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竜と居合と中身のおっさん  作者: たぷから
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第2章 1-3 カプラ

 「そうでしょう! やはり記憶を失っても、テツルギン人の感性は失わないのですね」


 厩舎の職員が、嬉しそうに云った。

 「テツルギン人」


 「あっちのドラゴンは、他国の特産です。研究と、予備のために飼ってます」

 「研究」


 桜葉が、奥のドラゴンを見やった。やはり羽毛に覆われたドラゴンで、翼竜というより巨大な爪のある鳥類の翼(に、見えるもの)をもっていた。ただ、色味が地味で、片方は濃い緑一色にところどころ黒の縁取りのある細身のドラゴンで、もう片方は真っ黒に灰色の模様が混じったずんぐりとした体形をしていた。全部で十二頭のドラゴンが、整然と並んで干し草を食んでいる。


 「敵のドラゴンの特性を知るのも、重要な戦術です」


 クロタルの言葉に、なるほど、と桜葉がうなずいた。ガズンドラゴンは、この国の特産だというのを思い出す。あっちの地味なドラゴンが、帝国のノーマル種なのだろう。


 「火とか吐くんですか」


 桜葉、ふと自分にとっては当たり前の質問をしたつもりだったが、厩舎の職員の顔がまた驚愕に固まった。それだけで、この世界のドラゴンは火など吐かないことがようく分かった。


 「なんでもありません」

 「どうして、ドラゴンが火を吐くって思ったんですか?」

 厩舎の職員の追い打ち。心の中で舌を打つ。

 「思いこみでした」


 また職員がクロタルを見て、クロタルがちょっとショックを受けた顔でまた首を横に振った。


 「火は吐きませんが、カプラは吐きますよ」

 「カプラ」


 固有名詞が出てきた。脳チップ? が自動変換しないところを見ると、知らない概念のものなのだろう。


 (まあいいや……そのうち分かるだろ……)

 桜葉も、これ以上墓穴を掘る前に質問を止めた。


 職員が、桜葉を担当のドラゴンのところへ案内する。クロタルがその後ろを歩いた。桜葉を、不安とそれをどうにか打ち消そうとする複雑な表情で見つめる。


 「ガズンドラゴンは、見た目の美しさとは裏腹に少々気が荒く、扱いづらいですが、乗り手を認めるとそれは忠実ですよ。帝都の帝立中央ドラゴン研究所でも飼育と繁殖を試みていますが、うまくいってないようです。世界でここだけ……テツルギンだけで飼育と繁殖に成功しています。侯国の、貴重な輸出品種です」


 「へえ……」

 と、いうことは、国内でここ以外にもドラゴン牧場があるのか。


 桜葉は改めて大きな厩舎全体を見渡した。三頭ずつ向かい合って並んでいる六頭のガズンドラゴンの内、三頭はランツーマ達が乗るのだろう。残る三頭からどれかを選ぶのかと思ったが、


 「こちらが、イェフカさんのドラゴンです」

 既に決められていた。


 そのガズンドラゴン、干し草と刈りたての緑の草へ何かしらの穀物を混ぜたものをモッシャモッシヤと食べていたが、装甲版ごしに三白眼でチラッと桜葉を見て、フン! と鼻を鳴らして食べ続けた。


 「ハハハ、姿が変わったので、分からないかな?」


 職員が能天気に云う。桜葉は直感した。スティーラは生前、このドラゴンと会ったことがあるのだろう。動物的感覚で、別人だと分かっているかもしれない。


 (厄介だぞ)

 苦虫をかむ。


 チラッと振り返ってクロタルを見たが、また、猜疑と不安にまみれた目で桜葉を……イェフカを見つめていたのですぐにドラゴンへ視線を戻した。


 (もしスティーラが既に騎乗訓練を受けていたら……)

 しかし、もうどうしようもない。乗り方を忘れたと開き直るのみだ。


 (失うものが無いって、強いな)

 我ながら、そう思った。

 「どうやって乗るんですか?」


 物怖じもせずに聞く。厩舎職員の顔が、ついに驚愕から憐憫に変わった。先日のクロタルと同じように。


 (そこまで……)

 という顔だ。そして、

 (また最初から教えるのか……)

 という諦めも交じっていた。

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