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第58話 良い糸が欲しいと思います。

 シルクモスの糸が欲しいと思い、シルクモスの蛹をレーダーで探してみたが、時期の問題か表示されなかった。

 そこで幼虫を探してみると、レーダーに表示されてはいたが、レーダー南側のレンジ外に固まって白く輝くのみだった。

 仕方なく、俺はリードラと オウルを南に飛ぶ……。


「遠いようだのう」

 ドラゴン形態で頭を俺に向けリードラが言う。

「そうだなあ、まだレーダーの範囲外だ」

「本気を出して良いかの?」

「ああ、任せる」

そう俺が言うと、後ろに引っ張られるような加速感があり、「ドン」という音がした。


 うへぇ、音速を超えやがった。


「リードラはシルクモスの幼虫を見たことがある?」

「わからんが、芋虫を食べたことはあるぞ。

 プリンほどは甘くは無かったが、香ばしい味がした」

「へっ、へえ……。

 虫食べたことがあるんだ」

「当然。

 我は魔物の頂点の一体ぞ?

 目の前に居る魔物を食べるのは当たり前」

 胸を張るリードラ。

 そのせいか少し揺れる。


 まあ、俺もイナゴの佃煮や蜂の子などを食べたこともあるし、文句は言えないか……。


 既に数時間空に居るのだが一向に光点がレーダーのレンジ内に入ってこない。

 小腹が空いた俺はリードラの背中でフィナが作ったサンドウィッチを頬張っていた。

 リードラは、俺から魔力を吸収しているらしく食べなくても問題ない。


 まあ、甘味にはご執心だが……。


 吸収される魔力量も俺の自然回復量より少ないため俺も問題ない。



 サンドウィッチを食べきり水筒の紅茶を飲み終わって指を舐めていると、光点がレンジ内に表示される。

 下は鬱蒼としたジャングル。

「リードラもう少し」

「わかったのだ」

 リードラは減速しながらシルクモスの居る場所へ近づいていった。

 


 降りるとジャングルの中は気温が高く蒸し暑い。

 体形のせいかすぐに汗が噴き出す。

 メタボには辛い環境。

 リードラは大丈夫なようだ。

 魔物の上位だからだろうか? 


 こういう時は空調服かなぁ……。

 

 そう考えて下着に魔力を通す。 

 すると、上着の下に風が流れ始める。

 気化熱のお陰か少し涼しくなった。


 おう、快適……。


 そんな事をしている間に周囲に十個ほどあった光点が二つほど消えた。


 ん?

 あれ?

 

 周囲にはブンブンと二十センチ程度の見た目スズメバチな魔物が飛んでいる。

「飛んでいるのはホーネットだな

 あいつらは魔物を幼虫のエサにする」

 リードラが言った。


 天敵?

 そう言えばハニービーの女王蜂が、ホーネットを目の敵にしていたな。

 そうか、虫たちの上位がホーネットってわけなのね。


 一匹のホーネットがニ十センチほどの芋虫のような魔物を掴み持ち上げていた。

 しきりに腹の先をを芋虫に差し込んでいるのは毒を注入しているのだろう。

 その芋虫がシルクモスの幼虫らしい。

 動きが無いのは死んでいるためのようだ。


 次々に光点が消えていく。

 既にレーダーに映るシルクモスの幼虫の光点は三つ。

 俺は全力でスリープクラウドを使うと、周囲のホーネットがバタバタと地面に落ちた。


 シルクモスの幼虫も寝てしまっただろうが気にしない。

 死んでしまっては困る。


 俺は生き残ったシルクモスの幼虫を探し出して抱え上げると、扉でオウルに戻るのだった。



 契約用の紙を出し、その上にシルクモスの幼虫を置く。

 魔物は暴れられると困るため、俺は手に入れたシルクモスの幼虫は隷属しておくことにした。

 すると、シルクモスが輝き始め、倍ほどの大きさの芋虫になる。

(ぬし)よ相変わらずじゃの。

 進化しよった」


 小さなモスラのプラモデルが、モスラのラジコンになった感じ?

