第78話 イングリッドの部屋へ行きました。
結局大集会と言うのは、滅多に会わない王様と貴族の情報交換の場のようだ。
「一年でどれだけ変わった」とか、「今後どうするから協力して欲しい」とかいう話をしている人が多かった。
ミケル様も知り合いの貴族たちと話を始め、義父さんも古い友人たちと話を始めた。
何度か顔見せで声がかかったが、それ以降は新参者の俺には話相手がおらず暇な訳で……。
そんな俺に気を使ったのか。
「マサヨシ様、暇でしたら私の部屋へおいでになりませんか?」
イングリッドが声をかけてきた。
「いいのか?
王女の部屋だろ?
男が行くのもな……」
「マサヨシ様だから見てもらいたいのです。
異性だという事は気にせずいらしてください」
「まあ、暇だからおじゃまするか」
俺が言うと、
「やった!」
と王女らしからぬ喜びよう。
アイナがじっと見ていたので、
「アイナも行くか?」
と聞くと、
「うん」
と頷いた。
すると、
「私も行っていいだろうか?
参考にしたい」
とラウラ様。
「ええ、いいですよ」
イングリッドが快諾する。
こうして四人でイングリッドの部屋へ行くことになった。
木製で金属を使って縁取った大きな扉。
国賓って奴だから、部屋もデカいのだろう。
そう思いながら中を覗くと、確かにデカい。
ちょっとしたマンションの一室ぐらいの広さはあった、
「王女らしい」と言えばいいのだろうか……落ち着いた雰囲気がある。
清潔そうな白で統一された部屋だった。
天蓋のある大きなベッドが見え、奥には風呂らしきもの、更には簡単な台所もある。
お付きが料理とかをするのかもしれない。
お付き用の部屋があり、そこには何人かのお付きが控えていた。
イングリッドは振り向くとニコリと笑い、
「マサヨシ様を好きな者同士、仲良くやりましょう
アイナちゃん、楽しんでね。
ラウラ様は好きなだけ参考にしてください」
と言った。
「ん?
今何言った?」
何か聞き間違えたか?
「『マサヨシ様を好きな者同士』と言いました」
「ん?イングリッドが俺を?」
指差しながら確認すると、
「はい。
大好きです」
と言ってイングリッドがニコリと笑う。
「ペンネスの街で助けてもらって以来ずっと好いておりました」
との事。
「また増えた」
不機嫌なアイナ。
「仲間?」
訳がわかっていないラウラ様。
「あー、やっと言えた」
とイングリッドは肩の荷を下ろしたような態度をとる。
「それって俺に言っていい事なのか?」
「ココじゃないとダメでしょうね。
で、返事は?」
と急かしてくる。
「えーっと、知っての通り俺の周りは女性が多い。
順番とかは考えていないので、王女だから特別扱いって言うのはあまりないと思うが……。
それでいいのか?」
「はい、私はそれでいいです。
私は男ばかりの兄弟ですから、姉妹という者に憧れます。
お屋敷の女性たちは姉妹みたいで楽しそうでした」
イングリッドはアイナの頭を撫でながら言った。
俺の周りに王女が多いことで……。
そして、イングリッドは再びニコリと笑うと、
「これで、私の部屋にも簡単に来れますね」
と言った。
少し意地悪な雰囲気のある笑い。
俺がイングリッドの部屋に来たことで、扉が使えると言いたいのだろう。
予定通りって奴かな?
そして、
「エリスちゃんに特定の場所を繋ぐ扉を作ることができると聞きました。
私も欲しいですね」
とも言う。
そういうのもバレバレか。
「扉があればな……」
と条件を言うと、
「あれ、使ってください」
イングリッドが指差す先に白い装飾がされた細い扉があった。
部屋の壁板に近い隠し扉のような扉。
「準備万端だな。
でもいいのか?」
「王宮には内緒です」
「バレたらヤバい奴ね。
警備とかも問題あるし、気をつけないと……」
「警備は問題ないでしょう?
