7.ハジメマシテ その3
「なんて素敵な方……。あの方のお姉様……」
私、烏丸衣織は、檀上に立つ『お姉様』に『あの方』と初めてお会いした時と同じ衝撃を受けました。
本日は、学園から何か発表があるという事で、急遽講堂にて全校集会が行われる事になりました。
まず始めに、最近は多忙故に姿をお見かけしなかった学園長兼理事長の、姉里朱莉様のお話です。
『え~皆さんごきげんよう。突然だけど皆、学園生活楽しんでる?今年から共学化したわけだけど、女子の皆はもう男子とお話ししたかしら?逆に男子はクラスの女子だけでなく先輩のお姉さま方にも挨拶してる?』
学園長の問いかけに軽くざわつきが広がります。
何故なら、男子がいる一年生ならともかく、私が在籍する二年生や三年生は男子と会話した生徒など殆どいないからです。
『あー、今ので大体把握したわ。まったく駄目じゃない!とは言えないわね。これは此方の配慮が足りなかったわ。ごめんなさい』
本来なら先輩である私達が率先して行動しなければならないのですが、この学園はもともと歴史あるお嬢様学校で、小中校も女子校に通っていた生徒が大多数を占めます。つまり、男子と触れ合う機会が無かったに等しい者ばかりです。
『知らないこと』を『知る』にはある程度勇気がいるもので、中々最初の一歩が踏み出せません。その一歩さえ踏み出してしまえば、私も『あの方』と良き友人になれるのでしょうか……?
そんな事を考えていたら、学園長から衝撃的な発表がありました。
『みんな良く聞きなさいっ。なんとそんな今の状況を打開する為、男女共に在籍する部活が出来ました!その名も『星部』です!!』
その言葉を聞いた瞬間、生徒のざわつきが一気に大きくなりました。
「まあ、素敵」「男性と一緒なんて怖い……」「さすが学園長」「そんないきなり」
それは、喜び、不安、尊敬、反発、様々な感情が混ざりあって、講堂は乱脈を極めて参りました。
『はいはい、静かに!淑女が簡単に取り乱さない!まず、上級生に連絡や相談も無しに進めたのは謝るわ。でもね、物事ってのはタイミングが大事でしょう?今回の件はこのタイミングが一番良いと判断したの。男子がこの学園に対するイメージが固まる前、女子が男子のイメージを勝手に固める前のこのタイミングを逃したら、生徒全員が『素敵な学園生活』を送るのは不可能になる。私はそれだけは絶対に避けたいの。これは完全に私の我儘だけど、あなた達が卒業する時『この学園にいて良かった』って全員に思っていて欲しい!あなた達がいつまでも誇れる学園にしたいっ!』
いつの間にか、ざわつきは完全に収まり、誰もが学園長の訴えに耳を傾けていました。
私は気付けば拍手をしていました。
若くして学園長の座につくあの女性は、その若さ故に世間から栓のない誹謗中傷を受ける事もありますが、私はあの女性こそ学園の誇りだと思います。あんなに素敵な長が治める学園で学べること自体、私の誇りです。
そう考えたのは私だけでは無い様で、講堂はいっぱいの拍手で満たされていました。中には感動して涙を流している生徒もいます。
『や、なんか熱く語ってごめんね。ありがと』
ああやって照れて頬を染める学園長は、不謹慎ながらとても可愛く思えます。
『えー、じゃあ星部の説明を顧問の五十嵐先生からしてもらうわねっ』
恥ずかしそうに檀上を降りた学園長と入れ替わりで、五十嵐先生が檀上に立ちました。
『はい、では星部の活動内容ですが――』
話を聞く限り、『星部』とは生徒の悩みを解決する『何でも屋さん』のようです。
とても素晴らしいと思いますが、部員の方は一体どんな方なのでしょう?男性もいるはずですがどのような方が――
『次に肝心の部員だが、今から名前を上げる。まず女子だ。二年の姉里有栖、一年の姉里華凜、同じく一年の来栖瑠々、以上だ。次に男子だが、男子は一年しか居ないからな。まず、鳴神透、そして、姉里香澄』
「――っっ」
最後に発表された名前に私の心臓が大きく跳ねました。
脳裏によぎるのは今年始めの光景……。
『そして最後に星部の顔でもある部長の紹介をする。上がってこい』
『……はい』
「「「「………………」」」」
『その方』が檀上に登る数秒、時が止まったかのような静寂に講堂は包まれました。
その美しい姿を瞳に焼き付けるかのように、誰もが呼吸をするのも忘れ、ただただ『その方』を目で追う事しかできず「綺麗……」取り戻した呼吸から漏れるのは感嘆の溜息ばかり。
そして、檀上に立った『その方』は涼しげな澄んだ瞳を私達に向け一言。
『みにゃさまごきげにょう』
『ぶふぅっ』(噴き出す五十嵐先生)
『~~~~~~~っ』(しゃがんでぷるぷるしてる美しい方)
盛大に、噛んでいらっしゃいました。
ああっ、耳まで真っ赤にされて!ちょっと可愛いと思ってしまいました!




