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第69話 まずはぼちぼち。

 収納カバンを漁り、バン!と久々に時計を登場させる。

 嫁さんが買ってくれたメタルなGでソーラー電波。

 電波なんて無いし収納カバンの中では時間は止まっていたので時間は合っていないが、タイマー代わりには使えるだろう。


 実労働時間七時間で、一時間半に一回ぐらい休憩かなあ。

 残業無しで行きたいねぇ……。

 ブラックなのはいかんよなぁ……。

 週休二日制かなぁ。

 まあ、とりあえず、アイナの魔力酔いが出たら帰るって事で……ぼちぼちだな。


 そんな事を考えながら操作をしていると、

「何してるの?」

 とアイナが聞いてきた。

「ああ、時間が来たら音がするように、この時計って魔道具を操作している」

「その腕輪?」

「ああ、かなり正確に時間がわかるんだ。

 大体朝から夕方まで戦って屋敷に帰るようにしたいから、調整中」

「凄いねそれ。

 キラキラ光ってきれい」

 メタルなので光る時計をアイナは眺めていた。

「向こうの世界の道具だな。

 魔力ではなく電気で動く」

「電気?」

 アイナが首を傾げる。

「まあ、ある意味魔力みたいなもんだ」

「ふーん」

 アイナは興味がなくなったのか、クリスやリードラのところへ行った。


 時計かぁ……機構が難しすぎて作れないだろうなぁ。

 しかし……冒険者が多いな……。


 一階層には多くの冒険者が居た。

 そのため魔物の取り合いが起こる。

 とりあえず先に攻撃した者がその魔物を狩る権利を得るという暗黙の了解らしい。

 俺は揉めないために、レーダーに冒険者と魔物を表示させ、冒険者から遠い魔物を選んでアイナに戦わせ、魔力を集めさせた。

「どうだ、アイナ」

「ん、わからないけど、目の前の敵を倒すのみ」

 そう言って、アイナは剣を振るう。

 義父さんやクリス、たまにはリードラと戦っているせいか、主に出てくるオークをほぼ一撃で葬り去っていた。


 たまに通る冒険者パーティーが少女を前衛に立たせて戦わせる様を見て驚く。

「剣奴を育てているのか?」

 などと呟きながらアイナを見る冒険者も居た。

 そう言う興行があるのかもしれない。


 そうやってしばらく戦っていると、アイナの動きが目に見えて良くなってきた。

「ほう、もう効果が出たのかの?」

「そうね、あの子はまだ魔物と戦ったことが無いせいで、底上げされてない。

 だから効果が出るのが早いんでしょう。

 心配なのは、亜種ね。

 格段に強い。

 でも、それは我々がフォローすればいい事。

 それこそパーティーなんだからね」

 リードラとクリスが見守りながら話していた。


 ん?

 つまりアイナはレベル1?

 ちょっとした経験でレベルアップしたってことらしい。

 すでに、俺に引き上げられているアイナ。

 レベル1でもかなり強かったようだ。


 しかし、アイナを戦わせ続けていると少し動きが鈍ってきた。


 疲れてきたかな?


 時計を見ると約二時間半経過。

 いきなり二時間半かぁ。

 常に戦っていないとはいえ、結構な時間。

 ましてや一番体力の少ないアイナである。

 俺は扉の閉まる部屋を探し休憩することにした。


「よーし、休憩。

 昼食にしよう」

 コテンと尻もちをつくアイナ。

「あー、疲れた」

 魔物との戦闘。

 ましてや初のダンジョン。

 体力だけでなく気力的にも疲れたのだろう。

「お疲れさん」

 そう言ってアイナの頭を撫でた。

 アイナは目を瞑る。

 俺は市場で見つけたレモンのような柑橘系の実を輪切りにして、蜂蜜に漬けておいたものを出す。


 部活の定番。

 今は違うのかね?


「ほれ、食べてみ」

 アイナに差し出すと、俺の手にあった物をパクリと食べた。

「うー、甘酸っぱい」

 とアイナが口をすぼめる。

「何だ何だ?

 アイナだけいいものを食べておる」

「私も欲しい」

 目ざとくリードラとクリスが見つけてやってくる。

「リードラにもクリスにもやるからちょっと待て」

 俺が蜂蜜漬けを取り出すと、リードラもクリスもアイナの真似をして俺の手から直接口に入れる。

 クリスは指まで食い付いた。

 そして、ニヤリと笑う。


 ちょっとエロい。


 昼も近かったので、フィナのサンドウィッチ弁当を食べ一心地つく。

 その後再び魔物との戦闘を始めた。

 しかし、再びアイナに疲れが見えてくる。

 動きにキレがない。

 魔物を取りこぼしクリスやリードラ、たまに俺がフォローをした。


 こりゃ、今日は初日だから、早上がりかな……。


 手が空いたときに時計のアラームの時間を二時間早くするのだった。


 一階層の魔物を狩りつくそうかという時に、

「ピピピピピ……」

 時計のアラームが鳴った。

「はい、今日はここまで」

 俺が言うと、

「まだできる」

 と少し怒った感じのアイナ。

「アイナ、ダンジョンを攻略する道のりはまだ長い。

 だから、ぼちぼちでいいと思うぞ」

 俺はアイナの頭を撫でた。


「一階層の敵は弱いわね。

 アイナには物足りないでしょう。

 明日は先に進みましょうか」

「そうじゃな。

 まあ、オーク程度じゃ。

 アイナも確実に倒しておる」

 クリスとリードラが話していた。

「先に進む基準は何?」

 と聞いてみると、

「そうだな、魔物の動きに翻弄されない。

 周りが見えている。

 攻撃が確実に魔物に当たる。

 与えた攻撃で確実に魔物を倒している。

 そんな所だな」

 とリードラが答える。

「それに、アイナは屋敷に戻って体力を回復できるから、普通の冒険者に比べて少しだけ無理ができる」

 とクリスが答えた。

「まあ、バケモノ級のリードラやマサヨシも居るから、亜種のような強い魔物が出ても大丈夫でしょ?」

 と俺とリードラを見てクリスが言った。

「マサヨシは別として、(われ)もバケモノ扱いとは、酷いのう」

 と、ボソリと言うリードラ。

「リードラはホーリードラゴンって魔物なんだから、バケモノでしょう?」

「そうかのう?」


 人である俺がバケモノで、魔物であるリードラが普通ってのは無いだろう。

 まあ、俺がバケモノ認定ってのは仕方ない 


 とは思ったが、口には出さなかった。

「アイナ、今日は頑張ったわね」

 クリスもアイナの頭を撫でる。

「うん、頑張った」

「そうだな、一階層の冒険者で一番倒したのではないか?」

 と、優しい声でリードラがアイナを誉めた。

「えへへ」

 と笑うアイナ。


 まあ、二人に任せておけば問題ないだろう。

 エルフとドラゴンと人。

 まあ、見る人が見たら変な組み合わせなんだろうが、それでもちゃんと姉妹をしていた。


「さて、皆、帰るぞ」

 と俺が言うと、

「はーい」

「わかったわ」

「帰るかの」

 という三人の返事が返ってくる。

 そして、俺は扉を出す。

 扉の向こうを屋敷の庭に繋ぎ帰るのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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