第30話 皮を確保してくださいとのことです。
「マサヨシ様、これはどういうことで?
私も初めて見ましたが、あれ全部神馬ですよね?」
興奮気味にサイノスさんは俺に聞いてきた。
「ああ、言うことを聞かなければ困るので隷属化したんだ」
「どんなステータスしてるんですか!」
サイノスさんは驚いて声を荒げたが、
「それは内緒です」
と返すと、
「義理とはいえ鬼神の息子になる男。
凄い強さということにしておきます」
と言って納得したようだ。
すると、
「それにしても、魔法書士なんですか?
免許を持ってるとは凄いですね」
とサイノスさんが俺に聞いてきた。
「免許は持っていないけど、やり方は教わりました。
まあ、モグリですね」
「お気を付けください、免許がないと訴えられることがあります。
今回はこの馬の契約書を私が持っていますから問題は無いと思いますが、折を見て試験を受けて免許を得ておくことをお勧めします。
魔法書士協会の本部がオウルにありますから、そこで講習を受けておいてください。
後付けでもいいと思います」
「くわしいんですね」
俺は聞く。
「ああ、冒険者をしている時に、魔法書士をしているという魔法使いとパーティーを組んだことがありまして、そこで教わりました」
「できるだけ早く免許を手に入れておきます。
ありがとうございました」
そう言って俺はサイノスさんに礼を言った。
じっと馬を見続ける、馬具屋の主人。
「マイノス、仕事をしてくれ」
サイノスさんが言うと、
「あっ、兄さん、あまりに見事な馬なので……。
えーっと、私はサイノスの弟マイノス。
馬具屋の主人をしています」
マイノスさんはサイノスさんより細身で眼鏡をかけている。
しかし、シャツの袖をまくった腕には筋肉がつき、鍛えられているのがよくわかる。
馬具製作には力が要るのかもしれない。
二人そろって馬好きのようだ。
「しかし、あまりに馬が見事過ぎて普通の素材ではダメです。
皮を重ねてもいいですが、やはりどこかで切れてしまう。
通常馬具にはオークの皮を使います。
戦馬でハイオーク以上の皮、神馬はわかりませんがオークジェネラルぐらいの皮は必要かと思います。
でないと馬具を作っても、馬の力に長くは持たず切れてしまうでしょう。
戦場で馬具が切れるということは、落馬、最悪を考えれば死を意味する」
「ちなみにオークキングは?」
俺が聞くと、
「オークキングの皮であれば十分以上ですよ。
鞣した皮がまず千切れることはありますまい。
しかし、最近はオークキングが出たと聞いたことはありませんが」
最近出たんです。
私が狩ったんです。
でも言って表には出せないんです。
「えーっと、道すがら狩った物がありまして」
そう言うと収納カバンからオークキングを取り出した。
「「うわっ」」
サイノス、マイノス兄弟はビックリして後ずさりする。
収納カバンの中は時間が止まっており、腐敗せず、倒した時のままのオークキングが現れた。
「何だそのカバンは?」
サイノスさんが俺に聞いてきた。
「俺にしか使えない魔道具で収納カバンと言います」
「魔道具ならば仕方ない」
となぜかサイノスさんは納得する。
簡単に納得したな。
魔導具という物が、当たり前に存在しているからかもしれない。
「これは見事な……」
マイノスさんがオークキングを見ている。
「しかしこのままではいくら私でも馬具を作ることはできません。
冒険者ギルドに行って、解体してもらってください。
その中から皮を貰い、鞣して革にして馬具にします。
騎乗用と馬車用になりますから、二か月ほどかかりますがよろしいでしょうか?」
「先に馬車用を作ってもらうとどのくらいになりますか?」
俺が聞くと、
「それでも一か月半はかかるでしょう。とにかく皮を鞣すのに時間がかかるのです」
「速ければ早いほうがいいという訳ですね」
「そうなります。
採寸はしておきますので、まずは解体して皮の確保をお願いします」
そう言うと、マイノスさんはアインに近寄って行った。
困ったような顔をするアインに、
