60.次の旅路へ
「すぅーはぁー…」
落ち着け…落ち着けリコリス…
大丈夫、大丈夫…
「とりあえずお湯沸かしとくわよ」
「お、おお」
ドロシーもいる。サポートは万全…なはず。
「リコ、私は何をすればいいですか?」
「ゑ?!」
ヤベ声裏返った。
「あ、そ、そうだね…どうしようかな…」
ワンチャン…ワンチャン少しはマシになってる方に賭けてみるとか…?
いや…うん。無いな!
「じゃあ横で私のことめっちゃ応援して…ね?♡そりゃもう可愛く♡出来ればやらしさなんて加えてくれちゃったりなんたりして♡」
「何をバカなことを言っているんですか。こんなときにふざけるなんて余裕なんですね。とりあえずこの野菜切っておきますね」
ジュワ、ドロッ…
「【暴食】!!」
「なんで急にスキルを?」
「お、お腹すいちゃってさ…ハハ」
「包丁ごと食べてましたけど」
「勝負の前の腹拵え的な…」
「じゃあ仕方ありませんね」
「ハハ、ハ…」
ヒソヒソヒソヒソ!
「お願いドロシーなんとかこのモンスター止めて!!【月魔法】でも【精霊魔法】でもぶっ込んでいいから!!」
「あんた魔狼級冒険者でしょ自分でなんとかしなさいよ!!」
「なんとか出来るもんならとっくにやっとんじゃ!!見てたろ今!!野菜切っただけで野菜はおろか包丁が溶けたの!!」
「脆い包丁ですね、って顔してるわね…。だいたいなんでアルティをサポートに選んだのよ」
「選んだわけあるか変にやる気出して勝手について来たんだよ!!私の力を見せるときが来たようですねとかわけわからんこと言ってな!!このままアルティに手出しされたら優勝はおろか王様毒殺で極刑だ!!いや公害で国ごと滅ぶ可能性だってあんの!!なんとかしてアルティの暴挙を未然に防がないと…!!」
「ここだけ競技が違ってるじゃない」
「そうさ今私たちはデスゲームの真っ最中なんだよ!!ただし私たちの命じゃなくその他大勢の命を守るためのデスゲームだけどな!!」
「二人とも何をやってるんですか?お湯が沸きましたよ」
「あ、ありがと!ナイス報告!いい声してるよ!よっ報連相の申し子!その調子!」
「報告一つでそこまで褒められたのは初めてです」
私がやるべきことは優勝の前に、アルティの可及的速やかな、かつ一切の心身へのダメージをゼロにした排除。
でないとコキュられる怖れがあるから。
「これも切っておいた方がいいですよね。よいしょ」
ドッカーン!
「うおお唸れ【暴食】!!」
「もうつまみ食いばかりして。厨房が爆発してしまいましたね。不良品だったみたいです。新しいものを用意してもらいましょう」
「お願いドロシー力を貸してぇ!【月魔法】で思いっきりデバフかけて行動不能にしてぇぇ!」
「すでに状態異常にかかってるみたいなものだと思うけど…都度そうやって【暴食】で防いだらいいじゃない」
「この手の震えを見てもまだ同じことが言えるのか!!胃に直結してるわけでもなくて味覚も全然関係無いはずなのに悪寒が凄まじいんだぞ!!」
あとシンプルに私のエネルギーが涸れる。
使う度にお腹すくから。
「こうなったら【怠惰】で強制昏倒させるしか…ああでも女の子に手荒な手段は憚れる〜!いやでも眠らせるだけなら…っあああ!」
「難儀すぎる。とにかく、アタシも目を光らせるから。あんたは料理に集中しなさい。勝てるものも勝てないわよ。そのための料理でしょ。この、ラーメンとかいう料理は」
「そ、そうだな!よし!やろう!」
ちゃんとやれば勝てるんだ!
