第51話 コタツは人をダメにするようです。
冬ということでいいのだろうか。
オウル側の屋敷の外は少し暖かく。
メルヌ側の屋敷の外には雪がちらつく。
とは言え寒い。
寒い季節はやはりコタツだろう。
ただ、コタツがある訳でもなく、コタツ布団など更にない。
オウル側の屋敷の倉庫を漁っていると、使われなくなったテーブルを見つけた。
テーブルの大きさは一辺が一メートルより少し大きな正方形。
「義父さんの車いすが丁度入るサイズかな?」
コタツ布団は適当に大きな布団を見繕ってもらって、そこに掛ければいいか
「魔石かぁ……」
この前オークキングの解体をした際、スイカ大の魔石を手に入れていた。
木漏れ日亭で見た魔石を使った魔道具を思い出す。
クリスは寒いのか、コートを羽織り、暖炉の前に居た。
「クリス、魔道具の作り方って知らない?
お前、一番年上だろ?」
「バカっ、私より年上が居るでしょ?
リードラなんて千歳超えてるんだから……。
間違えないで!」
おっと、怒られた。
あまり差が無いと思うが……。
この世界でも女性は年齢に敏感らしい……。
「おお悪い悪い。
クリスが一番俺と居るから、勘違いしていた」
「そりゃ、私が一番最初に会ったから、一番一緒に居るのは間違いないけども……」
ん?機嫌少し良くなった?
「さて、魔導具よね。
魔石を媒体にして、少ない魔力で魔法を発動させ、生活や戦闘で活用するのが魔道具。
だから、魔道具を作るには魔石が必要なの。
魔法を発動させる物に魔石を取り付け、目的の魔法を発動させる。
もし魔石が無いと、魔力が少ない人ではその事象を発動させるのは難しい。
あなたのように魔力が豊富な人は別としてね」
「転移の扉は魔石を使っていないんだが、家の者は使っているぞ?」
「それは多分、あなたの職業的能力なのかもしれないわね。
創魔士、魔を創る者の事でしょ?
その中に、魔道具も入っていると考えてもいいと思う。
それに、あの扉は登録すれば誰にでも使えるように考えて作った物。
だから、その通りのものができあがり、皆が当たり前のように使える。
でもね、だからと言ってあなたのように簡単に魔道具を作れるというわけではないの。
「つまり、俺ならば魔石が無くても魔道具が作れると考えればいい訳か」
「多分ね」
「じゃ、この魔石は仕舞っておくか」
そう言って、魔石をクリスに見せると、
「何よ、その魔石の大きさ!」
と、引いていた。
「この前倒したオークキングの魔石。
魔道具に使おうかと……」
「バカね、それは置いておきなさい。
魔石には魔力を溜めることができる。
魔力を溜めれば、その魔力を皆に分けられるのよ」
「そんな使い方もあるのか……」
「そう、そんな使い方もあるの。
で、何を作るつもり?」
「んー、コタツだね。
向こうの世界の最強堕落暖房器具。
義父さんの執務室に置こうかと思ってるんだ。
最近はオウル側の執務室に居るけども、オウル側の執務室は寒いから」
「最強堕落って……」
「多分、コタツで丸くなる奴が出てくる
まあ、楽しみにしてて」
そう言って、俺はクリスから離れた。
「ミランダさん、ちょっといい?」
俺は掃除をしていたミランダさんに声をかけた。
「何でしょう?」
「倉庫にあったこのテーブルってもう使ってないんでしょ?」
俺は、収納カバンからテーブルを取り出した。
「ええ、そのテーブルは先代が衝動買いしたもので、あまりに小さいために使われていないものだと聞いています」
「だったら、適当に加工しても?」
「良いのではないでしょうか?」
「あと、このテーブルに被せられそうな正方形の布団って無いかな?」
「そうですねぇ……」
ミランダさんは少し考え、
「倉庫にある物は使っても問題ありません。
ただ埃っぽいと思うので一度干すことをお勧めします」
「了解、ありがとう」
庭先に出てテーブルを出すと、超高圧水をイメージして人差し指から噴射させる。
材料の木が綺麗に切れ、天板とやぐらに分かれた。
俺はコタツをイメージしてやぐら側に魔力を送り込む。
手で触り「暖かくなれ」と言うと、やぐら自体が温まるのを感じた。
「本当は、発熱体を中央に置けばいいんだろうけど、やぐらが発熱するほうが周りから暖かいからいいか……」
「もう少し暖かく」とか「もう少し温度を下げて」とかいろいろな言葉を使ってみたが、コタツの魔道具は、その意見に応え、微妙な温調をしてくれるのだった。
一応、手で触ってヤケドしない程度までというリミッターも作っておく。
「うし、コタツ完成。あとはコタツ布団だな」
俺は出来上がったコタツを仕舞うと倉庫に向かった。
「あっ、マサヨシ様だぁ」
「おう、ベルタ。
頑張ってるか?」
「頑張ってるよぉ!」
ガッツポーズで応えるベルタ。
「こら、ベルタ、ご主人様にそんな言葉遣いしちゃダメでしょう?