「じっとしておけばいい」
と言うと、アインは軽く頷いていた。
「俺は、馬車の様子を見ておく。長い間使っていなかったせいで、痛んでいる所もあるだろう。
油も差さないとな」
そう言うと、倉庫のほうへサイノスさんも歩いて行った。
オークキングを仕舞い、オウル側の俺の部屋に戻るとクリス、リードラ、アイナ、フィナで話をしていた。
「クリス、冒険者ギルドに行ってくる」
「私も行く!」
「我もだ」
「私も」
「私は食事の準備がありますので」
クリスとリードラ、アイナ、フィナが言う。
残念そうなフィナ。
「じゃ、アイナで…」
と俺が言うと、アイナはガッツポーズ。
クリスとリードラがシュンとした。
「何でよぉ」
やさぐれたようにクリスが聞いてくる。
「あのな、クリスとリードラは美人だ。
だから、お前ら連れて行ったら、前みたいに絡まれるだろ?」
「美人」という言葉に反応した二人は、
「そうね、絡まれたら面倒だし」
「そうじゃな、面倒の元は絶たねば」
と納得する。
チョロい。
アイナが俺のシャツの袖を引き俺を見たので、
「アイナは可愛いぞ」
と言って頭を撫でると目を細めていた。
「フィナ、今度皆で外食しような」
そう言ってフォローもしておいた。
オウルの冒険者ギルドに向かう途中、
「これどうしてくれるんだ!
高いんだぞ!」
という大きな声が聞こえた。
野次馬が人垣を作っていたので覗いてみると、割れた花瓶に、怒る大人、泣く子供が居た。
状況を察するに、ぶつかった拍子に花瓶が割れたようだ
「すみません、すみません」
ぶつかった子はひたすら謝る。ただひれ伏して「すみません」を繰り返している。
狐かな?
大きな尻尾の獣人。服は上等。
男か女かまでは判断できない。
アイナが俺の袖を引っ張り悲しそうな目で俺を見た。
助けろということだろうな?
「ちょっと見せてみ」
俺は野次馬の輪の中から飛び出し花瓶を見せてもらう。
幸いにも粉々になっているわけではなく割れた面もきれいに残っていた。
できるか分からないが魔力を通し傷に沿ってなぞる。
切断面をくっつける感じで……。
アローンア〇ファ!
よし成功!
すると、傷もなく破片がくっついた。
パズルのような破片を次々とくっつけると、とヒビ一つ無い綺麗な花瓶が復活した。
「これで大丈夫かね?」
俺は男に花瓶を見せる。
「凄いな魔法か何かか?」
男は驚いて言う。
「そう俺の魔法だ。
解けて割れるなんてことは無いから安心していいよ」
俺が言うと、
「ああ、割れてないなら問題ない。
これは俺の主人の収集したものでな、『いいモノだ』とお気に入りなんだ。
割って帰ったりしたら俺も困るところだった助かったよ」
そう言って男は急いでその場を離れていった。
人垣もなくなる。
「終わったぞ?」
震えている子を起こすと体に着いた埃を手でパンパンと払い落とした。
「おわった?
花瓶は?」
顔を上げ俺を見た。
「直したから大丈夫」
子供の頭をワシワシなでる。
「お礼は?
悪い大人は私のような幼女でも、体を求めてくるってお母さまが言っていた」
「おいおい、俺、そんな趣味無いし。
「でも、小さな女の子と一緒」
子供が言うと、
「私はマサヨシのパートナー」
無い胸を張って、アイナが言う。
「ほら」
と、子供が疑いの目を向けてきた。
「だったら礼はいい。
と言うか貰う気もなかったがね」
と、俺が言った後、
「オジサンどこか行くの?」
と聞いてきた。
「ああ、冒険者ギルド」
「そこだから付いてきて!」
そう言うと走り出す。
おいおい気が早い。
レーダーもあるので問題ないんだけどね。
礼のつもりなんだろう。
「追いかけるぞ」
俺とアイナは急いで子供の後を追った。
駆け足で狐の子供を追うと、子供が入口の前で大きな尻尾を振って待っている。
何だこの豪邸は? どんだけ儲けてるんだこのギルド……。
そのギルドへトタトタと中に入って行く子供がいた。
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