56.楽しそうなこと始まったんだが?
ミルクティナ=ソーディアス=ディガーディアー。
何を隠そうこのお姫様は、ドワーフの中でも群を抜いた稀代の鍛治師らしい。
産まれたときから槌を持っていた、なんて逸話があるほどで、鍛えた剣は山をも切り裂くと謳われ、時代に一人のみが名乗ることを許される"万剣"と王級鍛冶師の名を与えられた若き才媛。
そして、
「まあ!それではたったそれだけの人数で迷宮を攻略したんですの?!すごいですわすごすぎますわ!さすが百合の楽園ですわ!はっ…フ、フン!わたくしの鍛えた剣があったなら、攻略はもっと容易だったでしょうけどね!あら?グラスが空ですわね。仕方ないからわたくしが作ってあげてもよろしいんですからね!」
「ありがとミルクティナ姫」
「は?はー??なーにを不届きな!もっとフランクにミルクちゃんと呼べばよろしいのではなくて?!」
「お、おお…ミルクちゃん」
「きゃーきゃー!リコリス様に名前呼ばれちゃいましたわー!」
百合の楽園の拗らせファン。
特に私推し。
全然知らなかったんだけど、百合の楽園って王国内外で結構話題になってるらしい。
迷宮攻略にアイナモアナ公国の防衛、いろんな街で起きた事件の解決に関与していることが冒険者ギルドで話題になり、冒険者伝いに噂が広まってるようだ。
ただでさえ女性だけのパーティーは珍しいし、そこに大賢者や師匠みたいなネームバリューが加われば、そりゃ目立ちもするか。
また商業ギルドでも、王国を席巻するパステリッツ商会の会頭が目をかける若き才能、新たな食の開拓者として私の名が上がってるんだって。
「もっとお話を聞かせてくれてもよろしいんですのよ!そうだわ、サインの一つでも書いたらいいんじゃないかしら?個人のものとメンバー全員の寄せ書きなんてしてもらったら額に入れて飾ってあげるんですからね!仕方なく!」
「驚くほどめんどくさいですねこの人」
「それが不敬どうこう言ってたやつの言葉か」
めんど可愛い子じゃん。
16歳だっけ。
あーもう抱けますねぇ。
「そなたのゲスい視線も大概じゃぞ」
「あ、あの…皆さん陛下のごぜ、御前で…」
「構わん構わん。それよりミルク、お前見てもらいたいものがあるとか言ってなかったか?」
「あー!そうですわ!リコリス様、少々お待ち下さいませ!」
ドタドタと出てって、バタバタと戻ってきた。
手には剣が抱えられている。
「これわたくしが鍛えた剣ですの!まだ試作なんですが、ぜひご覧になってくださいませ!じゃなくて、見せてあげてもよろしいんですのよ!」
「はあ…自慢じゃないけど剣の目利きなんて素人だよ」
造りは普通の片手剣みたい。
ここで抜いたら王様に翻意有りみたいに思われないかな?
一応許可取ろ。
「失礼しても?」
「ああ」
「では。おお…キレイな剣」
水をそのまま剣の形にしたみたいに澄んだ刀身。
見ただけで切れ味が窺える。
普通の剣に比べてだいぶ軽い。
「エデンズライトじゃな」
「さすがテルナ様!ご慧眼ですわ!」
「エデンズライト?」
「炎の塔にも使われている、神々の残滓とも呼ばれる神代の鉱石じゃ。ディガーディアーの特産で、その強度、耐熱性、魔力の伝導率は、ミスリルやオリハルコンといった伝説級の鉱石を遥かに凌ぐと言われるが、それ故に扱いが非常に難しく、妾とてここまで精密に剣の形をしたものは初めて見る」
それだけミルクちゃんの腕が本物ってことなのかな。
剣を見せてきたのは、単に自慢…というか、褒められたがってることのようだった。
獣人族よろしく、尻尾ブン回してるのが見えるようだ。
「すごいんだね、ミルクちゃん。まだ若いのに立派な鍛治師なんて尊敬する」
「〜〜〜〜!フン!たかが冒険者に褒められても嬉しくありませんわ!わたくしを褒め称えるなら万雷の喝采を以ても足りませんことよ!」
「めちゃくちゃニヤついてるじゃねーか」
「すまんな。お前たちが来るからと、王国から連絡が来たときからずっと浮かれっぱなしなんだ」
「憧れるようなものではありませんよ、この人は」
「本人を前に貴様」
挨拶という名の酒盛りから二時間。
テーブルの上には空ビンが5本。
ほとんど私と師匠、それにガリアス王が飲み干した。
宴もたけなわというところで、機を見計らったようにミルクちゃんが言った。
「リコリス様!皆様!そ、その!もしよろしければ一緒に写真を撮ってあげてもよろしくてよ!」
ん?写真?
