キャンプ場で出発の準備をする
温泉から上がると、ベルナルドに再び案内される。
今度は、それなりの人数のギルドの冒険者が集まっているキャンプ地にやってきた。
たくさんのテントが既に立てられており、野宿するのには十分といえる環境ではあった。
「まだ日も暮れてないのに、用意が早いですね……」
「ギルドマスターのオレを合わせて三十名ほどがここにいる。後から合流することになっている他のギルドの者も合わせると、軽く五十は超えてくるだろうから、混乱を避ける為に環境を整えるのは割と重要だったりするぞ」
「五十か……それだけの人数を統括する為には、キャンプ地の充実は必要ってことか……?」
「人数が集まれば昼夜問わず探索を行えるからな、探索効率も上げられる」
「一日中ダンジョンの探索は、大変なような……」
ふと俺が思い出したのは、二十四時間営業のコンビニのことだった。
コンビニは店員こそ時間制で交代しているが、コンビニそのものは二十四時間常に開いている。
夜の探索も似たようなものかもしれないと考えると、理解が進みそうだった。
「夜の探索は希望者だけになるが、やりたいと言うのならその冒険者パーティーのサポートはできる限りやるぞ!」
「そうなんですね」
「当たり前だ」
自信満々に喋るベルナルドは、何かが視界に入ったみたいですぐに右手を上げる。
「誰か来たのか?」
「お前さんのお連れだよ」
「ヨミルとナギか」
俺は頭を動かして、ヨミルとナギがこちらに向かって歩いてきてるのを確かめた。
ヨミルは特に変わらず。
ナギは着ている服装がデザインこそ変わらないものの、血のにじみなどかすっかりと消えていた。
新しいものに着替えたのだろう。
「ヘルライダー大杉君、待たせちゃったか」
「別に何も問題ないよ。情報収集とやらで暇つぶしになったし」
「それなら良かった。私も丁度リラックス出来たし」
背筋を伸ばしたヨミルは、大空を少し眺める。
「ヨミル、この後はどうするんだ?」
「まだ日が暮れなさそうだから、ダンジョンに向かおうと思うの。ギルドマスターさん、私たちに非常食を少し分けてもらえるかしら?」
「どうせナギが魔王について行くから構わんけど、何でまた非常食なんかを……」
「食事の時間を縮めるためか?」
「ヘルライダー大杉君、流石だねっ!」
「それくらいで褒められてもなぁ……おねだり?」
ヨミルは、ベルナルドに対して両手を差し出していた。
「ほんと、魔王なのか……?
「私は可愛い魔王ですよ!」
「可愛いのは分かった。いまからきのみスティックを持ってくるから、ちょっと待っておけ」
「お父さま、給水ボトルもお願いします……」
「それも必要か、分かった」
何度か頷いたベルナルドは、俺たちから離れていく。
「ヨミル、きのみスティックって何だ?」
「粉状にしたきのみを使った、ほんのり甘くて美味しいお菓子のことよ」
「無臭なので、非常食として持っておいて便利です……」
「ヨミル、ナギ、ありがとう」
お礼を伝えた俺は、ベルナルドの動きを目で追う。
ベルナルドはキャンプ地にある簡易キッチンの傍で他の冒険者と喋った後、小さな袋を右手に取った。
それから、近くにあるボトルを左手で一本取ってから戻ってきた。
「ほい、このポーチの中にスティック二十本収納してあるから」
小さな袋は俺に渡してきた。
このポーチの表面には、見知らぬ形の文字でマジックポーチという記載があった。
マジックポーチは魔法の力でコンパクトにたくさん収納できそうな見た目をしていた。
線と円が繋がっている文字の並び。
「この文字……よく見たら見覚えがあるような……?」
これは、俺の頭の片隅にあった『カタカムナ言語』というものとそっくりだった。
ただ俺自身は、カタカムナ言語を資料なしでは読むことが出来ない。
雑魚モンスターのヘルライダーになっているからこそ、何の躊躇もなくこの世界にある文字を読むことが出来ているだけだった。
「ベルナルドさん、二十個も大丈夫なんですか?」
「二十個なんて大したことない。オレのギルドは大規模だからな、ここにはもっとたくさんあるぞ!」
「まぁ、支部があったくらいだし……非常食の数はあるか……」
雑魚モンスターの俺が荷物持ちになるのは当然として、ナギは両手でボトルを持っていた。
「ナギ、これから移動すると思うから俺が持とうか」
「これはボクのポーチに収納します……」
「それなら良いか」
「それじゃあ、復活したであろう四天王が作ったダンジョンに向かいましょう」
俺が馬に乗った姿に豹変すると、ベルナルドはやや困った顔つきになる。
「ヘルライダー大杉君に、飛び込むねっ!」
「ボクも失礼します……」
ヨミルとナギが俺に乗り、準備万端になる。
「改めてみると、ヘルライダーって三人乗り出来たんだなって」
「俺は雑魚モンスターですから、この状態では戦えませんよ」
「まぁ、何かのアイデアにして活かすつもりでいるよ。ナギ、いってらっしゃい」
「お父さま……ボク、行ってきますね……」
ナギの語尾が途切れたら、俺はゆったりと歩き始めた。
ナギの光魔法で、目的地となるダンジョンへの道しるべが空中に浮かび上がる。
「さぁ、ヘルライダー大杉君。ひとつめの四天王がいるダンジョンへ向かいましょう!」
ヨミルの声が周囲に響き渡ると、俺は全速力で走り出した。
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