#079 「大丈夫だ、問題ない」
「この星が随分と長い間、上の人達の遊び場になっているのはグレンさんもご存知だと思いますけどぉ」
「遊び場とは皮肉が利いてるな。続けてくれ」
岩山から出土したという耐爆シェルターとやらについて説明し始めたライラに先を促す。しかし遊び場ね。本当に皮肉が利いてる言い方だな。実際、上の連中が好き放題した結果、この星がある種の魔境と化しているのは確かなのだが。
「今に至るまでには何度か上の勢力のどこかがこの星を支配して数十年とか百年くらいの間統治した、ということがあったんですねぇ。まぁその度にこの星は激しい戦場になって、結果として今みたいな無政府状態になったりするんですけどぉ……無政府状態で百数十年経っている今が、ある意味一番平和で安定してるかもしれないらしいんですよねぇ、長老とかの話によると」
「治安が割と終わってる今の状態でか……? いやまぁ、ひっきりなしに軌道爆撃が降り注いでくる戦場よりはよほどマシなのはそうかもしれんが」
「そういうことですよねぇ……まぁそれはおいておいて。何が言いたいかというと上の人達がある程度統治――つまり入植していた時期もあるんですよぉ」
「あー……なるほど? つまり、今回出てきたのは昔入植した一部の上の連中が戦禍に巻き込まれることを想定して作った頑強な耐爆シェルターだと?」
「そういう可能性が高いですねぇ」
なるほど。上の技術で造られた、恐らく直撃でさえなければ軌道爆撃にも耐えるように造られた耐爆シェルターか。当然ある程度の破壊工作にも対処しているだろうから、普通に構成器を使ったんじゃ壁を破壊できない筈だな。
「どうしたものかな……俺としては資材としてシェルターをバラしたいんだが」
調べてみないとわからないが、耐爆シェルターの外殻は高度資材として使える可能性がある。メインジェネレーターの建屋の強度増強に使うことができれば、メインジェネレーターをより高出力で運用することも可能になるかもしれない。そうでないとしても、軌道爆撃の爆風に耐えうるだけの耐久力を持つ資材で建屋を強化できれば、それだけでも農場の安全性が増すことになる。シェルター内部にも何らかの資材や機材が残っているかもしれない。
「旦那なら多分大丈夫だと思うけど、ああいう古代の耐爆シェルターには機械の化け物とかよくわからない化け物がセキュリティとして配備されていることが多いんだ。しっかり用心した方が良いと思うよ」
「つまり、戦闘ボットや生物兵器相手の近距離室内戦ってことだろう? 大丈夫だ、そういうのは得意だから任せておけ」
俺が一番得意なシチュエーションだ。
「物凄い自信ですね」
「グレンさんですから……本当に気をつけてくださいね? 古代のシェルターを開けた結果、中から出てきた機械兵器や化け物に滅ぼされてしまった、なんて集落の話もありますから」
「それってうわさばなしじゃないのー?」
「いえ、実際にそういう集落が過去にいくつかあったのは事実ですよ。我々の記録庫にそういう記録が何件かありましたから」
エリーカが心配をしてくれる一方で、シェルターを見つけたフォルミカンのミネラとタウリシアンのティエンがシェルターから現れる脅威について話をしている。ティエンがああ言うなら、やはり何かしらの脅威はあると考えておいたほうが良いな。
☆★☆
翌日。うちで生産した野菜の一部や生鮮肉の一部を保管ボックスに納め、先日の降下ポッドから剥ぎ取った戦利品なども合わせて高機動車に積み込み、ティエン達がノーアトゥーンへと旅立っていった。帰りは二日後の予定だ。
「それじゃあ俺とスピカはフォルミカン達を連れてシェルターを探索してくる。皆は平常通りの仕事を続けていてくれ」
「あ、あの! 旦那様! ええと……」
「わかってる。安全を確保できたら連絡する。他の皆も興味があるなら見に来て良いからな」
「はいっ!」
俺の言葉にフィアがとても嬉しそうな顔をする。フィアはなんというかあれだよな。テックジャンキーというかなんというか……未知の技術に目がないとでも言えば良いのか。
「グレンさん、本当に気をつけてくださいね」
「大丈夫だ、問題ない」
「相手が何なのかもわからないのに凄い自信ですねぇ……」
「機械兵器だの生物兵器だのと言っても数百年前の遺物だろう? 脅威になるとは思えんな」
