第70話 あれ、ちょっと変です。
庭に帰ると、アイナがふらふらしている。
「アイナ、大丈夫か?」
俺はアイナに近寄った。
クリスも気づいてやってくる。
「うーん、ボーっとして、ふわふわするの。
クリスがお酒を飲んで歩いてる感じ?」
と、アイナが言うと、
「バカ!
それは言わないの!
でもね、これが魔力酔い。
普通は弱い魔物から始めるから、大体許容内で収まって酔うことは少ないんだけど、アイナの場合は最初っから底上げされたステータスで強い魔物と戦ったせいで、体内に入る魔力量が多かったのね。
アイナ、早くお風呂に入って寝なさい」
とクリスが言った。
「おふろー。
めんどうくさい
べっどにはいるー」
酔いのせいなのか若干ろれつが回らないアイナ。
酒飲んで結構酔っ払った後に「何もせずに横になりたい」って思う時がある。
そんな感じかね?
しかしアイナには血や肉片も付いている。
そんな状態で寝かせる訳にも行かない。
「仕方ない。
一緒に風呂に入るか?」
と俺が言うと、
「それなら入るー」
アイナはそう言ってフラフラと脱衣所へ向かった。
こうして、一緒に風呂に入り、アイナの体を洗って寝間着を着せる。
そして、アイナとフィナの部屋のアイナのベッドに寝かせた。
俺はベッドの端に座ってアイナの様子を見る。
「うーん、だるい」
「まあ、酔いってのはそう言うもんだ」
「でも、お腹が空いてる」
言ったそばから、クウとお腹が鳴るアイナ。
「まあ、動いた後だからなぁ……腹も減るか。
パン粥でも作るかな。
ちょっと待ってろ」
と、俺はベッドから降りると、
「うん、マサヨシの作る物は美味しいから待ってるね」
アイナが嬉しそうに目を細めた。
調理場の中に入り、
「フィナ、ちょっと場所を借りるぞ」
と言うと、
「ええ、マサヨシ様、どうぞ。
何を作るんですか?」
フィナが聞いてきた。
「ん、パン粥。
アイナが調子悪そうだからね、食べやすそうなものをと思ってね」
作るから待ってな」
「はい」
パン粥かあ……。
と言っても、牛乳でパンを湯がくだけなんだがな。
「さて、薪に火を着けようか」
俺が言うと、ガスライターをイメージして竈に入った薪に火を着ける。
火力調整は……。
「マナ、弱火で頼むよ」
「私こんな事するために精霊王女って言われている訳じゃないんだけどな……」
と不満げにブツブツと文句を言うマナ。
「人を殺したりすることにマナの力を使うのもなぁ……。
フィナに『おやつを豪勢に』って頼んでおくからさ。
な、フィナ」
と俺がフィナを見ると、
「わかりました」
と言ってフィナが頷く。
すると、おもむろにマナの表情が明るくなり、
「仕方ないわね」
と言って火力調整を始めた。
俺は鍋に牛乳を入れ火にかける。
ふつふつと鍋の縁に泡が出始めたら、そこにちょっと硬くなったパンを入れる。
そして、蜂蜜を垂らし甘味をつけた。
ふわっと甘い匂いが漂う。
ちょっと煮立たせてと……。
個人的には、スープの素的な物で味をつけるのも好きだがなぁ。
アイナはまだ子供だし……蜂蜜だよな。
と考え、味は甘めの選択。
「はい、出来上がり。
簡単だろ?」
と鍋を台の上に置いた。
「はい、美味しそうです」
と、興味津々で覗くフィナ。
「病気の人や乳離れをさせるような子供に食べさせるものだ」
そう言って俺はスープ皿に取り分けると、
「フィナ、残りを置いておくぞ。
ちょっと甘いかもしれないが、食べて見るといい」
と言って、アイナの部屋に持って行くのだった。
ありゃ、マナが俺から出ていった。
フィナとパン粥を食べるのかね?
「ほい、お待たせ」
俺が部屋に入ると、アイナは体を起こす。
パン粥をアイナのベッドの横に置きスプーンで掬うと、フーフーと冷やしてアイナの口に運んだ。
アイナは、パクっとスプーンに食い付いて、
「おいしい」
ニッコリと笑った。
「そりゃ良かった」
実際にお腹が空いていたのか、ぺろりと食べてしまう。
すると睡魔がやってきたようで、ウトウトし始める。
そんなアイナの背を叩いていると、スースーと寝てしまうのだった。
ダンジョン攻略初日、お疲れさんである。
アイナとフィナの部屋から出ると、
「アイナは?」
とクリスが聞いてきた。
「気になるのか?」
と俺が聞くと、
「そりゃね」
心外なのか少し怒っていた。
「今食事をして寝た。
魔力酔いがどの程度で治るのかは知らないが、状況によって明日はダンジョンへは行けないだろう」
「まあ、仕方ないわね。
まだ、時間はあるしアイナに合わせていきましょうか」
こうして、ダンジョン攻略一日目が終わった。
次の日の朝、俺が剣の型を終え食堂に行くと、元気そうに朝食を食べるアイナが居た。
「アイナ、おはようさん」
と声をかける。
「おはよう!」
とアイナの大きな声の挨拶が帰ってきた
「どうだ?」
「元気!
マサヨシのお陰」
「それじゃ、飯食ったらダンジョンだな」
「うん!
フィナ姉ちゃんにも皆のお弁当頼んであるから」
「段取りいいな」
「段取り八分でしょ?」
この世界でもそんな言葉があるのかね?
クリスが起きたばっかりのボサボサの頭で、リードラは綺麗に髪が梳かれたいつもの白いローブの姿で食堂に現れた。
「あら、アイナ、大丈夫なの?」
「うん、元気だよ。
昨日より元気みたい」
「そうか、魔力が馴染んだようだの」
その様子なら、ダンジョンに行けるのう」
「うん、マサヨシにも言ったけど、フィナ姉ちゃんにもお弁当頼んであるから。
食事が終わったら、ゼファードに行こ!」
こうして、再びゼファードのダンジョンへ向かう俺たちが居た。
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