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第三十一話 継承という存在

 長寿を誇る種族は多い。

 エルフ、ドワーフやホビットに代表される長寿族は数百年を生きる。

 なかでもエルフの上位種とされているハイエルフの生態は特殊だった。

 どちらかと言えば妖精種よりは精霊に近いのである。


 だから。

「グレアムと一緒のときは気が付かなかったのよ」

 プクッとほっぺを膨らませて、出逢いから結ばれるまでを聞かされた息子としては、正直勘弁してもらいたいものがある。


「それにしても、さすがに別れてから十年経って子供が出来たと言われれば・・・・・・」

 ランディ皇子が絶句するのも無理ないな。

「知らん顔って冷たいよね! 薄情だよね!」

 いやいや、これって冷たいとか薄情とかって話じゃなくて、人族とエルフの認識の違いだわ。


 現在は場所を館に移して事情説明中で、内容が内容だけに人払いをしていた。

 でも・・・・・・。

 あの場に騎士達もいたし、なによりヤーレン子爵がなぁ、飛んでいったのが気になる。

「事実と確認されたわけではありませんが、妊娠期間三十五年とは想像もつきません」

 ヤーレン子爵の言葉通り、妊娠に気が付いたのが十年後って恐ろしいものがあるわ。


 妊娠に気が付く前に別れたりしたら女手一つで育てることに。

 ああ、そうか。だから集団で子供を育てるのか。何か納得した。


「エルフに父親は必要ないけど、最初の枝あわせくらいは来て欲しかったわ」

 うーん、枝合わせって何なのだろう。

 って言うか必要ないの父親? って。


「陛下にはどのようにお伝えしたのでしょうか」

 そうそう、僕も気になった。


「当然、お手紙書いたよ」

 手紙手紙と・・・・・・。

 えっ!?

「もしかして? 手紙ってアレ? エルフの文字で書いたの」

 まさかと思いながらも聞いてみる。

「なんだね、アレって」

 皇子もヤーレン子爵も当然なんのことか分らないが当然だ。


「あたりまえでしょ。大事なお話だもん」

「あちゃー!」

 やっちゃったよ! このエルフ(ママン)馬鹿だろ。

 人族相手にエルフの流儀で手紙を出してどうするのよ。

「どういう意味なのか教えてもらえると嬉しいんだが?」

「ああ、それはですね」


 エルフの文字は複雑なのだ。正直言えば、正式な文章に使われる物は僕でも読めないものがあったりする。


「ええと、古代の文字でルーン文字が良く似ています。けれど、書くというか刻む時に念を込めるので、精霊魔法が使えないと意味が通じないと思います」

 そうなのだ、呪術や儀式に用いられた神秘的な文字だから同じ語でも込められた意味が変わってくるのだ。

 その代わりに思いというか、気持ちが良く伝わるのだ。


「では、人族は?」

「当然読めないですね」

「・・・・・・・・・・・・」


「はっ、初めての子供だよ! きちんとしないと!」

 私は悪く無いって顔をしてもダメだ。

 その場の空気は若干しらけたものになっている。

「では、陛下は」

「当然知らないでしょうね」

 ふうっとため息を押し出して皇子が頭を抱え込んでいる。

 

 表情は硬く、ぶつぶつと何か言ってた皇子が「問題は、陛下の直系男子が他にいない事なんです」と、重苦しい空気を更に重く変えた。


 オルネ皇国は万世一系で継承されている。いわば日本の天皇陛下みたいなものだ。これは国法で定められており、系統を遡れば神に繋がるのも良く似ていた。

 ところが現在の皇王こうおうグレアムの場合、男子に恵まれなかった。


「でもランディ皇子って」

「私の父は皇王の弟にあたる。現在は養子になっているがね」

 他にも三人ほど皇子が存在し、皇王の養子として皇子の身分についているらしい。


「だからアレスくんが御子だとしたら、第三位の僕とは従弟になるね」

 まあ、どちらが兄で弟かは微妙な問題になるがと、妊娠期間の違いからか複雑な表情をしていた。



 そして継承者は男系一位がこれを行い。困った事に僕がその一位の可能性があるのだ。


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