52.ハッピーエンドにしてやんよ
理解が及んだときにはすでに、私たち全員が壁に叩きつけられ身体を強く打ち瓦礫に埋もれていた。
防御にバフをかけてなかったらそのまま気絶してたな…なんて呑気に身体を起こすと、師匠の怒鳴り声が頭に響いた。
『リコリス!リコリス!!』
「大丈夫…みんな無事だよ…」
にゃろう…私たちがガチガチにかけた拘束一気に破りやがった。
「師匠、何か知ってるの?ノアっていったい…」
『其奴はエルフ最古の魔法使いにして、人の身でありながら魔法の深淵に足を踏み入れ、肉体と精神を自身の持てる技術の粋にて昇華させた半神体!!森羅皇…名をノゥ=ラ=メール=アルトリア!!ロストアイを建国した五賢人の一人!精霊の王たる皇族の始祖じゃ!!』
ノアは活性化したマグマみたいに身体を膨れさせ、より身体を巨大にしていった。
このままじゃ押し潰される。
「ウル!ゲイル!みんなを運んで!」
『御意』
『ウン』
「…っ!」
「リコリスさん、アルティさんが足を!」
「挫いたか…ちょっと我慢しろよ!」
「きゃっ?!」
地上に戻ったら回復かけるとして、とりあえずお姫様抱っこで。
「皇族の始祖…ってことは、ドロシーのご先祖様的な人?!ていうか精霊って…情報量多すぎ!」
どおりでスキルが通じないわけだ。
あんな姿でも【精霊の加護】を持ってたのか。
「テルナさん、そのノアという方が精霊になった方法と経緯はさておき、人が精霊になったというなら、自然に生まれる精霊とは違い自己も自我も持ち合わせているのでは?」
「で、でもそんな感じは…」
『たしかに精霊とは自我無き意思を持ちし仮想思念体の総称じゃ。シャーリーの推察は間違ってはおらぬじゃろう。しかし如何に精霊へと昇華したとて、呪詛の影響を受けないわけではない。いや、むしろ肉体を持たぬ分、呪いは強くその身を侵食したはず。意思も自我も蝕まれておるじゃろう』
百年って長い時間、怨嗟と呪詛を込めた血を与えられ続けてきたんだもんな。
正気じゃないのは見ての通りってことか。
ん?でも待てよ?
「師匠、たぶんだけどさっきノアの声が聞こえた。助けてって」
『なに?』
「そんな声聞こえましたか?」
「た、たぶん…リ、リコリスちゃんにだけ…」
「苦しそうな声してた。ドロシーはもちろん助けたいし、ノアのことも何とかしてあげたい。それと、アウラたちのことも」
『そなた…』
「さっき一瞬瘴気が薄れたからね。この距離でもわかったよ。アウラたちに何かあったことくらい」
城から距離は離れてる。
だけどアウラたち四人の魔力がひどく希薄だ。
いや、これは希薄っていうかほぼ…
『うむ。アウラたちは自身の命を捧げることで、ノアを完全に復活させたようじゃ』
「命を…?」
「そんな、それでは彼女たちは…」
『死んではおらぬ……と、言い切れぬのが現状じゃな。結晶化した己の魂を触媒にノアを復活。加えて幾重にも強化を施しておる。今のこ奴らは魂無き抜け殻じゃ。とはいえ完全に魂のパスが途切れたわけではないのがせめてもの救いじゃが。パスが完全に切れるのを妾の魔法で食い止めておるから、しばらくは保つじゃろう。しかし長くはない』
「しばらくって?」
『あと三十分が限度じゃ。それを過ぎれば少なくともアウラたちは死ぬ。それどころか力が強まりこの世界ごと破滅するじゃろうな』
含みのある言い方しやがって…
私が女を見捨てられないのわかってくせに。
「どうすればいい?」
私は城から脱出して、城も世界樹も薙ぎ倒すほど巨大になったノアを見上げながら訊いた。
