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百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!  作者: 無色
四葉凱歌編

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85.死の淵より

 負傷は自己責任。

 死傷に関しては万が一にも無いよう管理を徹底。

 各方面への連携。

 その他遵守しなければならないことを改めて話し合い、書面に纏める。

 手続きにはかれこれ数時間を要した。


「そんな感じで迷宮(ダンジョン)の管理をお願いしたいんだ。頼める?」

「おうよ。この銀河を統括する完全無欠のウルトラロマンティック美少女にお任せあれ〜。シシシ、可愛い女の子いっぱい作ってヌルヌルグチョグチョであはんいやんうっふんな迷宮(ダンジョン)作ろうっと〜♡」

「思考が完全に私だなアド貴様…」

「そんなところも可愛いだろ?♡ちゃはっ♡」

「可愛いってんだよムカつくな!」


 アド。

 迷宮(ダンジョン)の管理を目的に造ったこの美少女には、管理者(アドミニストレータ)からもじった名前を与えた。

 私を見て私自身が可愛いって言ってるんだから、リコリス=ラプラスハートを知らない人から見ればまあまあの異常者だろうな。


「こんなことも可能なんですね迷宮(ダンジョン)って。それにしても…どことなくアルの面影があるのは…」

「そ、それは…その…。好きな外見を思い浮かべたら…」

「ごちそうさまです」

「私の性格で見た目はアルティ…拗らせすぎじゃない私」

「皆まで言わんといて!」

「コホン。で、話をまとめるとだ。大体は私の好きに迷宮(ダンジョン)を造っていいってことでしょ?エロはさておき」

「まあね。資源やらは環境に応じて自然に発生するからともかく、宝具(アーティファクト)の作成とか迷宮(ダンジョン)の操作にはとんでもない魔力(マナ)が要るんだから、あんまり無理しないでね」

「大丈夫大丈夫〜。これでも私は私のコピーも同然だよ?上手いことやるって、ニッシッシ」


 私だからこそ懸念してんだよ。

 私ならおもしろおかしく、やりたいこと何でもやらかすからな。


「そんじゃアンドレアさん、ジェフさん、あとは全部アドに任せますから。詳しい打ち合わせはよろしくお願いします」

「かしこまりました」

「リコリスさんはこれから?」

「本来の目的を。アド、あとは頼むね。くれぐれも自重…するわけないか」

「ニシシ、わかってるじゃんさすが私」


 はぁ。

 ま、私だからこそ人に迷惑をかけることはしないか。

 でもあんまりエッチな迷宮(ダンジョン)だと、国に取り締まられるかもしれないから程々にね。


「よっしゃー私専用のスク水メイドサンバでカーニバル部隊作ろう〜♡」

「ちょっそれ私も欲しいんだけど!」




 で、それから私は迷宮(ダンジョン)に秘密の階層を作った。

 深い深い誰にも気付かれず迷惑をかけない場所。


「私一人でのつもりだったんだけど、なんでリエラもついて来てんの?」

「フフ、これも監査の一環です。それにしてもステキですね。皆さんのために画策するリコリスさんというのも」

「私はいつだってステキだが?」

「クスクス、そうでした」

「ったく。ケガはさせないけど気は引き締めとけよリエラ。少し騒がしくなるよ」


 広大な空間に黒い穴が複数開く。

 禍々しい気配と共に、大小様々なドラゴンが顔を出した。


「これだけのドラゴンが…なんて壮観な」

「狩るためだけに産み出すってのも申し訳ないけど、大人しく糧になってもらうよ」


 知性があるようなドラゴンじゃない。

 全て下位の竜種だ。

 私たちを餌として見てるのか、猛々しく荒々しく牙を剥く、見るからに獰猛な個体ばかり。

 それくらい衝動的でないと私の力を恐れて向かってこないから。


「狩り尽くせ、【魔竜の暴食(ベルゼビュート)】!」




 ――――――――




「リコはどこへ行ったのでしょう」

「姫のことだから、他の女の子とイチャイチャしてたりするんじゃない?」


 めっちゃ怖い目された。


「冗談だって」


 相変わらず愛してんねぇ。

 姫が婚約者を放っておくのは今更な気もするけど。


「はぁ」

「雌の顔してるわ〜。会いたくて会いたくてたまんないってか〜」

「それだけ愛しいんですから仕方ありません」

「はいはい。あたしたちは嫁に認められてるみたいで光栄ですよーっと。暇ならエヴァっちみたく、ギルド行って依頼(クエスト)でも受けてみる?たまには冒険者らしいことでも〜みたいな。アリチュも姫ママたちが見てくれてるし」

