第49話 口は禍の元なんです。
目を覚ますと、隣にリードラ。
まだ、夢の中のようだ。
水を飲み目を覚ますと、
「それじゃマールさん、今日から頼むわね」
部屋の外からミランダさんの声が聞こえてきた。
スーツを着て部屋を出ると、一階にミランダさんとマールさん、ベルタが並んでミーティングしていた。
上からマールさんを見てみたが、マールさんの銀色の髪に黒い肌、コントラストが凄い。
あまり気にして見ていなかったがモデル並みの体形。
アッテルバリ子爵が手を出そうとするのも頷ける。
まあ、俺は手を出す気はないと思うが……。
「私の若いころの服が合ってよかった」
と言う声が聞こえる。
えっ、ミランダさんもモデル並みだったってことなのか?
見る影がないな。
その横にちょこんとベルタ。
小さなメイド服にへアドレスをつけていた。
「ベルタちゃんはマールさんに付いて仕事を学ぶように」
ミランダさんの言葉に、
「はい」
とベルタは大きな声で答えていた。
上から覗いている俺に気付いたマールさんが、
「助けていただいて本当にありがとうございました。
更にはここで雇っていただいて……」
と、言ってきた。
俺は階段を降り、
「ん?
ああ、マールさんたまたまだよ」
と言う。
「でも、食事さえ食べられませんでしたから、あのままでは私にあるのは死のみでした。
マサヨシ様が恩人であるのには変わりありません」
「まあ、義父さんは最低限の人しか置いてなかったから、マールさんのようなメイドが俺んちで働いてくれて助かるよ
俺が言うと、
「誠心誠意、尽くさせていただきます」
と、マールさんは頭を下げる。
「あと、『さん』要りません。
あなたは私の主人です。
呼び捨てになさってください」
そう言って「ずい」とマールが詰め寄った。
「おう、マールな。
わかった」
俺が言うと、マールは嬉しそうに「そうです」と言って頷いた。
「じゃあ、私はベルタって呼んでね」
ベルタも近寄ってくる。
「おっ、ベルタも似合ってるじゃないか」
「えへへっ。
村じゃこんな上等な服なんて着たことないよ」
スカートを摘み上げくるりと回るベルタ。
アランにボー、ベルタは口減らしで売られたと言うことだ。
子供を労働力として扱うところもあるらしい。
また、剣奴のような者に育て上げられることもある。
ベルタの場合はいつかのクリスのようなことになる可能性があったのかもしれない。
あの人身売買組織なら、まともな所へは行けなかったかもしれないな。
何にせよ一度ついたら外れない隷属の紋章。
ちゃんと育てないとな。
まあ、今はそんなことはどうでもいいか……。
今は三人が楽しそうなら……。
そんなことを考えていると。
「ベルタ!
主人に対してその言葉遣いはいけません」
マールがベルタを叱った。
「いいよ、昨日の今日で変われるはずがない。」
と俺は言う。
「しかし……」
困った顔のマール。
「でもな、ベルタ。
ちゃんとした言葉遣いができるということは、俺の教育が良いということになるんだ」
「教育が良いとどうなるの?」
「メイドにちゃんとした教育をする貴族だと義父さんや俺が周りから褒められる。
『マットソン子爵のメイドは教育が行き届いている』ってね」
まあ、俺のためとは言わないが、義父さんのためにちゃんとした言葉遣いをマールやミランダさんから学ぶように」
「うん、わかった」
と、ベルタが返事をすると、
「畏まりましたでしょ」
と、マールが苦笑いで注意していた。
少し賑やかになった朝食を終え、紹介状を持って玄関から外に出ようとしていると、
「今日は私が行く」
アイナが俺の腕を取った。
なぜか、聖騎士の剣を腰につけている。
「騎士団に行くだけだぞ?」
「それでもいい」
じっと顔を見るアイナ。
引く気はないようだ。
「『ちょっとした試験』というのが気になるので、一人で行こうかと思っていたのだがな」
「マサヨシなら、何があっても大丈夫」
二ッと笑うアイナ。
「わかったよ、でも静かにしておいてくれよ」
「うん、わかった」
俺はオリハルコンの長剣を収納カバンから出して背負うと、アイナと手を繋ぎ、王都騎士団へ向かった。
王都騎士団の騎士団詰所入口。
そこには門番が居た。
「すみません、取り次ぎをお願いしたいのですが」
そう言って、義父さんの手紙を見せる。
子連れの太った男が体長ほどもあろうかという剣を持ち、門番に言い寄る姿。
紹介状を持って仕官しに来た騎士崩れにしか見えないな……。
いぶかしげな眼をして門番が俺を見たが、手紙にあるマットソン子爵の蝋印に気づき、
「ちょっと待っていろ」
と言って、門番は騎士団の詰め所の中に入っていった。
「ヘルゲ様がお会いになるそうだ。
付いてくるように」
その言葉に従い、俺たちは門番に付いていく
そんな中、騎士たちが木剣で訓練をする姿が見えた。
「あれぐらいなら、私もできる」
アイナがボソリと言った。
ジロリと睨む門番。
「あっ、すみません」
俺は門番に謝ると、
「ダメだろ、頑張っている人にそんなこと言っちゃ」
「だって、屋敷でクリス姉ちゃんやリードラ姉ちゃんと練習しているほうが厳しいよ?
