第37話 皆に報告したいと思います。
屋敷に帰ると、リードラ以外のクリス、アイナ、フィナに嫁さんと会ったことを説明した。
ついでに俺が別の世界から来たことも言った。
「私は知りませんでした。マサヨシ様が別の世界から来たということを……」
「私も……」
フィナとアイナが呟く。
「だからって何か変わるって訳じゃないんだけどな。
どうせ戻る手立ても無いし、ここで生きていくしかないんだが」
「で、どうだった?」
クリスが聞いてきた。
「姿は変わっていたが、性格は変ってはいなかったようだ」
苦笑いする俺を見て、フィナはなぜか悲しい目をした。
「あっ、俺は妻の呪いで、この体型から変わらないみたい。
まあ、今更だがね」
「今更よ」
「そう、今更だな」
「お腹が気持ちいい」
アイナは俺の腹の上でよく寝る。
「今更です」
フィナが言った後、
「それに体形で好きになったのではないですからね」
最後に締めた。
「いいところを持っていかれたわ」
クリスが言う。
それに頷くリードラとアイナ。
フィナに視線が集まると、
「いいじゃないですか。本当のことなんですから」
姿勢を正し堂々と返した。
俺に視線が集まる。
「照れてる」
アイナがニヤリと笑う。
「そんなこと言われたら、そりゃ照れる」
そう言うと皆に笑われた。
「まあ、そういう事でダンジョンを攻略しなきゃいけなくなりました。
ダンジョンに行きたい人!」
と俺が言うと、
サッ
フィナ以外の手が挙がる。
「私は無理です。
弱いから……。
でも毎朝、美味しいお弁当を作りますね。
夜は帰ってくるんでしょ?」
「ああ、できるだけ帰ってくる」
「だったら美味しい夕食を作って待ってます!」
フィナの優し気な笑顔。
「ありがとな!」
昼も家に帰るって手もあるのだが、弁当もありがたい。
さて、ダンジョンに行く側だな。
「アイナの武器が聖騎士の剣で決まったが、防具をどうするかだ。ちょっとカバンの中を漁ってみるよ」
俺は収納カバンを探してみた。
分別されたリストの中から聖女の服を見つけた。
素材が良いのか服のくせに防御力が高い。
「名前からしてアイナ用っぽいが、聖女の服ってのがあるんだけど使うか?」
「使う」
アイナが即答した。
俺は聖女の服を取り出すと、中から、肘や肩、膝に補強の入った白い服の上下とそれに付属したマントがついていた。それに合わせるのはグレーのブーツ。
ワイバーンの皮でできているらしい。
「武器は聖騎士の剣で……こんなんでいいか?」
ヨイショ、ヨイショとアイナが着替えると、剣士風の少女が出来上がった。
「この剣、杖代わりになる。戦いながら回復魔法が使える」
剣の先にポッと光を灯した。
「頭には慈愛のサークレットってトコかな?」
俺がアイナに渡すと、アイナは頭に付けた。
「おお、可愛いのう。コレなら一端の剣士に見えるぞ」
「そうね、剣の腕もミケル様のところで鍛えられてるから、実際に剣士としても通用するんじゃないかな」
リードラとクリスが言った。
「アイナちゃんカッコいい」
フィナも言う。
「フィナに負けないように私も頑張る。
それに、クリスにも負けたくない」
アイナがクリスを見て言った。
ライバル宣言らしい
「あら、張り合うのねぇ」
ニヤリと笑うクリス。
「我も負けんぞ?」
リードラも張り合う。
結局フィナも。
「私は、マサヨシ様に美味しい食事を作って待っています」
と言って、戦闘系ではないところを主張し。
俺の胃袋を掴む気満々なようだった。
事情を話し終わって、その日の夜。
珍しくクリスが俺の横に居ない。
「リードラと話してくるわね」
と、含みのある笑顔をしてリードラの部屋に行った。
俺は布団に入り寝ていると、キイと扉が開く音がした。
「クリス、戻ってきたのか?」
そう聞いたが、返事は無い。
しかし、気配は俺に近づく。
そして、誰かが布団の中に入ってきた。
ん?
震えてる?
「誰だ?」
布団をめくると寝間着姿のフィナ。
「どうした?」
「アイナも行ってるし。
私もって思って……」
「なぜ震える?」
「だって、男性となんて一緒の布団に入ったことないし……」
「そんなに怖いのになんで俺の布団に入ってきた?」
俺が聞くと、フィナが心配そうな顔をして、
「マサヨシ様無理してませんか?」
と聞いてきた。
「無理?
してるつもりは無いんだがな」
「奥さんの話をしていた時、少し元気が無かったので」
会って見えたからってどうにかなるわけじゃない。
結局、約束をしただけ。
「後悔って奴かなぁ……。
世界が違えば『どうにもできない』ってのはわかってるんだけどねぇ……」
独り言のように俺は言った。
「知っていますか?
この世界では十二歳で成人とみなされます」
フィナからのカミングアウト。
「だからって、フィナは俺に何をする?」
「私をあげます。
父さんに死なれ、アイナちゃんとゴミ箱を漁る生活。
寒い日は二人で抱き合って寝ました。
マサヨシ様はそんな生活から助け出してくれました。
だから、私はマサヨシ様に恩返しをしたい。
私のみすぼらしい体でいいのなら、使ってください」
震えながらフィナが抱き付いてきた。
体を使えって?
震える子供で心を慰めろって?
俺は頭を掻きながら
「情けないねぇ……。
こんな子に心配されるとは……。
正直、あの時フィナやアイナが居なくて別の子だったら、多分ここに居るのはお前じゃないんだ。
だから、そんなに恩を感じなくていい」
と言った。
すると、フィナがシュンとする。
「でも、やっぱり恩を感じるんです。
だから……」
再びの言葉。
「ふう」
と言って俺は一つ大きなため息をつくと、
「俺は幼子に手を出す気はないよ。
たとえそれがこの世界での成人であってもね。
ただ、なぜか今日はクリスもアイナもリードラも居ない。
このままだと、布団が冷たいんだ。
だから。俺の抱き枕になってくれないか?」
そう言った。
「はい、私で良かったら」
フィナはそう言って、いそいそと俺の懐に潜り込む。
そしてそのまま俺の体に抱き付き、俺を上目遣いで見た。
耳をぴくぴくと動かし、尻尾がファサファサと動く。
嬉しいようだ。
そんなフィナを眺めながらフィナの背中をトントンとゆっくり叩いていると、ゆっくりと目を閉じ寝息が聞こえ始める。
緊張して疲れたのかね?
アイナもそうだが、男女同衾というよりは親子で寝てる感じだな……。
子供が居たらこんな感じか……。
成人したと言い張っているフィナには怒られるかね?
そんな事を考えていると、「フッ」っと鼻で笑ってしまった。
こんな俺に気を使ってくれたんだな……。
そのあとフィナの寝顔を見ていると安心できたのか、その寝息に呼応するように、俺も眠っていたのだった。
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