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ラストダンジョンに登場する雑魚モンスター『ヘルライダー』になっていた。魔王のお手伝いをすることになった  作者: 愛原ひかな


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ナギのお父さま


 緑溢れる山をひとつ超えた先にある麓には、廃墟の村がひとつあった。


 殆どの家は泥棒が入った跡があり、割れた食器類が散乱していた。

 あまりここも長居したくないようにも思えてきた。

 ここで生活していたという雰囲気が一切感じられない上に、村全体の静けさも相まってか、とても不気味だった。


 だが、花火を打ち上げたであろう火薬の匂いも僅かながら漂っていた。


「ギルドの人、どこかにいたりするか?」


 直感で言葉を発していた俺は、トコトコと音を立てて歩いていく。

 ギルドの者が近くにいるのは間違いのたが、まだ誰ひとりと遭遇する気配がない。


「ヘルライダー大杉君、止まってもらって良いかな」

「ヨミル?」

「目の前の十字路を超えた右側から、人の集まりがあるわね」

「えっと、お父さまがいます……」


「ギルドマスターがいるのか。分かった、ここで降りてもらうか」


 馬の姿での移動は、ひとまずここまでみたいだ。俺は、ヨミルとナギを降ろすと人型の姿になって、静かに息を吐く。


 違和感があったのは俺の足だ。見た目こそ何ともないのだが、両膝が膨れあがっているような感覚があった。


「大杉さん、動けます……?」

「まぁ、俺は大丈夫だ」

「でも足が、動きにくそうですけど……」


 ナギの言われた通り、俺の足は思ったより動かなくなっていた。

 疲弊していたのである。

 雑魚モンスターとしての限界が見えた瞬間であった。


「大杉さんを、癒します……」


 杖を構えたナギは、詠唱せずに回復魔法を発動した。

 杖の先端から出現した小さな緑のシャボン玉のような物体が、俺の両足にそっと触れると、急に両足が軽くなったように感じた。


 これがナギの回復魔法。

 疲弊が嘘のように消えている。


「ナギ、ありがとう」


「大杉さんに、感謝される程でも……。ボクをここまで……運んでくれたお礼ですから……」


 どこか素直に慣れない反応をみせるナギは、持っている杖を両手で強く握りしめている。

 どっちかというと、俺が警戒されているのかもしれない。


 それか、周囲の目が気になって仕方ないとか。

 勇者パーティーの一員が魔王のお供を癒したなんて事実が世に広まると、どんなが手のひら返しがあるか分からない。


 首を左右に動かして、視線を気にしているあたり……ナギはそのあたりの心配をしてそうだった。


「ナギちゃんは、なにも心配しなくても良いのでは?」

「いけませんよ……。これでも、ボクは勇者パーティーの一員ですから、魔王とは敵対関係であって……」


 ナギが言葉を悩んでいると、ナギの背後に体格の大きな人が急に現れた。

 赤い短髪に、グレーの薄いシャツと紺の短パン。腕を組みながらナギを見つめる姿はどう見ても父親のようにしかみえない。


「ナギ、後ろを向いたらどうだ?」

「大杉さん、ボクの後ろ……ですか……?」


 ナギが振り向くと、静かに息を呑む。


「その志は素晴らしいと思うけどな、お礼の言葉くらいはキッチリ受け取っておけ。それがたとえギルドの敵対組織であってもだ」


「お父さま……?」


 ナギはキョトンとしていた。

 ギルドマスターとみられる男が気配を隠して近づき、急に目の前に現れたからである。


「あの……ボクは……」

「新しい迷宮の探索を一度終えて、ラフな格好をしたまま外で過ごしているのは久しぶりだからな。ナギが見慣れていないのも無理はないかと思うがな」


「そうじゃなくて……その……」


 ナギが報告したいことがあるのは確かなのだが、勇気が全然足りていないのか、口元が止まっていた。

 それをみた男は、ナギの頭をそっと撫でた。


「ナギの口から離す必要はないから、ひとまず夕食のメニューでも妄想しておけ」

「う、うん……お父さま……」


「それはさておき、ナギをここまで連れてきた貴様たちは、何者なんだ?」


 男はヨミルと顔を合わせる。


「本当は、私の体から出てる微量の魔力でもう察しているでしょ」


「オレは、ギルド『片翼の満月』のギルドマスターである、ベルナルド・クエリスだ。この度はナギのことでお世話になった」

「いえいえ。私はヨミル・クレネーラと言います。二百五十四年ほど眠りについていた、ごく普通の魔王ですね」

「ふぅん……」

「むっ……!」


 ベルナルドとヨミルが睨み合い、激しい視線をちらつかせる。


「あの、お父さまと……ヨミルさん……。魔力をぶつけあわないでください……」


 ナギは二人の心配をする。



 俺も何かヨミルに対して声を掛けようとしたが、危機感すら感じないのはどうしてだろう。


 やっぱり、魔力という存在がまだつかめていない。

 そういえば、俺は魔力というものを、形として味わったことがない気がしてきた。


 俺自身が、魔王の力を使っているはずのヨミルに恐怖心を抱かないのは、魔力を一切感じていないからなのかもしれない。


「まぁ、俺たちがここへ来たのは、四天王について調べる為ですから。ギルドと戦うためではありません」


「ヘルライダー大杉君の言うとおりね。ギルドマスターと戦えないのは残念だけど、この場を荒らすつもりはないからね」


 ヨミルは肩の力を抜くと、ナギの左腕を掴んでいた。


「ひとまず休める場が欲しいかも。どこかないかなー?」


「ここを左へ進んで暫く直進すると、水浴びできる場を設けている。ナギをそこで休ませてやれ」

「わかったわ。魔王が責任をもって、ナギちゃんを連れて行ってあげるね」


「ええっと……ヨミルさん……!」


 ヨミルはナギを連れて、十字路を左方向に進んでいった。

 雑魚モンスターである俺を、この場に置いてけぼりにして。


「魔王が連れてるそっちはモンスターだったか? 妙な魂を感じるが……魔族召喚の儀でも使ったか」

「俺は、ヘルライダー大杉です。たしかに俺は、魔族召喚の儀でこっちへ連れてこられた身ではあるけど」


「異界の魂か。このまま二人で棒立ちしていても何もないから、オレと水浴びといこうか」


「水浴びですか……。俺は雑魚モンスターですけど」

「お前も、ナギを親切にしてやったのは本当なんだろう。それなら立場なんて関係ないから、しっかりついてこい」

「あっ、はい……。ギルドマスターについていく、か……」


 ベルナルドに道案内されることになった俺は、十字路を真っ直ぐに突き進む。

 歩けば歩くほど、湯気が立ち込めてきた。


「ほら、着いたぞ」

「ここって……」


 俺は足を止める。

 目の前にあったのは、コンパクト感あふれる野外の温泉浴場だった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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