#080 「思った以上に力技だぁ……」
結論から言うと、出入り口は地下深くにでも埋まってしまっているのか見つけることができなかった。フォルミカンのミネラが見つけた人工的な壁を起点にぐるっとひと回り岩山を削ってみたのだが、それらしい場所は見つからなかったのだ。
「壁を破るしかねぇなぁ」
「破れるの?」
「できないことはない。手間はかかるが」
いくら軌道爆撃にすら耐える耐爆シェルターとは言っても、結局のところ構造物ではあるので破壊することは不可能ではない。俺は爆破のプロというわけではないのでやり方は雑な方法になる。
「プラズマナイフでプラズマグレネードが入るくらいの穴を空けて、そこにプラズマグレネードを入れて遠隔で爆破する」
「思った以上に力技だぁ……」
呆れるスピカをよそに俺はプラズマナイフを抜き、高出力モードにして刀身を伸ばしつつ、その緑色に輝く刀身を耐爆シェルターの壁に押し付け続ける。いくら軌道爆撃にも耐える耐爆シェルターの外殻といえども、20000℃を軽く超えるプラズマブレードに曝され続ければその強度を維持することは難しい。
同じ要領で穴を六つほど空け、その中に遠隔爆破モードに設定したプラズマグレネードをセットしていく。念の為フォルミカン達には十分な距離を取らせ、外殻に穴を開けた瞬間に何かが飛び出してきても対処できるように武器を構えさせておいた。機動車両に搭載した大口径のコイルガンも発破をかける場所に向けさせておく。
「よし、爆破するぞ。3、2、1、爆破」
ボワァン! とプラズマグレネード特有の爆発音が鳴り響き、緑色の閃光が俺達の視界を埋め尽くす。押し寄せてくる熱風にスピカ達が悲鳴を上げているが、まぁこの距離なら少し熱い程度で火傷をするほどではない。
あ? 爆破したシェルターの内部がヤバいことになってるんじゃないかって? そんなものは知らん。どうしても救出しなきゃならない対象がいるわけでもなし。プラズマ爆風で焼滅したり、大火傷をしていたりしても俺は困らんからな。
「おー、あなあいたー!」
「軌道爆撃の爆風には耐えられるのに、プラズマグレネードの爆風には耐えられないんだ」
「軌道爆撃で襲いかかってくる爆風とは性質が全然違うからな。特に温度の差はデカい」
そう言いつつ、愛用の大口径レーザーガンをホルスターから抜き放つ。室内戦をやるならこいつが一番頼りになるんだ。こいつはいつも世話になっていたドワーフのおっさんに特注でカスタマイズしてもらった品で、通常のレーザーガンの凡そ二・五倍のエネルギー出力を誇る。その代わり重くて俺じゃないと片手で使うのは難しいわけだが。
「それじゃあ俺が入るぞ。安全を確保したら呼ぶから、通信は繋いでおけ」
「うん、旦那。気をつけてね」
「任せておけ」
プラズマ爆風の熱が落ち着いたタイミングを見計らってブリーチした穴から内部へと侵入する。内部は暗かったが、非常灯のような光があちこちに微かに瞬いているのが見て取れた。どうやらエネルギー供給は完全に死んでいるわけでもないらしい。とはいえ、このままでは視界が著しく制限されるので、暗視モードを起動しておく。
「……宿舎か?」
古ぼけて埃が積もりきっている二段ベッドのようなものが並んでいるのが見える。どうもこの場所は冷凍睡眠せずに過ごす際に使う宿舎か何かのように見える。並んでいるベッドの他には簡素なテーブルや椅子、備え付けのロッカーのようなものが見えるが、生活感は無い。恐らく一度も利用されていないのだろう。ロッカーの中や壁に設置されているメディカルキットの中には何か使えるものが残っているかもしれない。
尤も、数百年以上前のロッカーやメディカルキットの中に入っていた食料品や医療品をそのまま使って大丈夫なのかという疑問はあるが……それ以外のものだとしても、経年劣化で駄目になってそうだしな。
『旦那、大丈夫か?』
「ブリーチング箇所は宿舎か何かのようだ。何か残ってるかもしれんが、探索はあとだな。非常用の動力源はまだ生きている模様。探索を続行する」
宿舎からシェルター内部へと続くドアはまだ生きていた。自動でドアがスライドし、通路への道が開く。
「……何もなしか?」