「写真…って、な、なんですか?」
「この魔導具で、その瞬間を絵のように記録することが出来るのですわ!更になんと!撮影した絵をすぐに見ることも出来るのですのよ!」
ミルクちゃんはウキウキに、ガリアス王とシルヴィア王妃を撮影した。
現像されたのは紛れもなく二人が写った写真。
「これはまた画期的ですね。なんという魔導具なのですか?」
「えーっと、ポラ、ポリ…」
「ポラロイドカメラ…」
「そう!そんな名前でしたわ!お父様、カメラをお願いしますわ!」
「我も一緒に写りたいぞミルクよ…」
「皆様笑顔で!はいチーズですわー!」
「チーズ?」
「妙な呪文じゃの」
驚いた。というより啞然とした。
お世辞にもこの世界の文明レベルは高くない。
せいぜいが異世界あるあるの中世的なそれで、そこに少しファンタジーなニュアンスを加えた程度。
なのにこの国はどうだ。
元の世界に肉薄するようじゃないか。
「百合の楽園の皆様と写真…家宝に、いえ国宝に認定ですの!」
「ねえミルクちゃん。そのカメラを作った人って」
「フフ、気になりますのねリコリス様。当然ですわ。だって彼女は紛れもなく本物の天才。この国の、いえ…世界の叡智そのものなのですから」
「……その人に会うことって出来る?」
「リコリスちゃん…ど、どうかしたんですか?」
「ちょっと気になってさ」
これだけの魔導具で文明を支えているのは、いったいどんな人だと。
私は静かに心を躍らせた。
――――――――
二時間前。
「わーい!」
私とジャンヌ、それにトトが広場で一緒に遊んでいたときのこと。
「すごいすごい!鳥さん飛んでる!」
街のおもちゃ屋さんで買った鳥のおもちゃ。
魔石が中に入ってるから飛ぶ?あんまりよくわかってないけど、鳥は本物みたいに空中を飛び回った。
トトも一緒になって飛んでる。
「速い速い!あっ!」
でもやっぱり本物みたいだけど本物じゃなくて、おもちゃの鳥は木にぶつかって落ちちゃった。
翼が折れてる。
これじゃ飛べない。
「残念だねマリア」
「うん…」
「どうしたの?」
三人でしょんぼりしてると、ピンク色の髪のお姉ちゃんが様子を見に来た。
「あー壊れちゃったんだ。貸してごらん」
「はい」
「翼が折れてるだけだね。中の魔石は無事だから大丈夫だよ」
「直る?」
「よきよき」
お姉ちゃんが指で翼をなぞると、折れてたところが一瞬で直っちゃった。
「わあ!!」
「ほら」
鳥はお姉ちゃんの手から飛び立ち、また空を飛び回った。
「すごいねお姉ちゃん!おもちゃを直しちゃう魔法使いだ!」
「魔法使いじゃあないんだけどね。そんじゃね。もう壊すなよ子どもたち」
「ありがとうございます!」
「ありがとう人間さん!」
「どいたまー」
ひらひらと手を振って、お姉ちゃんは行ってしまった。
なんだろ。
どことなく、リコリスお姉ちゃんに似てたような…
「気のせい、かな?」
――――――――
同時刻。
