第84話 やっぱりそうだったようです。
「あー、よく寝た。
ん?」
目を覚ますとマールが俺のベッドにもたれて寝ていた。
クマができているのは俺の看病のせいか……。
「おはようさん」
俺がマールの頭を撫でると、マールが目を覚ます。
俺の顔をじっと見ると涙を溜め、
「やっと、起きました」
と言って抱き付いてきた。
「俺は……どうかしたのか?」
「大暴走の処置のあと、旦那様が気を失われたのです。
それも三日もです。
魔力酔いみたいです。
ずっと起きなかったのですよ?
もう起きないかと思って……。
目を覚ましてくれて本当に良かったです」
マールは泣きながら俺の胸を叩き俺に言った。
そんなにか……。
確かに、あの時の魔物の討伐数は半端なかったからな。
ドラゴンも倒したし……。
俺はすでに寝間着に着替えベッドに入っている。
「誰が俺を?」
「リードラ様です。
軽々と抱え上げ、風呂場へと……」
「寝間着を着せたのは、私とクリス様です」
「クリス様が旦那様のをいろいろ弄って大変だったんですよ」
クリスは、
「だって反応すると楽しいじゃない。
どうせあなたがこの程度で死ぬとは思っていなかったから、気にもしていなかった」
と、言ったが、
「『マサヨシがぁ!』って一番取り乱していたのは誰だったかのう?
魔力酔いだとわかったら安心して、横たわるマサヨシの物を弄っておった」
とリードラにばらされると、
「それ言っちゃダメ!
でも、戻ってくれてよかった」
とニッコリと笑った。
心配してくれたとはいえ、クリスにはいつかペナルティーを与えてやろう。
「マールはズルい」
そういうと、「ドン』と勢いよくアイナは俺の上に乗ってくる。
「マサヨシさん、お帰り」
便乗でエリスも乗ってきた。
「魔力酔いだとは思っていたが、主が魔力酔いになるとは思わなんだ。
目を覚まして良かったぞ」
リードラは壁にもたれて笑っている。
カリーネが、
「あの部屋解約したんだから……。
親子で路頭に迷わさないで!」
と入り口で怒っている。
ラウラは、
「ご主人様が気付かれたのか?
嬉しいぞぉ!」
と大声で言ったので、マールに
「ラウラ、言葉遣いと声の大きさ!」
と言って怒られていた。
そしてフィナは……居ない。
ん?
なんでだ?
自意識過剰なのかね?
すると、俺の部屋の扉が開く。
いい匂いと共にフィナが現れた。
「パン粥を作ってきました。
マサヨシ様は甘目は苦手だと思うので、牛乳シチューにパンを入れてあります」
そう言っていい匂いをさせたスープ皿が乗ったトレイを運んでくる。
「皆さん、マサヨシ様に食事を食べさせるのでベッドから降りてくださいね」
フィナの勢いにマール、アイナ、エリスは追い立てられてベッドから降りた。
皆が降りると、トレイを俺の横に置き、中身をスプーンに掬う。
ふーふーと息を吹きかけ熱を取ると俺の口に運んだ。
こんな事をされるのもいつ以来やら。
何年も前にインフルエンザにかかった時以来だろうか……。
あの時はまだあいつが居た。
掬ったシチューを食べると、牛乳の香りがした。
そのあと塩と香草の味付けが広がる。
絶妙な味。
胃にしみ込むような感じ。
「ふう、美味いな」
と、しみじみ思いながら出た俺の言葉。
それを聞いたフィナは満面の笑みになると、再びパン粥をスプーンに掬った。
「あなたに拾ってもらった私ができることは、あなたに料理を作ること。
その料理をあなたが食べ『美味しい』と言ってくれるのが嬉しいのです」
そうボソリと呟いた。
俺の食事中、フィナの有無を言わせぬ雰囲気に、俺とフィナを見ているしかなかったようだ。
パン粥を全部食べ終わると、
「ごちそうさまでした」
俺が言う。
その言葉にフィナは
「お粗末様でした」
とニッコリ笑って食器を持ち、ゆっくりと部屋を出ていくのだった。
「フィナ、邪魔するなオーラが凄かったわね」
と、クリス。
「まあ、フィナは戦えぬが料理の腕は一番だからのう。
それに主のために作ったというのもあったのだろう。
邪魔されるのは好むまいて」
リードラは苦笑いしながら言っていた。
「うー、やっぱり料理できた方がいい?」
と、アイナが誰とも言わずに聞く。
「それは得手不得手じゃないでしょうか?
アイナちゃんは戦いや回復魔法が得意なのですよね?
でしたら、その方面でマサヨシ様を助ければ良いのです」
と、マールが言った。
そのあと、
「私もフィナちゃんには料理は勝てませんが家事なら勝てます。
愛情込めて、旦那様の部屋を掃除して、布団の匂いを嗅いで、洗濯物を洗って干して畳んでますよ」
マールは自分の強みを表に出す。
しかし、ここにも匂いフェチ。
「だったら、私もマサヨシの部屋の掃除手伝おうかしら……」
カリーネもスンスンと俺の部屋の匂いを嗅いでいた。
「わっ私は、旦那様のために何かできればいい。
だから、修行中なのだ……です」
ラウラは修行中らしい。
ただ、別に何かしてもらうためにそばに居てもらいたい訳でもない。
たまたまの人間が集まっただけ。
一人よりは誰かが居るというのは何となく温かい気がする。
マンションに一人居るよりはここは暖かい。
その後、義父さん、セバスさん、ミランダさんにベルタも現れて俺が目を覚ましたのを喜んでくれた。
そして、皆の訪問の後、腹が満たされたせいか眠くなる。
結局、女性陣の姦しい会話を聞きながら再び寝に入る俺が居た。
読んでいただきありがとうございます。