ちゃんと、やれれば…
――――――――
三日前。
「ルウリ!ルウリー!」
「うっお?!どした姫、そんな慌てて」
「錬金術師って何でも作れる?!」
「そりゃね。物質の形成から生成までわりかし何でも出来るよ?【錬金術】ってほとんど名前だけで、実際は魔法と科学のいいとこ取りだし」
「じゃあじゃあ、重曹も作れる?!」
「重曹?そんなんヨユーだが?でもなんで?パンケーキでも作るの?」
「…………ルウリよ」
「なんで手ぬぐい巻いた?」
「ラーメンを…食べたくはないか?」
「うぉー燃え上がれ【錬金術】!化学式をあれしてそれしてこーだー!!」
山盛りの重曹出来た☆
「いや待てよラーメンなら重曹よりかん水でしょ!オラオラオラオラオラオラ!」
ドッバドバのかん水出来た☆
【錬金術】における生成、形成には、物質の原子構造を把握していることが条件らしい。
「何?!何ラー?!塩?!醤油?!まさか味噌バター?!必要なもんなんでも作るから郎食べさせてーーーー!!」
郎か…私も食べたいから今度作ろう。
昔挑戦してお腹死んだけど…
あ、あと製麺機も作ってもらったよ。
んでお次は。
「ミルクちゃーん」
「リコリス様!わざわざ会いに来てくださるなんて!幸せで剣吐きそうですわ!」
新種の魔物かな?
「ミルクちゃんて陶芸とかって出来たりしない?」
「陶芸ですの?オーッホッホ!何を隠そうこのミルクティナ!鍛冶の次に陶芸が得意ですの!」
「よかった!じつはお願いがあって、底が深い鉢状の器を何個か焼いてほしいんだ」
「そのくらいお茶の子ですわ!ですが多彩なリコリス様なら、器を焼くくらいわけないのでは?」
「その分料理の方に集中したいなって」
「そういうことならお任せあれですわ!千個でも二千個でもちょちょいのちょいですの!」
これで器もオッケー。
調理器具はみんなが調達してくれたし、いざ料理大会に向けて仕込み開始だ!
強力粉と薄力粉をふるいにかけて、塩を溶かしたお湯を加える。
重曹とかん水、二通り。
かん水を混ぜた方には卵黄も加えて、粉っぽさが無くなったらまとめて、濡れ布巾を被せて少しおく。
しっとりした生地をこねてこねて、折り込んではこねてを繰り返す。
ひらたくまとめたら一晩寝かせる…んだけど、時間が無いので【酒神の恩寵】を使って熟成を早める。
等分に切り分けて麺棒で伸ばし、打粉をしてまた伸ばす。
最後に製麺機で2ミリ幅に切ったら麺の完成だ。
茹でて試食。
重曹はモチモチして食べごたえがあるけど、慣れ親しんだ味というならやっぱりかん水を使った麺だ。
「うーん懐かしのちぢれ麺。麺はこれでオッケー。次はスープ」
個人的には塩派なんだけど、ドワーフの好みに合わせるなら醤油の方が相性が良さそう。
鶏ガラ、昆布、青ねぎ、にんにくを丁寧に煮出し、各種調味料で味を整えた透き通ったスープに、熟成させて味に深みを持たせたかえしを合わせる。
「っはぁ、うま…」
あっさりしながらもコクがあって、ド定番の醤油スープが完成した。
これに麺が絡むだけでご馳走だけど、まだまだ序の口。
こだわりポイントはこれだけじゃない。
「テンション上がってきた!やるぞー!」
とまあ、こんな感じで試行錯誤を繰り返し、やっと私が満足するラーメンが完成した。
これで審査員たち…いや、国中の度肝を抜いちゃうぞ!
――――――――
って意気込んでたのに。
「麺を茹でて…」
「リコリス、麺が鍋の中で爆散したわ」
「【暴食】!!」
こねろこねろ!
「チャーシューを切って…」
「今度はチャーシューに足が生えてどっか行ったわ」
「【暴食】ぅ!!」
縛れ!煮ろ!とろけさせろ!
