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第8話

 少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 さて、恥ずかしがっているばかりでは話は進まないわけで。

 安心したら急にお腹も減ってきた。ぶっちゃけこれだけ可愛い女の子たちに囲まれてお腹が鳴ったら、恥ずかしさで死ねるのでさっさとご飯にする事にしよう。


「それじゃ、飯食おう。正直かなりお腹減ってるんだ」


 ちょっと強引だけど、話をぶった切って俺はそう提案した。

 すると、今度はいつの間にかニコニコ笑顔になっていた林さんが口を開いた。


「うん、それで誰とご飯食べようと思うの?」


 思ったよりハスキーな声で少し驚きつつも、俺は林さんの質問に答える。


「そりゃ、林さん、赤井さん、竹本さん、金田さん、高宮さんでしょ」


「うぇっ!?」


 スムーズに浮かんだ名前を並べたら、出入り口付近に居た高宮さんから素っ頓狂な声が出た。

 どうやら弁当片手に教室から出ようとしてたのかって、俺何故高宮さんを呼んでしまったんだ! 完全に失敗だぞ。

 赤井さん達は高宮さんの方へ行き良いよく振り返り、俺は俺で固まってしまう。

 すると、俺の方をぽかんと見つめていた高宮さんは、にやぁっと笑顔を浮かべて俺達の方に歩み寄る。


「へー、私も頭数に入ってたんだ。そっかそっかー、そんなに私と一緒に食べたかったんだね」


 合流した高宮さんのその声に、俺は全身から火が出るような錯覚を覚えた。

 って、なにこの人そのままナチュラルに俺と肩組んでいるんだよ?

 その、胸が体に当たって気持ちよくて。それはごちそうさまです、大変おいしゅうございますってところだけど。同時に動悸がヤバいから勘弁してください。


「いや、その、ね。うん、是非このメンバーでご飯食べたくてね」


 1度出した言葉をなかったことにできるような能力も、そんな事なかったテイを貫く度胸もあるはずもなく。俺はテンパりそうになる自分を叱咤して、なんとか高宮さんの顔を見て返答する事に成功する。

 ドヤ! やってやったぞ!


「……ふーん、そんなに私と食べたかったんだねぇ」


 なんか、にやぁからまたにちゃぁって感じのより崩れた笑顔になりつつ、高宮さんが俺の頬をつついてくる。

 普通に恥ずかしいから止めて欲しいけど、ついでにより密着してなんか柔らかいしいい匂いするし止めて欲しくない気もする。

 そう思いつつ、ふと視線を赤井さん達に向けたら形容しがたいものすごい表情でこちらをガン見していた!


「ひ、否定しないけど。赤井さん達もだから! それと離れる!」


 急いで口にしたせいか、俺自身が思った以上に大きな声が出た。

 そのせいであわあわと情けなくうろたえてしまったが、幸いにも高宮さんが解放してくれた。

 ほっと安堵の息を吐き出すものの、そんな俺に容赦ないからかいの声が降ってくる。


「なによ、恥ずかしがっちゃってー。嬉しかったくせにぃ」


「そ、そりゃ嬉しいけどそれ以上に恥ずかしいって。もう、良いから飯食おうぜ。俺もう限界だよ」


 顔が自然と下を向きそうだったので、なんとか目線だけ高宮さんに向けて言い始めたのだけど。結局俺は途中から視線をそらせてしまった。

 うん、やっぱり前世の感覚が強くなればなるほど女子高生とまともに話す勇気が無くなっていくな。

 いや、俺も男子高校生だし、そのうち慣れるとは思うけど。





 俺の席を中心に近くの机と椅子を集め、6人で座ったわけだが。

 ちょっとばっかし困った事になってしまった。

 と言うのも、いつの間にか俺の両隣が竹本さんと金田さんが座っていたのだ。

 いや、まぁここまでは別にいいだろう。一緒にご飯を食べる以上誰かと隣になるだろうから。

 ただ、異様に距離が近くて、ご飯を食べている最中腕と腕が触れてしまう時間の方が長い。

 しかも、最初こそ俺が縮こまれば少し隙間が空いたのに、その瞬間ナチュラルに距離詰められたからな。

 百歩譲ってそこまでなら俺も嬉し恥ずかしで済んだかもしれない。けでも、他の3人の視線が滅茶苦茶痛いんだ!

 赤井さんはどこか拗ねるように。高宮さんは不機嫌そうにこちらをみている。そして林さんは笑顔なはずなのに、その視線は寧ろ他2人の視線より何故か怖い。

 とは言え、仮に席替えをしても似たような未来になりそうな気がして、そのまま黙々とご飯を食べているのだ。


「あ、話は変わるんだけど。上田君の弁当って母上の弁当だと聞いたけど。それについて何か思う所ってあったりするの?」


 隣に座った金田さんがそう聞いてきたが、一瞬何を言ったのか理解し損ねてしまう。

 と言うか、滅茶苦茶柔らかい何かが躊躇なく右腕に当たってて、って更に押し付けてませんかこの人?

 慌てる俺をどこか楽しそうに見つめる金田さんに、俺はすぐには質問に答える余裕がなくなってしまった。

 ついさっきまで当たり障りのない雑談だったはずだが……いや、その延長だけどなんで胸押し付けてきてるのこの人は?


