#084 「まかせて。みなごろしにする」
原稿のためしばらくお休みします!
ゆるしてね!!!_(:3」∠)_
ノーアトゥーンへと色々なものを運んでいったキャラバンだが、向こうでは大層歓迎されたらしい。あちらへと持ち込んだ新鮮な肉や野菜、保存加工された肉や野菜、それに鹵獲した降下ポッドの自律型駆逐兵器の組み立て機構や、その他撃破した自律型駆逐兵器の残骸などもそれこそ飛ぶように売れたそうだ。
「ノーアトゥーンはお金持ちなコロニーですよねぇ。タラーも鋳造してますしぃ」
「……通貨を鋳造しているのか?」
俺は電子通貨であるエネルに慣れ親しんでいるので実体のある通貨に関しては詳しくないんだが、通貨ってそんなに簡単に鋳造して良いものなのか?
「そもそも政府というものが無いのでぇ、タラーそのものは色々なところで造られてますねぇ。ほら、これがノーアトゥーンで鋳造されたタラーですよぉ。細かい彫刻とノーアトゥーンのマークが目印ですねぇ。ノーアトゥーンのタラーは純度も高くて品質も安定しているのでぇ、この辺りでは一番信用の高いタラーなんですよぉ」
そう言ってライラが見せてくれたタラーはピッカピカのキラキラな明らかな新造貨幣であった。確かに微細かつ精緻な彫刻に加え、目立たないところに何か見慣れないマークが刻印されている。
「なんで貨幣鋳造なんて面倒臭いことをやってるんだ……?」
「持ち込まれるタラーがどれもこれも劣悪な品質だったり、磨り減っていたりして我慢ならなくなったと聞いています。造幣部署は『悪貨を良貨で駆逐せよ』というスローガンを掲げていました」
「なるほど……? というかそれで良いのか。タラーの信用性とかそういうのは」
「ノーアトゥーンのタラーみたいに質の良いものであれば問題ないですねぇ。タラーは銀の純度と重さで価値が決まる貨幣なのでぇ。キャラバン志望者の最初のお勉強は良いタラーとそうでないタラーの見分け方からなんですよぉ」
そう言いながらライラがキラキラでピカピカのノーアトゥーン・タラーをチャリチャリと弄ぶ。とても良い笑顔で楽しそうだ。
「なんというか、原始的な貨幣経済ですね。これくらいならいくらでもでっち上げられますよ」
アイがタラーを仔細に眺めながら呟く。俺もその意見には同意せざるを得ない。こんなものスキャンをかければうちの機材でもいくらでも造れるな。素材となる銀もそんなに多くはないが、構成器で採取できている。
「うちでやるメリットはあまりないからやらんがな。やるとしたらノーアトゥーンのタラーを基準に組成、形、大きさ、重さは完全一致で彫刻のデザインを変えるか」
「旦那様のお顔でも彫刻致しましょうか」
「さしずめグレン・タラーですねぇ。やりますぅ?」
「やらん」
通貨に自分の顔を彫り込むとかナルシストかよ、俺は。というか、のっぺりした俺の顔なんぞ彫り込んでも不気味なだけだろう。どうせなら木苺とかジャム瓶でもプリントしておけ。
☆★☆
ライラがノーアトゥーンから持ち帰ってきた物資はノーアトゥーン産の蒸留酒だとか、栽培されたキノコや家畜の肉――例のデカいげっ歯類とやらだ――の加工品だとか、エネルギーキャパシターやその他の高度なコンポーネント類だとか、ノーアトゥーン・タラーであった。
それらの品に加えレイクサイドからは湖で漁獲された魚の干物や、新鮮な魚なども獲得してきていた。新鮮な魚は今晩のメインディッシュになるらしい。
「これはまた随分な量の物資ですねぇ」
「保存状態は悪くないですね」
「しわけがたいへんー」
帰ってきて早々といった感じではあるが、ライラ達キャラバン組という人手が増えたので、俺は作業を中断してアイが眠っていたシェルターから引き上げてきた物資の集積場へと足を運んでいた。
「医薬品、食料、それに無事だった機械類ですか……浄化装置はともかく、生命維持装置は使い途ありますか?」
