第22話 いろいろ遅れましたが、王都に向かいましょう。
朝練が終わると、ミケル様が俺を呼ぶ。
「マサヨシ、もう俺が教えることは無いよ。
型は完全に覚えた。
あとはお前が型を元に実戦でどう使うかになる。
だから、お前の朝練は今日で終わりだ」
「そうですか、二か月ほどですが、ありがとうございました」
俺は頭を下げる。
「礼を言うのはこっちだ。
上が居なかった俺の目の前に立ち、上がいる事を教えてくれた。
でも、悪いな、俺ではお前の相手はできない。
クリス相手でさえ俺は勝てない」
申し訳なさそうなミケル様。
「最近連れてきたアイナって娘だって。
我が領兵の隊長に勝ってしまう。
マットソン子爵家にはバケモノが集まっているようだな」
「それは否定できませんね」
クリス、アイナ、リードラ……。唯一まともなのはフィナ?
「そういや、お前の借りが残っている。何かあったら俺に言うんだぞ」
ミケル様が言う。
「はて?そんなんありましたっけ?」
「クリスを賭けてマサヨシが戦っただろう?」
「ああ、そんな事もありましたねぇ。
でも剣を教えてもらいましたが?」
「それじゃ俺の気が済まんのだ。
何かあれば俺に言ってくれ」
「誤魔化し切れませんでしたね。
わかりました、困ったことがあればお世話になる事にします」
そう言うと、俺はミケル様の屋敷を出た。
俺にとって剣の型の習得は一つの区切り。
次は義父さんとの絆を強くするために動く時期。
クリス、アイナ、リードラと話をする。
「俺、オウルに行ってくるわ」
三人に言った。
「お前、牛馬の扱いでもいいって言ったよな.
俺の馬になってくれないか?」
俺はリードラに聞いてみた。
「まあ、そうは言ったのだが、変な扱いよりは普通の扱いのほうがいい。
四つん這いになって叩いたり、縛られたりしては……。
それで、別の部分が目覚めるかもしれんがな」
頬をぽっと染めて顔を隠しイヤイヤをするリードラ。
「何を勘違いしている!
王都オウルまで行きたいから『足代わりになれ』と言ってるんだ!」
「あっ、そうよな……。
うんうん、その程度なら任せろ」
リードラは胸を叩いて言った。
リードラの中で俺はどんな性癖を持ってるんだ……。
「クリスとアイナは留守番してもらえるか?
アイナに隷属の紋章をつけた術者の件もある」
と俺が言うと、
「えー、どうしてよ。
行くわ」
「行く」
クリスとアイナの二人はそれぞれ否定で返す。
不満なようだ。
「セバスさんも居るが、門番二人と調理人の四人では手が足りないだろう?」
「多分現有戦力で一番強いのはクリスだ。
アイナの魔法なら、怪我も治せる。
長くはならないつもりだが、義父さんを守って欲しい」
「うー、ずるい。
そう言われたら断れないじゃない」
「そう、マサヨシはズルい」
二人は声を揃える。
二人は少し考えると、
「仕方ないから、帰るまでクラウス様の護衛をしてあげる」
「うん、『お爺さん』の護衛は任せて」
と言った。
「アイナ、そこは『クラウス様』にしておいてもらえないか?」
「いつも『お爺さん』と呼ばされる。
『孫は可愛いのう』って言ってた」
義父さんはそう言うのも好きなのかねぇ。
「まあいい。それじゃ、クリスとアイナに義父さんの護衛は任せた」
再び俺が言うと、
「わかったわ」
「ん」
と頷くクリスとアイナだった。
そしてノックをして執務室に入ると、
「どうした、マサヨシ」
義父さんが聞いてきた。
「オウルに向かおうと思います。
剣の練習などで時間をかけてしまい申し訳ありません」
「気にすることは無い。
あのドラゴンに乗って行ったほうがオウルには早く着けよう」
「それでは明日の朝、出立しますね」
「気をつけてな」
俺は、礼をして執務室を去った。
それから俺は部屋にこもる。
別に旅の準備などはする必要もないが、ひとつ気になっていた事があったからだ。
俺は部屋にあった羽ペンで紙に車いすの仕様を書いた。
通常の椅子に車輪をつけるだけだが、これだけでも義父さんやセバスさんの労力は違うだろう。
押さえつけ式のブレーキを両方につけてと……。
「マサヨシ、セバスさんが夕食だって言ってる」
クリスが部屋に入ってきた。
「そうか、そんな時間か……」
おれは呟いた。
慣れない羽ペンで書いたせいで、手が遅かったのだろう。
「何それ?」
クリスが机の上の仕様書を見た。
「ん?義父さんの車いす。押して移動ができるようにしてあるんだ。セバスさんに渡して職人にでも作ってもらおうかとね」
「細かな絵ね」
「できるだけわかりやすいようにって思ってね。
まあ、この世界では出来ない部分もあるだろうから、そこは濁してある。
あとは職人さん任せ」
「ふーん」
クリスは聞いてきたくせにあまり興味がないようだ。
「何にしろ食事の時間よ」
そう言うと部屋を出ていった。
食堂の入口に立つセバスさん。
「これ、この前言っていた車いすです。
職人に渡して作ってみてください」
俺は車いすの仕様を書いた紙をセバスさんに渡した。
「おお、これがですか。
確かに車輪を付ければ動かしやすいですな。
ちゃんと車輪を止める物もある。
あっこれは押すための取っ手ですね。
機能的です。早速明日、職人に見せてみましょう」
そう言うと紙を懐に仕舞うのだった。
夕食を終え風呂から出てベッドに入る。
「ねえ、どのくらいかかりそうなの?」
いつもの全裸でクリスがすり寄ってきた。
「んー、わからないけど時間はかからないんじゃないかな?
二日、三日だと思う。
その辺はリードラ次第じゃない?」
「あのね、抱かなくていいから、抱きしめて寝てくれない?
何か寂しいから……」
「別にいいけど……」
そう言って軽く抱きしめる。
丁度胸の谷間が強調されているのがわかる位置。
んー、眼福だが……。
安心したのかクリスが眠り始めた。
目を瞑り、何とか眠りにつこうとしていると、
「キイ」と扉が開き、誰かが入ってくる。
レーダーでアイナを確認するとアイナはフィナと寝ているのか離れた位置に光点が表示された。
ん?まさか?
リードラを表示すると、俺の足元に居る。
そのままベッドに滑り込み、後ろから抱き付いてきた。
肉感のある体が俺に纏わりつく。
「主よ寝たのかの?」
残念そうな声。
「まあ、明日からしばらくは我と共にある。
種を貰う場面もあるじゃろう」
そう言ってしばらくすると俺に抱き付いたままスースーという寝息が聞こえてきた。
動けんぞこりゃ……。
そして更に誰かが入ってきた。
アイナか……。
「ん、クリス以外にも先客。
不埒な乳。
私だって」
スルスルと服を脱ぐ衣擦れの音がすると、足元から入ってきた。
そのまま俺の上に乗って寝る。
俺にどうしろというんだ……。
仕方ないのでスリープクラウドを自分にかけ、強制的に眠るのだった。
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