それに、あそこにいる騎士たちぐらいなら、マサヨシ一人でも勝てるでしょ?」
あー、それはここで一番言っちゃいけない奴。
「静かにしておくって話じゃなかったっけ?」
思い出したのかアイナが両手で口をふさぐ。
口は禍の元。
アイナ、すでに盛大なフラグが立っている。
「一度口に出した言葉は戻らないんだ」
「ごめん」
しゅんとするアイナ。
「騎士というのはやはり強さが必要なんだろうな。
だから、強さをバカにされることを嫌う。
ほら、門番さんが怒っている。
それにな、そこで訓練していた者たちも睨んでいるぞ?」
俺は「はあ」とため息をつくと、
「文句は後で私が聞くので、とりあえずヘルゲ様のところに連れて行ってもらえませんか?」
すると、門番はクイと顎で俺たちを呼び、歩き始めた。
門番が大きな扉の前で、
「客人をお連れしました」
と声を上げる。
「入ってもらえ」
低く響くような声が中から聞こえると門番が扉を開け、俺たちは中に入った。
赤銅色の肌にがっしりとした体。
顔には戦傷(戦傷)なのか片目が潰れており、前の世界で言う赤鬼のような風貌の中年の男が立っていた。
そして、門番はヘルゲ様に耳打ちをすると部屋を出て行く。
さっきのことを告げ口したな……。
「お前が、鬼神の義理の息子になる男か?
覇気がないが?
その娘が言ったように本当に強いのかな?」
ほら、やっぱり告げ口じゃん。
「わかりません。
強い部類に入るのでしょうが、上には上が居ますから」
「しかし、その重いオリハルコンの剣を背負って軽々と歩けると言う事は、それなりの力は備わっているのだろう。
その辺のことについては後で聞くとして……」
あっ、居残り決定だ。
「ヴァルテル・アッテルバリ子爵の手紙というのは?」
「これになります」
俺は手紙の束を取り出した。
ヘルゲ様はそれを受け取ると目を通す。
そして険しい顔をすると、
「ふむ、これは預かっておこう」
そう言ってヘルゲ様がベルを鳴らした。
一人の騎士が現れ、
「これを精査しておけ」
と言ってヘルゲ様が手わたすと、その騎士は出ていくのだった。
「さて、そこの娘。
私が怖くないのかな?」
「んー、クラウスお爺様のほうがもっと強そう」
と、アイナは言った。
どういうこと?
ヘルゲ様は
「うあっはっはっは」
と大きな声で笑うと、
「正直なことを言う娘だ。
私はクラウス殿に一度も勝ったことがない
しかし、儂の漂わせている威圧に何も感じないとはな」
「そのくらいの威圧なら、クラウスお爺様も出せるし私も出せる」
「えっ、ヘルゲ様から威圧なんて出てたの?」
「マサヨシは鈍感だからこのくらいの威圧なんて感じないでしょ?
リードラに聞いたよ。
『私の威圧に気づかなかったのだ』って……」
「ははは……」
笑うしかない。
「先ほどの門番が言うておったのだが、『その娘でも騎士に勝てる』と言うたそうだな?
そして、お前も『練習をしていた騎士全員相手に勝てる』と言っていたとも聞いた」
と言ってヘルゲ様が俺を睨んだ。
後のは俺が言ったんじゃないんだけどなぁ……。
「まあ、その流れじゃ、実証しろというんでしょ?」
「そういう事だ」
ニヤリとヘルゲ様が笑う。
「面倒なんで無しには?」
そう言いながら俺は頭を掻いていた。
「さあ、訓練場に行こうか」
そんな俺を無視してヘルゲ様は訓練場へ向かうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
投稿予約を忘れていました。
すみません。




