地の四天王との接触
「もうちょっと、そろそろね」
ヨミルがようやく詠唱を開始した。
「黒き神よ、我が魂を導く道となり大地に降り注げ。降臨せよ――召喚魔獣、オシリスっ!」
実体のない黒い竜のような胴体が、ダンジョンの通路を包み込む。
「なんだ……?」
「……??」
魔力じゃない何かが全身に伝わってきた大杉とナギは、言葉を失う。
「解き放て、ブレスっ」
ヨミルが指示を送ると、黒い霧がコウモリのモンスターに当たり、一瞬にして砂のように溶けてしまった。
後ろにいたコウモリのモンスターも同様にだ。
何もなすすべなく、ただ雑魚モンスターが滅んでいく。
そして、ヨミルが使った魔法を発動を終えたのか、竜のような薄っすらした胴体は跡形もなく消えていた。
「ふぅ、この程度の相手では手ごたえないわね」
「ヨミル、いま使ったのは上位クラスの魔法なのか?」
「召喚系の類ね。上位クラスに匹敵する魔法で合ってますよ」
「うぅ……ヨミルさん、凄いです……」
怯えっぱなしではいけないと思い込んだナギは、光魔法で再び地図を作り出す。
今はただ、とにかく前に前へと進まないといけない。
「こっちが、二十八階層への階段か」
「そ、そうですね……」
「またモンスターかしら。私の出番ね」
――という三人のやりくりを、何度も繰り返していく。
そうすること約一時間が経過して、大杉たちは三十五階層までやって来た。
階段を降りきってすぐのところに厚めの扉があったので、開いた先に強いモンスターがいること間違いなかった。
ギルドからの事前情報通り、法則性に基づいてボスモンスターが三十五階層にいることを想定していた。
「それじゃあ、開けるぞ」
人の姿になっていた大杉が扉を押すと、目先には大広間があった。
ボスモンスターらしき影は見受けられるが、思ったより大きくない……?
ヨミルとナギは、入り口付近で安全が確認できるまで待機。
ひとまず馬に乗っている姿になって、大杉がひとりで近づいてみることにした。
「なんだこれは」
足を止めた大杉は、その場で見上げる。
三メートルくらいの石像と呼ぶべきなのか。
ひとことで表すのなら髪の長い女性、蛇のような身体。
そして、先端に地球儀をくっつけたような杖を左手に握りしめていた。
『我は地の四天王ラビュリース。汝らは、ここへ何の御用だ?』
「俺はヘルライダー大杉だ。……そうだな、交渉がしたい」
『交渉……?』
「そうだ、交渉だ。危害を加えないというのなら、魔王がこの部屋に入ってもらう」
『承知した』
警戒心が少しあるラビュリースは、ヨミルとナギの存在には気づいている様子だった。
「はじめまして。私は魔王ヨミル・クレネーラです」
ヨミルはナギと手を繋ぎながら、大杉が立っているすぐ近くの位置まで歩いた。
『ほう、魔王か。魔王は四天王に何を求める?』
「求めるって言われてもね、私が聞きたいことはひとつかしらね」
『ひとつか、答えよ』
「単刀直入に言うわ。私の魔王城は何故、ラストダンジョンと呼ばれているのかしら?」
『それを聞いてどうする? 魔王なら野望の誓いとか、世界征服とか、もっとそういう方法を求めてくるのかと思ったのだが?』
「魔王なら、ね……くすくす、そういうことか」
ヨミルは不気味な微笑みをみせた。
「貴方、もしかして魔族召喚の儀によって呼び出された個体なのね」
『な、なぜ……そう思ったのだ?』
「魔道具開放、真実の芽よ」
ヨミルの足元には、ニョキニョキっと小さな植物の芽がいくつも生えていた。
「この噓発見器は消耗品の魔道具だから、ここで使うのは勿体ないものだけどね。私が望む答えに辿り着くためには何だってやるつもりよ」
『我の嘘を見抜けたところで、何も得ないはずだ……!』
ラビュリースは手に持っていた杖を、ヨミルに目掛けて振り下ろしてきた。
「戦うのね、良いでしょう」
ヨミルは戦闘に応じる気だ。
「我が手に現れろ、聖魔剣レーヴァムンク!」
抜刀のようなしぐさをした後、ヨミルはラビュリースの頭部に目掛けてジャンプしていた。
両手に大きな赤黒い剣を握りしめて。
『ぐがあああああ!』
「あれっ、一撃で終わるのかしら」
ヨミルが両足を地面につけたと思った時には、ラビュリースの杖と頭部がボロボロと砕けそうになっていた。
完全に崩れ去るのは、時間の問題か?
「ではもう一撃ね」
『や、やだあああああっ!』
「魔王に滅ぼされる四天王というのも、悪くないかもね?」
今度は下からの振り上げで。
バラバラ、バラっ……と。
容赦ないヨミルによる攻撃で、ラビュリースは跡形もなく砂のように消え去った。
「終わり、ましたか……?」
「ナギちゃんは、気が早いわね」
「そう……ですか……」
「ナギ、地下三十六階層に続く道がある以上、さっきの四天王が偽物という説が考えられるが……」
「ヘルライダー大杉君、それはなさそうですね」
「ヨミル、そうなのか?」
「……??」
ナギと大杉は首をかしげる。
ヨミルだけが違う態度を見せていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
面白いと思いましたら、感想やブックマークをよろしくお願いします。




