第91話 王立学校校長
皆が買い物に出かけたあと、俺は再び執務室に行き扉をノックする。
「義父さん。
今、大丈夫ですか?」
と声をかけると、
「マサヨシか、どうした?」
義父さんの声が聞こえてきた。
中に入り、
「クロエ……。
ダンジョンでフラン・フリーデンのパーティーで魔法使いをしていた女性なんですが……」
「部屋は開いている、好きにすればいい
それにしても、お前はいろいろ拾ってくるな」
全部吹っ飛ばして、婚約者認定したようだ。
「いやいや、そういう話ではなくて……」
あたふたする俺を見て、
「お前の話はそういうのが多いが?」
と義父さんは言った。
「義父さん!」
と、少し語勢を強めて言うと、
「悪い悪い、からかってしまった」
義父さんは俺にイタズラをしたようだ。
「で、そのクロエという女がどうした?」
「オウルの学校に通っていたようなのですが、在籍のままなのかを確認できないかと思いまして……」
「王立の学校へか?
だとしたら才媛なのだろうな。
貴族の子供または貴族の誰かに推薦された者が試験を受けてしか入ることはできない。
内政関係の専門職を育てる学校。
なかなかあの学校には入れない」
「私としては在籍が確認できたら、しっかり卒業をさせて、義父さんの補助をする役になってもらおうかと思っています。
魔法が使えるとも聞いていますから、義父さんの護衛にもなれるでしょう」
「ふむ、確かに今後の事を考えればそれも必要か……。
わかった、王立学校の校長は儂も知っている者。
手紙を書こう。
名はクロエ……」
「クロエ・ポルテと言います」
「わかった。
在籍の確認と卒業の可能性だな」
そう言うと、義父さん用のコタツで手紙を書き、蝋印をする。
「これを、校長であるプリシラ・グスマン伯爵に持って行くといい。
会ってくれなくても次回の約束ぐらいは取り付けられると思うぞ」
そう言って俺に渡した。
プリシラって女性の名前だよな。
まあ、行ってみればわかるか。
サイノスさんに声をかけ、アインに馬具を着けてもらう。
そして俺は馬上の人になりレーダーに表示させた王立学校へ向かった。
「カポカポ」と馬の蹄の音をさせながら王立学校へ向かう。
俺の事も少しは有名になったようで、指差される。
まあ、相変わらずいいイメージではないようだ。
通りを抜けると広い道が現れる。
馬車が二台は軽く通ることができるような道。
両脇には大きな木が並び、そしてその奥には大きな門が見えていた。
国の最高学府?
大学って感じかなぁ?
門にたどり着きアインから降りると数人の門番が近寄ってくる。
代表の一人が、
「何か御用でしょうか?」
と、聞いてきた。
「マサヨシ・マットソンという者だ。
約束をしている訳ではないんだが……、校長にこの手紙を渡してもらえないだろうか」
そう言って手紙を渡した。
門番はマットソン子爵家の蝋印を確認すると指示を出し、
「しばらくお待ちください」
と言った。
待っている間が意外と手持ち無沙汰である。
門の向こうには校舎らしきものが何棟か見え、学生らしき者が教科書を抱き行き来していた。
ん?
見たことある女性。
まあ、魔族と言うとオウルには彼女とその取り巻きぐらいしかいないんだろうな。
勉強の邪魔をしてはいけないので、声をかけずにいたわけなのだが……。
「ブヒヒヒヒーン!」
とアインが嘶いたことで向こうが気付いたようだ。
お前、狙っただろ。
ジロリとアインを睨むと、アインは目を逸らす。
すると、
「マサヨシ様!」
と言ってイングリッドが走ってきた。
ハアハアと息を切らせている。
焦ったお付きも走ってくる。
「おう。
って言っても、今朝も朝食に来てただろ?」
「そうですけど、こんな所で会えるとは思いませんでしたので……。
しかし、どうしてこんなところへ?
マサヨシ様もご入学で?
来年からでしたら、私も卒業を延期しても……」
「何を勘違いしているのやら。
とりあえず、入学って訳じゃないんだ。
それに俺が入学するにしても、卒業を延期する必要もない」
「だって、帰ったら会えないので……」
「我儘だなぁ。
でも帰っても会う方法はあるだろ?
その辺を考えて、指名依頼をしたのかと思ったが……」
はっと、イングリッドは何かに気付いたようだ。
ありゃ、違った?
そういや、扉を作る前だったっけ?
「良かった。
会う方法は有りました。
これで、安心して帰れます」
ニコリと笑うイングリッドが居た。
「で、授業の時間は大丈夫なのか?」
「あっ……。
まあいっか……もう時間も過ぎています」
授業をサボるようだ。
「姫様がサボるのは良くないんじゃないか?」
「いいんです。
今はマサヨシ様を独り占めですから」
そのあとお付きを一人走らせた。
「休む」という報告をさせに行ったのだろう。
「で、お付きの方々はどう思ってるの」
と俺が聞くと、
「たまにはいいのではないでしょうか?
