第76話 マティアス・オースプリング。
オースプリング王国。
人の国の中で最大の国。
その国の王がマティアス・オースプリング。
その横に控える女性三人。
王妃だけあって美人揃いだ。
その中の一人がフリーデン侯爵の娘らしい。
「皆忙しいなか、大集会への出席大義である。
皆、今年もよろしく頼む」
王は、出席者に対して。挨拶をした。
すると、俺たちは何も言わずに大きく頭を下げる。
一人あたふたと息子の後始末をしているフリーデン侯爵を見つけると、
「フリーデンよ、何かあったのか?
忙しそうであるが?」
と何が起こったのかわからない王は不思議そうに聞いた。
「王よ、何でもございません。
お気になさらず」
と、フリーデン侯爵は額の汗を拭きながら何でもないと通した。。
王は義父さんを見つけて近寄り、、、
「今年は久々に鬼神が出席しているのだったな。
参加者名簿を見て驚いたぞ!
長い病床からの復帰、めでたい」
と、嬉しそうに声をかけた。
「今年は王のご尊顔を拝し、その上言葉をかけていただきました。
これほど嬉しいことはございません」
「そこに居る男が、鬼神の養子か。
噂になっておるぞ。
確かに鬼神の子にしては、ふくよかだのう」
今度は俺に興味を持ったようだ。
「ふくよか」か……「オーク」と言われないだけましか。
「王よ、我が息子マサヨシ。
こんななりではございますが、ミケル・ベルマン辺境伯に剣で勝ります」
「何!
ミケル・ベルマンをな?」
驚く王。
驚く王を見て、
「ミケル様って、剣の腕ではどの辺?」
とミケル様に近づき本人に聞いてみたた。
「王の御前試合で、俺は決勝でバストルに負けた」
「王国二位ってことか……」
「そういうことだ。
ちなみに、バストルはクラウスのオヤジさんに勝ったことはない」
「あー、そんなことを言っていたなあ」
「何!お前バストルとやったことがあるのか?」
「無いけども、戦いたくないとは言われました」
「ゴホン!」
と大きな咳払い。
俺たちをジロリと見る義父さん。
話しの声が大きくなり過ぎていたようだ。
「今度の御前試合は楽しみだな」
「それが、この男、元来魔法使いなので御前試合には出ないかもしれません。
その時はご容赦をお願い致します」
「残念だな。
クラウスが認める剣の腕を見てみたかった。
フリーデンのところのフランも出ると言っておったのだがな……。
さて、養子の件はここまでにして、そこに控える娘はクラウスの孫?
娘か?
妻を得たとは聞いておらんかったが」
「いいえ、この娘はマサヨシの妻になると言って訊かない奴隷の娘でございます。
ドロアーテの街で名無し親無しの子として彷徨っていたのです。
そんな子をマサヨシが餌付けをして連れて帰ってきました」
「餌付けとはな」
王が笑う。
「しかし、そんな子をなぜここに?」
当然の質問だと思う。
王都謁見できる場所に奴隷の娘を連れてくる必要はない。
「さあ、なぜでございましょう?
よく見ると、昔、王と一緒に会ったことのある女性に似ていたからでしょうか?」
王はアイナをじっと見ると何かに気づき、驚いた目をした。
そしてアイナに近づくと、項を確認する。
「そなた、名は?」
と聞く。
「アイナです。
私には名は無く、マサヨシに付けてもらいました」
「歳は?」
「十歳です」
「奴隷ということだが、そこのマサヨシが奴隷にしたのか?」
俺は王に睨まれる。
「誰の奴隷だったのかは知りません。
マサヨシはそんな私の所有者変更をして制約をはずして助けてくれた。
今の私は奴隷と言っても制約なんか無いんです。
美味しいものも食べられるし、暖かい布団でも寝られる。
クラウスのおじいちゃんは勉強と礼儀作法も教えてくれる。
お姉ちゃんも居るし妹も居る。
私は奴隷だけど幸せ」
アイナは俺の腕に抱きついた。
「つまり、お前を奴隷にしてドロアーテに放り出した者が別に居るというわけか……。
クラウス、この娘は治癒魔法が使えるのか?」
「はい。
老齢のせいで私の体が痛むとよく回復魔法で治療してくれます」
と、笑いながら王に答える。
「そうか……。
あいわかった。
アイナよ、クラウスの家でしっかりと勉強するのだぞ」
そう言うと、王は慈しむようにアイナの頭を撫でるのだった。
王の話を聞いた貴族の中にアイナを隷属化した者が居れば、アイナがマットソン子爵家にかくまわれているとバレる。
ああ、既に所有者変更した時点でマットソン子爵が絡んでいると知られていたな。
わざと執務室で所有者変更をしたんだからな。
今のところ何もないが、その対応も考えないとなぁ……。
ダンジョンで強くなってもらって、更には皆でフォローして……。
そんな事を考えている間に、王は俺たちを離れ、他の貴族のほうへ向かう。
ミケル様、イングリッドと話を始めた。。
「王は気付いたようだな。
項を見ておったからな」
と義父さんは言った。
「うなじがどうかしたのですか?」
「言ってはおらなんだが、王族の血統の者にはうなじに十字にホクロが並ぶ」
「そんな重要なことを教えてくれないとは、義父さんも悪いですね」
「悪かったな、言わずにおいて……」
義父さんは軽く頭を下げた。
「まあ、いいです。
あのときは知らない方が良かったということなのでしょう。
ところでイタズラの首尾は?」
「イタズラ成功だな。
フリーデン侯爵に嫌味を言えたし、王にアイナのことを確認させた。
ただ、アイナの事を王は我が子だと認めることはできまい。
今更隠し子が出てきたとなれば、世継ぎ問題で王国が揺らぐ」
と義父さんが言う。
すると、
「私はお父さんみたいな恋人とおじいちゃんが居るから、認めてもらわなくてもいい」
とニッコリ笑ってアイナが言った。
「アイナ、儂がいささか適当な気がするんだが」
義父さんが苦笑いをしながらアイナを見た。
「それはそれだよ」
アイナは義父さんを見て笑う。
楽しげなアイナの笑顔。
アイナの笑顔が守れるなら、このままでいいと思う。
どうこうしたければ、勝手に王がするだろう。
少しからかってやろうと、
「俺も恋人って感じじゃないなぁ……。
娘って感じ」
と言うと、
「うー、大きくなれば、リードラみたいになるんだもん
せめてイングリッドさんぐらいにはなるし……。
マサヨシが気になって仕方ない女性になってやる」
と言ってアイナはプイと顔をそらした。
比較対象にされたイングリッドも迷惑な話だろう。
とはいえ、イングリッドがリードラより薄いのも確か……。
「ハイハイ、期待して待っております」
と俺が適当に返事をするとアイナに脛を蹴られてしまうのだった。
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