『兎にも角にもドロシーたちを解放せねば始まらぬ。蘇生云々はその後じゃ。それが叶うかどうかはさておきな』
「ナメんなよ師匠。私がいるんだ。女の子は誰一人不幸にさせないよ」
『ふん、豪胆な…しかしそれでこそリコリス。我が最愛よ。侮るなよ。精霊と銘打ってはいても、力は幻獣とそう変わらぬ。死ぬことは赦さぬぞ』
「世界中の女の子抱くまでは死なねえ」
ってことで…
「そっちは頼んだよ師匠。こっちはもうひと踏ん張りするから」
『心得た』
「はぁ…。体力も魔力も尽きかけているというのに、人使いが荒いんですから。ドロシーのためだけでなく、人間を恨んでいるエルフたちのために、そして怪物になった精霊を救うために戦う…。本当にお人好し…いえ、女好きなんですから」
「ニッシッシ、そんな私も好きだろ?♡」
「好きですよ。愛しています。だからこそ私はあなたを守るんです」
ひゅー言いおるわーこ奴。
ったく、と私は巨人を見上げて不敵に笑った。
「私の方が好きだってんだよ」
ノアが振り下ろしてくる拳は、まるで大地がそのまま降ってくるみたいだった。
「ぜぇりゃあ!!」
思いっきり振りかぶって、魔力を練り上げたパンチで迎え撃つ。
大地が陥没し、衝撃が街と森を薙ぎ倒した。
「ほぼ生身で…」
「人間を辞めたなら先に言っておいてくれますか?」
「辞めとらんわ。なんか力が漲ってる感じ」
【混沌の王】は【百合の姫】の能力下にあるアルティたちを強くする。
【百合の姫】は【混沌の王】で強くなったアルティたちの能力を私にリンクさせる。
…あれ?永久機関じゃね?
なんだ私の完ぺきっぷりに磨きがかかっただけかって、いつにない全能感が全身に満ちる。
「みんな、あと少しだけ私についてきてくれる?」
「何をバカな」
「この命果てるまで、私はリコリスさんに付き従います」
「そっそうです…リコリスちゃんのこと、大好きなんですから」
「並々ならぬ縁もまた運命。お付き合いしますよ」
頼もしすぎる。
師匠曰く、今のノアの核となっているのはドロシーだ。
呪詛を込めたアウラたちの血を百年与え続け、最後に自分たちの命を捧げることでノアを完成させようとしたところに、皇族の血統のドロシーを加えたことでより完全な復活を目論んだのが現状ってことみたいで、ようはドロシーを奪還することがノアを止める第一条件らしい。
『ドロシーさえ取り戻せば、そなたならばノアから四人の魂を乖離させることも出来よう』
「ですがテルナさん、先のリコリスさんの魔法でも止めるのが精一杯でした。ドロシーさんを取り戻すには、あれ以上の魔法が必要となるのでは」
『じゃろうな。しかもそれだけでは足りぬ』
「どういうこと?」
『外からだけでは不十分。内側から…ドロシー自身が応えねば』
それなら問題ありませんね、とアルティが肩を落とす。
「リコの声が届かないなんてありえませんから」
急にそんなこと言うもんだから照れて口元がニヤつきそうになった。
『それもそうじゃの。頼んだぞ、リコリス』
「おう」
今度こそ全部終わらせてハッピーエンドにしてやんよ。
スーパー美少女の名にかけて。
――――――――
お願い、諦めないで。
泣きそうな声で誰かがアタシに懇願する。
「目を開けて。私の声を聞いてドロシー。ずっと待ってた…私の声があなたに届くのを」
誰?
誰なの?
「ずっと傍にいたの。あなたが産まれたときから」
暗闇の中であたたかいものが頬に触れる。
「けど私の声は届かなかった。あなたが心を閉ざしていたから」
アタシが…?