「醤油ダレとスープを合わせて…」
「コロ、シテ…」
「助けを求めてるわ」
「強制成仏ぉぉぉ!!ダメだリカバリーが追いつかねぇ!!視界全部闇!!深淵がやんのかコラってメンチ切ってくる!!」
「料理してる人の顔かしらそれが」
「だって…だってあいつ…!!」
「料理って楽しいですよね」
「こんな惨状になってんのに目キラッキラさせてんだもん!!自覚も認知もしてないんだもん!!知ってる?!あいつ、リコに出来るなら私にも出来ると信じて疑ってねえの!!もうどうしようもねぇ!!生み出されたモンスターをどうにかするだけで手一杯だぁ!!」
心が折れる…
ノアを止めたときだってこうはならなかったのに…
絶望ってこんな簡単にエンカウントすんのね…
「制限時間が迫る中、次々と料理が完成していきます!優勝するのははたして!!」
まだ麺すら茹でられてないんだが。
「ドロシー!!お願い【月魔法】!!アルティにガチガチに拘束かけてぇ!!あとで超よしよししてあげるからぁ!!」
「【星天の盾】の魔法抵抗力が高すぎて、精霊の力に目覚めたアタシでも魔法が弾かれるのよ」
くそぅ有能な魔法使いだ大賢者の称号は伊達じゃねぇ!
「提案なんだけど、アタシたちの周囲に浄化をかけておくのはどう?そうすれば惨劇が生まれることは無いんじゃないかしら」
「それだぁ!!うおおお聖光浄化!!」
「ノアにやったレベルの浄化とは言ってないわよ」
「アルティ!今だ麺を茹でて!」
「はい!」
シャキーン
「鍋から伝説の剣みたいなの生えた!!」
「呪われてるの?」
「調理器具の調子がおかしいですね」
うーん、?浮かべてるアルティも可愛い満点!!
でもお願いだから退場してくれぇ!!
と、そのとき。
ポヨンポヨン
『リー』
「リ、リルム?!どうしたの?!」
『テーたちがねーリーたち手伝っておいでって言ったのー』
「はっ!!」
見れば応援席で師匠たちが親指を立ててる。
マジでグッジョブ!!全員あとでほっぺにチューな!!
「アルティ!!」
「はい。次はチャーシューですね」
「違うもう何も触んな!…じゃ、なく…て……ここまでよく頑張ってくれた!あとは私たちに任せて!」
「まだ何も完成していませんが?」
「アルティィ!!」
「は、はい」
「絶対に優勝する。そしてこの勝利を、愛しい君に捧げると約束しよう」
「リ、リコ…」
「どうか信じて待ってて。リルムとチェスでも打ちながら。のんびり。それはもう優雅に」
『アーこっちー』
「はぁ…負けたら承知しませんよ」
「もちろんさ。愛の力は無限だからね」
「も、もうっ。リコったら…」
…………行ったな?……よし行った!!
さすが私の女たち気が回るぜ!!
でももっと早く思いついてくれればこんなに切羽詰まらなかったよ!!
「邪魔者は消えた今だ急げドロシー麺茹でろトッピング切れスープあっためろ!!」
うおおおお急げぇぇぇ!
ワンオペ時にピーク来たかの如く!
「リコリス、湯切り!」
「あぁあああぁい!!」
湧いてこいメチャメチャ苦しい壁だってふいになぜかぶち壊す勇気とPOWER!!
器!かえし!スープ!麺!チャーシュー!玉子!メンマ!ねぎ!海苔!
「おらー完成じゃーい!!」
「タイムアップ!そこまで!」
はぁはぁ…やった…やったぞ…
「うう…ううぅ…!」
「ガチ泣きしてる…」
「圧倒的な障害を乗り越えて、私たちはやったんだ…」
「あんた今自分の正妻を障害呼ばわりしたわよ」
さあ、実食してもらおうじゃないか。
私たちの汗と涙と苦労と嘆きの結晶を!!