リコリスから預かった魔物の素材や魔石を売りに、アタシとシャーリーは冒険者ギルドを訪れてるんだけど、さすがディガーディアー。
国を訪れる冒険者が多いこと。
かれこれ二時間は待たされている。
「大変お待たせ致しました。次の方ー」
「やれやれ、やっとね。素材と魔石の買い取りをお願い」
ギルドカードを提示すると受付嬢は、パアッと表情を明るくした。
「百合の楽園の皆様ですね!お会い出来て光栄です!」
ギルドの中が騒然とする。
「何事?」
「どうやら百合の楽園は冒険者の間でも有名のようですよ」
周囲の声を聞いたシャーリーが耳打ちしてくる。
有名?まあ、あいつはいろんなところでやらかしてるものね。
悪名じゃないだけマシか。
しかし、騒がれるのは鬱陶しいわね。
早く査定を終わらせてほしかったんだけど、わざわざギルドマスターまで挨拶に出てきた。
「遥々ようこそおいでくださいました。冒険者ギルド、ディガーディアー支部ギルドマスター、ユウェナ=リーベットと申します」
「百合の楽園、ドロシーよ。リーダー不在で失礼するわ」
あら、リコリスが知ったら羨ましがりそうな美人。
「それで、査定にはまだかかるのかしら」
「申し訳ありません。じつは、百合の楽園の皆様にお願いしたいことがございまして」
「ギルドから直接の依頼?」
「ええ。その件について執務室の方でぜひともお話を」
話を聞くくらいはいいかとシャーリーに目配せする。
シャーリーも同意見らしく、首を小さく頷かせた。
そんなとき。
「ちゃーす」
一人の女が現れた。
人間。歳はリコリスと同じか少し下くらいかしら。
派手なピンクのグラデーションの髪をした、なんとも人当たりの良さそうな女。
目は大きく肌は白く、女のアタシをして魅力的だと思わせられるほどの美人。
「ルウリ様?!も、申し訳ございません。しょ、少々お待ちを…」
よほどの大物なのか、慌てた様子でギルドマスターが直々に出迎えた。
「どうなされたのですかルウリ様?わざわざギルドに足を運ぶなんて」
「やほやほユウェにゃちゃん。手持ちの魔石が無くなっちゃってさ、それで余ってる魔石を買い取らせてもらおうかなって」
「城の兵に言えば手配しましたのに」
「いいってあたしが欲しいだけなんだから。ん?おー!なんか純度高めの魔石ゴロゴロしてる!どうしたのこれ!」
ルウリと呼ばれた女は、アタシたちが持ち込んだ魔石を見て目を爛々と輝かせた。
「ああ、それはこちらの百合の楽園の方々が」
「百合の楽園?どっかで聞いたような…あーミルちぃが騒いでた冒険者さんたちか。はじめましてー。あたしルウリ。よろしくね」
「え、ええ」
「この魔石あたしに買い取らせてもらってもいい?そっちの言い分でいいから。ねっ、お願いお願い」
「あたしたちは構わないけど…そういうのはギルドを介さないと」
「いえ、ルウリ様が仰られるのであれば。こちらは素材のみ換金させていただきます」
この女は相当な権力者なのだろうか。
お城とか言ってたし、もしかして王族?
