第59話 我が家の味ができました。
短めです。
サブタイトルを「最初の農産物ができました。」にしていましたが指摘があり、「我が家の味ができました」に変更します。
ご迷惑をおかけします。
小春日和の日、庭で型の練習をしていると、
「主よ、蜜が分けられるほどに我が巣が成長したぞ」
とハニービーの女王蜂が俺の前に現れる。
「えっ、もう一か月経ったか?
まだ三週間ほどしか経っていないと思ったが……?」
と俺は聞き返した。
「主の下に着いてから産まれた働き蜂が優秀でな、よく働くのだ」
働き蜂をよく見てみると、五センチほどの働き蜂の周りに二回りほど大きな働き蜂がブンブンと飛んでいる。
やらかしたかな?
「じゃあ、予定通り、容器を巣の中に置かせてもらうぞ」
巣箱を上げ、その中にティーカップを入れた」
すると、そのカップに蜂が集まる。
翌日、大きな働き蜂が俺の前に来て、
「ミツガイッパイ、トリニキテ」
と言ってきた。
こいつ等も話せたのか……。
俺は巣の中からコップを取り出す。
ティーカップの上には蜜蝋で封がされていた。
おお、丁寧な仕事。
俺は巣からティーカップを取り出した。
巣をコンコンと叩き、
「こんなに蜜を渡して大丈夫なのか?」
と声をかけると女王蜂が出てきて、
「この辺の庭には冬のわりに花が多く、蜜が多く取れる。
特に大きな庭を持つ建物があり、そこには花が咲き誇っていたのでな」
特に大きな庭を持つ建物……王城かね……。
「まあ、無理しない程度でな。
別に販売するつもりもないんでね」
そう言いながら新しいティーカップを巣の中に入れた。
「主よ、了解した」
女王蜂も蜜を分ける量を下げるだろう。
そんな話をしている間にもハニービーたちは蜜や花粉を集めて巣箱の中へ入っていた。
働き者である。
調理場に行くとフィナが居る。
「フィナ、今大丈夫か?」
「マサヨシ様が来た」
嬉しいのかフィナの尻尾がブンブンと振れる。
「何の御用でしょうか?」
「ハニービーの蜜が手に入った」
そう言って、俺は台の上にティーカップを置いた。
テーブルにあるティーカップを見てわかったのか、
「ああ、あの巣から蜜が採れるようになったんですね。
少し頂いてもいいですか?」
と聞いてきた。
「ああ、ちょっと味を見ようと思ってな。
だったら、うちの調理人のフィナに見てもらおうかと……」
そう言って俺はスプーンがある引き出しから二本取り出し、フィナに一本渡した。
俺は蜜蝋をはがし、下にあった琥珀色に透き通った液体を掬う。
すると、スプーンに蜜が溜まり、下から一本の線ができる。
それをこぼさないように口に含んだ。
「おっ、これは美味いな。
今までのハニービーの蜜に比べて甘くコクもある。
そう言えば雑味が無いな」
続いてフィナがハニービーの蜜を掬った。
「マサヨシ様、凄く美味しいです。
今までのハニービーの蜜よりも純粋ですね。
今までのハニービーの蜜もあるので食べ比べてみましょう」
そう言って、小さな壺を取り出した。
壺の中の蜜を掬って食べると、何か別の物が入っているような気がする。
フィナもそう思ったのか、顔を顰め考えていた。
そして、フィナが何かに気付き、
「変な味の理由がわかりました。
マサヨシ様、今までの蜜はハニービーの巣を手に入れ、絞って採ったものです。
絞るということは、巣のカスや幼虫のエキスなど余計な物が混じります。
いくら濾したとはいえ、染み出たものは取りきれません。
ですから、このような雑味が出るのでしょう。
しかし、この屋敷で採れた蜜はハニービーがそのままティーカップに入れ、蜜蝋で封をしただけの物。
雑味の原因が混ざらないのです。
そのために、ティーカップの蜜は純粋に甘くコクがあるのでしょう」
自分で納得したように言った。
「ほう、ココでしか食べられない味という訳だな」
「はい、我が家の味になりますね」
「我が家」という言葉に嬉しそうなフィナ。
このあと、ホットケーキを焼きはじめると、クリス、アイナ、リードラ、マール、ミランダさん、ベルタ、アランとボー、セバスさんに義父さんまでが匂いにつられてやってきた。
「ハイハイ、焼けたら食堂に持って行くから、みんな待ってるように」
そう言って、食堂へ皆を追い出す。
当主ということもあり、まずは義父さんの前に、ホットケーキを置いた。
義父さんはわが家の蜜をたっぷりかけ、一口食べると、
「美味いな」
とニッコリした。
続いて皆に出すと一口食べて皆もニッコリとする。
そしてあっという間にホットケーキを平らげた。
こうして、庭で採れる蜜が我が家の蜜になるのだった。
さて、蜜を回収に行く係……フィナに決定。
読んでいただきありがとうございます。