それにしてもご主人様、どちらへ?」
マールも声をかけてくる。
「ん?
倉庫。
寝具を捜しにね」
「寝具で足りない物がありましたか?」
「今のところ無いねぇ」
「ではなぜ?」
「それはな、義父さんに魔道具をプレゼントしようかと思ってね。
その魔道具に布団が必要なんだ」
「私も一緒に行ってよろしいでしょうか?」
「いいけど、仕事は?」
「掃除、洗濯、食事の片付けは終わっております。あとは夕方からですね」
「私も行きたいぃ」
「わかったよ、三人で行くか」
俺が許可を出すと、
「「やった」」
とマールもベルタも喜んだ。
「マールもそんな喜び方をするんだな。
ベルタには厳しいのに」
俺がそう言うと、
「ご主人様は意地悪です。
私だってご主人様と動けるのは嬉しいのに」
そう言って拗ねるのだった。
再び倉庫に入り、予備の寝具を漁る。
「ご主人様、魔道具と言うのはどのような物なのですか?」
「ああ、こんな感じ」
さっき作ったばかりのコタツを外に出した。
「この台の上に毛布と布団をかけて、板を置いて、ココに入るんだ」
倉庫にあった椅子に座り、コタツに入る。
と言っても、かけるコタツ布団が無いから間抜けだ。
「それでは私がこのコタツという魔道具に合う布団を作りましょう」
とマールが言った。
「あっ、この毛布軽い」
ベルタが大きな毛布を取り出した。
「これは、マウンテンシープの毛の毛布。
なかなか手に入らないんです」
「珍しいな、縦と横が同じ長さの毛布なんて……」
「えーっと、多分ですが……二人の女性と寝るための毛布だと思います。
真ん中に主人。
両端に夫人か愛人……」
言い辛そうにマールは言った。
「でもこれなら、この魔道具には合いそうですね。
それではこれを布団の上にかけるとして、布団は……。
あっ、これも薄いけど使えますね。
これを置くようにしましょう」
仮にマールの選んだ布団をコタツの上に置き、その上からベルタの選んだ毛布を掛けた。
「おっ、いい感じ。
でも、布団は少し大きいな」
「私にお任せください。布団の直しをしましょう。
ベルタも手伝ってくれる?」
「うん、任せて」
「俺も手伝うが?」
と言うと、
「ご主人様に手伝わすわけにはいきません。
それに、我々二人でやらないと、ご褒美も貰えません」
「そうそう、何かご褒美が欲しい」
マールとベルタが言った。
「何がいい?」
と俺が聞くと、
「フィナさんのお菓子がいいですね」
「うん、ホットケーキ美味しいから」
と、嬉しそうに言った。
数日すると、コタツ用の布団が出来あがった。
オウル側の義父さんの執務室に行くと、暖炉があるとはいえ寒い。
「どうした、何だそれは?」
「ああ、これは私が作ったコタツという魔道具です」
コタツを義父さんの前に置くと、コタツ布団をめくり、車いすごとコタツの中に入れる。
「おお、これは暖かい」
「台を触って温度を上げたいとか下げたいとか考えれば、中の温度も変えられるのでお使いください」
「うむ、助かる。
しかし、このままでは寝てしまいそうだな」
「そうですね、コタツは人を堕落させます。
お気をつけてください」
そう言うと、俺は執務室を出るのだった。
自分にもコタツが欲しくなって、リビングに大きなコタツを作る。
倉庫を漁り、その中で一番大きなテーブルを使うことにした。
横になって使うために程々の高さに足を切る。
ゴロ寝がしたいので、下にカーペットを敷いた。
カーペットを魔道具化して、下からも温まるようにした。
寝具店で大きな布団を捜しそれをコタツ布団にする。
これも複数の女性と寝るための物らしい
貴族の趣味?