あの屋敷を襲って生きて帰ることができる者はいないとおもいますよ?」
んー、確かにそうなんだが……。
「それでも気を抜くのは良くないからね」
「ダメですか?」
上目遣いで強請ってくる。
俺、何でこういうのに弱いんだろ……。
「わかった、それじゃ扉を作ろうか」
と言うと、
「はい、お願いします」
ペコリとイングリッドが頭を下げた。
俺は扉に魔力を流し屋敷とイングリッドの部屋を繋ぐ。
そして自立した。
俺が扉を開けると、思った通り玄関ホールに繋がる。
「イングリッド、手を出して」
俺が手を差し出すと、イングリッドが手を掴む。
そして、俺は扉へイングリッドの登録をした。
「これで、好きな時にマサヨシ様のお屋敷に行けます」
「まあ、王城が騒がしくならない程度で頼むよ。
バレたら怒られるじゃ済まなそうだ」
「お付きはマサヨシ様のお菓子で釣っておりますから、私に協力的ですので大丈夫です」
と言うことで、我が家に勝手に遊びに来ることができるようになった。
「それ、私も欲しいな」
と、ラウラ様も言う。
「ラウラは、俺んちに住むんだろ?
花嫁修業をするって聞いたが?」
「よっ呼び捨て」
「ん?
ああ、申し訳ない。
イングリッドと話している感じて話してしまった」
俺は謝ると、
「それでいい……。
いや、それがいい……」
と、少し興奮していた。
「呼び捨てがいいのか?」
「お父様にもお兄様にも言ったことは無いが『私の力が及ばぬような男性に浴びせかけられるように暴言を言われ蹂躙される』のが夢……」
自分の性癖をカミングアウトするラウラ様。
そりゃ、どんな夢だ……。
父ちゃんの感じからして、幼いころから鍛えられたのだろうが、負ける事前提の夢って……。
「「…………」」
明らかにイングリッドとアイナは引いていた。
「まあ、性癖は人それぞれだから。
ラウラ様に暴言とか吐かないし」
と俺が言うと、
「様は要らん。
もっと蔑むように『ラウラ』と!」
と強請る。
「んー、だったら呼び捨てにはするが……。
でも蔑んだりはしないぞ。
それが嫌なら早々に屋敷から去ればいい」
「蔑まれようが私は屋敷から去らんぞ」
「いや、蔑まないから……」
話が通じない。
ふと何かに気付いたのか、
「この部屋に剣など無いのだな」
とラウラが言った。
「そうですね、護身用の短剣は持っておりますが、魔族は魔法を使うことが多いので使うことは少ないですね」
「ラウラ、普通の女性は剣を手元に置いたりはしない。
まさか、剣を抱いて寝たりはしていないよな?」
俺が聞くと、
「えっ、剣を抱いて寝ないのか?」
「そこは、まあ、人の好き好きだろうが……」
「あの冷っとした金属の感覚が肌に触れると気持ちいいのだ」
「裸で剣を抱いて寝ているとか?」
「そうだが?
さすがに言えないことをしたりはしないが……」
それを聞いたイングリッドとアイナが再び引く。
にしても、ラウラは武器フェチか……。
そりゃ娘の寝姿までは管理できんだろうが、何とかならなかったのかね……ヘルゲ様。
「私はマサヨシを抱いているから……」
一気に優位性を主張するアイナ。
「えっ、幼子が好きなのですか?」
冷めた目で俺を見るイングリッド。
「違うから……」
俺は即返す。
定番のロリコン疑惑が。
「女性たちで順番が決まってる。
みんな、マサヨシの抱き枕になって寝るだけ。
マサヨシは手は出さない」
「『俺がお前らを抱き枕にしてる』んじゃなくて『お前らが俺を抱き枕にしてくる』んだろうが!」
二人がじっと俺とアイナの会話をを聞いている。
「ほら、こんな会話もできるの。
羨ましいでしょう」
無い胸を張ってアイナが言うと、
「「コクコク」」
とイングリッドとラウラは頷くのだった。
王女と騎士の娘という環境。
こういう普通が羨ましいのかね?
とはいえ、屋敷の環境も普通とは違うような気がするのだが……。
その後お付きが持ってきた紅茶に俺のカバンに入っていた菓子を出して四人で話を続けるのだった。
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