「優勝は白ひげ亭ドルムスさん!!前菜からデザートまで肉尽くしの重厚かつ軽妙な肉のフルコースで、見事頂点に輝きました!!」
「うおおおおおおお!!おれだおれだおれだぁぁぁ!!」
「いや私負けるんかい!!!」
「納得いかんがすぎる…」
あんなにも苦労したのに…ッ。
「あれは仕方なかろう。見ていて腹をすかされた」
「ゴロゴロトロトロのビーフシチューおいしそうだった!」
「ミートボール入りリゾット食べてみたいです!」
「デザートのお肉のケーキねー、あれ一番おいしかった!」
私はというと準優勝。
ラーメンって結局好み分かれるんだよね。
細麺、太麺、魚介、ベジポタとか、それこそ無限に種類があるから。
飾り気の無いシンプルな醤油ラーメンだからこそ刺さると思ったけど、あとちょっとが足りなかった。
敗因というなら、異世界飯ならインパクトで行けるって、取り立てて工夫することなく無難に仕上げてしまったことだ。
普通に鶏ガラを使うより、コカトリスやロックバードのガラを使った方がきっと旨味は段違いだっただろうし、チャーシューだってオーク肉を使えばトロトロの至高のものが出来たはず。
なんてことはない、ただの私の慢心と怠慢だ。
反省。
「私が最後まで手伝っていれば優勝出来たのに」
「ハハハ…」
そうだね…
「まだまだ若いもんには負けんさ!ガハハハ!」
ドルムスさんは、優勝賞品のミスリル包丁を持って得意気だ。
「おれには及ばなかったが、他の美食四皇店相手に充分戦ったぞ。今後お前は五番目の食の皇帝としてディガーディアーの歴史に語り継がれるだろう」
「全然嬉しくない」
「それはそうとお前さんの作ったラーメンも美味そうだったな!おれにも作り方を教えてくれ」
「じゃあ優勝のお祝いってことで。いっぱい広めてくださいね」
「任せろ!」
ルドナにレシピ持たせてアンドレアさんのとこにも運んでもらおう。
そのうち屋台でも出したりしようかな。
「ズルズル…っあーやっぱこれだわー。この背脂たっぷりの濃厚ギトギトが。姫、炒飯も追加ね。あと餃子も。水と焼きと二人前ずつ。ラー油って作れる?」
「中華料理屋じゃねえんだわ。ちょっと待っとれ」
「大会で食べたあっさりのも美味しかったですが、このこってりしたほんのり獣臭いのがまた…ゴクゴク、プッハ!こりゃクレイジーですわぁ!」
「デブるよミルちぃ」
「覚悟のスープ完飲ですわぁ!!ゴッゴッゴッゴッ!」
めっちゃ食うな。
おいしいならいいんだけど。
「優勝は逃したけど、賞金はもらったしいっか。んっ、んー…なんだか怒涛の日々を過ごしたな」
「け、けど楽しかったです」
「ああ。ディガーディアーも堪能したし、そろそろ次どこの国に行くか考えないとな」
「も、もう行ってしまいますの?!!まだまだ百合の楽園を堪能していませんのに!!」
「めっちゃ急じゃん。なんか用事でもあるの?」
「こいつが飽き性なだけよ」
「基本的に慌ただしいんですよ。一箇所に留まっておけない性質というか」
「ダメダメダメダメダメですわぁ!!王女の名にかけて百合の楽園の国内滞在を強く求めますの!!」
「誰にも縛られないのが私たちだぜ。とはいえ、行く先なんて決めてもないんだけど」
なんとなしに北上してるのもディガーディアーに寄りたかっただけだし。
「【空間魔法】を覚えたから、いつでも前の国に行けるようになったっていうのが大きいよね。好きなときに私を愛する女の子たちとイチャイチャ出来る。幸せ♡あ、そうだ!みんなに言うことあったんだ!」
