#077 「いやぁ……流石にそこまでは要らないと思うんですけどねぇ」
作業用ボットを動員して作業場に新たな製作機械を導入することにした。複雑な電子回路や、ある程度高度な装備品を設計図通りに出力する簡易式のデュプリケーターだ。エネルギー消費量が多いのと、出力速度が遅いのが難点だが、資材さえ適切に投入しておけば全自動で制作物を出力してくれるのが利点だな。
簡易式ではない高度なデュプリケーターであれば製作速度も早いし、もっと高度なテクノロジー製品を出力することも可能なんだが、今の資源及びエネルギーの状況ではな。
課題は二つ。ハイテク資源の生産と、農場で使っているメインジェネレーターの出力向上だ。
高度なデュプリケーターを作るには相応の性能を持つハイテク資源が必要だ。つまり、構成器でも作り出せるような普通の鉄やら銅やら金やら合金やらセラミック、カーボン素材やらではなく、高度な合成金属資源だとか、伝導物質だとか、反重力物質や高反発性素材なんかの特殊な物性を持つ資源だな。
それらの高度な資源を合成するために資源合成機という製作機械が必要なんだが、この資源合成機ってやつは要求エネルギーが桁違いに大きくてな……なんでも異常な重力環境だとか、高低温環境だとか、圧力環境だとか、そういったものを合成機内に作り出して資源を出力するとかで。
正直、今のうちの農場のメインジェネレーターの出力で運用するには心許ない。いざという時に出力不足でタレットの類を動かせないだとか、照明やらなにやらがダウンするってのは避けたいんだよな。
だから、資源合成機を運用するにはメインジェネレーターをより高出力で稼働させるためにジェネレーターを置いている建屋の改修作業を進める必要がある。だが、現状はそのための作業リソースを農場の拡張や防壁の設置などに振り分けている状態だ。何せ、今のところそんなに高度な装備や資源が必要な状況じゃないからな。
現状は簡単にでっち上げたレーザータレットやコイルガンタレット、持ち込んだ戦闘ボットや戦闘に配備したレーザーカービンやコイルリピーターなんかでも農場の防衛力はオーバーパワー気味であるようだし、何より急務なのは全員の食い扶持の確保と、上との交易に使う商品の確保だ。正直、高度な資源や装備の確保にリソースを割いている余裕がない。
俺としては軌道上からの対地軌道爆撃や、航空機や長距離砲撃なんかを迎撃できる対空防衛網の構築や、農場全体を覆う防御シールドの設置を進めたくもあるんだが、皆が言うにはそこまで備えるのはいくらでも過剰って話だし。俺は絶対に備えるべきだと思うんだがな。
「いやぁ……流石にそこまでは要らないと思うんですけどねぇ」
「コルディア教会でもそこまでの備えはしていませんね。恐らく、そこまでの備えをしているのは上の駐屯軍の軍事施設くらいだと思います」
「連中がそこまで備えているということは、やっぱりそれが必要な状況が起こり得ると考えているからだと思うんだがなぁ」
フィアと一緒に自律型駆逐兵器の降下ポッドを解体し終えた俺は作業用ボットに簡易式デュプリケーターの設置を指示した後、エリーカとライラをコルディア教会の教会施設に呼んで今後の拡張計画についての話し合いをしていた。本当はフィアにも参加してもらおうと思ったのだが、彼女は降下ポッドから鹵獲した小型ジェネレーターやシールドジェネレーターを使って何を作るか考えることに集中したいと言って参加を辞退していた。エリーカとライラの他に同席しているのはコルディア教会の司祭であるハマルと、その部下ということになっている助祭のシスティアである。
「何よりもまず皆さんの安全と安心に労力を割いているグレンさんの方針は素晴らしいものだと思いますねぇ」
ハマルは現状の方針をこのまま続けることを支持するようだ。まぁ、何にせよ皆の安全と食い扶持を確保することが最優先なのはそうなんだよな。先を見据えすぎて生活が立ち行かないようでは本末転倒だ。
「労働力を増やすことはできないのでしょうか?」
「防壁の建築作業に関しては一定の規格で作っているから、このまま作業用ボットに任せたほうが良いだろうな。防壁に使う資源の採取を皆に手伝ってもらえるなら、その分の労働力を他に回すことが可能になる。構成器の取り扱いについては覚えてもらう必要があるが」
システィアの質問にそう答えながら構成器の数を考える。俺が使っているものの他に五個ほど用意してあった筈だ。これらに関しては作業用ボットに搭載されているものよりも高性能なので、きちんと使い方を習熟すれば作業用ボットの労働リソースをかなり節減できることだろう。
「良いんじゃないですかねぇ? 現状、防壁内での作業は人手が余り気味ですしぃ……そう考えると、防壁内で出来る手作業をもう少し増やすのも良いと思うんですけどぉ」
「今は収穫された作物や狩猟で得られたお肉や革の加工と、農場内の清掃、食事の用意、色々なものの整備保守点検が主な作業ですね。農地の管理は農作業用のボットが殆ど全部やっているので、そちらに割かれる人手がまるまる浮いています」
「本来はこれだけ広大な農地を管理するとなると、大変な重労働なんですけどねぇ……収穫だけは皆も一緒に手伝ってるから、全部農作業ボットに任せているわけじゃないですけどぉ」
「楽ができる分には良いだろ? とはいえアレだな、今後のことを考えれば作業用ボットや農作業ボットの追加も考えたほうが良いか」
そのためにはエネルを稼ぐ必要がある。つまり上との取引に使える商材を確保する必要があるってわけだな。
「そういえば、お酒造りの方はどうなんですかぁ?」
「用意した施設が高度過ぎて、使い方を覚えるのに苦労しそうだとよ。何もかもまるっと上手くいくわけじゃないな」
「彼らだけに任せず、こちらからも人員を送るべきでは? 最終的に彼らはこの農場から去るのでしょうし」
「それもそうだな。誰か興味のありそうなやつを募って送り込むか。設備そのものの増設は難しくないし」
システィアの提案に頷く。あいつらには扱いきれないハイテクでも、俺の基準というか、上の基準からするとローテクも良いところの設備だからな。特殊な素材を使う設備でもなし、増設そのものは簡単にできる。
「ではぁ、興味のある人を募って送り込みますねぇ」
「よろしく頼む。ついでに醸造についてアレックス達から要望があれば聞いておいてくれ」
「はぁい」
最終的には現在の方針を踏襲しつつ、浮いている人材に構成器の使い方を習得させて資材調達を行い、それで浮いた作業用ボットの労働力をメインジェネレーターの出力強化に回すという方向で労働リソースの再配分をすることに決まった。
今後の課題は労働力の確保ということになるか。高度な作業ができるようにうちの人員のスキルアップも視野に入れたほうが良いな。俺がこの星に持ち込んだ高度なテクノロジー製品を俺以外の人員が適切に使えるようになれば、全体の作業効率が上がるはずだ。今後はそっちの方面にもリソースを割いていくことにしよう。




