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プロローグ第三章 「私人としての死、公人としての復活」

 そんな私の戦功は、プロパガンダとして大いに活用されていたんだ。

 取り寄せた広報誌のバックナンバーには、このような記事が載せられていたの。


「21世紀の木口小平、吹田千里准佐の再起を願って…」

 度重なる無差別テロ行為により長らく日本国内を震撼させた終末思想系カルト教団「黙示協議会アポカリプス」に対して、警察・自衛隊・人類防衛機構の三組織は掃討作戦を元化22年8月15日に決行した。

 三組織の連携による教団本部への攻撃は多大な戦果を挙げ、武装教団員や生物兵器の審判獣を掃討出来たのは勿論、指導者であるヘブンズ・ゲイト最高議長を始めとする教団幹部全員の死亡も確認出来た。

 これにより黙示協議会アポカリプスは事実上壊滅し、人類防衛機構極東支部長の向山敏子元帥による安全宣言が発出された事は記憶に新しい。

 しかし教団本部における攻防戦は熾烈を極め、作戦に参加した特命遊撃士や特命機動隊にも少なからぬ負傷者が出てしまった事もまた事実である。

 そうした負傷者の大半は自力で帰投出来る程度の軽傷ではあったものの、それの叶わなかった人員も遺憾ながら一人存在する。

 人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第二支局所属の特命遊撃士である吹田千里大尉が、その唯一の例外だった。

 掃討作戦終了時の点呼で安否が確認出来なかった事から、大尉の所属する堺県第二支局は直ちに捜索と救助を開始。

 大尉の装備品である軍用スマホと多機能ヘルメットのGPS反応を追跡した救助隊は、驚くべき光景を目の当たりにした。

 徹底的に破壊された瓦礫の山の裾野からは吹田千里大尉の個人兵装であるレーザーライフルの銃口が突き出ており、その射線の先には高出力のレーザー光線により焼死したアポカリプス幹部構成員である自称「ドゥームズデイ博士」こと尾張末雄容疑者の死体が転がっていた。

 多数の武装教団員や教団幹部を精密狙撃により射殺されて危機感を募らせたアポカリプスの教団員が試作段階にあった大量破壊兵器である高性能衝撃集中爆弾で狙撃ポイントごと吹田千里大尉を爆殺しようと企てた事、並びに爆発に巻き込まれた吹田千里大尉が重傷を負いながらも教団幹部の射殺を優先した事。

 これらの仮説を総合的に考慮し、救助隊は危険物質の残留が見られない事を確認した後に救助作業を開始した。

 そうして慎重な瓦礫の撤去作業の末に救出された吹田千里大尉の状態は、凄惨極まりない物であった。

 至近距離で巻き込まれた爆発のエネルギーと高熱、そして有効な防御体勢を取れないまま受けざるを得なかった墜落の衝撃と大量の瓦礫による圧潰。

 これらの累積によるダメージは極めて深刻で、強化繊維製の遊撃服や多機能ヘルメットの防御力、そして強化薬物や生体強化ナノマシンにより改造された身体の耐久力や再生力をもってしても完全に防ぎ切るまでには至らなかった。

 重度の火傷に粉砕骨折に貫通傷といった多発性外傷は全身に及び、超重量の瓦礫による下半身の圧壊に重要な臓器の破裂という惨憺(さんたん)たる有り様だった。

 そして左眼球も含んだ顔面左半分の著しい損傷や頭蓋骨骨折など、頭部の負傷は極めて深刻であった。

 そんな吹田千里大尉本人の惨状とは対照的に彼女の個人兵装であるレーザーライフルには殆ど損傷がなく、直前に発砲された形跡も確認された。

 恐らく吹田千里大尉は我が身を挺して愛銃を庇い、自身の救助要請や脱出よりも教団幹部抹殺の任務を優先したに違いない。

 そして彼女自身も狙撃の成果と自軍の勝利を確信したのか、辛うじて往時の面影が残る顔の右半分には満足そうな微笑が浮かんでいた。

 それはさながら日清戦争の苛烈な戦場で最期までラッパを離さなかった木口小平二等兵の如き、義烈なる忠勇振りであった。

 この忠勇なる若き少女士官には人類防衛機構の誇る最先端の再生医療が施され、その功績を称えるべく准佐への二階級特進の措置が行われた。

 彼女が再び愛銃を手に戦列へ復帰出来る日が一日も早く訪れる事を、我々も願ってやまない。

(「さきもり白書」元化22年10月号より)


 要するに黙示協議会アポカリプスは、私の身体を破壊しただけでは飽き足らずに時間までも不可逆的に奪っていったのだ。

 そして彼奴等は、もうこの世にはいない。

 個人的な復讐の炎を燃やすつもりなんて毛頭ないし、そもそも必要すらないんだよね。

 その代わりに私は、行動の指針を二つ定める事にしたんだ。

 そのうち一つは至って単純明快で、英里奈ちゃんを始めとする同期の友達に追いつくべく一日も早く少佐に昇級する事。

 そしてもう一つは、死の淵から蘇った生命を最大限に有効に活用する事。

 何しろ黙示協議会アポカリプスの高性能衝撃集中爆弾の直撃と超重量の瓦礫による圧迫によって、私の身体は徹底的に破壊されたのだからね。

 瓦礫の下敷きになった下半身は骨も筋肉もグシャグシャに押し潰され、子宮や卵巣はおろか肝臓や脾臓みたいな臓器に至るまで破裂していた。

 爆風の直撃を浴びた顔の左半分なんか、皮膚は焼け爛れるわ左目が駄目になるわで酷い有り様だったよ。

 そんな無惨な有り様の私を、人類防衛機構は最先端の再生医療を惜しみなく駆使して傷一つない身体に戻してくれた。

 医療用ナノマシンや強化薬物の投与に、人工器官や培養した生体パーツの移植手術。

 特に超高度戦術弾道計算機能や多波長観測機能を搭載した戦術演算インターフェースとしての生体義眼に小型爆弾やGPSを搭載した親知らず型の義歯を埋め込めるインプラント歯根は、本当にありがたかったね。

 それらの最先端医療を駆使するには、優れた技術と熟練度を誇る医療スタッフの尽力と国民の皆さんの税金によって成り立つ財源が必要不可欠だよ。

 要するに今の私は頭頂部から爪先に至るまでの全ての細胞が公の力で成り立っていて、「個人」や「私人」としては事実上もう死んでいると言っても過言ではないんだ。

 そして私にとっての人類防衛機構は、「一度は死んだ私に第二の生命と身体を与えてくれた、父と母に続く第三の親」とも言える訳だよ。

 この「公の力」によって完璧に再構築された第二の生命を有効活用する為にも、「公の論理」を実践しながら生を全うする。

 それこそが「私人」として一度は死に「公人」として蘇った者に相応しい生き方である。

 そう私は理解したんだ。

 だからこそ私は、人類防衛機構の命令なら喜んで拝命しようと誓ったんだ。

 それが暗殺任務や潜入破壊工作のような過酷な任務であろうともね。

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― 新着の感想 ―
まさかまさかでそんな設定が(;゜Д゜) いやまぁそこまでしなきゃなケガですよね(;゜Д゜) 以前のサイボーグ兵士の話での彼女の心境も、より奥行きが見えますなこれは。
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