「と、とりあえず、ありがとうって思っているよ。朝から作ってくれているし、家事って大変だからね。それに、美味しいのもありがたい。まあ量はもうちょっと欲しいかな」


 結局頭に浮かんだ言葉を特に整理したいする事もなく、俺はただ並べて答えてしまった。

 俺の返事に対し、金田さんは考えるようなそぶりで黙り込んだ。

 すると今度は俺の左肩を竹本さんが叩き、振り返るとずっと変わらない無表情のままなんでかハンバーグを箸でつかんでこちらに差し出していた。

 で、意図がよく分からなくて見つめ返していたら、そのゴミを見つめるような眼差しは変わらないもののうるんでき始める。

 え? なんでそんな反応? ハンバーグを差し出されている意図も分からなければ、ゴミを見下ろすように見られて泣きそうなの俺なんだが?


「えっと、これ俺が貰っていいの?」


 俺がなんとかそう絞り出して口にしたら、竹本さんは目をぱちぱちと数回瞬きをした。

 その後数回ぶんぶんと大げさに首を縦に振った後、ハンバーグをを俺の口元に寄せてくる。


「あ、あーん」


 その外見からは想像もできないほど可愛らしい声で竹本さんは言ってきた。

 うん、相変わらず表情変わらないし、目つきも変わらないんだけど。おかげでギャップが凄い。

 美人さんに可愛らしい声であーんされつつ、反対の手は別の美少女のお胸が当たって天国って気持ちと。無表情でゴミクズを見るような視線を浴びて、居たたまれない気持ちに、周りのじぃっとこちらを見つめる視線とで自分でも自分がどんな感情を抱いているのかよく分からない。

 ただ、そんな複雑な感情の中でも食べないとなんか殺されそうって気持ちがほんのわずかに一番大きくて。本能が警告を出すままあーんと口を開いてハンバーグを口に含んだ。


「お、美味しいよ」


 俺はなんとかそう口にすると、初めて竹本さんの表情がほんの少しだけ緩んだ。

 良かった。なんか俺は助かったみたいだ。初めてゴミとして見下されるって感じじゃなく、ただ見つめられてるって気がする。

 ぶっちゃけ余裕が無さ過ぎて味なんてほとんど分からなかったけど、美味しかったと思う。たぶん。


 バン! っと大きな打撃音が鳴る。

 驚いてそちらを見ると、高宮さんがなんかものすげえ怖い笑顔でこちらを見ていた。

 いや、笑顔なんだけど目が笑ってないって超怖いんだけど!


「そっかぁー、量が足りないんだね。じゃぁ私のも食べられるよね!」


 高宮さんの口調も割と柔らかいはずなのに、音量が大きくて強く感じてしまう。l

 ゆえに危機感から差し出されたトマトを、勢いのままぱくりと口に含んだ。


「あ、ありがとう」


 俺がトマトを口に含んだ後、何故かびっくりしたような表情でずっと箸先を見ているんだけど。大丈夫だよな? 俺失敗してないよな? ぶち殺されたりしないよな?

 すげぇ不安しかないけど、なんとかそう口にした俺の言葉に。高宮さんはゆっくり1度だけ首を縦に振ってくれた。

 良かった。俺助かったみたいだ。


「じゃあ、次は私だね!」


「いや、私だよね?」


 今度は赤井さんと林さんが競うように、苺とアスパラベーコンをそれぞれフォークで刺してこちらに向けてくる。

 それに対し俺は迅速に食べる事にする。

 ここは逆らってはダメだ。後で地獄を見るぞと、第六感だろうか。そんなものが僕にあるかは分からないけど感じるまま流れのまま食べていく。


 幸いな事に2人ともニコニコと上機嫌になってくれたようだが、俺の口の中は苺とアスパラベーコンの味が交じり合って大変な事になっている。

 うん、急に味覚が戻ってくるにしても、このタイミングはやめて欲しかった。

 少なくとも俺にとって残念な味になってしまい、飲み込むのにも苦労してしまう。


「はい。お茶だよ」


 飲み物が欲しいという思いが伝わったのか、金田さんが自前の水筒のお茶を差し出してくれる。

 柔らかい感触が無くなって凄く残念なような、助かったような。そんな複雑な感情が湧き上がる者の、お茶は素直に助かるので受け取ってそれを飲む。


「ふぅ、皆ありがとう。美味しかった。もう十分だよ」


 意図して笑顔を作り、お礼を言いつつ俺は一人一人顔をちゃんと見ていった。

 幸いな事にこれ以上あーんされることはなさそうだ。

 うん、少なくともこんなリア充体験今の俺には荷が重すぎる。せめてもっと慣れてからにしてもらいたい。

 いや、じわじわ嬉し恥ずかしの気持ちが湧き上がってくるから、また明日にでもさっそくしてくれてもいいけど。待て、それは俺がもたない気がする。

 なんにしろ、まだ俺には早かったってところだろうか。

 最後に金田さんに視線を向け、そのまま水筒の蓋を返す。

 どこか恐る恐ると言った感じで受け取ってたけど、その後お胸攻撃をされなかったのでほっとしたような凄く残念なような。


 その後何故か皆ぽーっとした感じの食事になってしまった……が、一番俺がぽーっとしてしまったかもしれない。

 いや、だって女子高生とあーんとか思い返すたびに顔が熱くなるわ、近すぎて最後まで竹本さんと金田さんの腕に触れるわだったから。仕方ないだろう。

 こんなんモテなかったおっさんには、どう反応したら良いかとか分からないって。

 もし楽しんでいただけましたら、作者のパワーになりますので評価やお気に入りをよろしくお願いいたします。

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