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第156話 女



 その女は薄暗い汚い場所で男達と話して帰ってる途中、久しぶりに盗賊と遭遇してしまった。


(チッ……面倒ね)


 夜の森を歩いてる時に、自分の周りを囲むように男達が移動しているのがわかる。

 人数は、十二人。


 動きを見る……いや、感じる限り、最近できたような盗賊団ではないだろう。

 どこか違う国や、違う場所から拠点を移してきたのか。


 この森の噂を知っているのであれば、こんなところで盗賊なんてやらないはずだ。


 そんなことを思いながら歩いていたが、行く手に男達が立ち塞がった。

 それと同時に、左右、そして後ろにも男達が姿を現した。


「おいおい、女がこんな夜更けにどこに行こうってんだ」

「俺達が護衛してやろうか?」


 前にいる二人がニヤニヤしながら、持っている剣を肩に担いで言ってくる。


「その代わり、もちろん代金はいただくけどな」

「はっ、てめえの身体で払えってことだ」


 そう言って下品に笑う盗賊の二人。

 周りの盗賊達もニヤニヤしている。


 よし、あの二人は殺す。


 いつも盗賊に襲われた時、何人かは生かして帰す。

 それは情けでも、優しさでもない。


 逃した奴に、噂を広げてもらうためだ。


「あんた達、この森の噂を聞いたことない?」

「あっ? 噂だ?」

「この森に、化け物が出るって」

「化け物? なんのことだ?」


 喋っている男の反応、そしてそれを聞いて首を傾げている周りの盗賊達の反応を見て、噂は薄れてきていると判断した。


「あっ、そういえば親分、なんか聞いたことありますよ」

「あっ? なんだと?」


 一人の男が、ずっと喋っていた奴を「親分」と呼んでから話す。


「この森には、化け狐がいるって」

「化け狐? なんだそりゃ?」

「なんでも、人を化かす狐……みたいな?」


 どうやら少し噂は残っているようだが、ちょっと改変されてるらしい。


 化け狐という、少し可愛い噂になっているみたいだ。

 確かに自分の頭には狐の耳が生えているが、もちろん化け狐ではない。

 正真正銘、普通の獣人である。


 ここ数年盗賊がこの森に来ていなかったから、その噂を流す奴がいなくなったからか。

 もっと流してくれないと、この森にいろんな者が入ってきてしまう。


「まっ、いい機会ね」

「あっ? 女、今なんて言った?」


 盗賊が今回来たのは、いい機会だった。

 また噂を広げてもらう奴を、作るためには。


「とりあえず、あんた達の護衛を断るって言ったら……どうなるの?」

「そりゃ……無理やり言うこと聞かせるしか、ねえよな」


 わかっていたことだが、やはり襲うことは確定しているようだ。

 女としてもありがたい。


 そうでなければ、正当防衛にならないだろう。


「じゃあ、今世の別れを言ってもいいわよ」

「はっ? てめぇ、何言って――」


 親分と呼ばれた男がそう言っていたが……次の瞬間、もう喋れなくなってしまった。

 喋る口、喋るために必要な脳、喋るために必要な命が、失われたから。


 女が数メートルは離れていたのに、一瞬にして近づき拳で頭部を破壊した。


「それがあんたの最期の言葉ね。数分後まで覚えておくわ」


 盗賊の男達は何が起こったのか、一瞬理解できなかった。

 しかし頭が理解できないまま、戦闘状態に入った。


 他の街では名を轟かせていた盗賊団なので、緊急事態への対応は早い。

 だが盗賊団をやってきた中で、最大の緊急事態である。


 全く見えない、わからないうちに親分が殺されたのだ。


 そして……その盗賊団は、一瞬にして壊滅した。

 女が噂を広げるために二人ほど残して、それ以外は殺した。


「女の尊厳と人の尊厳を、あんた達は汚して、犯してきた――ほとんど痛みもなく殺されるだけ、ありがたいと思うのね」


 息もない盗賊団の奴らを見下ろしながら、女は吐き捨てるように言う。


 腰を抜かして倒れている盗賊の二人は、女が睨むと怯えるようにしてその場から慌てて去っていった。


 面倒ごとを終え、女は帰ろうとする……が、その前に。


「そこにいるのはわかっているわ。降りて来なさい」


 ずっとこちらを見ていた人物に、話しかけた。

 戦いが始まる時に、木の上の辺りから見られているのを感じた。


 気配も隠そうとしていなかったし、敵意も全く感じない。

 どういう人物なのか、直接見ないとわからない。


 そして……その人物が、空中から降りて女の前に出てきた。

 裸で。


 さすがに裸には驚いたが、それ以上に驚くこともあった。


(……強さが、見えない。どれだけ強いか、わからない)


 獣人であってとても強い女は、相手の強さをだいたい測ることが出来る。

 しかしいま目の目に出てきた裸の男を見ても、全然わからなかった。


 一目で強さがわからないのは、ほとんど経験がないことだ。


 真っ直ぐとこちらを見る目は、この暗闇でもわかるほど真っ赤な瞳。

 瞳と同じか、それ以上に赤い髪の毛。

 もう長いこと見ていない、太陽を思わせるかのような瞳と髪である。


 身長は女よりも少し低い、一七〇くらい。

 体型は普通で、筋肉がある感じではない。

 つまり戦う術は、おそらく魔法だろう。


「なんであんた、裸なのよ」

「えっ? あっ……!」


 女がそう言うと、男は今気づいたかのように慌てて身体を隠した。


 その後もすごい言い訳をするが、嘘をついてる風には見えない。

 どうやらその素直な反応を見るに、意図していたわけではないようだ。


 裸の男は服以外にも何も持っていない。

 盗賊に身包みでも剥がされたのか。


(ああ、もしかしてこいつらに剥がされたの? だけど、空中に浮かぶことが出来るぐらい魔法が得意なのよね……)


 それが出来るのであれば、普通ならば逃げることは簡単だろう。


 寝ている間に奪われたのか? 

 素直な反応を見ている限り、騙されそうな雰囲気だ。

 もしかしたらありえるかもしれない。


 強いのか弱いのか、よくわからない男である。



 

新作を投稿しました!

「女が強い世界で、男の俺が世界最強の天聖なのはおかしい」

という作品です。

今回の作品は10万文字まで書いて公募に出す予定なので、途中でやめることはないのでご安心してお読みいただけると思います笑

下記のURLから飛べますので、ぜひお読みください!

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