今のところセキュリティが作動するような様子もない。一応周辺をスキャンしながら通路を歩いて行くが、何の動きも無いようだ。どうやらそもそもセキュリティロックダウンが実行されていないようで、シェルター内のシステムそのものが通常モードのままだと思われる。いくつかの部屋の扉を発見したが、どの扉もロックすらされていない。
「拍子抜けだな」
とは言っても油断するわけにもいかないが。いきなりそこらの壁なり天井なりからタレットが飛び出してきて蜂の巣にされても困る。そう簡単に蜂の巣にされるつもりもないが。
「シャワー室、トイレ、倉庫、食堂、お次は何だ?」
倉庫には物資が入っていそうな箱がいくつもあったので、後で漁ってみよう。有用な物資があるかどうかは疑問だが。何せ数百年前の骨董品だからな。
「お、ここが当たりか?」
今までとは雰囲気が違う部屋に辿り着いた。埃が積もってはいるが、他の部屋よりも明らかに明るい。それに、幾つもの筒状の装置が床に何個も横たわっている。恐らく、こいつが古代の冷凍睡眠ポッドだろう。
「冷凍睡眠ポッドが設置されている部屋に辿り着いた。シェルターをコントロールできる端末がないか調べる。まだ突入はするな」
『了解。旦那、気を付けて』
スピカに報告を上げながら端末か何かが無いか調べて回る。すると、部屋の片隅に古ぼけた据付型の端末を見つけた。どうやらまだ生きているようなので、接続できそうな端子を探す。
「お、見つけた。接続できるか……?」
随分古い端末だったが、手首から伸ばした接続コードが対応していたので、なんとか接続に成功した。動力が不安定なようなので、俺の反物質コアから最低限の動力を供給しつつ、端末のデータを閲覧する。
「動力は殆ど死んでるな。非常用のサブのサブジェネレーターだけが稼働中か。冷凍睡眠ポッドは全滅……いや、一つだけ生きてるな。めんどくせぇ……」
見なかったことにできねぇかな? 駄目か? 駄目だよな。俺の中のエリーカが外肢をバンザイして怒った顔をしている。しかしこいつを今すぐ起こしたとして、長期の冷凍睡眠による記憶障害や体調の悪化をフォローできるかどうかわからない。冷凍睡眠から起こした途端に何らかの症状を発症して死んでしまう可能性もある。万全を期すというのなら、農場に医務室と医療ポッドを設置してから起こした方が良いだろう。
「セキュリティコアのハッキング完了。アンダーコントロール」
何せ数百年前のセキュリティだったので、俺の手持ちのハッキングツールでシェルターのシステムを掌握することができた。どちらかというとこういうのは苦手なんだが、八割以上を義体化している関係上、こういうことも最低限はできるんだよな。俺の手持ちでなんとかなって良かったぜ。
「最低限、冷凍睡眠ポッドに供給するための動力を復旧させた方が良いな。それにしても小さいな、このシェルター」
岩山に埋まっていることを考えると、本来は地下に埋まっていたのか? いや、この岩山自体が何かしらの偽装工作なのか? それとも軌道爆撃で覆い被さった土が固形化したのか? わからんな。端末の基幹システムは生きていたが、このシェルターの由来や所属に関する情報は入っていない。お手上げだ。探索した感じだと他の部屋には生活感といったものが感じられなかったし、冷凍睡眠ポッドに入った連中は慌ててこのシェルターに来て、そのまま真っすぐ冷凍睡眠ポッドに入ったんだろう。生き残りが何も覚えていなかったりしたら、完全にお手上げだなこりゃ。
「制圧は完了した。セキュリティも俺が掌握したから安全だ。フィアに連絡して、降下ポッドから鹵獲した小型ジェネレーターを持ってくるよう伝えてくれ」
『了解、旦那。何事もなくて良かったね』
「ところがどっこい、生存者を見つけちまった。ついてない」
『えぇ……? 嘘でしょ? 冷凍睡眠ポッドが生きてたってこと?』
「そういうことだ。だからジェネレーターが必要なんだな。とにかく、頼む。俺はここでサブジェネレーターを復旧できないか試しておく」
『了解。急いで運んでくるね』
スピカの返事を聞いた俺は施設の見取り図を端末から吸い上げながら、せめて冷凍睡眠ポッドで眠っている奴が面倒な奴でないことを願うのであった。




