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第71話 ダンジョン十階へ……そしてボス戦。

 次の日、一階をスルーして、二階で現れた魔物……オークをアイナはアキレス腱を切って転がすと、頸動脈を切りつけて倒した。

「この階でもアイナは負けることは無いわね、下階に行きましょうか。」

 クリスが言った。


 そう言えばこのパーティーで、冒険者の知識を持っているのってクリスぐらいなんだよな……。

 見た目より歳食ってるってのは言っちゃいけないが、それでも知識は豊富。

 頼りにさせてもらいます、クリスさん。


 三階に降りて、再び横取りしないように魔物を狩る。

 と言ってもオークばかりだ。

 とりあえずは収納カバンに入れておく。

 クリスは魔法を準備して、リードラは爪を伸ばして不測の事態に対応できるようにしている。

 例のチェーンフレイル(ハ〇パーハンマー)は、通路では使い辛いということで、ウルヴァ〇ンモードで待機である。

 順調にアイナが倒していくと、魔物を表す光点がなくなった。

 クリスに聞いてみる。

「クリス、この階の魔物の光点は消えたんだが、ダンジョンの魔物って復活する?」

「そう、ならしばらくはこの階に魔物は出ないわね。

 数日に一回ぐらい魔物と宝箱が復活する。

 それを『再配置』って言うの。

 アイナが倒した魔物の数は少なかったから再配置してからしばらく経っているんじゃないかしら」

「ふむ、再配置ってタイミングが決まってる?」

「不定期なダンジョンもあれば定期的なダンジョンもある。

 このダンジョンは不定期だから余計に攻略が難しくなっている」

「不定期な場合はふと気づくと周囲がモンスターだらけってこともあり得ると?」

「そういうこと」

「そりゃ面倒だね、野営中になんて襲われたら大変だ。

 ところで、宝箱の反応がいくつかあるけど……」

「この辺の物なら大したものは無いと思う。

 先に進むほうがいいと思うわよ?

 だって、三階の敵なんてアイナが簡単に倒しちゃうでしょ?」

「でもどの辺だったら、俺らのパーティーでちょうどいい?」

「マサヨシと、私、リードラで行くのなら、最高到達が三十七階だから三十階層スタートでもいいと思う。

 アイナを育てるのなら十階層を超えたあたりからでいいと思うけど?

 階段の位置も罠の位置も分かるんでしょ?」

「アイナの育成優先で、まずは十階層を目標ね。

 そう言えばミハルも言っていた。

 アドバイスありがとう」

 俺は礼を言う。

「えっ、いいのよ。まだマサヨシは知らないことが多いんだから」

 礼を言われるとは思っていなかったのか、クリスはちょっと照れて頰を赤らめていた。

 戦闘を終えたアイナが戻ってきた。

 俺は収納カバンから例の蜂蜜漬けを出して渡す。

「凄く美味しい」

 アイナが言う。

「マサヨシ、こんなに快適なダンジョン攻略は無いわ。

 人には言えないわね」

 アイナとクリスが言う。

「本当はもっと酷いの?」

 アイナがクリスに聞く。

「アイナ考えてもみて?

 汗まみれの下着とモンスターの返り血やスライムのかけらがこびりついたままずっと戦うのよ?

 水分も最低限……食料も最低限……。

 夜は基本野宿、時間感覚さえない。

 トイレの時に襲われたりしたら……。

 こんなふうにおやつなんて食べられないの」

「それは……たいへん」

 アイナが引いていた。

「でしょう、これもマサヨシのお陰」


 俺って部活のマネージャー的な感じになってない?


「クリスの提案通り、階段を探すことを優先して十階を目指そうと思います。

 ちょっとここは弱すぎるよね」

「そうね」

「そうだの」

「わかった」

 と、三人に同意を得たので先に進む。

 魔獣が現れてもアイナの一刀やリードラの一撃で魔物が葬られる。

 一度逃げるパーティーのトレインって奴に引っかかったが、クリスとリードラが瞬殺した。



 そんなことをしながらも昼は過ぎ、十階に着くころにはGな時計のタイマーは残り二時間程度になっていた。

 十一階に行く階段の前に大きな部屋があり、そこにはモンスターが五体配置されているのがレーダーでわかる。

「マサヨシ、ボスみたいね」

「クリス、これが嫁さんの言っていたボス部屋って奴か?」

「そう、倒せば下層に行けるわよ?