だとしたらギルドマスターの丁寧な対応も頷ける。
「んじゃそういうことで。やったね。てかなんか最近魔石の数少なくない?魔物ってそんなに湧いてない?」
そんなことはない、と思うけど。
今日外から来たばかりだからそう思うのかしら。
「はい。じつは、百合の楽園に話したいことというのもその件でして」
「?」
「なになに?魔石のこと?あたしも話聞いてい?」
なんでよ。
「ええ、そうしていただけると助かります」
だからなんでよ。
はぁ、なんだかまた厄介事の予感。
――――――――
「まさか外出中とは」
「申し訳ありませんですの…。あの方まるで雲のようで、わたくしたちですら動向が掴めず…」
「いやいや、いきなり会いたいって言い出したこっちが悪いんだし。仲を取り持とうとしてくれてありがとね、ミルクちゃん」
「オーホッホッ!それほどでもありませんわ!」
うーん残念。
一目会ってみたかったんだけど。
「リコ、そろそろお暇しましょうか」
「そうだな」
「も、もうお帰りになってしまいますの?!」
アセアセしてんの可愛い〜。
でももう宿取っちゃったからな。
「しばらくはこの国に居るから、気が向いたらまた遊びに…ってのはまた酒盛りに付き合わされそうだな。かといって遊びにおいでっていうのは王女様相手に偉そうすぎるし…うーん」
「それでしたら、わたくしの工房にいらしてくださいな!明日は兵士の剣の鍛造がありますの!」
「剣の鍛造って、私たち居るの邪魔にならない?」
「そんなこと!ま、まあ邪魔にならない程度にじっくり工房を見学したらいいのではなくて?お茶とお菓子くらい用意してあげてもよろしいんですからね!」
剣か…あ、そうだ。
「もしよかったら、私も剣を打たせてもらってもいいかな?」
「ええ、もちろん!一緒に鍛冶仕事が出来るなんて光栄…コホン!邪魔になるようなら叩き出しますからね!」
「人格破綻者って言われませんか?」
「一国の王女にお前」
ってわけで、明日は工房にお邪魔することになったよ。
「すっかり遅くなっちゃったな」
「お、お姫様、すごく喜んでくれてた…ね」
「そうですね。少し個性的ではありますが」
個性の集団には言われたくねえだろ。
液晶の空は藍色に染まり、太陽の代わって人工の月が浮かんでいる。
あんなもの作っちゃうなんてすごい人がいるもんだ。
「しかし飲んだのう。酒好きの種族と飲む酒は格別じゃ」
「の、飲みすぎるとまたシャーリーさんに、その、怒られますよ…」
「うっ…だ、大丈夫じゃ!強い酒はすぐ蒸発するから太らぬ!」
「なんですかその理論」
「私なんて飲みすぎて【酒豪】なんてスキルゲットしちゃった」
酒に強くなるみたいだけど、【状態異常無効】があるからあんまり意味は無さそうだな。
「程々にしておかないと身体を壊しますよ」
「そうなったら介抱して♡」
「くっ、顔がいい…」
「にしてもお腹すいたなー。宿のご飯なんだろ」
肉がいいなぁ。
調理場借りて白飯炊いちゃったりして。
って、やべ教会行くの忘れてた。
「ちょっと教会寄って帰るね。先に戻ってて」
「リコって奔放なわりには敬虔に祈りを捧げますよね」
「そりゃ神様から加護授かってるからね。加護持ちの義務的な?」
「こっちの二人が神に祈っているところなんて見たことありませんよ」
「そっそんなことないよ…私もたまには…」
「祈ったところで神と対話出来るわけでもないからの。時間の無駄じゃ」
それが不老不死で尚且つ最高神から加護を授かった奴の言葉かて。
今まで普通にリベルタスたちと対話してたけど、やっぱりあれって転生者ボーナス的なやつだったんだな。
「え?全然そんなことないよ?」
リベルタスはキョトンとした顔で言った。
「この神の世界は、加護を持った人なら誰でも来られるんだよ」
「マジで?でも師匠たちは来たことないみたいな感じだったよ?」
「それは私たちが許可を出さないからね」