「そうですね…」

「全然ノリ気じゃない返事返ってきたんだが。嫁はなんかしたいことあるの?」

「まあ、特にこれといって。実家というのは手持ち無沙汰で困ります」

「やることないど田舎だもんね」

「ぶん殴りますよ?あ、そうです。今日の晩ご飯は私が作りましょう」

「邪ッッッ?!!」

「どこから声を出したんですか。リコは忙しそうですし、たまに帰ってきたときくらい家の者に任せるのではなく、自分で料理するのも悪くありません」

 

 その結果あたしたちのお腹が悪いことになるんだが…


「何を作りましょう。お寿司なんて簡単そうでいいですね」


 なにをイキってんだ素人の分際で。

 シャリ握る前に炭化するくせに。

 

「シンプルにチキンソテーもいいですね。レモンとバジルでさっぱりとさせて」


 構想は良いのになんで実物だと産業廃棄物が出来上がるんだろう。

 ていうかこのままだと百合の楽園(リリーレガリア)とクローバー家が途絶える。

 なんとかしないと…天才錬金術師ルウリちゃんを舐めんなよ嫁!


「そ、そうだ!じつは姫に頼まれて前から作ってたものがあるんだった!」

「リコに?」

「そう!ほらこれ!じゃーんカップ麺〜♡」

「カップ麺?」


 リアクション()っしぃ〜。

 しょうがないか。


「前に姫がラーメン作ったでしょ?これはその簡易版。なんとお湯を注ぐだけでラーメンが出来上がるのだ。懐かしいなぁ〜研究室に籠りっぱなしだったときはよくお世話になったっけ」

「お湯を注ぐだけでラーメン…そんなものがおいしいんですか?」

「あぁん?生意気な口を利く娘だね。ならその欲張りな舌でとくと味わいな!世界を席巻するカッ○ヌードルの力を!」

「いえ、食事前に間食はしない主義なのでまたの機会に」

「食えよ話の流れをぶった切りやがって!!」

 

 唯我独尊嫁がよぉ。

 まずい…嫁はご飯を作る気満々だ。

 あたしが手伝うか?

 いや、あたしに出来る料理なんてたかが知れてるしなぁ。

 ガチでお湯注ぐのでギリ。

 ていうか嫁をカバーしながら料理とか人生何周しても無理。

 地獄の針山でムーンサルトする方が楽。


「くっそどうするかなぁ…」


 腕を組んで頭を悩ませてると、部屋の扉が開けられた。


「アー、ルー、あーそーぼ」

「リルム。ゴメンなさい、今から晩ご飯を作るので」

「ご飯ー?リルムもお手伝いするー」

「神!!」

「神様じゃないよー?リルムだよー」


 リルムは従魔の中でも唯一家事全般が出来る子。

 後光が差してるわ。

 何があってもカバーしてもらえるし、これでなんとか晩ご飯で死者が出ることはなさそう。


「ふぅ…アリチュには嫁の料理の腕は遺伝しませんように」

「何か言いました?」

「なんでもないっす!」




 ――――――――




 客間には(わらわ)とシャーリーの他、ラプラスハート夫妻とクローバー夫妻が向かい合っていた。

 一見して尋問。

 しかしソフィアの膝の上で、どうにも心地良さそうにすやすやと寝息を立てるアリスが場の雰囲気を和ませていた。

 

「知らぬ者のいない教科書の中の偉人に数えられる吸血鬼(ヴァンパイア)…まさかあなたのような方がリコリスの傍にいるとは」

「なに、畏まる必要は無い。(わらわ)もアルティや他の者らと同じ。赤き星に惹かれたただの一人に過ぎぬ。まあしかし、出逢ったタイミングだけが唯一の心残りではあるがな」

「というと?」

「アルティよりも早く出逢っておったなら、(わらわ)がリコリスの一番になっていたやもしれぬじゃろ?」


 クククッと含み笑いをするが、自分で言っておいてそんなことは無いのはわかっていた。

 あれの(つがい)足り得る器は、アルティ以外にはありえないと。


「なんにせよ怪訝に思うことはない。師と弟子という関係ではあるが、大それたことを教えたつもりもないのでな。あやつの破天荒振りに関しては生来的なもののようじゃしのう」

