第43話 愛娘のためとは言っても、自分の力を使い過ぎるのは憚られるようです。
「さて、帰るか。
そういえばエリスは俺んちに来てたんだよな?」
「そう、あなたの屋敷に行ってるわ
ここんところ、毎日ね」
と、カリーネ。
「そうじゃな、大体おるな」
リードラも同意する。
「カリーネの家にいる時間より、うちに居るほうが長いんじゃないのか?
うちで夕食食べてたり、アイナと一緒に義父さんと勉強してたりするぞ?」
「そう、入り浸りなの。
歳が近いアイナちゃんやフィナちゃんもいるし、一人でいるより楽しいみたい。
でも、まだ子供だから、あなたの屋敷まで一人で歩かせるわけにもいかない。
だからギルドの馬車を頼んでるんだけど、あまり私用で馬車を使うのもね……」
そう言えば、うちの入口までは、馬車で来てたな。
「ふむ、じゃあ、扉を作るか?
カリーネの家に連れて行ってくれる?
そうすれば、俺が魔道具を作るから」
「えっ、魔道具?
どんな?」
「んー、場所と場所を繋ぐ扉?
知ってるだろ?
メルヌとオウルを繋いでる扉のこと」
「それを私の家に?
つまり私の家に来るのよね?」
急に汗マークが現れるカリーネ。
「仕事が終わってからでいいけど……」
「えっと……片付けるから待ってくれない?」
待ったをかけるカリーネだが、
「見せたくない?」
と聞くと、
「だって、忙しくて、洗濯も休みの日に一気にしているから
洗濯物も溜まってるし、掃除もできていないし……」
と言って、見せたくないようだ。
「意外と家庭的なんだな。
全部メイドに任せているのかと思ってた」
「メイドなんて居ないわよ」
「えっ、カリーネがここに居る時、家でエリスは一人なのか?」
驚いて大きな声が出る俺。
「えっ、ええ。
六歳ぐらいまではこの部屋で一緒に居たの。
でも、最近は私の邪魔になると思っているのか、一人で家にいる事が多い。
家は冒険者ギルドから近いし、寂しくなったら私のところに来るんだけどね。
メイドも雇おうかと思ったんだけど、あの子が要らないって」
立地条件でフォローしている訳か……。
そりゃ、いくらなんでも事業所内保育所なんて無いだろうしなぁ。
「だから、冒険者ギルド内で顔が通っていたのか……」
「そうね、みんなが見てくれてるって言うのもある。
それにここ最近はあなたのところに行くから安心できるし」
本当はエリスと一緒に居たいのだろうな……。
目に見えないというのは不安だろうし……。
「やっぱりエリスが一人で俺んちに行けるように扉を作ろう。
カリーネもその方が安心できるだろう?」
「いいの?」
上目遣いで俺を見るカリーネ。
「主が良いと言っておる。
主の周りに居る者は『たまたま』が縁で集まったものばかり。
エリスもその『たまたま』の一つなだけ、気にするでない」
リードラがニヤニヤしながらカリーネに言った。
「言いたい事を言いやがって」
俺は頭を掻くと、
「まあ、そう言うことだ。
遠慮しなくていいからな」
「じゃあ、お願い」
申し訳なさそうに言うカリーネ。
こうしてカリーネの許可が出るのだった。
「これがオリジナルね」
そうやって俺はどこにでも行ける扉を出す。
オウル側の玄関に繋ぐと扉を開けた。
「?」
急に現れた扉から見えるグランドマスターの部屋を見てキョトンとしたエリスが俺んちに居た。
「えっ?」
カリーネがエリスを見て目を開く。
「まずは家の倉庫へ行こうかと……。
魔道具の媒体になる扉が要るんでね」
俺がリビングに入ると、リードラも続いた。
そして、恐る恐るカリーネも入ってくる。
「お母さん、マサヨシさん凄いね」
後ろに付いたカリーネを見上げエリスが言う。
「ええ」
カリーネも驚いているのかボーっと見ていた。
倉庫に行って扉を一枚持ってきても、まだ固まっている二人。
「をーい、カリーネ結局仕事終わりで行ったほうがいいのか?
それとも、エリスに連れて行ってもらえばいいのか」
「えっ、おうちに来るの?」
その言葉にエリスが喜んだ。
「この家に来るのに、いつも馬車で来ているだろ?