と、優雅に紅茶を嗜むのは花の神フローラ。
「私たち神は気に入った、気になった人間に加護を与えるけれど、ここに立ち入ることが出来るのは、特例を除けば私たちが直接話したい、話さなければいけないという人間だけなの」
「あれ?私は?」
「うん。だから、リコリスがここに居るのほんとは異常」
そう言うのは、後ろから私を抱きしめている技術神アテナ。
相変わらずみんな美しすぎ。
「リコリスちゃんとはどうしてもお話したかったんだもん♡」
「リベルタスってば本当に自由なんだから」
「だって自由神だもーん♡」
「そういえば今はドワーフの国に居るんじゃったな!!」
「うん」
この場に同席しているムキムキの鬚のおじさま、武神アレスは豪快に杯のワインを傾けた。
「あそこは四柱の神を崇める地!!他の三柱もお主に顔を見せに来るやもしれんぞ!!」
「四柱?」
「この世界は宗教柄や国柄、加護持ちや一部を除き、個人個人がそれぞれの神を信仰している!!その中でもディガーディアーは、特に酒の神!!鍛冶の神!!炉の神!!そして技術の神に信心を置いておるのよ!!」
「どれもなるほどな神様だな…。ん?アテナも崇められてるんだ」
「うん」
無機質ピースかっわい刺さる。
「ドワーフは何より技術を重んじるものね。自分の技に誇りを持つステキな種族だわ」
「リコリスちゃんはもーっとステキだけど♡」
「贔屓目がすぎる…。んじゃ、そろそろ戻るね」
「えーもう行っちゃうの?寂しいなぁ」
「寂しい」
「また遊びに来るよ。今日はいっぱいお酒飲んで眠くなっちゃったし」
「絶対だよ?待ってるからね」
「うん、またね」
神の世界から戻るのは一瞬。
相変わらずみんな元気そうだった。
神様に元気って言葉が適切かどうかはさておき。
「よし、帰ってご飯にしよ」
んで、宿に帰ってから。
「ギルドから依頼?」
白ひげ亭自慢の香草焼きに舌鼓を打ちつつ、ドロシーはギルドであったことを報告した。
――――――――
「それじゃあ聞かせてもらえる?」
「はい。ディガーディアーには東西南北にそれぞれ異なる種類の鉱石が掘れる鉱脈があるのですが、その内の東の鉱脈、イーストマインに魔物が棲み着いたのです」
「まあ、よくある話ね」
「その魔物というのは?」
「ストーンイーターと呼ばれるトカゲの魔物です」
ストーンイーター…確か石を食べることで力を蓄えるとかいう魔物だったわね。
なるほど厄介なのが現れたらしい。
「イーストマインって、ミスリルの鉱脈んとこだっけ?」
と言うのはルウリという名の女だ。
私とシャーリーの対面のソファーで寝そべりながら話を聞いている。
けどミスリルか…
「強度と耐魔性の高いミスリルを喰らっているとすれば、討伐難度は跳ね上がる。それで百合の楽園にお鉢が回ってきたというわけですか」
「恥ずかしながら、現在高ランクの冒険者は皆様だけでして」
「高ランクって、実際は神竜級の冒険者が一人いるだけよ?リーダーのリコリスも悪魔級だし。あとは精霊級と子鬼級くらいで」
「いえ、先日のロストアイ皇国の件で人魚の魔眼より報告があり、それに伴い皆様のランクが上がっています」
リコリスとアルティが魔狼級。
マリアとジャンヌが妖精級。
エヴァが悪魔級。
そしてアタシが精霊級へと、それぞれ昇級していた。
ミオの口添えもあるのかしら。今度あったら感謝しないと。
「はいはーいしつもーん。なんでその魔物が現れたのと、魔石の量が少なくなってるのと関係あるの?」
「ギルドの職員の観測情報によれば、ストーンイーターは他の魔物を襲い、その魔石をも喰らっているとのことです」
「石なら何でもお構いなしってわけね」
「えーそれ困るー」
「ですので、お願いします。どうかこの依頼を受けてはいただけないでしょうか」
「アタシたちの一存ではなんとも言えないから、一度リーダーと相談するわ。明日改めて返事を持ってくるということでどうかしら」