マサヨシ様の横に居るイングリッド殿下はいつも楽しそうです」
と、できた解答をするお付きだったが、そのあと、
「それに、機嫌を損ねてロルフ商会からのお菓子をわけてもらえなくなっても困るので……」
と言ってすっと目を逸らせた。
こっちが本音か……。
お菓子をうまく使っていらっしゃる
そんな話をしている間に、確認に行った門番が人を連れて戻ってくる。
「校長がお会いになるそうです。
付いてきてください」
と、秘書らしき男性が俺に言った。
「馬は?」
「そちらに繋げておいてもらえれば、門番が監視をします」
「わかりました。
それじゃ、行って……って、何で付いてくる?」
「暇ですから。
授業もサボりましたし」
ニッコリと笑うイングリッド。
「校長に会いに行くんだけど……。
サボってるのバレない?」
「私は優等生ですから」
イングリッドは引く気はないようだ。
結局お付きも同伴で校長に会いに行くことになった。
「校長、お連れしました」
と言って秘書らしき男が扉越しに言うと、
「入ってもらって」
という女性の声が聞こえた。
男が扉を開けると、
「「失礼します」」
と言って俺とイングリッドが中に入る。
お付きは付いてこないのね……。
正面にある大きな机には出の良さそうな、金髪の女性が座っていた。
義父さんの知り合いにしては若い?
魔法使いのようなローブを着て、義父さんの手紙を持っている。
銀縁の眼鏡をずらし俺を見ていた。
女性は俺たちを、
「そこへ座って」
と言って、ソファーへ導き、そして三人で座ると、
「あなたがマサヨシさん?」
と聞いてきた。
「はいそうです」
「あなたが、プリシラ・グスマン伯爵ですか?」
「ええ、私がこの学校の校長。
プリシラ・グスマン伯爵です」
俺の右腕に抱き付いているイングリッドを見て、
「それにしても何でイングリッド殿下と?」
不思議そうにしていた。
「まあ、いろいろあって知り合いで……」
「はい、知り合いなんです」
と、ちょと面倒臭そうに返事をする俺と嬉しそうに返事をするイングリッド。
「まあ、いいです。
クラウス様を治療し、私にクラウス様からの手紙を届けてくれたあなたです。
許しましょう」
とプリシラ様は言った。
ん?
俺だから?
手紙を届けてくれたからってどういうこと?
「クラウス様からの手紙などいつ以来でしょう。
あの颯爽とした姿……」
ポーッと天井を見て何かを思い出しながらプリシラ様が言った。
いつもと違う姿なのかイングリッドがびっくりしている。
恋する乙女の目?
俺とイングリッドがじっとプリシラ様を見ていると、プリシラ様はゴホンと咳払いをして、校長の顔に戻る。
「えっと、それでマサヨシさん、クロエ・ポルテさんの件ですね」
「ええ」
と俺が答えると、
「クロエ・ポルテ?
私、知ってます」
とイングリッドが言った。
気になって仕方ないようだ。
「イングリッド、今日はこの学校に通っていたクロエ・ポルテのことを聞きに来たんだ。
事情も話すと思うから、少し待ってもらえないか?」
と俺が言うと、
「わかりました」
と言って静かになる。
「クロエ・ポルテの退学についてはまだ決まっていません。
ただ、現在、後期の授業料を滞納中です。
このまま滞納が続くのであれば。結果退学になってしまいます」
生徒が中途退学するのが忍びないのか、残念そうな顔をするプリシラ様。
「良かった、まだ退学にはなっていないのですね?」
と俺が聞くと、
「はい」
と言ってプリシラ様は頷いた。
ちょっと安心だな。
「しかし、それを知ってどうするつもりなのですか?」
「クロエ・ポルテは義父さんの秘書になってもらうために、この学校を卒業してもらいます。
つまり私が滞納した授業料を払い、ここに再び通わせるつもりです」
「なぜマットソン子爵家がそんなことを?
ポルテ伯爵家との繫がりなど無いでしょう?」
プリシラ様が俺に聞いてくる。
俺はプリシラ様にクロエ・ポルテがフリーデン侯爵へポルテ伯爵家の借金のカタになったこと、不正にダンジョンに入り逃げるまでの時間を稼がされたこと、結果俺の奴隷になったことを説明した。
「まあ、そんなことが……。
それで、奴隷となったクロエ・ポルテさんをクラウス様の秘書にしようと?」
「ええ、義父さんは元気になりました。
今後、内政に軍務に忙しくなる可能性があります。
ですから、その手伝いができる人、つまり秘書になる者が必要かと思っています」
と俺が言うと、
「それは、羨ましい……」
と、ボソリと言う。
思わず出た本音?
「羨ましい?」
「いえ、こっちの話です」
軽く咳払いをしてごまかすプリシラ様。
「こちらとしては、授業料を払い出席するのであれば、成績的には何ら問題の無いクロエ・ポルテさんを在籍させ卒業していただくのは問題ありません」
と言った。
「わかりました。
それでは授業料の納付手続きをお願いします。
金額はいくらでしょうか?」
「白金貨一枚です」
おっと、一億円。
つまり、この世界ではそれだけ勉強をするために壁があるって訳か……。
俺は白金貨一枚をプリシラ様の前に差し出す。
その後プリシラ様がベルを鳴らすと秘書らしき男が部屋に入ってきた。
「マットソン子爵からクロエ・ポルテさんの授業料を納付していただきました。
領収書を」
とプリシラ様が言うと、
「畏まりました」
と言って再び部屋を出ていった。
読んでいただきありがとうございます。
予約投稿失敗……前倒しです。
うう……ストックが……。