どんなに強くても先日戦った自律型機械兵器を上回ることはないと考えて良いだろう。なら俺にとっては何の脅威にもならない。
「油断はしない方が良いと思うけど、旦那だからなぁ……準備はできてるから、行こうか」
「そうだな。まずはブリーチングできる場所を探さないといけないし」
軌道爆撃の爆風にも耐えるシェルターの外殻ともなれば、歩兵が扱う規模のプラズマグレネード程度では抜けない可能性が高い。何発も食らわせれば抜けるだろうが、プラズマグレネードが勿体ないからな。外殻の薄い箇所だとか、正規の入口だとか、そういったものを見つけ出してプリーチングするのが賢いだろう。
「高機動車で向かうぞ。タレットのコイルガンのチェックは終わっているな?」
キャラバンが出立の準備をする中、スピカ達とフィアには高機動車の改修作業を行っていた。
天井部分を大型火器が搭載可能な回転砲塔へと改修し、そこに先日の自律型駆逐兵器との戦闘で鹵獲した大型のコイルガンを搭載するように指示しておいたのだ。
「指示通りにね。まさか高機動車で突入するわけじゃないよね?」
「まさか。突入口の確保に使うんだよ。中には俺一人で入る。他の面子は退路の確保と万が一俺が討ち漏らして外に出ようとする何かが出た時の封鎖役だ。俺がやられた場合の後詰めでもあるな」
「一人で入るの!?」
「俺とスピカ達ではまだ連携ができないからな。そのうち連携訓練もやるとしよう」
「うっ……まぁ確かにそうか」
野戦や防衛戦ならともかく、密な連携が必要な閉所での戦闘となると連携がきちんとできるかどうかが明確に生死を分けることになる。俺もスピカ達にケツを撃たれて穴を増やしたくはないし、逆にスピカ達の頭を吹っ飛ばしたりもしたくないからな。
「まぁ、内部の制圧は任せておけ。問題は余計なものが入っていたりしないかだが……」
そう言ってライラに視線を向けると彼女は苦笑いを浮かべた。
「あり得るんですよねぇ……何せ避難用の耐爆シェルターなのでぇ、物資の消耗などを考えると寝たほうが合理的ですからぁ」
「だよなぁ」
この場合の『寝る』というのは所謂冷凍睡眠のことである。戦争、というか軌道爆撃を含む戦闘が発生したら速やかにシェルターに避難し、冷凍睡眠ポッドに入って戦闘の終結を待つ、というのが当時の避難プロトコルだったらしい。
何故そんなことが知れ渡っているのか、というとこれは過去に開封されたシェルター内で冷凍睡眠から目覚めさせられた人々の証言によるものだとか。
実際には想定を大きく超える長年の稼働によって冷凍睡眠ポッド自体が機能を停止したり、ジェネレーターが破損して生命維持装置が停まったりして避難民が死んでいる場合が殆どらしいのだが、稀に避難プロトコルの証言者のように生きたまま冷凍睡眠ポッドで眠り続けている『古代人』が発見されることがあるのだという。
「こう言っちゃなんだが、生き残りがいないほうが楽だよなぁ」
「グレンさん」
「オーケー、オーケー。見なかったふりとか、始末してここには生存者はいなかったとか、そういうことはしない。それで良いんだよな?」
ジト目を向けてくるエリーカに両手を挙げて降参する。この可能性に関しては昨晩のうちに大いに議論を尽くした。コルディア教会としては生存者が居た場合、その救出と保護は譲れないと。そういうことらしい。
「ポッドから出てくる連中がマトモなら良いがな」
「何百年前の人となると、常識とか考え方とかも相当違うでしょうしねぇ……」
「それはそうだな」
困った様子で呟くライラを横目で見ながら頷く。俺もこの星に降りてきてから驚くことが多いんだ。数百年もの時間的乖離があれば驚くことも多いだろうな。お互いに。
「そういうわけで、行ってくる。何かあれば戻って来るから周辺の警戒は怠るなよ。俺達がシェルターを調査している間にも招かれざる客が来る可能性はあるんだからな」
「了解にゃ」
「うちらがちゃんと見張っておくにゃ」
最近偵察ドローンの扱いも覚えたフェリーネ達がタブレット型の端末を両手で抱えながらぴょんぴょんと跳ねている。意外とテクノロジーへの適応が早いんだよな、フェリーネ達は。種族的に頭が柔らかいのかもしれん。
「グレンさん、気を付けて」
「ああ、任せておけ」
何にせよ、まずは突入口を探さないとな。さっさと見つかると良いんだが。