「はい、快いお返事をお待ちしております」
どうせあのお人好しのことだ。
きっと二つ返事でいいと言うに違いないけど、そこはやっぱり顔を立たせてあげないと。
「あ、それあたしも行くー」
「は?」
「あたしも一応冒険者登録してるし、べつにいいよねユウェにゃちゃん」
「え、いや、それは陛下に打診しないことにはなんとも…」
「大丈夫大丈夫。じゃ、そゆことでよろ♡またね百合の楽園のお姉さんたち♡」
鼻唄混じりにルウリは部屋から出ていった。
マイペースな女。
どこぞの女好きみたい。
似たような女って結構いるのね。
――――――――
「ほーん。まあわかった。その依頼受けよ」
「そう言うと思った。明日ギルドに返事をしてくるわ」
「明日はミルクちゃんにお呼ばれしてるから、その後か、また後日にはなるだろうけど。予定とか全部そっちで決めといて」
「ええ、わかったわ」
「しかし、その同行者…ルウリでしたっけ?何者なんでしょう?」
何者かは重要じゃない。
肝心なのは…その子がとんでもない美少女だってことだ。
「はぁ…お近付きになりてぇ〜」
「これだけの美女に囲まれておきながらそなたという女は」
「欲望に際限が無さすぎる」
「私ほど自由な女は他にいないと思ってる」
いぇいいぇい。
「あなたは自由すぎです」
「見てろよ。私はいずれ世界中の女を抱くぞ」
「その前に目の前の女を抱きなさいよ」
「ほえ?」
ドロシーは私の腕を引っ張ると、コソコソと耳に手を添えた。
「ムラついてるから抱けって言ってんのよ」
「はへぁ…」
イ、イケメンんんん…♡
しゅきしゅきのしゅきぃ♡
「ゴホン!!」
アルティが額に青筋を立てて咳払いした。
なんか怒ってらっしゃる…?
「そういえばまだ部屋割りを決めていませんでしたね。今日のところは私がリコと同部屋でいいですね?」
「へ?」
「異議あり。それは横暴ってやつじゃないかしら、ねえアルティ?今日はアタシがリコリスと寝るわ」
「へ?へ?」
「私が一緒です」
「アタシ」
……何事?
「待つのじゃ。落ち着かぬかまったく。それなら妾が一緒で丸く収まるじゃろ」
「おーさす師。よしそれで」
「引っ込んでなさいまな板」
「すっ込んでなさいよ絶壁」
「言うに事欠いて誰が乳無しじゃ揃いも揃って無礼者共が処すぞ!!」
なんでヒートアップしてんだ。
よしここは大人なシャーリーに止めてもらおう。
「シャーリー…」
「おまかせください。とりあえずお風呂に行きましょうか。リコリスさん、背中を流します」
「お、おお。なんで?」
「待ちなさいシャーリー!!何をしれっと!!」
「油断も隙もないわねこの女狐!!」
「出しゃばるでないわむっつりスケベが!!」
「全員口縫い付けますよ?」
笑顔だけど怖い!
一番怖い!
なんでご飯しながらケンカ出来るの君たち。
こうなったらエヴァが頼りだ。
「エ、エヴァ、今日よかったら一緒に…」
「お願いします巻き込まないでください死にたくないです!!」
「おそろしく速い土下座!私でなきゃ見逃しちゃうね!じゃねえよやってる場合か!お願いだからみんな止めてって!マ、マリア!ジャンヌ!」
「ごちそうさまでした!ジャンヌ、トト、お風呂行こー!」
「うん!背中洗いっこしよう!」
「何それ楽しそう!私も私も!」
大人たちが騒ぎすぎて子どもたちのスルー耐性爆上がりしてんじゃねーか。
たくましく育ちやがって健康的でいいぞ。
「こうなっては埒が明かぬ!これで勝負を決めようではないか!」
ドン!って、酒?
「リコリスのいいところを挙げながら一周し、最後まで酔い潰れなかった者が朝までリコリスを好きにしていい!これでどうじゃ!」
「いいでしょう、潰してあげますよ」
「【状態異常無効】は無しよ」
「手加減しません」
「え?わ、私も…?」
「いざ!尋常に勝負じゃ!」
……いや大学の飲み会か。
なんか知らんけど、楽しそうなこと始まったんだが?




