50、エデン防衛戦
「くそっ! こんなのどうもならんぞ!」
「A級のサラマンダーが5体って、ふつう有り得ないだろうが!? しかも、エデンになんて!」
「うるさい!! 口動かす暇があったら1本でも多く矢を射れ!」
夜明け間近、辺りが薄っすらと明るくなり始めた頃、サラマンダーと冒険者たちとの戦闘は始まった。
弓の心得のある冒険者たちがエデンの街の城壁に並び、一斉に矢を射かけていく。
盾を持った近接戦闘職の冒険者に守られた氷魔法、水魔法を使える魔術師が、サラマンダーとの間合いを測りながら、近距離から氷槍や水球をぶつけていく。
絶えず高熱を放つサラマンダーに、剣や槍で直接切り込むことはできない。
それは、こちらも火傷覚悟の自爆攻撃になる。
1回、2回ならともかく、そんな攻撃を長時間続ければ、さしたる攻撃を喰らわずとも、熱による火傷だけで十分に死に至るだろう。
結局、サラマンダーに対しては、一定の距離を保ちつつ、魔法や飛び道具で攻撃していく他はない。
「……焦れったいな、まったく効いてる気がせん」
街の城壁の上から陣頭指揮を執る冒険者ギルドマスターの呟いた言葉には、この場に集まった冒険者全員が大きく頷くところだろう。
矢や魔法による牽制で、サラマンダーの城壁への接近はかろうじて防げている。
だが、それだけだ。
サラマンダーの堅牢な鱗は全ての矢を弾き、サラマンダーの放つ熱は水も氷も全てを蒸発させていく。
その場で留まっていることから考えて、多少のダメージにはなっていると信じたいが……。
「外から確認できるダメージがほとんど見られんところが厄介だな……」
たまたま鱗の隙間に命中した矢がサラマンダーに傷をつけているのは確認できるが、その刺さった矢すらすぐに燃え尽きて消えてしまうため、ぱっと見のダメージはまったく確認できない。
これでは、こちらの士気も下がろうというもの。
『焦熱炎弾』
ゴォウォーーーー
一番端のサラマンダーに数人の冒険者が近づいたと思ったら、そのうちの一人がいきなり上級火炎魔法をぶち込みやがった!
サラマンダー相手に、何やってやがる!?
せっかく弱らせた(多分)奴に、炎をくれてどうする!?
派手な火魔法で一瞬動きの止まったサラマンダーの元に、小柄な冒険者? が近づいていく。
おいおい、随分と鈍臭いなぁ! 冒険者……女、いや、子どもか!?
遠目にも無防備に見える少女がサラマンダーの爪に引き裂かれる……ことはなかった。
火魔法を喰らったサラマンダーが、再び動き出す様子はない。
じっとしたまま動かないサラマンダーのところに辿り着いた少女は、恐らく解体用と思われるナイフを手に、手際よくサラマンダーにトドメを刺していく。
(一体、何が起こっている……?)
端の一体がこうして静かに息の根を止められた頃、その近くにいた2体が動き出す。
仲間が倒されたのを見て警戒度を上げたのか、その視線は先程乱入した数人の冒険者たちに向いている。
『焦熱炎弾』
再び先程の魔術師から放たれた上級火炎魔法がそのうちの1体を捉え、サラマンダーはその動きを止める。
(サラマンダーは……火魔法が弱点なのか!?)
「ガイ先生は左のサラマンダーにトドメを! レイはもう一体の牽制! ガーネット先生は次弾のチャージを!」
「おう!」
「了解した」
「まったく……上級魔法を続けて3発なんて、こき使ってくれるわねぇ」
剣士の男が動きを止めたサラマンダーに近づき、その首を切り落とす。
たとえ止まっているとはいえ、サラマンダーの首を一刀両断なんてそう簡単にできることじゃないぞ……って!?
あれ、ガイか!?
ガガが戻ってくれたか! ……ってことは、あの炎弾撃ってるのはガーネットか。
むぅ……これなら、こちらにも勝機がって……いや、もう既に2体片付いてるな……。
3体目に突っ込んでいってるのは……王女殿下か!?
お前は一応守られる側なんだから、最前線に出るなよ!
「炎熱炎弾!……炎剣!」
中級火魔法を目の前のサラマンダーに叩き込み、そのまま炎剣で切り込む王女殿下。
上級火魔法を喰らった時のようにいきなり動きを止めたりはしないようだが、それでもだいぶ動きが鈍くなっているように見える。
やはり、サラマンダーは火魔法に弱いのか?
だが、そんな俺の考えを否定するかのように、サラマンダーは大きく息を吸い込むと、高熱の炎の息吹を吹きかけてきやがった!
ごく稀にサラマンダーが使うという息吹攻撃。
あれを至近距離で喰らったらひとたまりもない。
サラマンダーの口から吐き出される轟火が王女殿下を飲み込み、骨まで残さず燃やし尽くす……。
「なっ!?」
息吹の後には何事もなかったかのように立ちすくむ王女殿下。
そして、その前には光の盾が!?
(いつの間に、あんな魔法を覚えやがった?)
サラマンダーの息吹を至近距離で防げる魔法なんて、俺は聞いたことがないぞ!
「リコ、助かった!」
「サラマンダーは体温が上がると、熱を発散させるために息吹を吐くから気をつけて!」
と、そうこうしている間にガイも王女殿下に加わり、そして……。
「準備できたわよ。みんな、離れて」
ガーネットの3発目の焦熱炎弾が炸裂し、三度サラマンダーはその動きを止めた。
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