「そう。アウラたちと同じように。環境があなたをそうさせた。人間を不信し、恨み…心を澱ませた」
そうね…
人間なんて大嫌いだった。
「そんなあなたを、あの人が変えた」
そう…変えてくれた…
あの人…
アタシが愛した…
「その目を開いて。声を聞いて。見えるでしょ?聞こえるでしょ?あなたのために戦う姿が。あなたを呼ぶ声が」
アタシを…
声のままに目を開いて耳を澄ませる。
アタシの口は自然に、そいつの名前を紡いでいた。
「リコリス…」
――――――――
全長何メートルあんのってサイズだけど、動きは人間的で読みやすい。
ただシンプルに重いし、いやに速いしで感覚がバグる。
おまけに体表から滲み出る瘴気を魔物型にして飛ばしてくるんだから、見かけによらず攻撃が多彩だ。
まあ、そっちはリルムたちがすかさず撃破してくれて助かってるけどね。
「はああっ!!」
アルティが氷を隆起させて私を飛ばしてくれる。
ドロシーの気配が一番強いのは胸の辺り…………おっぱいデッケぇ!
「次に邪なことを考えたら肛門から氷獄の断罪しますからね!!」
「ひいいいすみませんこれはもう致し方無しと割り切っていただければ!!」
お尻ヒュンってなったて…
閑話休題、これだけのサイズ差は聖光浄化一発じゃどうしようもない。
【付与魔術】を使ってみんなの攻撃に聖属性を付与して、私自身は更に魔力の出力を上げることで、ドロシーの解放を試みる。
「あアあアァあ゛ァァァ!!」
このサイズだとただの叫び声が空気の塊だ。
まともにくらえば地面に叩きつけられる。
「リコリスさんはそのまま前へ。十拳剣、霊刀解放!」
ミオさんの宝具、十拳剣が本体含め六本に分裂し、残りの五本がミオさんの周囲に浮かんだ。
「救世六刀流、梵天刹月華!!」
うっお、はっや。
【神眼】でも捉えきれない剣が衝撃を霧散させた。
さすが鳳凰級。技のキレが一味違う。
「行ってください。あなたの道は私たちが」
「ありがとです!っと、うお?!」
地面から木の槍が飛び出て氷の足場を砕いたけど、
「リコリスさん!」
「っ!」
落ちかけた私の身体を、ゲイルが拾って助けてくれた。
『アルジサマ、タスケル』
「ゲイル…よし、一緒に行こう!」
ひんやりと冷たい背中に跨ると、ゲイルはその名に恥じない疾風のような突進力を見せた。
エクストラスキル【金剛体】による強化は凄まじく、瘴気の壁なんか勢いのままに突き破ってしまう。
ノアは私たちを近付けまいと、より苛烈に攻撃を繰り出してくる。
しかし私の女たちの息の合いっぷりときたら、これまた凄まじい。
「纏影!純黒の影重薄刃!!」
「【混沌付与魔術】……夜天の尾・冥王霊鳥!!」
黒い線が何重にも引かれ、また黒い尾を引いた巨大な鳥が、ノアの両腕を肩から落とした。
「サンキューシャーリー、エヴァ!ゲイル、でかいの一発頼んだ!」
『アルジサマ、タスケル!』
ドロシーを思うゲイルの心に力が呼応し、蛍火のような魔力が身体を覆う。
角の先一点に魔力を集中させ、爆発性を持ったレーザーを放出した。
『戦靭徹兜榴弾』
ともすれば森を焼き尽くしかねない火力で、瘴気の装甲に風穴を開ける。
『アルジサマ、オネガイ、アルジサマノツガイ』
「今度からはちゃんと、リコリスって呼べよ…!」
ノアの身体は高濃度の魔力と瘴気と塊だ。
そこに飛び込むのは、溶岩にダイブするのと変わらない。
だけど、そこにドロシーがいるならどこへだって飛び込んでみせるよ。
「おーい聞こえる?そこにいるんだろ?私が来たぞ!お前の大好きなリコリスさんが!起きてるんなら…私の声を聞け!ドロシー!!」
――――――――
ああ…聞こえる。