「なんですか?」
ちょっと別荘に移動して。
工房スペースの一番奥。そこに立てつけられた一枚の扉の前。
「こんなところに扉…ですか?」
「この奥って何も無いただの壁よね?」
「と、思うだろ?それがなんと扉を開けると…じゃーん!」
扉の奥に広がる真新しくも見慣れた光景。
「ここって…まさか王都の屋敷ですか?!」
「そのとおり!作っちゃいやしたどこで○ドア!」
扉に【付与魔術】で【空間魔法】の術式を付与したよ。
誰でも気軽に行ったり来たり。
「手元にダイヤル付けて、ゆくゆくはいろんなとこ行けるようにするつもり」
「ドラえ○んってゆーよりハ○ルみたいなね」
やっぱり拠点が繋がってるってロマンだよなぁ。
でっかい城とか、無人島とか、会員制の秘密のバーとかそんなとこにも繋げてみたい。
「いろんなところと言っても、これは拠点を決定した上で使用出来る魔導具でしょう?」
「それはそう。ってことで」
シュンッ
「ただいま」
「どっどこへ行ってたんですか?」
「開けてみ」
「ここは…アイナモアナ?!」
【空間魔法】で転移して別荘買ってきたよ。
ついでにヒナちゃんのほっぺにチューしたのは黙ってよう。
「もっかいガチャっと」
「ロストアイの森?!」
こっちは勝手に家建ててきちゃった。ハウスシード使ったらいい感じのツリーハウスが出来たよ。
あとで認可ちょうだいね未来の女皇様。
「規格外すぎますわぁ…けど、そこがステキですの!!」
「何でもアリすんぎ〜」
「めちゃくちゃなだけですよ」
ってアルティは肩を落とすけど、私を褒められてどこか嬉しそう。
いいぞいいぞ、誇れ誇れ愛い奴め。
んで次はどこ行こうかって話なんだけど、まあゆっくり決めることにした。
旅に必要な物資の補給とか、まだ足を運べてないエリアの見物、それからせっかくもらったんだからってことでミスリルの採掘とか。
今すぐどんな用途に使うかっていうのは思いつかなかったので、せっかくなら限度いっぱい掘らせてもらおう。と思ったら。
「わ、私が食べればいつでも好きなだけ増やせる、ので」
エヴァがそんな風に買って出てくれた。
いつもお世話になっております。
そんなこんなで、私が行き先を決めるまではみんなそれぞれ好きにすごそうぜってことになった。
どうしようかって悩みながら、晩ご飯の材料を買いに出かけてたとき。
「ん?陛下?」
「おおリコリス。こんなところで奇遇だな」
と、なんだかコソコソしているガリアス王と遭遇した。
真っ黒なローブを着込んでる。もしかしてお忍びかな?
「見られてしまったからには仕方ない。共に来い。飲もう」
半ば強引に路地裏の店へと連れられた。
「いらっしゃいませー♡ようこそラヴァ・リゾラバへー♡」
「うっひょおおお!お姉さんのお店だー!♡」
しかもドワーフ専門店♡
これ見よがしにすらっとした身体を露出させたけしからんお姉さんがいっぱい♡
うおー腹筋えっちー!♡
「キャーガリアスさん久しぶりー♡全然来てくれないから寂しかったー♡」
「ガハハハ!おうヴーティルよ!今日はその分飲むから樽を用意しておけ!そうだ客人を連れてきた。丁重にもてなすよう頼んだぞ」
「どうもーリコリスでーす♡」
「あー知ってるー!ドラゴンを倒した冒険者さんでしょー!こんなに若いのにすごいね。私ヴーティル=マクレーン、よろしくねー♡」
マクレーン…?