「調整は必要だが、鉱山とかで使えるんじゃないか。もしくはノーアトゥーンみたいな地下都市でなら使い途があるかもな」
「次回の交易で持っていってみましょうかねぇ……?」
浄化装置というのは排泄物などから生活用水や水耕栽培や農業などで使える肥料をリサイクルできる装置だ。生活空間があるタイプの航宙艦とかにも搭載されていたりするな。生命維持装置は空調と温度と空気の健全性を維持する装置で、こちらも密閉型のシェルターや航宙艦には必要不可欠な装置である。ただ、安全な大気が存在するこの惑星では使い途が限定されるな。
ちょっとどころではなく使用期限的な意味で怪しい医薬品や食料の類は発掘品であることを提示した上で値引きして売るとして、使い途が無さそうな機械類はバラしてコンポーネント化だな。冷凍睡眠ポッドとか。もし冷凍睡眠をするとしても、六百年以上前の骨董品を使う必要はないし。
「これだけで一財産になりそうですよねぇ」
「全員が一生遊んで暮らせるような額ではないだろうがな。まぁ、有用な素材が手に入ったのは良いことだ」
めぼしいものを全て運び出した今、例の耐爆シェルターは作業用ボット達によって徐々に解体されつつあった。シェルターの素材を使ってメインジェネレーターの建屋を更に強化し、より高出力での運転が可能になるように作業を開始したのだ。
メインジェネレーターの出力改善によって今後は農場全体を覆うシールドジェネレーターや高度な対空迎撃システムなどの運用も可能になることだろう。もっとも、どちらも全力で稼働させた上に農場の生活に使うエネルギーも賄うとなるともう一段上の強化が必要になるだろうが。
☆★☆
事件が起こったのは更に翌日だった。
昼飯を食い終わって午後からの作業をどうしようか、と考えていたところで警報が鳴ったのだ。
「グレンさん」
「待て、確認する」
食後のお茶を持ってきてくれたエリーカの心配そうな顔を見ながら警報を発した偵察ドローンに接続し、状況を確認する。偵察ドローンの光学センサーに映し出されたのはおよそ百人程の人間の集団だ。ほぼ全員がそれなりの質であると思われる連発式の実弾突撃銃で武装しており、揃いのデザインの革アーマーを装備している。奴らの後方には荷物を積載している車両も見える。
そう、車両だ。大きめの荷台を持つ自走車両である。テクノロジーだ。驚きだな。
「見覚えのある連中だなぁ……ありゃ純血人類同盟だ」
「……困りましたね」
「返り討ちにすれば良いんじゃないの?」
「みなごろし」
困り果てた表情を浮かべるエリーカとは対称的に、スピカとミューゼンの意見が実に暴力的である。ミューゼン、一応友愛を掲げるコルディア教会のシスターとしてその発言はいかがなものかと俺でも思うぞ。相手の出方次第ではそうすることになると思うが。
「今回は私も出る」
そう言ってミューゼンが自分自身の手と触手でシュッシュとシャドーボクシングをしている。触手がパンチ……パンチ? 突き? をするタイミングがバラバラなので、そんなに早くないのにとんでもないラッシュをかけているように見えるの面白いな。腕が二本の普通の人類に比べて手数が単純に五倍くらいあるものな、ミューゼンは。
「お前に渡したパーソナルシールドは実弾銃程度じゃ千発くらい撃ち込まれてもビクともせんが、百人近くから集中砲火されたら流石に危ないからな。真正面から突っ込むなよ」
「まかせて。みなごろしにする」
「血の気が多すぎる……まずはドローンで奴らに接触するぞ」
明らかな賊相手なら先制攻撃を仕掛けるが、アレだけの集団かつそれなりの勢力でもあるからな。突撃銃はスリングで背負ったままで戦闘態勢というわけでもないようだし、まずは一応対話を試みるべきだろう。一応な、一応。