「お恥ずかしい限りで」

「ですが、それがリコリスさんの魅力です。分け隔て無く、また際限も無い大いなる愛。かくいう私もあの方に救われました」


 と、シャーリーは認識阻害をかけた眼鏡を外した。

 包み隠さず。ありのままの自分で向き合うべく。


「私はシャルロット=リープ。かつては暗殺者ギルドのメンバーとして、数えきれない命を奪ってきました」

「只者じゃないのは雰囲気でわかってたけどな。まさか暗殺者とは。おれたちの娘はとんだ人たらしらしい」

「まったくね」


 それ以上言及はしないとばかり、ラプラスハート夫妻は肩を落とした。


「咎めないのですか?」

「なにを?」

「私のようなものがリコリスさんの傍にいることを、です」

「あなたは私たちに何か言ってほしいのかしら」

「あいつが選んだ奴を、おれたちがどうこう言っても仕方ないからな。そりゃ今でも暗殺者として活動してるってんなら苦言の一つも呈するが。おれたちはあんたを信じるリコリスを信じるよ」

「それにあなたは優しい目をしているもの」

「優しい…私が?」

「人の心を知り、人の痛みがわかる優しい目。あなたからは敵意も悪意も感じない。これからもどうか、あの子を好きでいてあげて。後悔が無いくらい」

「……この命に代えましても」


 シャーリーは胸に手を置き深々と頭を下げた。


「どうか頭を上げて。そうだわ、ゆっくりと話を聴かせてくれないかしら。あの子たちが、そしてあなたたちが、どんな旅をしてきたのか」

「うむ」


 いい親に恵まれたものよ、と。

 (わらわ)たちは茶を片手に旅路を聞かせた。

 波乱万丈。さながら御伽噺のような物語を。




 ――――――――




混成獣の毒針(キメラピアース)


 右腕の針がゴブリンの胸を貫く。

 これで依頼(クエスト)は達成だ。

 この辺りは平和らしい。

 依頼(クエスト)の難度も比較的低いものが多かった。

 アルティちゃんの家でゴロゴロしてるのもなんだか申し訳ないって、少しお小遣いを稼ぐ意味でも依頼(クエスト)をこなしたけれど、あまり実入りにはならなそう。


「気持ちいい風…」


 のどかで心が安らぐ。

 ここが二人が過ごした土地。

 子どもの頃の二人はどんな感じだったんだろうと思いを馳せていると、


「失礼」

「ひゃうっ?!」


 背後から声をかけられ身を竦ませてしまった。

 あぅ…変な声出しちゃった…


「申し訳ありません。不躾に失礼しました。つかぬことを窺いますが、クローバータウンはどちらでしょう」

「クローバータウン…?それなら向こうです、けど…」

「ありがとうございます。恥ずかしながら道に迷ってしまいまして。今朝朝食を買いに出たら、気付いたらアイナモアナ公国までたどり着いてしまって」


 ここからアイナモアナ公国…どれだけ道に迷えばそんなところに行けるんだろう…


「では失礼します。ありがとうございます、美しいお嬢さん」


 灰色の髪をしたキレイな女性は、優雅な所作で一礼して踵を返した。


「あっあの…」

「はい?」

「いっ、いえ…なんでも、ないです…」


 私にもう少しだけリコリスちゃんみたいな明るさがあったら、ちゃんと伝えられたのに。

 歩き出したのは教えた方向と真逆ですよ…って。

 ゴメンなさいお姉さん…




 ――――――――




「たっただいま戻り、ました…」

「おかえりなさい師匠!」

「ただいま…って、え?サ、サリーナ?!」

「はい!お久しぶりです!」

「な、なんで?え…?」

「うぇーいサプラーイズ♪」


 せっかく王都行ったんだしってことで、エヴァの弟子ことサリーナ=レストレイズちゃんを連れてきましたよっと。

  

挿絵(By みてみん)