 ただ一回入るとボスを倒さないと出られないけどね」

「じゃあボスにいってみる?」

 俺が言うと、

 コクリ×3

 皆頷いた。

 俺が大きな両開きの扉を押す……けど開かない。

「あれ、開かないぞと……」

「内開き?」

 俺に近づき蝶番を指差しアイナが言った。

「おお、確かに。

 それじゃ、内側に……」

 俺が内側に引っ張ると……おお開いた。しかし全開になった瞬間

 パタン

 急に扉が閉まる。

「へっ」

「きゃっ」


 俺と誰かは不意に背後を押された形になる。

 つまり二人でボス部屋に入ったわけだ。

 無様に前に倒れた俺が立ち上がると奥の方に豚の頭を付けた獣人が居た。


 四メートルぐらい?

 オークだ。

 まあ、今までオークが多く出現していたから、それの上位が現れるのは何となく察していた。

 きわどい水着のような鎧、ビキニアーマー……を着たメス?

 手には中華包丁を大きくしたような武器。

 獲物が来たっていうことで喜んでいるように見える。

 料理される?


 そして、アイナを指差し「ペッ」と唾を吐いた。

 女は嫌いなようだ。


 その中にひときわ大きなオークがゆっくりと近寄ってくる。

 リーダーか?

 顔はけばけばしい化粧がされており、口元からよだれが垂れている。

 体はぶよぶよって……鎧が食い込んでるし。

 いくらメタボな俺でも勘弁だ。


 オークのメスたちはニヤニヤしながら俺とアイナを見ながらゆっくりと近づいてきた。


 舐められている。

 どう考えても舐められている。

 獲物認定だ。

 俺ってそんなに弱く見えるのかね?


「何かイライラする」

 バケモノたちのふてぶてしい態度を見ながらアイナが言った。

「どうする?

 アイナが戦うのなら、俺はフォローするが?」

「勝てるかな?」

「アイナ一人で勝てなくても、俺が居るから大丈夫」



 俺は右手に家宝のオリハルコンの長剣を持ち、左手にショットガンをイメージした。


 弾はスラグ弾かな?


「さあ、行こうか」

 俺が走り出すと、その横にアイナが走る。

「速いな」

 と俺が言うと、

「体が軽くなった」

 と言ってアイナが笑った。


 昨日の成果らしい。

 頼もしいな。


 中央から近づくリーダー格の魔物の足を俺はショットガンで打ち抜いた。

 魔力が多かったせいか、太ももが爆ぜて足が千切れた。

 踏ん張るものがなくなったリーダーは倒れる。

 そのままアイナが飛び上がると、首をスッパリと切った。

 血しぶきがアイナにかかるが、アイナは気にせず走り抜ける。


 リーダーを倒され逆上した四匹の魔物たちはアイナを追うために振り返ろうとした。

 そのふくらはぎに俺はショットガンを当てる。

 体勢を崩した魔物にアイナは近寄ると、再び素早く首を切っていった。


「強いな」

 と俺が言うと、

「みんなのお陰……ウッ」

 と急に吐いた。

「大丈夫か?」

「また酔っちゃったみたい」

 苦笑いのアイナ。

 俺はアイナを抱き上げる。


 入口を開けると、クリスとリードラは不安そう……じゃなくガールズトークを楽しんでいた。

「おーい、終わったぞ?」

「マサヨシ、お疲れ」

 クリスが振り返って言った。

「心配してなかったのか?」

(われ)(ぬし)ならあの程度大丈夫だろ?

