45、サラマンダー
(コモドドラゴン!?)
その容姿は、以前テレビで見たコモドドラゴンを彷彿とさせるもので……。
その迫力に圧倒される。
全身は燃えるような紅で、トカゲのような這った姿勢のくせに、頭の位置はわたしの顔の高さと変わらない。
本物のコモドドラゴンを見たことがないから予想だけど……きっと、それよりずっと大きい。
こんなの、象と変わらないよ。
で、そんな巨体が森の中からゆっくりと這い出してきて……。
その数は全部で3体!
つまり、わたし達生徒の参戦も決定ってことで……。(わたしは戦力外だけど)
ギャゥアアアアア!!
そのうちの一体が突然吠えたのを合図に、3体が同時に襲いかかってくる。
「散れ!!」
先生たちの背に隠れるように様子を見ていたレイと不良冒険者たちがその場から駆け出し、
「リコ!」
レイの声に我に返ったわたしも、慌ててレイの後を追った。
まっすぐ突進して来たサラマンダーとそれを迎え討つガイ先生とガーネット先生。
戦闘は、既に始まっている。
さっきまで、だいぶ距離があるように見えたのに……。
その勢いは、まるでこちらに突っ込んでくるトラックみたいだ。
あんなに大きいくせに、スピードも滅茶苦茶速い!
「アイススピア!!」
「ウォーターボール!」
ガイ先生、ガーネット先生の魔法が直撃し、サラマンダーの動きが止まる。
その巨体に叩きつけられた氷柱と水球は瞬時に蒸発し、周囲に白い水蒸気を作り出す。
「はあ!!」
白いモヤに隠れるようにサラマンダーに接近したガイ先生の剣が、サラマンダーの胴に突き刺さる!
いや、浅い!
多少は刺さっているみたいだけど、ほんの剣先だけだ。
サラマンダーの鱗にダメージは与えられるみたいだけど、鱗を貫いて内部にダメージを与えるほどではない。
それは、魔法攻撃も一緒。
魔法が当たった瞬間にはサラマンダーの動きも鈍るから、多少のダメージはあるんだと思う。
でも、それだけだ。
さっきから、サラマンダーに目立った傷は見られない。
「チッ、やっぱり硬いな! 全然剣が通らねえ!」
「……魔法もダメね。多少は効いてるみたいだけど、一撃必殺には程遠いわね……大体、私は冷却系は苦手なのよ」
サラマンダーの鱗は硬く、しかも高熱で直接触れられないため、接近戦主体のガイ先生は迂闊に懐に飛び込めない。
炎や雷といった敵を焼き尽くす魔法を得意とするガーネット先生にとって、炎の化身とも呼ばれるサラマンダーは最悪の相性らしい。
炎や雷では、かえって相手の熱量を強化してしまうのだとか……。
「元々強力な冷却系の魔法を使える術者は少ないんだ。それもあって、現状サラマンダーには有効な攻撃手段というものがほとんどない。ああして地道に攻撃を繰り返して、少しずつ奴の体力を削っていくしかないんだ」
ガイ先生、ガーネット先生とサラマンダーとの交戦地帯から少し離れたところで、その戦いを注視しながらレイが教えてくれる。
……ん? 何か引っかかるんだけど……。
「くっ! やっぱ抑えきれねえ……。すまん!! ヘイト集め損ねた! 1体そっち行くぞ!!」
ガイ先生、ガーネット先生と戦っていた3体のうちの1体が、こちらを凝視している……。
「来るぞ!!」
そう叫んだレイが、サラマンダーと対峙する形でわたしの前に立つ。
「正面はわたしが受け持つ! 皆は側面から奴を牽制しつつ、できるだけ注意を逸らしてくれ!」
レイは素早く不良冒険者たちに指示を出すと、こちらに突進してくるサラマンダーにウォーターボールを叩きつける。
これで勢いはだいぶ削がれた。
相手の動きが止まったところで不良冒険者たちが……。
「ふざけんな! やってられるか!」
「やばい! 死ぬ!」
「む、無理だ! 勝てっこねぇ……」
「おい! 急げ! 今のうちに逃げるぞ!」
サラマンダーの隙をついて側面に回り込むはずだった不良冒険者たちは……あっさりと逃げ出した。
レイが、サラマンダーの動きを牽制している隙に……。
一瞬、唖然とするレイ。
それはそうだろう。レイは王女様だから。
これまでレイが兵の指揮を執ってきた中で、兵が王女殿下を置いて逃げ出すようなことはなかったはずだ。
ギリギリまで追い込まれた状況で、一緒にいた冒険者が逃げ出すなんて、普通ならよくある展開って考えると思う。
少なくとも、わたしが読んできたラノベではよくある展開だった。
でも、王女殿下にとっては全くの想定外だったみたいで……。
「ぐぅあああ!!!」
その一瞬の隙を突かれ、振り下ろされた前足の爪を剣で正面から受けたレイが、そのままの勢いで後ろに転がっていく。
「レイ!!」
その瞬間、そのままレイにトドメを刺そうと前進したサラマンダーと、レイの後ろで状況を見守っていたわたしの目が……合った!?
やばい! やばい! やばい!
無造作に持ち上げられた丸太のような尻尾が……。
やばい!! 死ぬ!! やばい!! 逃げなきゃ!! 逃げる!? どこに!? 図書館!!
頭の中が真っ白になる中、咄嗟に目の前に扉を開いたわたしは、倒れ込むように目の前の光の中に飛び込んでいった。
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