アタシを呼んでくれるあいつの声が。
でも…
「穢レタ血ノ子ドモ」
憎しみに満ちた声も同じだけアタシを縛った。
「何故女皇ハ人間ト」
「皇族ノ誇リハ何処ヘ」
「厄介ナモノヲ産ンダモノダ」
何十、何百回と聞いたアタシへの呪いの言葉。
「アンナ子ナド産マレテコナケレバヨカッタノニ」
そしてそれは、あの悲劇を境に激増した。
「痛イ」
「怖イ」
「ヒモジイ」
「苦シイ」
「憎イ」
「皇族ノセイデ」
「愚カ者ノ女皇ノセイデ」
「償エ」
「血デ贖エ」
「詫ビロ」
「蹲エ」
「死ンジャエバイイノニ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死ネ」
「死 ネ――――――――」
この百年、何度夢にうなされたか、何度枕を濡らしたかわからない。
その度にアタシは謝ることしか出来なかった。
皇族であることを捨て、故郷を捨て、それまで尽くしてくれた臣下たちを捨てた裏切り者のレッテルは、アタシから笑顔と生気を奪った。
人間なんかのせいでと、人間への悪意だけが心の奥底に積もった。
アタシは産まれてくるべきじゃなかったんだ、と自分を否定した。
「ドロシーちゃんはさ、まだこの世界のことをよく知らないだけなんだよ、きっと」
そんなときだ。
あいつがアタシに手を差し伸べたのは。
「人間の良くない部分だけを知って、自分の中に流れる人間の血を忌み嫌って、嫌な気持ちが大きくなって、たったそれだけがドロシーちゃんの世界になっちゃっただけ」
当たり前みたいにアタシの心に土足で踏み込んで、何も知らないくせに優しい言葉を向けるお人好し。
「私がドロシーちゃんの知らない世界に連れて行ってあげる。見たことない景色を見せてあげる。もしその気があるならでいい。私たちと一緒においでよ」
ありのままのアタシを受け入れてくれた人。
「何があっても守る。絶対に味方でいる。私は、仲間を…友だちを絶対に裏切らない」
あなたは知らないでしょうね。
それがどんなに嬉しかったか。
どんなに救われたか。
「ドロシーちゃんが欲しい。私のものになって」
悪意も悪夢も吹き飛ばしてしまう嵐のような女。
たとえアタシがどれだけ罪深くても、あいつはそれがどうしたと笑ってくれる。
何度でも抱きしめて好きだと言ってくれる。
この人はアタシの運命の人だって直感したからこそ、膝をついて誓いを立てた。
生きてていいって思わせてくれるあいつが好き。
この気持ちは嘘じゃない。
怨嗟の嵐に呑み込まれても、それだけは見失わない。
「我ラヲ無下ニ貴様ダケガ幸セニナルツモリカ」
アタシだけじゃ何も出来なくても、あいつとなら何だって出来る。
だって、
「あいつの隣がアタシの居場所だから」
「そうだよ、ドロシー」
真っ暗闇に青い輝きが灯る。
「あんたは…」
「やっと…やっと私の声が届いた。ドロシーが本当に心を開いてくれたから。ずっとずっとこの時を待ってた」
「そう…そうなのね。ゴメンなさい、待たせて。こんなアタシだけれど、力を貸してくれる?みんなを…この国を護りたいの。お願い」
「うん。もちろんだよ。だって…私はドロシーの」
光が一段と強まってアタシに溶ける。
魔力の中に揺蕩いながら、アタシ自身が変化していくのがわかった。
「ドロシー!!」
「聞こえてるわよ。今行くわ…そしたらめいっぱい抱きしめて、リコリス」
「行こう!私が力を貸す……ううん、私がドロシーの力になるから!」
「ええ。百年分、思い切りいきましょう!私の精霊…清く冴える月の精霊!」
青の輝きが闇の中で炸裂した。
「【精霊魔法】!!月皇破邪顕正!!!」
――――――――
聞こえる。感じる。
今なら、届く!
