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百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!  作者: 無色
不夜燦然編

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69.欲望という名の愛

「アハッ♡偉いねーリコリスちゃん♡ちゃーんとモナのこと見つけられて♡痛かったよね♡怖かったよね♡それでも必死になってモナのところまで来てくれた♡モナ感激だよぉ♡」


 神像から降りたモナに火球を撃つ。

 火球はモナの手前でそれて背後の壁を燃やすだけに終わった。

 

「【運命操作】があるからモナに遠距離攻撃は効かないよ♡クスクス、リコリスちゃんは当てる気も無いみたいだけど♡遊んでくれてるの?♡リコリスちゃん優しいねぇ♡」

「怒ってるのも本当なもんで一応ね。私は女の子は傷付けない主義だから」

「変なのーリコリスちゃん♡本当に強いなら力で従えちゃえばいいのに♡」


 モナは一瞬で私との間合いを詰めた。


燃え盛る欲情(エストゥラスバースト)♡」


 闇色の爆発が私を呑み込む。

 けれど傷なんか付かない。


「無駄だよ。この世界は完全に把握したから」


 ここは魂と意思が交錯する世界。

 魂が折れれば死ぬ。

 逆に意思さえ強く保ってれば何でも出来る。

 無敵の身体を、鋼の心を体現出来る。

 

「もうモナが何をしても私は折れない」

「…モナの世界で勝ち誇るの可愛いんだぁ♡把握した?♡アッハハハ♡そんなの出来るわけないよぉ♡だって、モナでさえモナのことはわかってないのに♡」


 闇が渦を巻いて凝縮し、槍となって私を貫く。

 一本、二本、三本。

 肩を、足を、胸を。

 

「無駄だって言ったろ」


 魔力(マナ)を放出して槍を砕く。

 穴が空いた痕すら残ってない。


不夜の宴(ナハト)は私たちの勝ちだ。はやくアルティを返せ」


 モナは身の丈以上の大きな鎌を私の首に添わせた。


「やーだ♡」

「なんでそんなに私たちにこだわるの?昨日今日会ったくらいの私たちに。魂が好みだった…それだけじゃないってのはなんとなくわかる。話せよモナ。言いたいことがあるなら聴いてあげるから」

「言いたいこと?♡そんなの無いもん♡モナはね、欲しいから奪うの♡人のものってね、とびっきりおいしく見えるでしょ?♡人から奪ったものを愛でるときが一番好き♡奪われた人が泣いてる顔も一番好き♡モナは強いんだもん♡魔王だもん♡だから何をしても許されるの♡みんなみーんなモナが愛してあげれば、それでみんな幸せでしょ?♡」

「けどそんなんじゃお前は満たされてないだろ」

「……へ?」


 初めてモナの笑顔の質が変わった。


「何を食べても誰と愛し合っても次を求めることしかしない。そんなのは幸せじゃない。お前のそれは欲望に素直なんじゃなくて、ただ欲望に振り回されてるだけだ」

「違う…」

「何かを求めるだけ、誰かを羨ましがるだけ。人から奪い続けたもので自分を構築するなんて、紛い物以外にどう呼べってんだよ」

「違う…」

「いい加減に気付けよ。力で虐げるお前はどこまで行っても空っぽのままなんだって」

「違う!!」


 苛立った風にモナは鎌で周囲を破壊した。


「はぁはぁ…アハ、アハハッ♡なんでそんな酷いこと言うの?♡ねえリコリスちゃん♡リコリスちゃんだって同じでしょ?♡モナたちは無限の欲望で動く…飽くまで渇望し続ける怪物でしょ?♡」

「そうだね。私たちは似てるよ。でも違う。一緒にすんな」

「そうだよ♡モナとリコリスちゃんは違うの♡だってリコリスちゃんは弱いもんね♡ただの人間のくせにモナと同じくらいの欲張りさんで、ただの人間のくせに可哀想なくらい自分をわかってない♡だからモナがわからせてあげようって思ったの♡身の程知らずの女の子に厳しい現実を、身に余る欲望は身を滅ぼすってことを♡だから――――――――」

「一緒にすんなって言っただろ。私とお前とじゃ欲望の格が違う」

「なにそれ…」

「私は世界中の女の子を幸せにするために産まれてきた。金銀財宝の山で女の子たちとキャッキャウフフしたいし、酒とごちそうのプールで女の子たちとヌルヌルグチョグチョしたい。何でも欲しいけどめんどくさいことはしたくない。毎日おもしろおかしく過ごしたい。いろんなところに行って、いろんな人に出逢って、私という存在を世界に知らしめたい。心に刻みつけたい。私がリコリス=ラプラスハートだって。世界中の女の子を愛しても足りない本物の愛で」