エリスが嫌じゃなければ、エリスの家とこの家を繋ごうかと思うんだ。
ダメかな?」
「でもマサヨシさん、何で私の家に来る必要があるの?」
首を傾げて聞いてくる。
「俺は一度も行ったことのない場所とは繋げないからね。
申し訳ないが、一度家に行かないといけないんだ」
それを聞いたエリスが、
「だったら、ぜひ来て。
ちょっと散らかってるけど、今日はいつもよりましだから」
「エリス!」
真っ赤になったカリーネ。
まあ「ちょっと待って欲しい」と言ったぐらいだ、部屋が散らかっているのだろう。
「エリス、ミランダさんを呼んできて」
「はーい」
エリスはトタトタと走っていく。
「ミランダさんって……」
カリーネが呟くと、ミランダさんを見つけたエリスが連れてきた。
「マサヨシ様、何でございますか?
お呼びと聞きましたが……」
「ああ、俺がカリーネの家とこの家を繋いだら、俺と掃除に行って欲しいんだ」
ミランダさんは、
「わかりました。エリスちゃんのおうちですからね」
隣にいるエリスを見てニッコリ笑った。
そのままカリーネとエリスといっしょに冒険者ギルドに戻り、その後エリスに付いて家に向かう。
歩いて五分。
好立地だな。
「ココが私んち」
二階建てのアパートの二階だった。
鍵を開けると、ダイニングとキッチンが広がる。
大学時代に住んだ1DKの部屋を思い出す。
「男の人を上げるのは初めてなんだ」
モジモジしながら嬉しそうに話すエリス。
「んー、そう言うのは、好きな人に言おう」
「私、マサヨシさん好きだよ」
キラキラした笑顔で俺を見ていたが、
「はいはい」
と流す。
「あー流した!」
ちょっと怒ったようなエリスの声を聞きながら中に入った。
確かに食器とかも水に浸けたまま。
着替えも散らかってる。
下着もあるなぁ。
下着の匂いを嗅ぐ変態でもないし。
とりあえずまとめておくか。
倉庫から取り出した扉を取り出すと興味津々のエリスは俺の横に付く。
「さて、この扉に魔力を流してっと……。
目的地はこことオウルの館ってことでで……」
すると、扉が自立する。
「凄い、立った」
そう言って、キラキラした目でエリスが扉を見ていた。
おっと尊敬の目?
扉を開けると、屋敷の玄関が見える。
既にミランダさんがバケツとぞうきん、はたきを装備して弁慶のように仁王立ちしていた。
「よろしくお願いします」
と俺が言うと、
「やりがいありそうです」
と言って腕まくりをするミランダさん。
「私も手伝う」
とエリスが言うと、
「それじゃ、一緒に掃除しようか」
と言ってミランダさんとエリスは掃除に向かった
夜になり夕食が終わったころ、カリーネがエリスを迎えに扉からやってきた。
「部屋がきれいになっていたわ
ありがとう」
俺を見つけたカリーネが頭を下げた。
少し、元気がない。
そして、少し飲んでいるようだ。
「お疲れさんだな」
「ちょっと……ね」
「まあ、家の事はいいじゃない。
ミランダさんがエリスのためにしたことだ。
エリスの人徳だよ」
「私って母親失格?」
いきなり俺に聞いてくる。
「見た感じ、素直に育ってると思うけどな。
でも、子供に手をかけたからと言って素直に育つとは限らないし、手を抜いたから子供がまっすぐ育たないとも言えない。
結局子供がどう受け取るかだろ?
多分小さいながらもカリーネの事を見てたんだよ。
だから、エリスはカリーネの事を考えて俺の家に来ることにしたんだろうなぁ。
俺のところに来ればカリーネが安心できると考えたんだろう。
胸張っていいと思うぞ、エリスはいい子だ」
「でも、それは私がしたことじゃない」
「リードラが言っていただろう?
たまたま起こったこと。
『縁』という物だよ。
俺はエリスが俺の家に来るというなら喜んで迎え入れる」
「私は?」
甘えるように俺を見上げるカリーネ。
「嫌がっているように見えるか?」
「見えない」
「だったら、そういう事。
カリーネの家とは繋がっているんだ。
好きな時に来ればいい」
「うん、ありがと」
カリーネはそう言って軽く抱き着いたあと、エリスの元へ行くのだった
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