それに悪魔…
「もしかしてヴィオラさんのお知り合いですか?」
「姉さんを知ってるの?」
「姉さん?」
「じゃあアイナモアナに行ったんだね。私たち五人姉妹なの。世界中のいろんなところでお店やってるんだー」
五人姉妹かぁ。
きっとみんなえっちなんでしょうねヘッヘッヘ。
ちなみにヴーティルさんは五人姉妹の上から三番目。
ヴィオラさんは二番目なんだって。
「いっぱいサービスするからゆっくりしていってね♡」
「よろしくお願いしまーーーーす♡♡♡」
一時間後♡
「筋肉当てゲーム♡」
「イェーーーー!」
「これどこの筋肉だ♡」
「フニフニしながらも確かな質量…わかった上腕二頭筋!」
「ブー♡残念ハズレ〜♡正解は〜ヒ、ラ、メ、筋♡」
「ハズレたリコリスちゃんはイーッキイッキ♡」
「ハイハイハイハイイーッキイッキ♡」
「ゴッゴッゴッ…ぷへぁ!」
はーたのちぃ。
「ここに住もう」
「楽しんでるなリコリスよ」
「陛下もなかなか」
膝に女の子なんか乗せちゃってまぁ。
「王妃殿下に怒られますよ」
「それをここで言うのは無粋というものだ。ここはあくまで女を楽しむ場ではなく、酒を嗜む場だからな。それで叱責される謂れは無い。違うか?」
「ごもっとも」
「まあ我は公務に嫌気が差して命の洗濯に来ているわけだが」
「怒られる理由充分じゃないですか」
私もどうせ帰ったらアルティに怒られるんだ。
知ってるんだよ。
でも性分なんだもの。
「それよりミルクに聞いたぞ。近々出国しようとしているらしいな。どこへ行くかは決めたのか?」
「いえまったく。ちょっとわけありで、サヴァーラニアに行くのは避けてるんですけど」
「獣帝国か。あそこは何分実力至上主義だからな。風土こそ緑豊かな肥沃の土地だが、貧富の差は激しく、明暗が酷くくっきりしている。お前のような者は良くも悪くも目立つだろうな。百合の楽園ごと国に取り込もうとする動きがあるやもしれん」
いよいよ近付く意味が無くなってきたな。
獣人族全員がおっかないとか、偏見があるとか、そういうことではないんだけどね。
ケモ耳女子とかモフりたいし。
けど国柄が、マリアとジャンヌを奴隷に堕としたという悲しい現実を産んだのも確かだ。
やっぱりサヴァーラニア獣帝国に足を運ぶのは、よほどのことがない限りやめておこう。
「そう悩まずとも世界は広い。お前ほどの女ともなれば、足は自然と求むる方に向かおう。自身がか、世界がかは誰も知り得ぬだろうが」
「求むる方か…」
「リコリスちゃんは旅の途中なんだねー」
ヴーティルさんが後ろから腕を回してき…おっぱいやぁらか!
「じゃあテレサクロームに行きなよー」
「テレサクローム?」
「私の一番上の姉さんがね、そこでお店やってるんだー。サービスするよう連絡しておいてあげるよ」
「ああ、それはいい考えだな。あそこは楽しみ方さえ間違えなければ素晴らしい街だ。きっとお前も気に入るだろう。ディガーディアーと同じく他国間の争いに一切関与しない永世中立国でありながら、食、博打、性と、世界の娯楽を一手に集中させる願いの坩堝。通称、不夜国。欲望渦巻く歓楽街だ」
「不夜国…歓楽街…!!」
私は逸る気持ちを抑えるのも忘れて立ち上がった。
やっばい…めっちゃワクワクしてきた!
そんなの絶対楽しい!
「決めた!次の目的地はテレサクローム!」
まだ見ぬ出逢いの予感に胸を高鳴らせて、私はグラスの酒を飲み干した。
きっと今までにないくらい、私の両目は輝いていたことだろう。
百合の楽園の進路はこれより北。
不夜国、テレサクロームへと。
あ、アルティにはあとですごい目されたよ☆