「相変わらず元気そうで安心しました」

「サリーナも…。ちょっと…だけ、背が伸びた…かな?」

「毎日牛乳飲んでますから。すーぐ師匠より大人っぽくなっちゃいますよ」

「わ、私より威厳が出るのは…その、困っちゃう…な。私がもっと、霞んじゃいそうで…」

「卑屈っぽいところは直ってないですね。せっかくの再会なんですから、頭くらい撫でてくれてもいいんですよ?」

「あっうん…。よしよし」

「エヘヘッ♡」


 うーん師弟百合てぇてぇ♡

 そのままチューくらいしてもええんやで〜♡

 なんなら挟ませてもらっても〜♡


「お久しぶりですエヴァさん」

「リ、リエラ王女…殿下まで…。おしっ、お久しぶりっ、です。な、なんで、ここに?」

「【空間魔法】使えるって知った途端ついて来たんだよ」

「いつでもどこでも行き来出来るなんて素晴らしい魔法、使わない方がどうかしています。私だってたまには、こうしてお友だちと語らいたいですから。ね、アル」

「にしても唐突すぎますけど」

「急な来訪ともなると、殿下をお招きする用意がですね」


 ヨシュアさんもマージョリーさんもあからさまに顔に疲弊の色を浮かべている。

 

「構いませんよクローバー卿。いきなり決めた私が悪いのですから。ともあれ、リコリスさんがいればどんなときも歓待してくれるでしょう?」

「任せろって。しっかり腕を振るっちゃうからね。なんなら夜のお相手もお任せあれ〜♡」

「あー…姫?そのことなんだけど…」

「今日はねーリルムとルーとアーでご飯作ったんだよ〜」

「邪ッッッ?!!!」

「どこから声を出したんですか」


 ルウリ?!どゆこと?!

 おいこらこっち向け!

 大丈夫だよね?!

 大丈夫なんだよね?!


「最善は…尽くした…」


 おいコラそれどうにもならなかったときに言うやつだろ!


「アーのご飯ねーすごいんだよー。食べると身体中がピカーってむぐぐ」

「アハ、アハハ!マジで何にも無いよ?!大丈夫!……………………なはず」


 【魔竜の暴食(ベルゼビュート)】の準備を…って食堂に集まった私たちだったけど。

 あれれ?


「チキンソテーに…スープ…パンとサラダ…」

「簡単なものしか出来ませんでした。やはりいつも料理をしてくれているリコには及ばず…って、なんで泣いてるんですか?」

「っおお、おおおおおお…!!」


 すごい!

 チキンがちゃんと肉ってわかる!足も毛も生えてない!

 スープが紫色に濁ってない!

 パンがジュクジュクドロドロしてない!

 サラダから呪詛が聞こえない!

 

「そうか…ついに…!」


 ついに呪いから解き放たれたんだな!

 今まで…今までツラかった…!

 けどやっと…やっと…!


「さあみんな冷めないうちに食べよう!おいしそう!いっただっきま――――――――」




「ほぇ?」


 気付いたら朝になっていた。

 何故だかわからないけれど、ご飯を食べてからの記憶が無い。

 あれ?ご飯?食べたっけ?


「疲れが溜まっていたんですね」


 とは、私をベッドに運んだらしいアルティの弁だ。

 いやいや恥ずかしいね。ご飯食べて寝ちゃうなんて。

 しかも三日も。

 

「ガチでゴメン…。ちゃんと…薬は処方したんだよ…。あたし何も…何も出来なくて…。本当に…本当に生きててよかった…」


 ルウリは涙目で謝罪してたけど、何かあったのかな?

 心なしか全身が痺れてるような気もするけど…寝すぎたかな。

 

「姫は…半狂乱で朦朧としながらみんなの分を…みんなを…守る、ために…」

「なんでそんな泣いてんだ?」

「あーママおきたー!ママおはよー!」

「おはようアリス。今日も元気だね…んぐ…?ん…ペッ。……なんか歯抜けたんだが?」


 ……乳歯か?

 んーまあいっかすぐ生えるし。

 なんかよくわからないけど、気にしたら負けな気がする。


「今日も一日元気よく行きまっしょい」

「まっしょーい!」

「ああリコ、起きましたか」

「おーアルティ…ティティ、ティティティ…」


 しばらくアルティを見ると震えが止まらなかったんだけど。

 なんでじゃ?


 ゴールデンウィークも最終日ですね。

 皆さんはどうお過ごしですか?

 私は仕事です。

 

 日々の疲れをドラグーン王国王女、リエラ=ジオ=ドラグーンで癒やしてください。


挿絵(By みてみん)

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