 心配なのはアイナだが、(ぬし)がおるのだ。

 怪我をしても死ぬことはあるまい?」

「そんなもん?」

「そんなもんだな」

「それでも心配ぐらいはしてほしいとは思うが?」

「我よりバケモノなのだ。

 それほどの敵が出てくるまで、(ぬし)を心配することは無いだろうな。

 それだけ頼りになるってことだ」

「そういうこと。

 どうせ瞬殺だったんでしょ?

 入ってちょっとしか経ってないし」

 クリスは結果を言い当てる。

「クリス、そりゃそうなんだけどな……」


 ちょっと切ない。

 もう少し心配してくれても……。


「ボスを全部倒したアイナが魔力酔いになったようだ。」

「それは仕方ないわね。

 ボスは魔力量が多いから、アイナがそれを手に入れたのならあり得るわ。

 今日はここまでね。

 でも、部屋の中ぐらいは確認しておかないと……」


 ボス部屋に入るとリードラが喜ぶ……何で?

(ぬし)よ!

 オーククイーンとオークプリンセスだ!」

 この肉は美味いのだ!」

 リードラにはすでに涎が見える。

「そんなに美味いのか?」

「おお、オークの肉は数のせいか出まわる量が多いが、キング、クイーン、プリンセスはなかなかおらんでの。

 ドラゴンである(われ)もなかなか食べたことは無い」

 と、涎を垂らしながらリードラが言う。


 A5ランクとかそういう奴?


「あと、この巨体をダンジョンから持ち帰る苦労を考えて?

 希少性と量の関係から美食家が高値で買い取るの。

 ちなみにこの皮は中の上ぐらいの皮鎧の原料になるわね」

 クリスが補足してくれた。

「この鎧は?」

 俺の指差すビキニアーマーらしきものを見ると、

「まっマサヨシがどうしてもって言うなら着るけど」

 とクリスが言って顔が赤くなる。

「いや、着なくていい。

 どの程度かなって」

「わからないわね、鑑定してもらわないといけないわ」

 とりあえず五体のオークを俺の収納カバンに入れた。


 ありゃ「際どい鎧」は「卑猥な鎧」って出た。

 魔法は特にかかっていない防御もあんま無さそうだ、そのまんま趣味の鎧だな。


「リードラ、この包丁両刀で使ってみるか?

 何かカッコ良さそう」

 クイーンの包丁が約一・五メートル、プリンセスの包丁が約一・二メートル。長刀と短刀って感じで良さそう、なんて考えていたが、

(ぬし)が言うのなら使ってみよう!」

 リードラが喜んで包丁を手にして振ってみる。

(ぬし)よ適度な重みだな。

 頑丈そうだし使い勝手が良さそうだの」

 そう言って包丁を構えていた。何かの鉄人っぽいな。


 俺達はボス部屋の出口にある扉を開けると階段と魔法陣がある。

 それを見てクリスが説明してくれた。

「マサヨシ、この魔法陣はダンジョンの外に出るための物。

 次からは外にある扉からここまで直通で来ることができるわ」

「ほう、救済もあるんだな

 ってことは、今から帰るか更に降りるか選択になるわけか」

「そういうこと。

 まあ、マサヨシには扉があるから必要ないけどね。

 いつ使うかわからないから、魔法陣を使って外に出てから屋敷に帰りましょう」

 そう言うとクリスが魔法陣に乗る。

「マサヨシもリードラも早く」

 と言ってクリスが呼ぶ。

「おう」

「わかったのだ」

 クリスに俺と俺に抱かれたアイナ、リードラが魔法陣に乗る。

「マサヨシ、あなたがリーダーだから『入口に帰る』って念じてみて」

 言われるがままにすると、魔法陣が輝き始め目が開けられなく程になる。

 光が収まると、そこはゼファードのダンジョンの入口の傍だった。

「次からは、入口に入る時に十階を念じればあの魔法陣に行ける」

 と、クリスが教えてくれた。

「そうか、わかった。

 さて、アイナを連れて屋敷に帰ろうか」

 そう言って俺たちは家に帰るのだった。


 ちなみに、風呂とパン粥を再びアイナにねだられる。

 結局、断れずに言われる通りにする俺が居た。



読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

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