 わかり辛えなぁ。


「なっちまったもんは仕方ないだろう」

 そう言って俺は割り切ると、

「お前、言うことわかる」

 とシルクモス? の幼虫に聞いた。

「ギ」

 と言って首を縦に振る。

 わかるらしい。

「あの木に向かって糸吐いてみて」

 庭にあった木を指差して俺が言うと、シルクモス? の幼虫は糸を吐いた。

 糸は日の光を浴び、虹色に輝く。

「もういいぞ」

 すると、糸を吐くのをやめた。

「こいつらずっと幼虫だといいんだがな」

 自然と呟いていた。


「何をやっておるのだ?」

 義父さんが汗を拭きながらアイナと現れた。

 庭で手合わせしていたようだ。

「あっ、芋虫。

 焼くと美味しいんだよ。

 フィナ姉ちゃんと食べたことがある」

 そう言って大きくなった芋虫を抱き上げるアイナ。

 

 目は狩人の目だ。

 芋虫はアイナの食糧だったらしい。

 

 その言葉を聞いたシルクモス? の幼虫は怯えたのか震えていた。

「ダメだぞ、この芋虫はシルクモスって言ってな、糸を吐いてもらわなければならないんだ。

 食べちゃダメ」

と俺が言うと、

「うー、残念。

 本当に美味しいんだけどなぁ」

「俺も芋虫っぽいのを食べたことがあるから美味いのは知ってはいるが、今回はダメ」

「うー、わかったあ。

 我慢する」

アイナは渋々承知した。

心なしか、シルクモス? の幼虫はホッとしたようである。

「シルクモスと言ったな?

 服の素材としては最高級ではないか。

 儂でも持ってはおらん」

 次は義父さんのようだ。

 興奮気味に言う。

「ああ、私のこの服がくたびれてきたので、替えの服を作るためにシルクモスの幼虫を連れてきたんです」

 俺はスーツを摘まんで言った。

「まあ、まだ糸の段階ですから……。

 そこからは、『糸繰り』して、『布作って』って感じです。

 最低一カ月はかかると言われました」

「そうだろうな。

 マサヨシよ知っておるか?

 シルクモスの服は強く、鎧と遜色は無いと言われている。

 更には軽く着心地もいい。

 その服はダンジョン攻略で役に立つだろう」

「ガントさんも言っていました。

 楽しみですね」

「そこで相談なのだが……」

「何でしょう?」

「儂も欲しいのう……」


 相当欲しいようだが、ジジイのモジモジは要らない。


「シルクモスの幼虫そのものが手に入りましたから、布ができたら追加でガントさんに頼んでみましょう」

「そうか!

 頼んだぞ」

 そう言って義父さんが俺の肩を叩いた。



 早速俺はガントさんの店に向かい、連れて帰ったシルクモスを見せた。

「お前、コレ……」

 ガントさんはシルクモス幼虫を見たことがあるのか、異様に大きい幼虫たちを見て驚いていた。

「すみません、蛹は見つからなくて、幼虫になりました。

 暴れられたら困ると思って言うことを聞くように隷属化したんです。

 シルクモスから進化したらしくて……こんなになった訳で……」

 俺は進化して別の魔物になっていたらと思い、少し心配していた。

「魔物が上位に進化するほどの能力差。

 お前、バケモノか?」


 おっと、バケモノ認定いただきました。


「糸は吐くんだろうな」

 ガントさんが聞く。

「ええ、ちょっと吐いてもらえるか?」

 と俺が言うと、

「「「ギ」」」

 と声を出し、シルクモス? は口から机の縁に糸を少し吐きだしてくっつけた。

 それをガントさんはナイフで切り取ると、

「いつものシルクモスより少し太いな。

 しかし、糸の質はいい」

 と言って、糸を撚ったり引っ張ったりしている。

「いつもより少ない本数で糸を作ればいいか……。

 このシルクモス、言うことは聞くのか?」

 ガントさんが糸を見ながら振り返らずに聞く。

「お前ら、このガントさんって人の言うことを聞くんだぞ」

 と俺が言うと、

「「「ギ」」」

 と言って縦に首を振る。

 この一言で、シルクモス? の幼虫に「ガントさんの言うことを聞く」

 という制約が入った。

「さっきみたいに少し糸を吐いてくれるか?」

 とガントさんが言うと、

「「「ギ」」」

 と言ってシルクモス? の幼虫は糸を吐いた。

 問題ないようだ。

「あとは任せろ。

 それじゃ、こいつらを少し預かるぞ」

 そう言って、シルクモス? の幼虫を抱えて奥の部屋へ向かう。

 ガントさんは振り返り、

「布ができて染色、裁断が終わり、仮縫いができるようになったら連絡をする。

 クラウス様のところで良かったな」

「ええ」

 そう俺が返事すると、ガントさんは奥に引っ込んだ。


 さて、これも時間待ちか……。

 どんなものができるのか楽しみだな。


 そんな事を考えながら、ガント衣料品店を出るのだった。


読んでいただきありがとうございます。

そして、誤字脱字の指摘、大変助かっております。

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