「そんなの…そんなの…」


 モナは気圧されるように後ずさった。

 神像の台座に背中が当たったところへ、私は台座に手を当てて顔を近付ける。


女好き(スケベ)欲張り(クズ)で私に張り合いたいんなら、生まれ変わって出直してこい」


 すでにモナの顔に笑顔は無い。

 引き攣った顔で目を見開いて私に怯えてる。


「…っ、認めないもん。そんなの…だって…」

「認められたいなんて思ってねえよ。アルティはどこだ」

「同じなのに違う…欲張りで…なんでも好きになっていいなら…なんでリコリスちゃんには愛してくれる人がいっぱいいるの?!なんで…なんでモナは一人なの?!」


 激昂を込めて叫んだとき、私の背後で冷気が吹雪いた。

 黒いドレスをはためかせるそいつの姿が、やけに魔性的で目を惹いた。


「アルティ」

「…………」

「アッハハ!♡来るのが遅かったからアルティちゃんの心を弄っちゃった!♡アルティちゃんはモナの言うことしか聞かない操り人形!♡アルティちゃん、リコリスちゃんを殺しちゃってよ!♡なにが本物の愛…そんなの、そんなの嘘でしかないんだから!」

「それを決めるのはお前じゃない」


 私はゆっくりとアルティへ身体を向けた。


挿絵(By みてみん)




「よおアルティ」

「…………」

「迎えに来たよ」

「…………」


 何の返事もない。

 冷たい目をしてやがる。


「シシシ、どんな顔してても可愛いなお前は」

「…………」


 余計な言葉は要らない。

 極寒の魔力(マナ)の中を突き進んで、唇に唇を重ねる。


「好きだよアルティ」

「…はい。知ってます」

「ニシシ」


 抱きしめたアルティの身体は炎みたいに熱かった。


「なんで…なんで?なんでなんでなんで?!」


 熱を確かめる抱擁を見て、モナはその場にへたり込みワナワナと震えて憤慨した。


「ここはモナの世界なのに!!モナの力は絶対なのに!!なんで思い通りにならないの?!なんで、なんで…!!」

「それはあなたが本物の愛を知らないからです」

「本物の…愛?」

「あなたほどの美貌とスキルがあれば、他者を魅了し篭絡することは簡単です。ですがそれはあなたへの愛ではありません。見せかけだけの依存。一時の快楽を得るためだけの麻薬。力に溺れ、夢に揺蕩うことは誰にでも出来るかもしれません。けどリコは違う。この人は人の痛みがわかる。否定せずに高圧的にもならない。自身を強いて人の上に立つ王の器でありながら、人の隣に並び立てる優しさを持った人。そんな彼女に惚れて私たちは一緒にいるんです。だから私たちはリコ以外に靡かない。たとえあなたが魔王でも、リコの魅力には敵わないんです」

「だって…それじゃ…モナは…」


 手元の鎌が音を立てて砕ける。

 今にも消え入りそうな声。

 モナは項垂れて目元に涙を溜めた。

 あー…くそ…どうにも弱いね。

 女の子の泣き顔ってやつは。


「スケベでクズなのって褒められたことじゃないから、私もあんまり人のことは言えないけどさ、私とモナの違いって、結局は運が良いかどうかってことなんだと思うんだよ」

「運…?」

「そう。だってモナめっちゃ可愛いじゃん。第一印象がアレだったから嫌厭してたのは否まんけど。弩級にえっちだしアルティをナンパしてなかったら私がお誘いしてい゛ひぃんゴメンなさい話逸れました!!」

「次は頭殴りますよ」


 尻蹴った奴の態度かそれが…


「コホン…私はずっと私のままだけど、そんな私を受け入れてくれる子たちと運良く出逢えた。モナはまだそんな相手に出逢えてないだけ。そう思うと楽しくならない?これからモナのことを本気で好きになる人と出逢えるって思ったらさ」

「モナのことを…本気で好きになる人…。そんな人…いるかな…?」

「さあ。知りませんよ」

「っおお…ちょっといい雰囲気なのにそれをぶち壊す物言いすんなぁこいつ…」

「惚れるも惚れられるも勝手にしなさい。これ以上責任は持てませんし、持つ気もありません」

「なんで指ポキポキ鳴らしてんだ」

「そろそろ我慢の限界なもので。リコは優しいのであなたを罰することはしませんが、私はそうでもありません。けじめは付けてもらいます」

「……優しくしてね♡」

「善処します」


 女の子が女の子の顔面本気で殴るってのは…あんまり見たくねえなぁ…

 リコリスさん普通にヒイとるて。

 



 空がひび割れ夜が開ける。

 降り注ぐ光に包まれて私たちは晴れて元の世界へと戻ってきた。

 空はすっかり明るみ、街も人も何事もなく。

 

「ふあ、ぁぁぁ…。長え夢だったなぁ」

「ですね。おはようございますリコ」

「おはよアルティ」


 不夜の宴(ナハト)は誰にも気付かれぬまま幕を閉じた。

 私たち百合の楽園(リリーレガリア)の完全勝利という形で。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  完全勝利!……かな? [気になる点]  百合の姫って最近使ってません? [一言]  リコリスの心の強さの元が見えた気がする。
[良い点] はあーーーーいい話でした この相手の心情にも入り込んで優しさを見せるリコリスさん流石です かっこいいですね 愛の力ーーーーーーー!!!!これは次回が楽しみですね! 毎日更新してくれてありが…
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