「【暴食】!!」
黒いオーラを手に、分厚い魔力の層を喰い破る。
胃の中どころかエネルギーが空っぽになるみたいな虚脱感に襲われながら、歯を食いしばって手を伸ばした。
「こっちだ!来い!ドロシー!!」
指先が触れる。
手を掴む。
くすぐったくて初恋みたいにドキドキした。
無理やり引っ張り出したドロシーの、青く透き通った羽を広げた姿があんまり可憐で。
「おかえり、私のドロシー」
「ただいま…アタシのリコリス」
落ちる最中、力いっぱい抱いて熱くキスを交わした。
「ドロシー」
「なに?」
「感動的なとこ悪いんだけど…【暴食】使った後だからじつはもうフラッフラで飛べねえ」
「へ?」
まあ、そうなったら落ちるよね☆
「おおおおおおおお!!」
「いやああああああ!!ちょっとリコリスあんたアタシを助けに来たんでしょ最後まで何とかしなさいよ!!」
「そっちこそ羽生えたんなら飛べや神秘的で可愛いんだからコノヤロー!!」
「飛べないわよ飛び方知らないんだから誰か助けてええええええ!!」
危うく二人仲良くミンチになるところを、ゲイルが角先に服を引っ掛けて助けてくれた。
「本当に死にかけた…」
「なんでこう締まらないのかしらあんたは…。ゲイル、ありがとう」
『アルジサマ、ブジ。ゲイル、ウレシイ』
「アタシもゲイルが無事で嬉しいわ」
地面に降りた私たちに、みんなが駆け寄ってくる。
「ドロシーさん」
「よ、よかった…です。無事で…」
「シャーリー、エヴァ、それにミオも。迷惑をかけてゴメンなさい…」
「ドロシー」
「アルティ…」
うっおービンタしそうな雰囲気。
と思いきや、アルティはそっとドロシーの首に腕を回した。
「心配をかけて、本当仕方ない人ですね」
「ゴメン、なさい」
「頬を叩くのは後に取っておくとして」
叩くんかい。
ほどほどにね?
「核を失った今が好機です。ノアを止めましょう」
「だな」
ポケットの栄養食を齧り膝を叩いて立ち上がる。
「ラストアタックだ」
ノアはドロシーを失ったことでしばらく沈黙して、それからまた悲痛な叫びで大気を震動させた。
ただ壊すためだけに、仮初めの命を与えられた悲しい精霊。
今、その呪縛から解き放ってやる。
「ァァァ゛あああ!!!」
私が剣に魔力を集中させると、ノアは最後の力を振り絞るように瘴気のブレスを放ってきた。
すると、私たちの後方から爆炎と波濤が飛んで、ブレスを相殺した。
「マリア!!ジャンヌ!!」
「私たちだって…まだやれるもん!!」
「頑張れ!!お姉ちゃん!!」
「うん、頑張る!!!」
みんなに支えられて、愛されて。
その嬉しさと愛しさを剣に乗せる。
「纏聖、超聖光浄化!!」
これで終わりだよノア。
「星の剣!!」
私の剣には型も流派も無い。
師というならお父さんで、お父さんの剣は天を裂き地を割ると謳われ、言葉そのままに一撃必殺が基本なわけだけだけど、言ってしまえばただ雑なだけの剣だ。
たとえこの技一つしかないとしても、私が一番好きな剣には変わりない。
星の剣は抜け殻と化したノアの身体を裂き、大気を裂き、雲を裂いて空を裂いた。
「ハッ、どーだ」
剣が手元でバキンと音を立て、力が抜けた手から落ちる。
虚脱感やべー。
前のめりに倒れかけた私をアルティが支えてくれた。
「やれば出来る女ですよ、ほんとあなたは」
「ニシシ。だろ?」
頭を撫でる手がやけにあったかくて。
そのまま眠ってしまいそうだったけれど、私の両目はなんとか霧散していくノアを映した。
まずネイアの身体が落ちて、ルドナがキャッチしリルムが受け止める。
それからアウラたち四人の魂が抜け出て、四色の今にも消え入りそうな光を帯びたまま、向こうの方へ飛んでいった。
最後に一際眩しい光…たぶんあれはノアの……って、ん?
「ちょいちょい?え?光がスーって…なんか私の中に入ったんだが?!!なんで?!何事?!大丈夫なのこれ?!」
「そんなことより」
「そんなことより?!」
「はやくテルナのところへ向かいましょう」
「いや、うん…それはそうなんだけど…。結構な一大事だと思うんだよ…?」
向こうも心配だから行くんだけどさ…
完ぺきスーパー美少女でも身は案じてくれたまへよ…