ああ、嫁さんが多いからか……。
出来上がったコタツの周りにクッション代わりに枕を数個ばらまいておいた。
靴を脱いでコタツで暖まりながら横になっていると、アイナが靴を脱ぎ、もぞもぞと俺の横に入ってきた。
「冷たっ」
俺の背中に冷え切った手を入れてくる。
「おー、暖かい」
「そういう使い方じゃないんだがなぁ……。
この中も暖かいだろうに」
「直接くっつけるほうが温かい。
直接抱き着いたほうがもっと温かい」
アイナはそう言って、後ろから抱き着いてきた。
俺には子は居なかった。
同僚に子供ができて大変だと笑いながら言っていることがわからない。
ただ「こういうのもいいなぁ」と思う自分が居た。
「これ何?」
「なんだこれは?」
クリスとリードラもやってくる。
「コタツっていう暖房器具。
カーペットの上とこの中だけが温かい」
俺は説明した。
「どれどれ……
あっ、ほっこりする」
「ん?
おっ、確かに出たくなくなるな」
背中からスースーと寝息が聞こえ始めた。
「あーあ、アイナ寝たか……」
アイナが起きないようにゆっくりと体を動かし、頭を枕に乗せた。
「枕があるのは寝るため?」
「いいや、クリス。
寝るためもあるんだが、この枕にもたれたり、座ったりするためのものだな。
本当は『座布団』や『座椅子』って言うのがあるといいんだが、このへんは椅子の文化で床に座って暮らす文化が無いから作られていないみたいだ」
「このコタツなら暖まりながら何かできるわね」
「まあ、コタツで遊んだり勉強したりしてたよ。
そういや嫁さんの足が冷たかったら、手で温めたりしてたっけ」
「主よそれをやってもらえんか?」
「俺がリードラの足を温める?」
「我の足は基本素足での。
靴も鱗を変えているものだから、結構冷えるのだ」
「まあ、いいけど……」
そう言うとすぐ、リードラが俺の対面に座り足を延ばしてきた。
「確かに冷たいな。
というか、魔法とかで温められるだろうに」
そう言いながらリードラの足を手で擦った。
「おお、主よこれはいいぞ。
主の手が温かい。
そして我の足も温まる」
「一応魔法で手も少し温めてるけどな。
ついでに足つぼでも押しておくか?」
そう言って、許可も得ずに効きそうなツボを押すと、
「イダダダダダ……。主よ、痛い」
ドラゴンが猛烈に痛がる姿が見えた。
「リードラ、大げさなんだから……。
私にしてみてよ」
クリスがそう言ってきたので、ツボを押す。
「痛い痛い痛い!
力入れすぎ!」
とめっちゃ怒られた。
「ほとんど力入れていないんだがな?」
すると、エリスが来たので、
「ちょっと、こっち来て足を出してみ」
と俺が言うと、
「はい」
とエリスは素直に足を出す。
足の裏のツボを押すと、
「あっ、それ気持ちいいです。
お母さまも疲れているみたいなので、そう言うのをやってあげてください」
と、カリーネの全身マッサージを勧められる。
エリスの押しが強いんだよな。
「ほら、歳を召したお二人だから痛いようですよ?」
皮肉込みで俺は言った。
「我は長命種のドラゴンなのだから仕方なかろう?」
「私も長命種のエルフだから仕方ない」
「そういうことにしておきますか」
このコタツは休憩所のようなものになった。
このコタツの場所に行けば誰かが居る。
リードラが寝てしまって鼾をかいていたりするなか、義父さんがセバスさんやミランダさんとコタツに入って話をする。
その傍でフィナとエリスが遊び、アイナが勉強をしていた。
春まではこんな感じかな?
コタツを使うと動きたくなくなってごろごろして堕落するものだが……。
まあ、たまには堕落するのもいいんじゃないだろうか
そう思ってコタツで横になり、居眠りをする俺が居た。
読んでいただきありがとうございます。




