第かな……」
「ぎゃう?」
ちらりとじゃしんのほうを見るとふよふよと宙に浮きながら首を傾げている。
その姿は完全に愛玩動物であり、見る人が見れば悶絶するほどの可愛さだったが、絶賛厨二病を発症しているレイの琴線には1mmも響かなかった。
「ここまで来たらせめて強くあってよ……」
たとえ想定外でもレア度はユニークだ、それゆえ最低限の強さは保証されているとレイは考えていた。
それに加え不死種☆5の魂も使っている上に、じゃしんなんてたいそうな名前がついている。もしかしたら能力で【ゾンビ】や【スケルトン】が召喚できる可能性も0ではない、むしろそうであってくれと願っていた。
細い線だということは十分に理解している、だがわずかな希望に縋りながらレイはじゃしんのステータスを開く。
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NAME じゃしん
TRIBE 【神種Lv.1】
HP 666/666
MP 666/666
腕力 666
耐久 666
敏捷 666
知性 666
技量 666
信仰 666
SKILL 【じゃしん結界】
SP 【別世界ノ住人】
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「ん?ぱっと見は強そう……?」
種族が不死種じゃなかったのは残念ではあったが、ステータスも高水準でSPスキルも持っていた。流石ユニークだと少し感心したレイは続いてSKILLとSPの確認をしていく。
SKILL【じゃしん結界】
この世界は『尊キ御方』の遊び場である。そこに囚われた者は『尊キ御方』に尽くすしか未来はない
効果①:周囲に『箱庭』を創造する
「う、ん?」
とりあえずSKILLの方から確認してみたが、レイにはその効果がいまいちぴんと来なかった。考えるよりも実際見てみたほうが早いかと判断してじゃしんに話しかける。
「これって今発動ってできる?」
「ぎゃう!」
じゃしんは任せろと言わんばかりに右手で胸をドンと叩くと、両手を前に突き出す。なんて言っているか分からないが、呪文のようなことを呟いたかと思うと今度は両手を上に突きあげた。
「ぎゃうー!」
「おお!?」
じゃしんの叫び声とともに世界が塗り替えられる。
親の顔より見た宿屋から景色が一転し、辺りは一面火の海に加え、所々にマグマだまりが見える火山のような場所に変わった。
「おぉ!これはすごい!」
「ぎゃう~?」
『せやろ?』と言いたげにどや顔をしているじゃしん。こんな全体に影響するようなスキルをレイはどんな動画でも未だに見たことがなかった。
「創造っていってたし、どこか別の場所に移動したわけじゃないと思うけど……ってあれ?」
流石ユニークのスキルだなと感心していたレイだったが、どこか違和感を覚える。初めは何か分からなかったが、しばらく歩き回るっていると、とある異変に気付いた。
「熱く、ない……?火とか雪には温度があるって聞いてたけど……?」
レイはある検証動画で炎や氷に触れたとき暑さや冷たさを感じるという情報を目にしたことがあった。また、環境効果といってダメージを与える場合もあるらしいということも。
しかし、このマグマや炎に触れても動画のように熱さは感じないし、なぜかダメージも受けなかった。仕様とは異なる状況にレイは思わず首を傾げる。
「どうしてだろう……?まさかこれって見掛け倒し……?」
じゃしんを見ると『何言ってんだこいつ』と言いたげな顔でレイを見ていた。その顔に少しイラつきを覚える。
「ぎゃう!ぎゃう!」
しばらくすると、スキルの効果が切れたらしく景色は火山から宿屋に戻る。なお、肌に伝わる感覚は変わらなかった。
そのあと検証した結果、次のことが分かった。
①作った空間は見た目だけのものであり、環境効果等は発生しない
②一度結界を張ると中から出ることは出来ず、外からも侵入できない
③2分経過する、もしくはじゃしんが維持を放棄した場合に結界が解除される
「…微妙では?」
検証を終えたレイはぽつりと呟く。敵を閉じ込めることができるという点は評価したが、それ以外の有用性をいまいち見つけることが出来ない。『箱庭』と書いてある通り、いかにも名前だけの見掛け倒しなスキルだなとレイは思った。
「まぁ、攻撃は直接してもらえればいいか。幸いステータスは666もあるし」
スキルが攻撃的じゃないため、このままだとダメージソースは通常攻撃のみとなる。そう考えるとあのステータスもバランスが取れているのかもしれないなとレイは思考する。
「あ、そういえばSPスキルもあったな」
そこでSPスキルの存在をふと思いだして、もう一度じゃしんのステータスを確認する。
「たしか【別世界の住人】だっけ。いったいどんな――」
SP【別世界ノ住人】
『尊キ御方』にとってこの世界のすべては矮小な存在である。争いは同じ程度のものでしか起きないのだ。
効果①:ダメージを受けないが、ダメージを与えられない。
――絶句した。震える手で指をさしながらもう一度しっかりと確認するが、内容は変わらない。彼女の見間違いでなければ、そこには『戦えない』と、そう書いてあった。
「う、嘘だよね…?」
あまりにも信じられない内容にそれ以上の言葉が出ない。まるで悪い夢でも見ているようだった。
このままだと次に【召喚の石板】が入手可能なレベル20まで上げるにしても、自力で頑張らないといけないということになる。その事実を認識してレイは眩暈がした。
「まじか~……」
この時、下がりに下がっていた『ToY』に対するモチベーションは最低値を記録した。
[TOPIC]
WORD【神種】
全能神に認められ、その名を関することを許された魔物達。
彼らにはユニークモンスターしか存在せず、出会えただけでも幸運であると考えるべきだろう




